第17話 デーモン族の精鋭部隊の末路



 ——滅びの森 デーモン族 第三魔道兵団 団長 ゾラ——



「止まれ!」


 森の出口に目的地である大きな岩山が見えたことで、私は全軍に停止命令を出した。


 私の命令に前を走っていた、黒のローブの背に赤い紋章が刺繍されている者たちが一斉に停止し整列する。


 部下たちの動きに満足しながら私は彼らの前に立つ。


 さすがは魔王様直轄の魔道兵団である。魔導師団の者たちとは練度が違う。


 魔王軍は魔王ヴォイド様直轄の第一魔導兵団と第二、第三魔導兵団。そして一般の軍である魔導師団から構成されている。魔導師団は予備役を含めれば2千人ほどいるが、魔王様直轄の魔導兵団は第一から第三までそれぞれ50人ほどと少ない。しかし厳しい選抜試験を乗り越えた者たちが所属しているため、我が魔王国で随一の精鋭部隊である……第一魔導兵団以外はだが。


 第一だけは魔王様の親衛隊ということもあり、実力よりはその忠誠心……いや、飾った表現などしても仕方あるまい。親衛隊のほとんどは王宮いる側近の親族で固められている。中には一般兵以下の実力の者もいることから、我ら魔導兵団内での第一魔導兵団への評価は低い。しかしこればかりは魔王ドーマ様時代からの悪習で、魔王様もその側近たちも改めようとはしない。親衛隊が弱かったからドーマ様が殺されたというのに改めようとはしないとは……嘆かわしいことだ。


 だが魔王様の元へ敵を近づけさせなければ良いだけだ。そのために第二魔導兵団と我ら第三魔導兵団がいるのだから。第二は主として王都とその近辺。我ら第三は領土内及び領土外を担当している。そのため今回の作戦に駆り出されたわけだが、まさかそれが不倶戴天の敵である勇者の抹殺であるとはな。


 私は整列している部下へこれから行うべき作戦。勇者の斬首作戦の概要を再度部下へと伝える。


「これより勇者の斬首作戦を開始する。目的地はこれより先にあるフジワラの街。その中心部に聳え立つ20メトほどの二つの建物のうち、岩山に近い建物の最上階の部屋だ。そこに勇者はいると思われる」


 先日魔導師団が放った威力偵察部隊が戻ってこなかった。そのことから勇者の存在を信じざるを得なくなった魔王様が、軍部の者に命じ西街で情報収集を行なわせた。そこで大金を使いなんとか勇者のいる街の概要と、勇者の居場所を知ることができたそうだ。


「街の中心を隔てる壁の向こう側は裏切り者のダークエルフらの居住地だが、3千近くいることから今回は無視をする。色々と思うところはあるだろうが、今回の目的は女神が新たに遣わしたと思われる勇者の抹殺であることを忘れるな。勇者さえ殺してしまえばダークエルフなど烏合の衆。後日魔導師団と共にじっくりと滅ぼせばいい」


 私の言葉に部下たちは悔しそうな顔をする。部下たちの故郷はダークエルフが里ごとが逃げ出したことで食糧難に陥っている。魔王様がサキュバス族や魔人族らから食料を買い入れてはいるが、それもいつまで保つかわかったものではない。部下たちとしては裏切ったダークエルフをいくらか殺し、残った者を連れ戻したいのだろう。私も同じ気持ちだ。


 だが今回は部下たちには我慢してもらわねばならない。ダークエルフの力は一人一人は我らデーモン族の一般兵にやや劣る程度だ。しかし数がいるのは厄介である。3千近くいるということは、戦える者は5百以上はいるだろう。それでも精鋭である我ら第三魔道兵団50人であれば負けることはないが、その間に勇者に態勢を整えさせてしまう恐れがある。それでは奇襲にはならない。悔しいが今回は裏切り者らの相手をしている暇はない。


「皆も知っての通り、我らより先に魔導師団の精鋭5人が威力偵察に向かったまま戻ってきていない。間違いなく勇者によって撃破されたものと思われる。そして何故か簒奪者である竜王にそのことが知られ、魔王様が恥をかかされたと聞く。そのため今回我ら魔王様直轄の精鋭部隊が派遣された。勇者を暗殺するためにだ。故に失敗は許されぬ」


 私の言葉に部下たちは牙を剥き出しにし、獰猛な笑みを浮かべる。誰もが不倶戴天の敵である勇者を討つことに興奮しているのだ。その表情からは、誰一人負けることなど考えていないことが伺える。


 我らは魔王様直轄の第三魔道兵団である。しかも50人で構成された最精鋭部隊だ。模擬戦で第二魔導兵団を負かしたこともある我らは、実質魔王ヴォイド様が治める魔王国の最強部隊と言えよう。古代竜を倒し力をつけた先代勇者ならともかく、召喚されて間もない勇者程度に負けるはずがないのだ。


 魔王様もこれ以上、簒奪者である竜王の小言を聞きたくないが故に我らを派遣したのだろう。それはつまり今回必ず勇者の首を取れということに他ならない。


「注意すべきものは勇者の持つギフトと神器だ。情報では先代の勇者と同じく結界のギフト持ちだと思われる。故に単独での攻撃は無意味。結界の耐久度が切れるまで攻撃を与え続ける必要がある」


 ドーマ様を討った勇者が、強力な結界持ちであったことは有名だ。その強度はドーマ様が身を持って教えてくださった。そしてそれは生き残った側近により伝えられ、その対策法も編み出されている。ドーマ様を討った勇者に復讐するために。


 だが勇者は元の世界に帰ってしまい、編み出された対策法も意味のないものになってしまった。


 しかし情報では今代の勇者も同じギフトが使えると聞く。ならば殺すことは容易い。勇者の結界のギフトが壊れるまで、数十人で絶え間なく闇の魔法を撃ち続ければいいのだ。


 ドーマ様の数発の闇の魔法で結界は壊れたことは知れ渡っている。そのあと勇者の身につけていた鎧にも同じ能力があったことから苦労したようだが、その鎧の結界も無限ではなかったらしい。現にドーマ様は全ての結界の破壊に成功し、勇者に傷を負わせたと伝え聞いている。ただ、結界のない間は戦妃が盾になったためそれ以上は攻めきれなかったようだが。


 幸いなことに今代の勇者は鎧を身につけていないようだ。それはつまり結界のギフトさえ破壊してしまえば殺すことは容易いということでもある。4人いるらしい戦妃もまだそれほど力をつけてはいまい。彼女らもせいぜいが飛竜を倒せる程度だと聞いている。であればAランクの魔物と定期的に戦い、力をつけている我が部隊の敵ではない。


「神器については歪な形をした槍を扱うこと以外は不明だ。しかし吸血鬼族が恐れていることから、青龍戟と同様に我ら魔に属する者に対してのある種の特攻があると思われる。槍の攻撃を受ければ我らとてただでは済むまい。十分気をつけるようにせよ」


 私の言葉に部下たちは黙って頷く。ここにいる誰もが竜王が勇者から受け継いだ青龍戟の威力を知っている。特に私と分隊長である数人は二百年前に竜王が率いる軍と戦った事がある。それゆえにかの神器に対して油断する者はいない。


「それとだ。後方で控えている第二の者たちは気にするな。我らの戦果を正しく魔王様に伝える存在だと思っていればいい」


 私は後方で潜んでいるであろう、3人の第二魔導兵団の魔導士へ視線を送りながら部下たちにそう告げる。


 正直言って監視をつけられたことは業腹だが、魔王様直々のご命令であれば仕方ない。せいぜい我らが勇者を討った証人として使ってやろう。部下たちも私と同じ考えなのか、その口元には笑みが浮かんでいる。


「野営中に一度説明はしてはいるが念のためもう一度手順の確認をする。我が部隊は南側より正門手前の壁を越え街に侵入する。そのままもう一つある壁も超え、街の中心部へ向かい勇者がいる建物の最上階へ向け一斉に魔弾を撃ち込みこれを破壊する。その後は勇者が現れるまで建物を破壊し続け、勇者が現れれば包囲し結界が壊れるまで何人倒れようとも全員で魔弾を打ち込み続ける。結界の破壊ができたあとは、私がダークホールを発動させ勇者を呑み込みすり潰して殺す」


 ダークホールは全てを呑みすり潰す闇の穴だ。これは一度発動したら移動させることができないため、接近しなければ効果が見込めないという欠点がある。しかし接近さえすることができれば、ほぼ確実に対象を闇の穴に吸い込むことができる。結界を失い弱った勇者であれば間違いなく呑み込みすり潰すことができるだろう。この魔法を使える者はそれなりにいるが、勇者ほどの強者に通用するほどの威力を出せるのは魔王様と数人しかいない。当然私もその一人だ。だから私の部隊が選ばれたわけだが。


「では行くぞ!」


 私は部隊に進軍の合図を送る。すると部下たちは一斉に回れ右をし、陣形を保ったっまま小走りで街道を避けながら森の出口へと向かった。


 森の出口に出ると、街道の向こう側に20メトはあるのではないかと思われるほどの高い壁が見え、それは街道沿いに何百メトも先へと続いていた。


 情報通りではあるが、よくぞ短期間でこれほどの外壁を造ったものだと感心しつつ私は目的の場所へと駆ける。


 移動中に木々の合間から外壁の上へと視線を向けると、警備をしているダークエルフの姿が見えた。


 我々の存在に気づいている気配はなく、何やら小さな鉄の箱のような物を両手で持ちながら外壁の上をゆっくりと移動している。


 勇者は特殊な魔槍をダークエルフに与えていると聞いたがあれがそれであろうか? それにしては短すぎるとは思うが……魔槍は遠くから鉄の礫を放てるらしいが、視界の悪くなる夜はほとんど役に立たないものだと聞いた。明るく遠くが見渡せる場所で、数を揃えてこそその威力を発することができるものであるとも。


 いずれにしろローブの中にドラゴンの鱗をふんだんに使って作ったドラゴンメイルを着込んでいるうえに、闇に紛れる能力に優れた我らが恐れるものではないだろう。


 ふむ、まずはあの見張りを闇に紛れ倒し、魔槍を奪い持ち帰るとしよう。


 私は見張りのダークエルフのいる辺りの外壁を登ることを手で合図をした。すると部下たちは一気に街道を横切る。この後は外壁の前にある堀に闇の板を張り、その上を各自が渡り再び闇の板を階段状に張って外壁を登ることだろう。


 しかし部下たちが街道の中程まで到達した時だった。


 突然外壁の上と周辺の森の中が明るくなり、外壁の上を埋め尽くすかのようにダークエルフが現れた。その全てが筒のようなものを構えている。


 なっ!? なんだこの光は!? 我らが来ることが知られていた!? だがなぜ!? いったいどうやって!?


 いや、今はそれどころではない! あれはおそらく魔槍。しかも30以上の数がある。そのうえ外壁の上の光だけでなく、どうやってか森のあちこちが光り我らを照らしている。


 退くべきか? いやドラゴンメイルであれば防げるはず。ならば魔弾を撃ち込みながら外壁を強引に登りダークエルフたちを倒すべきだろう。乱戦となり勇者を探す手間が増えるが仕方ない。なに、街を破壊しダークエルフを殺していけば勇者も姿を現すだろう。


 そう判断し私も街道へと足を踏み入れた。すると外壁の上から号令が響いた。


『撃て!』


 そしてそれと同時に辺りに轟音が鳴り響いた。


《ぐあっ》


《ギャッ》


 外壁の上から無数の鉄の礫が降り注ぎ、先頭を走っていたものたちが次々と倒れていく。その身体のあちこちから血が噴き出ているのが見える。


 ば、馬鹿な! なんという威力だ! ローブの下にドラゴンメイルを着込んでいるのだぞ!? それを貫通するとは!


「ひ、退け!」


 私は魔槍のあまりの威力に魔弾を外壁に撃ちながら撤退の指示を出す。


 しかし私の放った魔弾は、突然現れた鎖のような物で防がれ外壁の上に届くことはなかった。そしてお返しとばかりに青白く光る槍が放たれたと思ったらその姿が消えた。


「「「ぐあっ!」」」


 すると突然私の前にいた5人の部下の胸を青白く光る槍が貫いていた。


 それと同時に私の周囲に鉄の礫が降りぎ、その一つが私の肩へと命中した。


「ぐっ……て、撤退する!」


 私は肩を貫いた鉄の礫に顔を歪めながら再度撤退の指示をし身を翻した。


 あの光る槍は神器で間違いない。あそこに勇者がいたのだ。


 くっ、不倶戴天の敵を目の前にして撤退するしかないとは!


 私は湧き上がる悔しさを胸に、今は部隊を立て直すのが先だと灯りの届かない場所へ向け走り出す。


 私たちを追うように降り注ぐ鉄の礫を木を盾に避けながら、半分ほどにまで減った部下を引き連れ灯りの届かない森の奥へと疾走する。


 そしてやっと森の奥にある大きな岩がある場所まで辿り着き、闇の魔法で姿を消そうとしたその時だった。


 突然大岩を起点に周囲が炎に包まれた。


 その炎は豪炎と呼ぶに相応しいほどの勢いで炎の壁を形成している。


「なっ!? 待ち伏せか!? 」


 高く燃え盛る炎によって完全に囲まれた我らは、すぐさま円陣を組み敵襲に備えた。


 岩場だというのに我らを囲む炎の勢いは凄まじい。この鼻をつくような嗅いだことのない匂いと黒煙はなんだ? 油にしては木も何もない場所で燃えすぎている。


「あらあら、誰かと思えば第二魔道兵団の団長さんじゃないですか」


 警戒しつつ炎の先に目を凝らしていると、我らを見下ろすように岩の上から一人のダークエルフの女が姿を現した。


 この無駄に醜く浅黒い肌を露出している女には見覚えがある。確かダークエルフのフェルノール支族の長だったはずだ。


「裏切り者が……」


「裏切ったのはそちらですよ? 魔王ドーマが没してから700年。私たちはデーモン族に尽くしてきたというのに、貴方たちが私たちにしたことをお忘れですか? 重税を課し同胞を殺しそして……私たちの支族の村を焼いた」


 フェルノールの族長はそう言って憎しみのこもった目で私を見る。


「フンッ! 貴様らダークエルフはドーマ様が救いの手を差し伸べなければ滅んでいた種族だ。その恩を末代まで返すのは当然であろう。村を焼いた? そういえばそんなこともあったか。だがあれは徴税官に逆らった貴様らの自業自得だ」


 確か数十年前に滅びの森での訓練の帰りに徴税官から泣きつかれ、この女の士族の村を見せしめのために一つ焼いたのだった。だがそれがなんだというのだ。収めるべき物を収めず徴税官に逆らったのだ。正義はこちらにある。


 とはいえ不味い状況だ。


 恐らくあの魔槍を持った者がどこかに潜伏しているはずだ。そしてこの炎。チッ、ダークエルフどもめ、我らが闇の中でしか十全に力を発揮できないことをよく知っている。


「村の者が飢えるほどの量の作物を持っていこうとしたのです。抵抗するのは当然でしょう。それなのに見せしめと言わんばかりに村の者を皆殺しにした。幼い子供や赤子までもです」


「だからなんだというのだ? その恨みを晴らすとでもいうのか? ダークエルフ如きが何人束になろうとも我らには勝てん」


「ふふふ、それは過去の話。今であれば、愛しき勇者様より与えられた武器を持つ我らであれば貴方たち程度容易く葬れます」


「そうか、ならばその身で受けてみるがいい、我ら魔導兵団の実力がどれほどのものかを! 総員前方の大岩にいる女へ向け一斉射! その後大岩を駆け登れ!」


 私は唯一炎に包まれていない大岩へ一点突破するしかないと判断し、部下へと魔弾の斉射と突撃を指示した。


「あらあら、予想通りの動きですこと。ほんとお馬鹿さんね。クロースさん、お願い」


「任せろ! 立ちあがれ! ガンドム!」


「なっ!?」


 フェルノールの女が何事かと呟いた後、突然大岩が起き上がった。それにより女を狙った魔弾は全て岩によって防がれてしまう。


 いや、ただの大岩ではない。それは人型の巨大なゴーレムで、しかも30メトほどの高さにある岩の中にもう一人若いダークエルフの女がいた。その女は透明なガラスのような物の中から満面の笑みを浮かべこちらを見下ろしている。さらにそのゴーレムの肩にはフェルノールの女だけでなく、多くのダークエルフの男や女たちが手に魔槍を持ち憤怒の表情で我らを睨みつけている。


 馬鹿な! これほどの巨大なゴーレムをダークエルフが作れるわけが! ハッ!? まさかあの若い女は戦妃か!?


「わはははは! 我らダークエルフ族の宿敵であるデーモン族は皆殺しだぁぁぁ! 撃てぇぇ!」


 混乱している我らを気に止めることなく、若いダークエルフの女の号令によりダークエルフたちが持つ魔槍から鉄の礫が吐き出される。


「ほ、炎の中へ飛び込め!」


 私はこのままでは的になると思い、部下へ炎の中へ身を投じるよう指示をした。我々にはあんな巨大なゴーレムを砕く術は無い。かといってこのままこの場にいれば鉄の礫で全身を貫かれる。ならば火傷を覚悟で炎の中に飛び込んだ方がマシだと、そう判断し私は真っ先に炎へと飛び込んだ。


「ガッ! か、壁!?」


 しかし炎の先は石の壁がありそこに顔面を打ち付けてしまう。恐らく炎で我々を包囲した後、ダークエルフたちが精霊魔法で作ったのかもしれない。


「ぐうぅぅぅ……こ、この程度」


 私は全身を炎で焼かれながらも足元に闇の板を出現させ目の前の壁を登ろうとする。


 周囲からも部下の火傷に耐える声が聞こえることから、同じように壁を乗り越えようとしている者がいるのだろう。


「あっはははは! 無駄無駄無駄ぁぁぁ!」


「ぐあっ!」


 しかし乗り越えようとしている私の背中を石の礫が貫く。それにより私は炎の中に落ちていった。


 そしてそこに容赦無く石の礫が降り注ぎ、次の瞬間。私は炎の中で全身を貫かれた感触とともに目の前が真っ暗となったのだった。




 ——滅びの森 ダークエルフ街区管理責任者 ガンドムの戦妃 クロース——



「ふう、これで全部かな」


 私は蜂の巣になって倒れ、ガソリンによる強力な炎によって焼かれているデーモン族を見下ろしながらそう呟いた。


「ええ、逃げていった監視役らしき3人はセイランさんと勇者様が追っていますから大丈夫でしょう」


 すると私の声が聞こえたのか、サブマシンガンを構えガンドムの肩の上にいたナルースが答えてくれた。


「一人だけ生きて帰すんだっけ? じゃあ次は全軍で攻めてくるかな?」


「どうでしょう? デーモン族は全盛期は2万人ほどいたようですが、今では5千人しかいませんからねぇ。侵攻軍を編成したとしても、竜王様や本物の魔王様の率いる軍を突破してここまで来るのは不可能でしょう。かといってもう一つある精鋭部隊である第二魔導兵団を送り込んでも無駄だということが今回の件でわかったでしょうから、何もできず引きこもるのでは無いでしょうか?」


「勇者は不倶戴天の敵なんだろ? 無理して攻めてくるかもよ?」


 デーモン族はプライドが高いからな。リョウスケも今回のことは大々的に宣伝するって言ってたし、逆上して攻めてくるんじゃないかな?


「そうしてくれるのが一番なんですが、今のデーモン族の長は慎重な性格だと聞きます。恐らくは吸血鬼族などに声を掛け、自分たちの代わりに攻め込ませようとするのではないでしょうか? 情報収集能力の高い吸血鬼族がその話に乗るとは思えませんが」


「あはは、確かに吸血鬼族は動かないだろうな。もし動いたらリョウスケとシュンランの神器で消滅するだけだし。でもそうなればセイランが大喜びしそうだ」


 仲間が他の氏族に囚われているみたいだしな。他の氏族の数が減ったら喜んで取り返すために攻め込むだろうな。


「そういうことです。吸血鬼族は馬鹿ではありませんから、これ以上数が減ったらどうなるかよくわかっています。それゆえに動かないでしょう」


「ということはデーモン族との争いもしばらくはなさそうだな。まあ早い段階でナルースたちの士族の仇が討てたのは良かったな」


 まさかナルースたちの士族の村を焼いた相手が攻めてくるとはな。精鋭が来るはずだからとナルースに強引に外に連れ出されたけど、予想が大当たりだったわけだ。


「ええ、第一は自称魔王の親衛隊ですので、第二魔導兵団か第三魔導兵団のどちらかが来るとは思っていました。第三が来てくれて本当によかったです。これで殺された仲間も浮かばれるというものです。これもガンドムの戦妃であるクロースさんのおかげです」


「あっははは! 私のガンドムは無敵だからな! さて、んじゃあ帰るか。デーモン族の遺体なんか魔物に喰わせればいいし、とっとと帰って祝杯を上げよう!」


 本当は魔弾の戦妃がよかったんだけど、いつの間にかガンドムの戦妃とか呼ばれるようになってしまった。ガンドム戦妃とかなんかアニメのタイトルみたいな名前だけど、まあカッコいいからいいか。


「ふふっ、そうですね。今夜はお祭りになりそうです」


「なら早く戻ろう! リョウスケたちも戻ってくる頃だろうし」


「ええ、帰りましょう」


 私は周囲に潜ませていた仲間をガンドムに乗せ街へと帰った。


 そして街に着くと既にお祭り騒ぎとなっていたダークエルフ街区で、憎きデーモン族を討ち果たし喜ぶ仲間たちと朝まで飲み明かしたのだった。

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