愛羅の学校①
『キーンコーンカーンコーン』
「ハァ……」
一日にめっちゃ聞くこの音。高校のチャイムって鬱陶しいよね。
アーシは高校二年。卒業まであと一年もこんな時間が続くなんて考えたらホント鬱になりそ。そもそもガッコ自体がつまんないし。平日は朝から夕方まで勉強。なんなら二週間に一回は土曜日もガッコ入れられてるしホント疲れる。
でも、今日はもうちょいで終わるからマシな気分ではあるけど。
「あと十分……ね」
「それじゃあ宣言通り、九月末に受けた全国模試返すぞー」
「ぅおおおおおおおお!」
「キタァああああああ!」
「うっしゃあああああ!」
九月末にした全国模試の成績表を教卓の上で整えてる担任のセンセ。クラスメイトはこれだけでめっちゃ興奮してる。アーシ以外にも思ってる人いると思うんだけど、この時はマジでうるさい。少しくらい静かにしろっての。
「じゃあまずはお前だ。
「ほいさーァ!」
センセから名前を呼ばれた瞬間に飛び出す一輝。全国模試は出席番号一番から順に成績が返される……って、うっわ、絶対成績下がってるじゃんアイツ。
席に戻った一輝はいきなり机に打っ伏した。最初の『ほいさー』みたいな勢いはなんだったのかわかんないね。不幸を笑うつもりはないけどこんなのはちょい面白い。
「次、
「おっしゃあ!」
次は出席番号二番。でも、威勢があるのは声だけ。
アイツもじゃん。
打ち合わせしてたかは知らないけど翔二も一輝と同じように机に打っ伏した。
その次、出席番号三番、
結構珍しいと思うんだけど、一輝、翔二、三郎。この三人は自分の出席番号と同じ漢字が入ってる。だいたいわかると思うんだけど、あの行動の通りアレはクラスの陽キャでバカのスリートップ。
いちお、アーシもあのグループに入らされてるけど女はアーシ一人だからちょっと不便。って、呑気にしてる場合じゃない。アーシの成績どうなんだろ。今になって不安になってくる。成績落ちたりしたらママとパパに心配かけさせるしさ……。
クラスメイトを様子を見ながら数分後、ようやくアーシの番がきた。
「次、
「ほーい」
名前を呼ばれてアーシは前にいく。センセの前にいったら毎回思うんだよねー、身長の違いってやつに。アーシの身長って高校二年の平均、一五七センチ。センセは一七◯くらいって言ってたっけな。
「なんだ愛羅、ジロジロ見て」
「なんでもないよ?」
「それならいいんだが……よくやったとだけ言っておこう。日頃の授業態度から考えると意味わからん成績だが」
「ウチで自習やってんで」
「そんな真面目なら授業態度を改めてほしいところなんだがなぁ。あとその派手さもだ。大学推薦取れんぞ?」
「別にいいし」
「別にいいし、じゃないだろ。敬語使え」
「面接とかになれば口調戻すけど、今はいいでしょ。個性を重んじるガッコじゃなかったっけここは」
「はぁ……。これだからお前は」
別にアーシはセンセを舐めてるわけじゃない。ただ敬語を使うのが恥ずいだけ。マ、このキャラ的に崩せないってのが本音だけど。
こんなんだから他のセンセからは嫌われてるけど別に気にしてない。アーシもつまらない授業するセンセ嫌いだし、家で自習してついていけてるし。
「お前が優等生をしてくれたらオレの鼻も高いってのに」
「このくらい生意気なほうがかわいっしょ? まだJKだし」
「そんな世の中が来ることを切に願う。苦労せんしな」
「じゃあアーシがそんな世の中にする」
「馬鹿言ってないで早く席につけ」
「うい」
アーシは成績表を見ながら席に座る。
なんだかんだセンセはいいヤツ。アーシのことよく見てくれてるし、個性も理解してくれてる。もしかしたら敬語を使うのが恥ずいってこと察してるかも。
このガッコには容姿に関する校則はない。だからアーシは金髪にしてるし、ネイルもしてる。薄くメイクもしてるしピアスもしてる。肌もちょっぴり焼いてる。マ、簡単にいうとギャルに寄せてるってわけ。
ギャルってカッコよくない? 好きなものちゃんと前に出してて人生も楽しそうで。
でもさ、そんな容姿にしてるからかウザいことも起きてるんだよね。
アーシに頼めば簡単に股を開いてくれるとか、お金出せばなんでもしてくれるとか。
まずアーシがそんな性格だとか思ってるやつにイライラする。噂を流したヤツにぶっ飛ばして急所に三発くらい蹴りかましたい。
簡単に股開くとか妄想酷すぎでしょ。アーシはそんなこと一度もしたことないし、軽いオンナでもないっての。ってか高校で卒業してるとか早すぎだし。別に大好きなヤツとするならいいと思うけど、遊びでするもんじゃないっつーの。
と、こっそり文句言いながら成績表見てたらクラス全員に成績が回った。これでようやく帰れる。
「先生! このクラスで誰が一番いい成績取れてますかー!?」
「ん? そうだなぁ。一番派手な生徒と言っておこうか」
「センセ、それ隠す気ないじゃん。顔までこっちに向けてきてるし」
一輝が聞いたせいでこうなった。個人情報を言わないようにしてるのはさすがだけどその内容じゃふつーにバレる。敬語使わなかった罰とかでアーシに罰を与えてきたんだろうけど重すぎだって。
「やるなぁ愛羅!」
「流石じゃん!」
「見た目スッゲェ馬鹿そうなのになぁ……」
「センセ、アーシのことイジメる人いるんだけど校長室連れてかなくていい?」
「血の気の多いお前を虐めるやつはどこにもおらん」
「ははははっ!」
クラスメイトが一斉に笑う。ツッコミ入れられて笑い者にされたけどこんな空間は明るくて好きなんだよね。
「それじゃあ……少し早いがこれで終わるか。廊下は静かに出るように頼むぞ」
「おっしゃあああ!」
「うりゃああああ!」
「さすが先生! 大好きーー!」
「コラ、調子に乗るな」
呆れた顔してるセンセだけどこればっかりはクラスメイトに同情するかな。いつもより早く帰れるのは嬉しいしさ。アーシは今のうちにカバンに荷物を入れて早く学校抜ける準備をする。
「よし、それじゃあ委員長! 挨拶!」
「はい! 起立! 気をつけ、礼!」
「ありがとうございましたー!」
全員で揃えて最後の挨拶とガッコも終わり。教室は雑談だらけでうるさくなる。
普通ならアーシも話に混ざるんだけど、今日は用事があるからパスする。
早く行こーっと。
アーシには一週間に二回めっちゃ楽しみにしてることがある。それに時間使いたいからこんなとこで時間を無駄にはしたくない。カバンを肩に担いで即帰ろうとする。
「んじゃ、また明日ね」
「あ! 愛羅ちんお疲れー!」
「おつおつー!」
近くにいた友達に挨拶して教室を出ようとする。でもタイミング悪く声をかけられた。
「お、おーい愛羅! 今日カラオケどうだ? 奢るぜ!」
「アイラ誘うとかセンスあるじゃん、イッキ!」
「やっぱカラオケには女子ほしいよね一輝!」
「ハァ……」
勝手に盛り上がってるんじゃないっての、陽キャグループ。その流れ作られてもいくつもりもないし。繰り返すけど楽しみにしてることに時間使いたいし、正直、カラオケの三倍くらい今からいくとこの方が楽しいし。
「誘ってくれてあんがと。でも用事あるからパース」
「おいおい用事ってなんだよー。付き合い悪ぃな愛羅!」
「用事あるんだから仕方ないっしょ」
一輝を躱したら翔二に口を挟まれる。
「とりあえず身体は大切にしろよ?」
「別にそんなんじゃないって」
冗談だろうけどちょい気に触る。ちょい派手だからってそんな風に思うなっての。案外傷つくんだって。
「じゃ、アーシはもういくから。カラオケ楽しんで」
「また明日ね!」
「ういうい」
三郎は引き止めないからホント助かる。マ、この三人はしつこくはないしすぐ解放してくれるからムカつかない。
マ、早くあそこにいきたいって理由が先行してるからかもだけど。
アーシはガッコの制服をきたまま駆け足で目的地に向かうことにする。やっばい、センパイに会えるって思うとニヤニヤしてくる。
****
「はぁー、また愛羅にフラれたよ……」
愛羅が教室を去ったあと、黒い影を全身にまとう一輝は肩を落としていた。
「アイラはレベル高いんだからしょうがないだろ。それが普通だって普通。諦めずに挑戦する以外にないって」
「元気出していこう? 男だけのカラオケも楽しいし!」
出席番号一番、一輝。
出席番号二番、翔二。
出席番号三番、三郎。
陽キャグループの翔二と三郎は、あからさまに落ち込んでいる一輝を慰めていた。
「なんで愛羅はあんなに可愛いんだろうなぁ……」
「ハハハッ、アイラのこと好き過ぎかよ!」
「ピュアだ……」
「いやいや、逆に愛羅のこと嫌いなやついるか!? 笑顔とかめっちゃ可愛いし……。あー、マジでやばい」
話の流れからわかる通り、一輝は愛羅のことを好いている。大好きでいる。
元より一目惚れしているのだ。
「カラオケの誘い断るってことは、オレのことあんまり興味ねぇのかなぁ……」
「普通に考えたらそうなるんじゃね? アイラの性格なら気になってる男から遊びに誘われたら飛びつくだろうし」
「翔二……少しはフォロー入れようよ。どうして追い打ちかけるようなことを……」
「本当だよ。今の俺には優しくしてくれ」
と、一輝。今の状態で正論を言われるのは心にくるものがある。
「だけどさ、イッキもなんとなーくわかってるだろ? 帰り際のあのアイラの表情を見たらな」
「そ、そこまで言っちゃうのかぁ……」
「はぁぁ……。やっぱり彼氏いんのかな愛羅は。そんな話聞かないんだけどなぁ……」
この三人は見ていたのだ。愛羅が教室を出る瞬間の横顔、嬉しそうに顔を緩ませていたあの顔を。
「でもアイラならいてもおかしくないよな。高校(ここ)じゃ見ての通り人気者だし、先輩の友達も後輩の友達もめっちゃ多いし」
「特に後輩からの人気がやばいよね。道に迷ってた新一年生を案内したのが始まりで」
「それそれ。しかもアイラ自身はずっと黙ってたしなぁ。俺、どうして黙ってたかってアイラに聞いたんだよ。そしたら『当たり前のことしただけだし、自慢する方がダサいっしょ』って返されたわ」
「愛羅完璧すぎだろぉ……」
敬語を使わない。容姿も浮いている愛羅だが、こうした性格だからみんなから好かれている。三角錐の頂点のポジションを獲得しているのだ。
「ライバル多すぎるんだよアイラは。振ったらしいが昨日も告白されたらしいし」
「モテてんじゃねぇよぉ愛羅ぁ……」
声を震わせどうしようもない不満をぶちまける一輝。悔しいとの感情が溢れている。
「多分だけど、アイラの用事ってデートって可能性はあるぜ? 三郎もそう思うだろ?」
「え、えっと……うん。正直にいえば賛同」
「出たぁ、三郎の賛同!」
「盛り上がってんじゃねぇよ!」
『三郎の賛同』これは身内ネタ。韻を踏んでいるためリズムがよいのである。
「めっちゃ嬉しそうに廊下出ていったから、あの感じだと待ち合わせしてるとかそんな感じだろ」
「彼氏がいるとしたら大学生とかそこら辺になるんじゃないかな。年上好きとか聞いた気がするから」
カラオケに誘った時の愛羅と教室を出て行った時の愛羅を見比べればそのような予想をしてしまう、いや確信気味になってしまうのは仕方がない。
簡単に説明をするなら、『暗』と『明』くらいの差があった。
「はぁ……。マジでショックだぁぁ……」
「よし、そうきたら?」
泣き崩れそうな一輝に促す翔二。
「…………愛羅が幸せならOKです……」
「はははっ! ナイスゥ!!」
これは受験期に携帯の待ち受けをとある女性にしていたファンの鏡のお方のネタをもじっている。
「今日は俺と三郎がカラオケ奢ってやるよ。元気出していこうぜ!」
「うんうん。奢るからいこう!」
「ありがとうな……。喉が枯れるまで歌ってやる……ぐすん」
一輝だけは表情優れず陽キャグループは教室を去っていった。
だが、それで良かったのかもしれない。
愛羅の用事……それはデートではないが、とある男が関わっているのだから。
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