I















「鈴川さんの、言いたいこと?」

「はい! こうなったらもう全部言います!」

 

 鈴川さんはそう言うと、胸に手を当ててすーはーと深呼吸をした。かわいい。そして。


「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きぃ!」


 鈴川さんの大きな叫びが、誰もいない教室で響いた。


「好き……って」

「わたしも! あなたがずっと好きだったんですっ!」


 やばい。幸せだ。まさか、そんな言葉が聞けるなんて、思ってもいなかった。


 でも。


「どうして……?」


 鈴川さんが、僕のことを……? それが気になった。


「はい……、い、言うね……」


 そして鈴川さんは、ゆっくりと、口を動かし始めた。


「あなたが最初に話しかけてくれたんです。誰よりも、最初に、わたしを見つけてくれた。ずっと一人でいた、わたしを。そして色々な話をしてくれた。たまにわたしが変な話をしてしまっても、それでも嘲笑じゃない、素敵な笑顔で返してくれた。わたしは、そんな風に接してくれるあなたを好きになった。でも」

「でも?」

「それを伝える自信がなかった。わたしなんて、見た目も性格も地味で、何の取り柄もないと思っていたから。だけど、あなたはそんなわたしに、かわいいと、何度も、何度も言ってくれた。だから」

「うん」

 

 僕は真っすぐ、鈴川さんを見つめた。


「好きだと、伝えられた」


 そう、だったんだ。この時、ここに来てもらうために、仲良くなろうと思って毎日ずっと声を掛け続け色々な話をしてきた。僕にとってはこの時のためだけのことだったのに、まさかここまで、大切に思ってくれていたなんて。まるで僕が不純な変態みたいじゃないか。事実か。


「だけどずるい! あなたばっかり言いたいこと言って!」


 そんな変態を、鈴川さんは涙目になりながら精一杯怒った。そんな顔もまたかわいい。いかにも怒り慣れてないって感じがポイント高めだ。


「ご、ごめん……でも」

「……好き」


 僕が素直に謝ると、鈴川さんは眼鏡を外して、僕に近づき――


「え、ちょっ――」


 そのまま、僕の唇を、唇で塞いだ。


 まさか緊張のあまり発した変な頼みが、こんな結末に結び付くなんて。


 人生とは、わからないものだなと黒髪の美しい女神の柔らかくも温かい感触を感じながら、そう思った。



 時にはうだうだ考えず、自然に任せてみるのもいいのかもしれない。


FIN

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