第14話 過去との決別 後編



 ―― 2区正門横 五大商家臨時宿泊施設 サラ――



「良く来ましたね。さあ、座ってください」


 2階に割り当てられているサディムの部屋に入ると、中には彼一人だけでした。夜ももう遅いですし、お付きの女性や使用人たちは別の部屋でもう休んでいるのでしょう。


 私はサディムに促されるままソファーへと腰掛けます。すると彼も相変わらずの胡散臭い笑みを浮かべながら私の向かいに座りました。


「シーラ。ああ、ここではサラと名乗っているようですね。ククク、どうりで見つからないわけです。名を変えただけでなく、まさかハンターになっていたとは。あのおとなしかった君が滅びの森で魔物と戦っていたなどと思いもしませんでしたよ」


「幸い私には力がありましたので。それは身をもって知ったはずでは?」


 私はあの時切り飛ばしたサディムの指へと視線を送ります。あの後すぐに上級治癒水を使ったのでしょう。指は元に戻ってましたが、薄っすらと痣が残っていました。


「ええ、水のギフトが使えたと知った時は驚きました。それでも君の性格からハンターになるとは思っていなかったのですよ。娼館はあの身体ではあり得ないですし、なら奴隷になってると思い帝国だけでなく王国の奴隷商を探し回りました」


「ご苦労様と言った方がいいかしら?」


 私の胸と股間に視線を向け娼館はあり得ないと口にしたサディムに、込み上がってくる怒りと嫌悪感を抑えながら私は軽口を叩く。


「ククク、なかなか昔のように私好みの顔を浮かべてはくれませんね。いいでしょう、別に今さら君をどうこうしようなどとは思っていません」


「じゃあなぜ私を呼んだの?」


「そんなの決まっているでしょう。私の商会がこの街に出入りできるよう勇者様へ口利きをしてもらうためですよ。聞きましたよシーラ? 君はこの街ができた時から警備隊として働いているそうじゃないですか。しかも副隊長で勇者様からの信頼も厚いとか。もちろん力になってくれますね?」


「残念ですが私は副隊長とはいえ一介の警備隊員ですので、街の運営に口を出す権限などありません。力にはなれないかと」


 やはりそれが目的でしたか。私のことを使用人を使ってハンターたちに聞いて回るくらいは予想してました。その結果、こういう話になることも。


「建前は良いのですよ建前は。君が勇者様の信頼が厚いことはわかっています。聞けば酒場の運営も隊長と共に任されているそうではありませんか。私の商会では酒の販売も扱っています。その方向から薦めてはもらえませんか? ああ、セイ君を担当にしてもいいですよ。姉弟の感動の再開です。シーラも嬉しいでしょう?」


「……お断りします」


 弟の事を持ち出された私は一瞬怯んでしまいました。ですがこのような危険人物を大恩あるリョウスケさんの近くに置くわけにはいかない。


「ほう……」


 私が怯みながらも断ると、サディムの声音と放つ雰囲気が一変しました。


 そして彼は席を立ち上がり、私の横に座り直します。


「あれから7年ですか……その間に私のことを忘れてしまったようですね? あれだけその体に刻み込んであげたというのに」


 サディムはそう言って私が着ていたワンピースの胸元へ手をかけ大きく広げました。


「きゃっ!」


 私は身をよじり、彼の手を振り払います。


「ずいぶんと綺麗に消えていますね……なるほど、真聖光教でしたか? 同じ敷地にあるのでしたね。聖女様に傷を治してもらったというわけですか……そして傷が治ったことで記憶も薄まってしまったようだ」


「い、今の私はあの時のような非力な少女ではありません。7年もこの滅びの森で戦ってきたシルバーランクのハンターでもあります。貴方の首を刎ねることなど雑作もないということを忘れないでください」


 胸を隠し身を捩る私の耳元で思い出したくない記憶を囁くサディムに、私は震える手に水を纏わせ精一杯威嚇します。


「できませんよ。私は上皇様に呼ばれてここに来たのです。その私をここで殺したりすれば、帝国とこの街がまた戦争になりかねませんよ? それに私がシーラに殺されたと知った実家の父と母がどういう行動に出るか……実家は私がパーナード商会に婿入りしたことをたいそう喜んでいましたからね。少なくともセイ君は生きていけなくなるでしょうね」


「…………」


 私は手に纏わせていた水を霧散させ、サディムを睨みつけることしかできませんでした。


 殺したい……でも殺せない。悔しい……


「フフッ、わかればいいのです。いいですかシーラ。この街はただのハンターたちの宿泊施設があるだけの街ではないのです。見てくださいこの部屋にある魔道具の数々を。しかもハンターたちの宿泊するマンションと呼ばれる建物には、ここにある以上の素晴らしい魔道具があるそうではありませんか」


 サディムは口元に笑みを浮かべ、両腕を広げながら部屋を見渡します。


「馬のない馬車もそうです。あれがあれば物流に革命が起きます。それら数々の魔道具を取り扱うことができれば……いえ、製造法を知ることができれば世界一の商会になることなど容易でしょう。それだけではありません。勇者様がいる限りこの街の周辺は安全と言っていいでしょう。となれば街の周辺を開拓し、ここに勇者様の国ができる可能性もあるということです。いえ、私が創らせます。そして勇者様をお側で支え、新しい国の宰相となりましょう。帝国の片田舎にある商会の次男が、五大商会に婿入りしただけでなく勇者様の建国する国の宰相となる。ククク、絵に描いたような立身出世の物語ではないですか。きっと書物や演劇などで後世まで語り継がれることでしょう。そう思いませんかシーラ?」


「思わないわ。勇者様は愚かではありません。貴方の野心になどすぐ気づくでしょう。たとえ勇者様が気づかずとも戦妃の皆は気付きます。そしていずれ貴方は殺される。オークの餌になるだけです、分不相応な野心は身を滅ぼしますよ」


「ええそうでしょうとも。そこで君の力が必要になるのです。シーラ、勇者様と寝なさい。そして虜にして私を守りなさい。私が教えた数々の手管を使えばできなくもないことはないでしょう」


「!? お断りします! 誰が貴方のためになど!」


 私は立ち上がりサディムを睨み見下ろしながらそう告げます。


 冗談ではありません! 誰がこの男のためにリョウスケさんと寝るものですか! 


「ほう、では弟がどうなってもいいというのですか? 今度片腕を切り落として連れて来てもいいのですよ? そうすれば私が本気だということが伝わりますか?」


「くっ、この卑怯者!」


「なんとでも呼んでください。傾きかけているパーナード商会を立て直すためには手段など選んでいられないのです。まったく、義父があれだけ様子を見るべきだと忠告した私を無視してルシオンなどに積極的に協力するから……まあお陰で私が会頭になる時期が早まったわけですが、そのためにも今回のこの街への誘致の話は絶対にモノにしないといけないのですよ。商会の未来のためにも、そして私の輝かしい未来のためにもね。そういうわけです、協力してくれますね?」


「……お断りします。私はリョウスケさんに大恩があります。裏切ることなど、ましてや貴方のような危険人物を近づけることなどできません」


「ならセイ君がどうなってもいいと?」


「全てを話します。リョウスケさんにも上皇様にも。そしてセイとお母さんを助けてもらいます。そうなれば貴方もパーナード商会も終わりです。街の警備隊副隊長を脅したのですからね。上皇様の顔に泥を塗った以上、この街から生きて帰れると思わないことですね」


 もういい……私の過去をリョウスケさんに知られることになっても。それでセイの命が救えるなら、このクズを排除できるのなら。


 私がそう覚悟を決めた時でした。


 サディムがスッと立ち上がり、懐からナイフを取り出し口を開きました。


「どうやら君がいったい誰の物なのかを、思い出させる必要があるみたいですね」


「ひっ!?」


 私はサディムの手にあるナイフを目にした途端体が硬直し、その場にへたり込んでしまいました。そのナイフは昔、私の身体を切り刻んだナイフそのものだったからです。


「おや? 覚えているものなのですね。ククク、では今一度コレでその体が誰のものなのか思い出させてあげましょうか。心配しなくていいです、あれから名器を作ることに成功しましてね。一緒に連れて来ている秘書の女性がその成功例です。きっと勇者様も悦んでくれますよ」


「あ……あ……いや……来ないで」


 恐怖に身体が硬直してギフトを発動することができません。あの時の記憶が、あの恐怖が私の思考と身体を支配していうことを聞いてくれません。


 そんな私の姿をサディムは愉しそうに見下ろしてます。あの時のように。


「ククク、いいですねその顔。やっぱり君が一番嬲り甲斐がありますね。他の女はすぐ気を失ってしまって面白くなかったんですよ。心配しなくていいですよ、音を遮断する魔導具を展開していますから外に声が漏れることはありません。存分にいい声を聞かせてください」


「や、やめ……いやぁぁぁ! 助けてリョウスケさん!」


 そう私が叫び、サディムがナイフを手に私の腕を掴んだ時でした。


 ガシャーン!


「ぐあっ!」


 突然2階の窓ガラスが割れたと思ったら、サディムのナイフを握っていた右手が宙を舞いました。


「リョ、リョウスケさん?」


 目の前で青白く光る槍を持ち、私を庇うように立つ男の背中に向け私は呟きます。


「大丈夫かサラ?」


「は、はい……でもどうして」


 どうして私がここにいることを? どうしてあのタイミングで助けに? まさか聞かれていた?


「あー、悪い。サラがこの宿泊施設に入っていく姿が見えてな。どうも様子がおかしかったから、リーゼに頼んで風の精霊魔法で会話を聞かせてもらっていたんだ」


「安心してサラ。私を経由してリョウには話しただけだから、ここで話していた内容をリョウは詳しくは知らないわ」


 リョウスケさんが振り向き困ったように私に話していると、窓からリーゼとサーシャ姫が入って来ました。そして会話の全てをリョウスケさんが知っているわけではないと説明してくれました。


 好きな人に全てを聞かれたわけでないことにホッとした私は、気を遣ってくれたリーゼに頭を下げます。


 その時にリーゼの顔と髪になにか白い塊がこびりついていたのが気になりました。もしかしてあれは……


「まあそういうわけだ。サラに手さえ出さなければ明日上皇に処罰してもらうつもりだったが、手を出したんで助けに来た」


「よくもうちのサラに手を出したわね! 縛り首になる覚悟はあるんでしょうね!」


 切断された右手首を押さえ、うずくまるサディムの頭を窓からリーゼに抱えられて入って来たサーシャ姫が踏みつけながら言います。


 姫の髪と口元にもリーゼと同様に白く乾いたものがこびりついていますが、やはりお二人とお楽しみ中だったみたいです。そう考えると私の顔は熱くなり、リョウスケさんの顔を見ることができなくなってしまいました。


「ぐっ……ち、違うのです……サーシャ姫……勇者様……誤解です……私は……」


 サーシャ姫に踏みつけられながらも、必死にサディムは言い訳をしようと口を開きます。


「ナイフを手に持っていて誤解も何もないだろう。俺の大切な友人に手を出したんだ、上皇の顔を立ててここでは殺さないでいてやるが、帝都で公開処刑になるのは間違いないだろうな。上皇の顔を潰したんだ、それくらい覚悟はできてるんだろう?」


「そ、そんな……違うのです! 私とシーラは……将来を誓い合った……ぐっ……中で……彼女はナイフで切り刻まれるのが……好、があぁぁぁ!」


「ふざけるなよクソ野郎! サラをそれ以上侮辱するならここでその首を切り落とすぞ!」


 サディムがとんでもないことを口走ろうとしている途中、リョウスケさんの槍が彼の残っていた左腕を切り飛ばしました。そして今まで見たことのない憤怒の表情でサディムに警告をしました。


 私はそんなリョウスケさんを、私のためにこんなにも怒ってくれた彼に胸が熱くなります。これが男性に守られるということ……これが好きな人に守ってもらえるということ。


 それからスーリオンさんが率いる警備隊の皆が部屋へとやってきて、項垂れ絶望の表情を浮かべていたサディムを連れて行きました。カルラたちでないのは殺してしまう可能性があったからでしょう。私たちは仲間に手を出した者を決して許しませんから。


 サディムが連行されいなくなると、リョウスケさんは私に無事でよかったと。国にいる家族のことは心配しなくていいからと、そう優しく私に言ってくれました。私はその優しい言葉にやっとそれまでの恐怖や不安から解放され、彼にしがみつき胸に顔を埋め泣いてしまいます。


 そんな私をリョウスケさんは優しく抱きしめ、そして黙って背中を撫でてくれました。



 翌日。


 上皇様が警備隊の休憩所に訪れました。


「サラ殿、この度は余が呼んだ者がとんだ失礼をしたと聞いた。すまなかったのぅ」


 そしてそう言って私に謝罪の言葉を投げ掛けます。


「い、いえ、あの男とは過去の因縁がありましたので。それがたまたま帝国五大商会の一つにいたというだけのことです。お気になさらないでください」


 私は帝国の元皇帝である上皇が、一介の平民である私に謝罪の言葉を口にしたことに驚き慌てて気にしないでもらえるように言いました。


「そうは言ってものぅ……おのれパートリー商会の小倅め、余が世話になっておるサラ殿に手を出すとは。サラ殿、奴は商会の会頭とその一族と一緒に処刑するでの、それでなんとか許して欲しい」


「上皇様。確かにサディムは上皇様の顔に泥を塗るような行為をいたしました。ですがその家族は知らぬこと。そもそもサディムは婿養子です。連座はさすがに厳しすぎるかと思います」


「そうかの? まあサラ殿がそう言うのであれば商会を潰すだけにしておくが……そうじゃ、確かマルソー商会じゃったか? そこに母君ははぎみと弟君がいると聞く。また今回のように利用される危険があるでの。余が責任を持って二人を保護しよう」


「ありがとうございます上皇様」


 良かった。お母さんとセイをここに呼ぼうかと思っていましたが、上皇様が保護してくださるなら安心です。やはり安全とは言ってもここは滅びの森の中ですからね。


「気にするでない。サラ殿には今回迷惑をかけたしの。それに色々と借りもある。困った時に力になると言ったであろう?」


「ふふっ、そういえばそのようなことをおっしゃっていましたね」


 私は免停中に運転したことを見逃した時に、そんなことを言っていたことを思い出し笑ってしまいました。


「おお、サラ殿の笑顔はやはり良いの。余がもう少し若かったら側室にしたのじゃがな」


「あら? 先日は妾だったのが側室に昇格したのですね。ですが残念ながら私には心に決めた人がいますので」


「くくく、わかっておる。それでいつくっ付くのじゃ? サラ殿が帝国人であることがわかった以上は、余は協力を惜しまぬぞ?」


「どうでしょう? 彼の周りには素敵な女性がたくさんいますから」


 それに私はあの人たちと違いリョウスケさんが初めてではないですし。それどころか何年も言葉では言い表せないほどのことをさせられて汚されてしまいました。


「ふむ……サラ殿、これだけは言っておこう。男は女子おなごの過去になど興味はない。いや、違うな。知りたくないんじゃ。過去を受け入れてもらえた方が安心できるのはわかるがの。じゃがそれは女子の自己満足に過ぎん。黙っておればいいんじゃ、男はそんな話など聞きたくないんじゃよ。今のサラ殿しか興味はないんじゃ」


「それは……そういうものでしょうか?」


 私は自分の汚れた過去を受け入れて欲しい。そしてそのうえで愛して欲しいと考えていました。でもそれは私のエゴだと上皇様はおっしゃいます。確かに上皇様のおっしゃる通り、私が過去にサディムに受けて来たことなどを聞かされても、リョウスケさんは気分が悪くなるだけでしょう。


 そんな聞きたくない話を聞かされ、それで受け入れてくれたから真実の愛だというのも……なんだか少し違う気がします。やはり私のわがままなのかもしれません。


「そういうもんじゃ。そもそもあの男が女子の過去を気にするような男に見えるか? 余にはそうは見えん。ならば話すだけ無駄じゃろう」


「そう……ですね。私も気にするような人には思えません」


 だから話そうと思っていました。きっと受け入れてくれると思ったから。確かに上皇様の言う通り話すだけ無駄ということなのかもしれません。


「じゃろ? ならばあとはサラ殿の心持ち次第じゃ。そのためには余はどのような協力でもしよう」


「ありがとうございます上皇様」


 上皇様がここまで協力的なのは、自らが紹介した商会の者が不手際を起こしたからというだけではないでしょうね。リョウスケさんの婚約者候補として送られて来たシェリスさまはまだお若いですし。お母さんと弟を上皇様自ら保護してもらえることから、恐らく私を帝国と勇者様との繋がりにしばらく使おうと考えているのでしょう。


 それならそれで構いません。私は私のために、上皇様の言葉を利用させていただきます。


「上皇様、ではさっそくお願いがあるのですが」


 私は前に進むため、過去の精算のために上皇様にお願いをするのでした。





 —— パーナード商会 次期会頭 サディム・パーナード——



「くそっ! どうして私がこんな目に!」


 私は帝国に向かう護送用の馬車の中で、床を叩きながら自分が置かれている状況を呪った。


 まさかシーラが上皇様のお気に入りだったとは。


 私は監禁されていた場所にやって来て、烈火の如く怒っていた上皇様の顔を思い出し身震いをした。


 このまま帝国に着けば私は牢に入れられ処刑されてしまう。


 私はルシオンに味方したことで傾きかけたパーナード商会を、皇家に商会が戦争で儲けた利益のほとんどを献上することで立て直した。そして勇者の街に店を構え、ゆくゆくは不思議な魔道具を扱わせてもらい街の周辺の開拓も商会で請け負う予定だった。


 当然同じことを他の五大商会のライバルたちも考えていたはずです。だから私は決死の覚悟でこの街にやって来たのです。


 感触は良かった。勇者は多少警戒していたようでしたが、情報通り社交会にあまり顔を出していないサーシャ姫は煽てられることに弱く私に好印象を思ってくれました。そしてずっと見つからなかったシーラと出会えました。


 彼女を見つけた時に私は勝ったと思いました。これは女神様が私に勇者の手伝いをするように導いてくれたのだとさえ思いました。勇者を利用し国を創り、その国の宰相になることさえ可能だと思えました。


 しかしそうは上手くいかなかった。


 なぜこうなった? あのままシーラを再調教すれば全てが上手くいったはずだった。


 なのになぜあの場に勇者が? なぜ話を聞かれた? くっ、シーラさえ素直に私のいうことを聞いていればこんなことにならずに済んだ。全てはあの女が私のいうことを聞かなかったせいです。


 上皇様の顔を潰したのです。このままでは私の処刑はもう確定でしょう。いえ、親交のある貴族に大金を渡して頼み込み、皇家にも金を入れれば命だけは助かるかもしれません。帝都に着いたらまず義父と妻に面会させてもらうよう、親しくしている貴族に頼むとしましょう。帝都に上皇様はいないのです。上手くすれば処刑したことにしてくれるかもしれません。


 私をここまで追い込んだシーラ、許しませんよ。帝都に着いたらすぐに暗殺者を雇って弟を殺してあげます。私を裏切った報いは必ず受けさせます。そしていずれシーラにも。


 そうシーラへの復讐を決めた時でした。突然私の乗っていた馬車が止まりました。


 また魔物でにでも遭遇したのか? それかもう夕方なので野営所にでも到着したのかと思い、鉄格子のはまった窓から外を覗きます。


 すると5人の上皇付きの騎士が、道を塞ぐ集団と何やら話しているのが見えました。


 ん? 女のハンター? あの先頭の女はどこかで見たような……




 ——滅びの森 南街道 棘の警備隊 隊長 カルラ——



「おーい、止まれ」


 私は街道を進む馬車の前に立ち、馬に乗って護衛をしている5人の騎士へとそう声を掛けた。


「カルラさん、お疲れ様です」


 すると騎士の一人が笑みを浮かべ軽く頭を下げてきた。この男はいつも上皇の身代わりとして車の運転をさせられている騎士だ。


「お疲れさん、んじゃ話は聞いているな? あとは私たちがやるから街に帰ってくれ」


「はっ! では我々はこれで」


 そう言って騎士たちは乗っていた馬を反転させ街へと戻って行った。


「さて、やるか」


 私は振り返り後ろにいる隊員たちにそう声を掛ける。


 すると皆が黙って頷いて剣と槍を鞘から抜いた。


 今日ここにいるの隊員は棘の警備隊の全員だ。もちろんサラもいる。


「だ、誰だ! 兇賊か!? 騎士たちはどうした!」


 私たちが馬車を囲むと、中にいた男。サディムが叫ぶ声が聞こえる。


「騎士たちはお帰りになったよ。お前を私たちに引き渡して彼らの仕事は終わったんだ」


「ど、どういうこ……なっ!? シー、シーラ! なぜここに!?」


 サディムは私の後ろにいるサラを見て、閉じていた目を見開いて驚いていた。


 私は開かないと思っていたこの男の目が開いたことに驚いたけど。


「復讐しに来たに決まってるでしょ? このまま帝国に帰したら、家族に何をされるか不安でしたから。上皇様にお願いして護送途中に魔物に殺されたことにしてもらったんです」


「………!!」


 サラの言葉にサディムは声が出ないようだ。まあ今まで私たちの標的になった男たちはみんな同じような反応だったけど。


 私たち棘の戦女は、元々は男たちに酷い目に遭わされた女性たちを保護するのが目的で私とサラで結成したパーティだ。けどもう一つ目的がある。それは復讐だ。


 このことはリョウスケにも話してあるし、認めてもらっている。


 ハハッ、アイツ私たちが街の警備隊として雇われる時にさ、勤務中でも復讐相手を見つけたらそれがたとえ客であろうとも殺すと言ったらなんて返事したと思う? どんどんやれって言ったんだぜ? 経営者としてそれはダメだろって思わずツッコんじまったよ。そしたらそうする事でアタシたちが前に進めるならやるべきだってさ。いい男だよな。


 まあそういうわけで今回のサラの復讐もリョウスケの承認を得ているってわけだ。もちろん上皇様にも許可を得ている。だから護衛の騎士たちもあっさり帰ったわけだし。


 最初は私とサラだけで殺るつもりだったんだけどな。みんなついてくるって聞かなくてさ。結局全員でジープに乗って来ちまった。


 さて、早いとこ終わらせて仕事に戻らないとな。スーリオンたちが非番なのに代わりに街の警備についてくれているし。何も言わずに人を集めて黙って代わりの警備についてくれたスーリオンもいい男だよな。さすが私が選んだ男だってな。


 おっと、サディムが馬車から引き摺り下ろされたみたいだ。あ〜オイオイ、最初はサラだって言っただろ? いきなり腹を刺すなって。まったく、サラを慕ってるのはわかるけどよ、みんなで決めたルールは守ろうぜ?


 さて、中級治癒水はたっぷり持って来ている、どこまで耐えられるかなこの男は? せめてサラがやられたことを全部耐えてくれよな? 


 ちょ、おいサラ! いきなり股間を切り落とすのかよ! やっぱ普段おとなしい女ほど怖えな。


 あっ、クロエ! 顔は燃やすのはあとだ! 死んだら地獄を見せれねえだろ! 


 それから私たちは日が暮れるまでサディムの身体を切り刻み、そして燃やしては治癒水で治療してを繰り返した。そして最後は四肢を切断してゴブリンの巣に投げ込み、サディムは生きたまま食われて死んだ。




 アタシたちは棘の戦女。


 ただの弱い女たちの集まりじゃねえ。隊員を傷つけた男たちを見つけたら必ず復讐を行うことを約束したパーティだ。だから私たちの団結力は強い。だから男たちになんかに負けねえんだ。


 うちの隊員に手を出す時は気を付けろよ? 泣かせでもして見ろ、その瞬間地獄を見るぜ?

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