第4話 [誰]




 俺は男子高校生、学生。つまりは学校があると思っていたが、今は夏休みというものらしい。


 長期間の休みで暑さをしのぐ…とかだったか?


 一年で三百六十五日。そして月が十二。


 今は八月二十九日。

 夏休みとやらが終わるのは八月三十一日らしいから、まだあと今日を合わせて三日間は時間がある。



「そうだな…それでは外へ出てみるか!…だがこの見た目でいいのだろうか?まだ常識がわからんからなぁ。とりあえず…【ウィンドカッター】」



 俺は風魔法を発動させ、髪を前世と同じような髪型にした。


 近くに鏡があったので、そこで自分を見てみた。



「お!本当に以前の俺とそっくりだな……」



 髪は普通の髪型で、色は黒よりの紫。目の色は俺が転生したからなのか、紫色になっていた。


 顔もガリガリではなく、普通の顔になった。理由は先ほど食べた食料だ。

 食べただけで強くなれたり、元気が出る“ジェミナフルーツ”を食べたからだ。


 この世界の“りんご”というものに形や色が似ているが、全くの別物だ。


 “強くなれる”といっても一定より上はいかなくなっているので、どれだけ多く食べてもほぼ意味はない。



「ま…服はこのまんまでいいだろう。あと切った髪の毛は、【ゼロ】」



 このスキルは対象に、それ相応の魔力量で消滅させることができるスキルだ。



「あと…【無限収納ストレージ】っと、これこれ」



 俺はアイテムボックスから一つのネックレスを出した。


 これは黒色で“コ”のような字形で湾曲した、玉から尾が出たような形のアクセサリーを出した。

 この世界の“勾玉”とよく似ているが実際に鑑定してみたところ勾玉と鑑定された。

 これは俺が師匠に拾われる前からつけていたようで、俺が唯一手放したくないものだった。


 誰からもらったか、どんな代物なのかなどは全く知らないが、唯一家族の繋がりを感じられる物なので大切にしている。



 俺はこれを身につけて、それを服の内側に入れて早速出かけることにした。



「さて、それでは外の世界へ行ってみるか!!」



 俺はこの家のドアの前まで行き、置いてあった靴を履いてドアノブに手をかけて外の世界へと飛び出した。



「お……おおお!!」



 外は俺の知らない世界だった。



 前の世界とは全く違う街並み。


 知らない物。


 知らない土地。


 知らない世界。



 俺の求めた“未知”であった。



「ではさっそく散策を開始しよ———」



 俺が散策を開始しようとした途端、ゾワっとし、冷たいもの…なんと“魔力”を感じた。


 その魔力はとても禍々しく、さらにとてつもなく透き通った純度の高い魔力であった。



「!?今のはどこから……。だが、戦うのはよしておこう、俺が今どれほどの力が出せるかわからんな…。先に己の実力を確認する必要がある」



「あとはこの世界をまだ知らなさすぎる」



 幸いにも魔力の発生源はこの近くではなく、少々遠いところだったので今回は無視することにした。



「まさか…俺と同じく転生したから…それともこの世界の者なのか……くくく、実にいい!!」



 俺は恐怖などは一切なく、好奇心しかなかった。


 しかもあれほどまでに透き通った魔力…。俺の元いた世界では“いにしえの魔力”と呼ばれている魔力に似ていた。


 古の力は通常の魔力よりも数倍威力が増すというメリットがあるが、それを持つ者は相当な努力をして手に入れた者か、生まれつき持っている者であって、そう簡単に手に入るものではない。


 まあ、俺ももちろん持っている。そして俺は前者。努力していにしえの魔力を手に入れたのだ。



 俺が前の世界にいるときにいにしえの魔力を持っている者は数人しかいない。


 一人は俺。次に伝説とされていた竜や神獣。他は長耳族エルフの長だったりした。




「果たしてどのようなやつなのか……いつかそいつとも手合わせ願いたいな。まあ、そう遠くはない未来かもしれんな」



 フッと笑い、俺は道を歩き出した。



 当初の目的の散策を開始するのであった。

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