第3話 [最神の過去]




 “俺が転生したことで顔が変わった”などは無いはずなので、まぐれなのだろう。

 だがまぐれにしてもかなり似ていた。



「まぁ…だからなんだというわけではないな」



 もしかしたらこの世界にも俺と同じく転生した者がいるかもしれないが、おそらく問題ないだろう。

 俺の素顔を知っている人など殆どいないから関係ない。


 知っているのは師匠ぐらいだ。


 師匠は俺が赤ん坊の時に拾ってくれたらしい。


 なので俺には父も母いないのだ。どんな顔すらもわからん。



「そういえば……この男の家族はいるのか?」



 俺はこの部屋を出てみた。



 どうやらこの家は二階建てで、俺は二階の部屋の一つにいたようだ。

 そしてかなり広かった。



 下へと降りるとそこには誰もいなかった。そう、誰一人と。



 俺はこの男、“最神 強也”の過去を知るべく、自分に向かってスキルを使った。



「【過去写しリコレクション】」



 このスキルは、対象の過去を見ることができるスキルだ。



 見えてきたのは“絶望”だった。



 過去を見たところ、この男は学校ではうまくコミュニケーションがとれなかったり、前髪を隠しているという理由で多くのいじめを受けていたが、なんとか学校に通っていた。

 だがそんなある日、父と母を共に無くし、絶望して鬱状態になっていたということらしい。


 だからあんなに部屋が散らかっていたり、痩せていたりしていたのか。



「しかし……学校でいじめか。どこの世界に行っても共通なようだな……。嫌な共通点だ……」



 俺の元いた世界にも学校はあった。そしてそこでも力ある者が弱き者をいじめ、見下し、蹴落とし、などなど…。


 だが“いじめをなくす”というのは無理な話だろう。己の力を証明したくて、人の上に立ちたくて…。力を示すのは自由だが、悪いように示してしまうのが多いだろう。

 人間は欲深い生き物だ。だからそれをなくすというのは無理だろう。


 それがいじめの実態。



「どこへ行っても変わらんのだな」



 俺はそんなことを思いながら、部屋で立ち尽くしていた。



 すると、俺の腹がぐーーっと、いきなりなりはじめた。



「む…そろそろ限界か…」



 実はこの体、一度死んでいたのだ。


 おそらく原因は餓死。鬱状態になり、まともに食事が取れなくなり、そのまま衰弱して行き……ということだろう。


 俺の魂が入ったことで多少強化され、今の今まで命を繋いでいた。


 だが魔力量も転生したことにより大分減っていたらしい。


 だから先ほどの【過去写しリコレクション】も途中までしか見れなかった。前の俺であったら前世ぐらい余裕でいけたのに。


 どうやら俺の魂とこの男の魂はすれ違いになっていたようだ。



「さて…いけるかな?【無限収納ストレージ】」



 俺は手をかざし、そう呟いた。すると手から魔法陣が浮かび上がり、中から大量の食料が出てきた。



「この世界の食事も食べてみたいところだが…さすがに背に腹はかえられん、またの機会にするとしよう。いただきます!」



 この“いただきます”もこの日本特有の文化らしい。



 そして俺は一心不乱に食べ続けた。



〜〜



「ふ〜食った食った……」



 一応餓死したことになっていたので、体にいいものをたくさん食べた。

 固形物はなるべく避けて食べた。

 まあ異世界の食べ物だし固形物でも問題ないと思うが…。



「しかし…何から始めようかな…」



 俺は歯に挟まった食べ物を近くにあった爪楊枝で取り出しながら考えた。



「そういえば…十六歳はこの世界の日本ではまだ学校へ行くらしいな」



「確か……男子高校生と言ったかな…」



「くくく……前世は最強の賢者とまで言われた俺は———





———男子高校生に転生したらしい」

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