J
















「かわいいかわいいかわいい」

「も、もうやめて!」


 やめろって言われても、やめるものか、いや、やめられない。自分で自分が抑えられない。


「好き好き好きかわいいかわいい」

「あ、わわわわわ……」


 鈴川さんは、顔を真っ赤にして、あたふたし始めた。かわいい。かわいすぎる。


「かわいいかわいい」


 そして、僕の魂から発せられる言葉を浴び続けた鈴川さんは。


「もうやめてえええええええええええ!!」


 逃げた。


 天使が消えた。追いかけようにも、顔を隠しながらぴょんぴょんと小動物みたいに教室から出ていく姿もまたかわいく、それに見とれて足が動かなかった。僕が我に返って教室から出たときには、もう、どこに消えたのかはわからなかった。


 結局、僕、何がしたかったんだ……?


 帰り道、夕日を反射している河川敷を歩きながらふと思った。かわいい連呼して照れさせただけじゃん。どさくさで告白しちゃった気がするけど、多分失敗してる気がする。でもあんな天使を目の前にして一体どうすればよかったというんだ……? 僕にはもう、わからなかった。



 後日、かわいいと叫びながら教室で悶え続ける男子生徒を見たとか見てないとかで学校が話題になったり、鈴川さんが僕と目が合うたび顔を赤くするようになったというのはまた別の話だ。


FIN

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