第16話 獣王の定住とデーモン族の再来
「おうリョウスケ! これから世話になるぜ!」
「獣王……それにメレサさんも……そんな大荷を持って来てどうしたんだ?」
俺は貸し出している2台のグラディエーターだけでなく、多数の馬車と護衛の兵を従えて正門にやってきた獣王にそう問いかけた。
まさかラティの花嫁道具か何かか? 結婚はまだ先の予定なんだけど。
「ガハハハ! 息子のトウガに王位を譲って来たからよ、帝国の上皇と同じくここで隠居しようと思ってな。正妃はトウガが心配だって残るが、他の側室の女たちは交代でこっちに来る予定だ。これから世話になるぜ」
「ぶっ! 獣王もかよ! まだ40かそこらだろ? 引退には早いんじゃないのか!?」
まさか獣王が引退するとは思っていなかった。獣王はまだ若い。最低でもあと10年は現役を続けると思っていたからだ。
「まあ俺も早いとは思ったんだがよ。竜王様や帝国の元皇帝に王国の女狐までいるとなりゃ、うちとしても放置できねえわけよ。んでその三人に対抗できる人間て考えたら俺しかいねえわけだ」
「それは……確かにそうかもしれない」
はっきり言ってこの街は魔国と帝国と王国の外交の場となっている。それも各国の外交官は、その国を統治している王族や皇族だ。その中で獣王国だけが外交官がいない。獣王はちょくちょく顔を出しには来るが、それだけだと不安に思ったのかもしれない。
ラティも王女らしく色々と情報を集めて小まめに手紙を送っているようだが、彼女は王国の王妃以外とは滅多に話さない。というか上皇を前にすると萎縮してしまうらしい。見た目が怖いというか威圧感があるからなあの上皇は。だがそれだと情報に偏りが生じる。それで獣王自らが来ることになったんだろう。
「というのは建前でよ、ここの自販機の酒がねえともう生きていけねえ身体になっちまったんだ。あとメレサもラティが毎回手紙に書いてくるエイガだったか? でかい箱の中で精霊が演じる魔道具に興味津々でよ。娘と一緒に観たいとか言うもんだから、いっそのこともう隠居して永住しようって話になったってわけだ」
「酒と映画が理由かよ!」
というか毎回この街に来る度に積み切れないほどビールと日本酒を持って帰っているし、ガソリンと一緒に輸送もしているのにまだ足りないのか? いったい毎日どんだけ飲んでんだよ。
「ガハハ! 毎日20缶以上空けてるからよ、全然足りねえんだよ」
「飲み過ぎだ、ドワーフと同じじゃねえか。しかし獣王が引退して獣王国は大丈夫なんだろうな? キリルさんまで連れてきているようだが?」
俺は運転席に座る獣王国の軍団長である、黒豹族のキリルさんをチラリと見ながら獣王へ確認する。
「ああ大丈夫だ。トウガがラティに触発されたのかメキメキと腕を上げていってな。俺ともいい勝負をするようになったし、戦妃になる妹を支えるとかでやる気満々なもんだから譲っても問題ねえと思ってよ。キリルはこの街と獣王国との連絡役だ。うちにゃあエルフみてえな便利な連絡係がいねえからな。まあ手紙だとうまく伝わらねえ場合もあるし、信用できて発言力のある男に行かせた方がスムーズに事が運ぶってもんだ」
「そうか。しかしトウガさんがそんなに力をつけたのか」
トウガは獣王国の第一王子の獅子人族の青年だ。獣王がユニコーンを探している間や、ラティがこっちに入院している間は弟たちと共に獣王国を支えていたそうだ。
俺もルシオンとの決戦の時と、ラティがレベルアップしたばかりの頃に獣王が連れてきた時とで何度か話したことがある。
年は25歳で、見た目は獣王そっくりだが中身は思慮深く理知的な青年だった。ラティとすごく仲が良いらしく、ここに滞在中はジープに乗って獣王とラティとトウガで狩りに行ったりしていた。
あの時にラティのレベルアップした強さを目の当たりにして、兄として負けられないと思ったのかもな。
「この間国をあげての闘技会を開いてよ、そこでトウガが優勝したこともあって王位継承はスムーズにできたってわけよ。そういうわけだから世話になるぜ。これはとりあえずだが当面の滞在費だ。Aランク魔石で良かったんだよな? これからも獣王国で手に入った高ランク魔石はこっちに流すからよ、よろしく頼むわ」
「ありがたい。設備を良くしたらコストが跳ね上がって大変なんだ」
俺はAランク魔石が30個ほど入っている袋を受け取り素直に喜んだ。想定ではあと1年ほどでまたヘヤツクのバージョンアップがあり、それ以降はAランク魔石でしかマンションを建てられなくなるからだ。そのためには蓄えはいくらあっても足りない。
「勇者様、レオともどもお世話になります」
「いえ、母親のメレサさんが滞在してくれるのであればラティも喜びますから」
俺はなぜかビジネススーツを身につけているメレサさんに頭を下げる。
きっとラティが映画に影響を受けて商会に作らせたのを送ったんだろう。メレサさんは白い髪にベージュのパンツスーツに身を包んでいた。白く長い髪の頭頂部には白い耳があり、パンツの後ろからは白いフサフサの尻尾が出ている。
イイ……20代後半の大人のビジネスウーマンって感じなのに、ケモミミと尻尾がスーツから出ているのが非常にイイ。ラティにも……いや、まだ彼女には似合いそうもないな。大人の女性であるメレサさんだからこそ、ここまで似合うんだろう。
「フフッ、この服はラティが送ってくれたんです。エイガなるものに出てくる演者が着ていた、勇者様の世界の正装らしいので本日は着用して参りました。レオは奇異な目で見るのですが、勇者様はそうではないようで安心しました」
「凄く似合ってますよ。そのまま映画に出演して欲しいくらいです」
現代ファンタジー物の映画になりそうだな。
「勇者様にそう言っていただけると安心ですね。わかりましたかレフ? これが勇者様の故郷の正装で、私はちゃんとそれを着こなせているんです」
「わ、わかったって」
メレサさんに睨まれた獣王、いやもう引退したからレフでいいか。そのレフはバツが悪そうな顔を浮かべている。まあレフは映画をまだ見てないしな、変わった服に見えるのは仕方ないだろう。
「じゃあ取り敢えず2区の別館に案内します」
俺は迎賓館に空きが今のところないので、取り敢えず先日まで帝国の5大商会が滞在していた別館へと案内するとメレサさんに伝える。
迎賓館に部屋を用意させなきゃな。
迎賓館は縦長の5階建てマンションで、1階が会議室と自販機ルームに騎士用の部屋。2、3階が王国。4、5階が帝国のフロアとなっている。幸い第二王女が先日追放とあいなったので、その王女と専属の侍女が退去したことで2階フロアには誰も住んでいない。そこを獣王国用に使わせてもらおう。王国と獣王国の関係は良いから問題ないだろう。
しかしそれでも3カ国となると手狭にはなるか。
付いてくるお付きの侍女や兵士の数を見て俺は、こりゃ迎賓館も10階建てにした方が良さげだななどと考えていた。そして毎日のように二日酔いを俺の原状回復のギフトで治してくれと言ってくる隣のマンションに住む竜王もそこにブッ込もうとも。
レフたち一行を案内した俺は、別館の各部屋にスマートテレビやゲーム機を設置していった。そしてメレサさんと侍女の方々に使い方を教えると、最初目を丸くしてスマートテレビに映る映像を見ていたメレサさんたちの目がどんどん輝いていった。
メレサさんなんて”まあ! まあ!”って笑みを浮かべながら早速アクション映画を選んでいた。そこは母娘とも一緒なんだなと内心でクスリと笑いながら俺は別館を出るのだった。
その後、夕方にローラとクロースと一緒に狩りに出ていたラティが帰って来て、レフとメレサさんが来ていることを伝えると大喜びで別館へ突入していった。見せたい映画があるらしい。きっとレフとメレサさんと一緒にジャッキー・チュンの映画を見るんだと思う。
ちなみに竜人たちの中でもカンフー映画は密かなブームを迎えているらしい。この間竜王が酔拳の練習していたのを見て、あまりにピッタリだったんで思わず笑ってしまった。
そしてその日の夜。
夕食を食べてみんなでテレビゲームを少しした後、俺はサーシャとリーゼの部屋で一緒に風呂に入り楽しんだ後自分の部屋に戻ってきた。
するとそこには今日一緒に寝るシュンランが、黒い薄手のナイトドレス姿でベッドに腰掛けていた。
「ただいま」
俺は部屋に入りそう言いながらシュンランの元に行き隣に腰掛ける。
お? 俺の好きなシャンプーの匂いがする。銭湯にある化粧品やシャンプーの自販機を設置したのは正解だったな。そのおかげで今まで1種類しかなかったシャンプーやコンディショナーの種類をいろいろと選べるようになったし。
「ふふっ、おかえり涼介」
俺がシュンランの髪に顔を埋めると、彼女はくすぐったそうに首を振る。
その際に後ろに突き出ている彼女の白くて長い角が俺の頭に当たるがいつものことだ。ちなみに寝るときは角カバーを付けるから、隣で寝ている俺の顔に彼女の角が刺さることはない。でなきゃ彼女が寝返りを打つ度に俺の顔は流血に染まっていただろう。
そんな寝るときは邪魔な角だが、俺はこの角を握りながら後ろから激しく突くことが気に入っている。愛した人間にしか触らせることのない竜人族の角を遠慮なくがっしりと握り、オスに征服されて悦ぶシュンランを突きまくるのは最高だ。普段クールなシュンランが、その時ばかりは乱れまくるのだ。角に殴られたり刺さるくらいなんてことない。
そんなことを考えながらシュンランの肩を抱くと、彼女は俺の胸に顔を埋めながら口を開く。
「今頃ラティは家族とアクション映画を観終わっている頃か」
「ジャッキー・チュンやジェット・ルーの映画を観ると言ってたな。明日あたり獣王が別館の庭でカンフーもどきの動きをしてるんじゃないか?」
「フフッ、やりそうだなあの御仁なら。特に獣人族は素手での戦いを好むからな」
「ラティも魔物を蹴り飛ばしたりするもんな。レベルが低いときはヒヤヒヤしたよ」
今でこそオーガを蹴り殺せるくらいの身体能力があるが、まだレベルが低い時はそこまで威力のある蹴りじゃなかった。それなのに映画の影響を受けて回し蹴りとかするもんだから、隣で見ていて危なっかしくて仕方なかった。
「オークなら獣王も素手で倒せるとは思うが、オーガ相手では厳しいだろう。ラティがいるとはいえ、親子であまり森の深いところに行かないように言っておかねばな」
「そうだな、頼むよ。血気盛んというか、戦闘民族だからな獣人は」
「竜人も似たようなものだ。竜化をすれば戟を捨てて爪で戦うのだしな」
「ああそうか。そっちの方がヘタな武器よりも強力か」
「そのようだ。残念ながら私は竜化ができないがな」
「いや、シュンランはできないままでいい」
この綺麗な顔が鱗で覆われちゃうのはなぁ。目も爬虫類の目になっちゃうし。
「そうなのか? 空を飛べれば今よりももっと戦闘の幅が広がるが」
「いやぁ、さすがに全身鱗ってのは……俺はこっちだけ鱗の方が好きだな」
そんなどこかのエロオヤジのような台詞を吐きながら、俺はシュンランの股の間に手を忍ばせる。するとショーツ越しに既に湿っているのがわかった。
シュンランのこの竜鞘は最高だ。恋人たちの中でシュンランとミレイアほどの名器の持ち主はいない。
「あっ……フフッ、涼介は本当にスケベだな……だが好きな男がそんなに悦んでくれるなら悪い気はしない。さあ、今夜も好きなだけ私のここを使ってくれ。お前の女だということを私の身体に刻み込んでくれ」
シュンランはそう言ってナイトドレスを脱ぎ、黒のTバックのショーツ一枚となるとベッドで四つん這いとなり俺へその大きなお尻を向けた。
これは後ろから角を掴んで激しくして欲しいというサインだ。
俺はそんなシュンランの姿に、先ほど入浴中にサーシャとリーゼに出しまくったばかりだというのに興奮していた。ペニグルも辛抱たまらんって感じでイキリ立っている。
そんな元気な息子に引っかかりつつも着ていたズボンとシャツとパンツを脱ぎ、首からぶら下げていた魔物探知機をベッドの横にある棚に置いた。
その時だった。
魔物探知機の画面の端に、青く点滅した点が現れたのが視界に映った。
そしてその青い点は徐々に増えていき、街道を避けてこの街へと向かってきているようだった。
「クソッ! このタイミングでかよ! シュンラン、敵だ! デーモン族の第二陣かもしれない!」
俺はいい所だったのにと舌打ちをしながらシュンランにそう叫んだ。
「なんだと!?」
俺の言葉にシュンランはすぐに起き上がり魔物探知機を覗き込む。
「確かにこの動きは兇賊ではないな。この間来たデーモン族の動きに似ている」
「比較的安全な街道を避けて、一度も止まることなく接敵した魔物を瞬殺している。それも距離があるところから攻撃しているように見えるから間違いないだろう。前回の生き残りがいないことから、恐らく相当な手だれを寄越しているはずだ。街の中に入られる前に仕留めよう」
魔物探知機に映る青い点は、森にいる魔物を示す赤い点を消しながら徐々に街へと近づいている。
「そうだな、確か魔物探知機は1キト程の範囲を探知できるのだったな? ならばあと10分か遅くとも20分以内に着くだろう。戦妃たちは私が集める。涼介は警備隊とダークエルフに連絡をしてくれ」
「わかった!」
半裸のまま部屋を出ていくシュンランへ、俺はそう返事をしてリビングへと向かった。そして正門の警備隊詰所に繋がっているTVモニター式インターホンを手に取り、デーモン族が攻めてきた可能性があることを伝えた。
飛竜が来た時のように鐘は鳴らさない。今回は前回と違い敵の発見を進入される前にできたことから、外壁の上で静かに待ち構え奇襲するつもりだ。時間的にギリギリではあるが、ダークエルフたちを街の外に忍ばせることも可能だろう。
そうして警備隊に指示をし終えた俺は、急いでスーツに着替え装備を身につけた恋人たちと共に2区の正門へと向かうのだった。
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