第11話 ミレイアの発情期と新築



「あっ、あっ、あっ♡」


 遮光カーテンによって窓が塞がれ昼間なのに真っ暗な俺の部屋のベッドの上では、ピンク色の髪の美しい女性が上にまたがりながらよがり声を上げている。


 彼女の目はピンク色に光っており、熱に浮かされたようにトロンとしている。


「涼介さん♡ またイッちゃいます♡」


 彼女は腰を激しく上下させ巨大な胸を自分で揉みしだき、甘えるような。そしてどこか楽しんでいるような口調で俺を見下ろしながらそう口にする。


「くっ……いいぞイケッ! 俺も……もう……出る!」


 俺は彼女の中がまるで大量のミミズが這い回るような感触に耐えきれず、もう何十回目かわからない白濁の液体を注ぎ込んだ。


「あっ、んっ、涼介さんのがいっぱい♡ あっ、ああー! 」


 俺が注ぎ込むと彼女はその感覚が伝わったのだろう。背筋をピンと伸ばしたまま硬直し、そしてまるで糸の切れた人形のように俺へと覆いかぶさった。


「ど、どうだミレイア?」


 俺は耳元で荒い息をする恋人に、どうかこれで終わってくれと願いを込めながら問いかける。


「んっ……あ、涼介さん……あっ! も、もう大丈夫……みたいです」


 ミレイアは俺の問いかけに急に恥ずかしがり、シーツで身体を隠しながら顔を真っ赤にして答える。


「そうか」


 俺はやっと終わったかと心からホッとしつつ、恥ずかしがる彼女を抱き寄せる。


「あ、そ……その……いつもすみません。発情期になるとどうしても抑えられなくて」


「またか。何度も言ってるだろ? 俺は役得だと思ってるって。だってそうだろ? こんなにかわいい子と三日もずっとエッチができるんだぞ? 嬉しくない男なんかいるものか」


 そう、ミレイアは一昨日から発情期に突入した。だから俺はこの三日間ずっとこの部屋で、軽い食事と水分補給。そしてトイレ以外の時間ずっと彼女に襲……彼女を抱いていた。


「で、でも発情期の私は私じゃなくて……その……すごくえっちになってしまって……涼介さんに嫌われたらって思うと……ぐすっ」


「エッチな子なんて最高じゃないか。純粋にエッチな子は大歓迎だ。普段の受け身のミレイアと、発情期中の積極的なミレイアの両方を見れるなんて俺は幸せ者だと思ってるよ」


 縛られて目隠しされて叩いてと叫ぶマゾエルフ。体臭を嗅いでハァハァ言ってる聖女。酔うと俺を縛って言葉責めしながら全裸になって上に乗り、恍惚とした表情を向けてくる不良シスター。その膨大な魔力と風の精霊魔法で俺を掴んで空に飛び、雲の上でしようと言ってくる露出エロフ。


 三日間ずっとは確かにキツイが、普通のエッチを求めてくるミレイアの方がマトモなのは確かだ。


 まあ、一番マトモなのはシュンランとサーシャとラティなんだけど。ノーマルって癒やされるよな。


「涼介さん……大好きです」


「俺もだよミレイア」


 俺は彼女の涙を拭いながらそう答え、そして優しいキスをするのだった。



 ♢



「よ、よう勇者。だ、大丈夫か?」


 発情期が終わりいつものように深い眠りに着いたミレイアをベッドに残し、俺は誰もいないリビングでシュンランが用意しておいてくれた食事を食べたあと外に出た。そして内壁の方向へと歩いていると、常連のハンターに声を掛けられた。


「ん? ああ……ボロノフさんか。大丈夫だ」


「そ、そうか……あまり無理するなよ」


「無理はしてないさ、心配してくれてありがとう」


 そう言ってボロノフに手を上げて応え、俺はこの三日間気になっていた場所へと向かう。


《お、おいボロノフ。勇者はなんであんなやつれてんだ?》


《ミレイアちゃんだよ。ほら、半年に一度の》


《げっ! まさかサキュバスの発情期の相手をしたのか!? 勇者ったって生身の人族だろ!?》


《バカ、だから勇者だって言われてんだよあの人は。ミレイアちゃんはハーフだから発情期の周期は長いらしいが、それだって通常のサキュバスと性欲は変わらねえ……いや、前にサキュバスのアンジェラ姉妹がミレイアちゃんはサキュバスの中でもダントツで魔力があるって言ってたな。それに比例してあっちも相当強いはずだってことも。そんな子の相手を腹上死を恐れず、半年ごとにしてんだ。愛する恋人のためにあの人は命を懸けてんだよ。それを勇者じゃなくてなんて言うんだ?》


《す、すげー……そりゃ確かに勇者だ。みんな帝国軍を二度も退けた本物の勇者だから尊敬してるとか言ってたけど、俺としてはこっちの方が凄えと思うわ。マジで尊敬するぜ!》


《だろ? 確かに本物の勇者だって聞いた時は凄いとも思ったが、人魔戦争なんか起きてねえのに何しに来たんだとも思ったわけよ。だがサキュバスの発情期を乗り切ったってのは、まさに伝説の勇者の偉業と言っていいだろう。俺なんかサキュバスの娼婦に魅了を掛けられただけで死にかけたからな! ワハハハ!》


「ぐふっ……」


 レベル55になった身体能力のおかげで後ろから聞こえる会話が耳に入ってきた俺は、その内容に崩れ落ちそうになっていた。


 いや、俺が勇者だって名乗る前から、一部のハンターの男たちから尊敬の眼差しを向けられていたことには気付いていた。なんでだろうとその時は思っていたが、まさか発情期のミレイアの相手をしきったことを尊敬されていたとは……もうハンターたちの尊敬の眼差しなんか無視しよう。ちょっとだけ良い気分になってた俺が恥ずかしいわ。


 そんな事を考えながら、フジワラの街の1区とダークエルフ街区の1区を隔てる壁。内壁の前に着くと、そのままジャンプをして壁の上に着地する。


 するとサブマシンガンを構えた若い男のダークエルフと目が合い、お互いにクスリと笑い合ってから手を上げ挨拶をした。彼は最近警備隊に入隊した成人したばかりの男だ。新人ということもあって、森ではなく街の中を内壁の上から警備している。


「勇者様、お久しぶりですね。ミレイアさんはもう落ち着かれましたか?」


「ああ、なんとか落ち着いたよ。四日前は迷惑をかけた」


 四日前にミレイアの発情が始まった時、彼女はたまたまダークエルフ街区にいて魅了を撒きまくった。しかもダークエルフたちが集会を行っていた場所でだ。その結果、その場にいた草食の男のダークエルフが皆欲情してしまい、それに気付いた女性のダークエルフたちが一斉に彼らに襲い掛かった。そんな悲しい事件が半年ごとに、なぜかダークエルフ街区でばかり起こっている。


 どう考えても女性のダークエルフたちがミレイアの発情周期を把握していて、それで当たりっぽい日にミレイアをダークエルフ街区に呼んだとしか思えないんだけどな。まあダークエルフの男は人族や獣人みたいに魅了に掛かってもすぐにはミレイアに襲い掛からないから、俺として安心はできるが。


 ミレイアは魅了を制御できるようになってはいるが、どうしても発情期が始まるその瞬間は難しいらしい。それは純粋なサキュバスも無理だとアンジェラたちが言っていたので、仕方のないことなのだろう。俺たちにできることは速やかに彼女を回収し、そのまま俺がベッドで発散させてやることだけだ。三日間。


「ははっ、うちの女性陣が大喜びしてましたよ。私はその場にいなかったので難を逃れましたが」


「そうか、いっそのこと相手を見つけたらどうだ? それなら自分の意志で子供を作れるだろ? ダークエルフ族は女性が多いんだ、よりどりみどりじゃないか?」


「いやぁ、どうも肉食系の子は……私はゴスロリとかの方が好きですね。棘の警備隊で酒場の手伝いをしているクロエちゃんに、あの衣装を是非着て欲しいです」


「そ、そうだな。似合いそうだな」


 とうとうこういう若者が現れてしまったか。スマートテレビを設置したのは間違いだったのかもしれない。いや、悪いのは日本のアニメだ。うん、俺は悪くない。


 しかしこのままじゃダークエルフの未婚女性がなかなか減らないな。半年後もミレイアを彼らの居住区に放つことになりそうだ。


 おっと、こんな事してる場合じゃない。


「じゃあ俺はこのまま新訓練場に行くから。まだ警備の仕事は慣れないかもしれないけど頼むよ」


「はい、今度こそデーモン族は我らが見つけてみせます! 父の仇ですからね、このサブマシンガンで皆殺しにしてやりますよ!」


「そ、そうか。期待してる」


 俺は意気込むダークエルフの若者に若干圧倒されつつも、そのままダークエルフ街区の1区を左手に見ながら壁の上の通路を森の方向に歩いてダークエルフ街区の2区へと向かった。


 ダークエルフ街区の1区には、10階建てのマンションが2棟とその周囲を囲むように所狭しと倉庫型の長屋が建っている。もともと5階建てが1棟だったが、帝国との戦いで彼らの献身的な働きにより10階建てを追加で建て、5階建ても10階建てに改築したんだ。


 これにより320世帯が居住できることになり、現在は各長老や家族持ちとカップルとなったダークエルフたちが優先して住めることになっている。これも女性の方が多いのに男が草食というダークエルフたちの涙ぐましい努力の賜物である。


 そんな1区を左手に見ながら進むと、正面にダークエルフ街区の2区が見えてくる。そこにも倉庫型の建物が並んでいるが、これは住居兼蒸留酒や燻製。そしてゴムの加工工場や魔物の素材の加工場となっており、お年寄りのダークエルフばかりが生活している。


 俺は左に曲がり次はダークエルフ街区の1区と2区を隔てる壁の上を通りダークエルフ街区を横断して2区の西側にある新訓練場へとやって来た。新訓練場は1区の壁と2区の壁を縦に石壁で仕切って四つ作ったんだ。


 そしてそのまま壁をゆっくり歩きながら右手にある各訓練場を横目に見ながら歩いていると、一番手前にある第一訓練場ではサブマシンガンを構えたークエルフたちが一列に並び、石のゴーレムを盾にして銃を撃ちながら前に進む訓練をしていた。どう見てもデーモン族対策だなコレ。一週間前の戦闘で有効だった面攻撃の練習をしているようだ。


 その隣の第二訓練場では、ダークエルフたちが塹壕の中から機関銃を撃つ訓練をしている。こっちは若いダークエルフの女性ばかりだ。臨時収入もあって俺が大量に機関銃を買ったことから、今までは射撃補助をやっていた子たちも機関銃を撃てるようにするようだ。


 そしてその隣の第三訓練場では、シュンランとラティがものすごいスピードで戟と剣を打ち合っていた。そんな彼女たちにローラが何百本もの氷の槍の雨を降らせているが、二人はそれをすべて避けながら戦っている。うん、異次元だ。デーモン族の魔法を避けながら戦う訓練なんだろうけど、アレは俺には絶対できない。もう彼女たちが勇者でいいよほんと。


 そんな彼女たちを遠目に見つつ一番奥の病院に近い場所にある第四訓練場に着くと、そこでは車の教習を行っていた。そう、ここは教習場だ。この訓練場は一番広く、常時5台のジープでダークエルフたちが運転の練習をしている。


 これらの訓練場はもともとフジワラの街の1区内にあったんだけど、機関銃の騒音によるクレームが多いこと。帝国の賠償金で新しいマンションを建てる場所が無いこともあり、ダークエルフ街区の2区に移設した。それが四日前の話だ。整地やら教習場のコース作りなんかを楽しくやってたんだけど、ミレイアの発情期が始まってやりかけのまま放置したことが気になって来てみたというわけだ。


「しかし障害物が多いコースだな。まあリアルではあるが、初心者にアレはちょっと厳しんじゃ……あ、横転した」


 盛り土や木に見立てたコーンなどがやたら多いコースを見ていたら、案の定走っていたジープが横転する瞬間を目の当たりにした。教官役の中年のダークエルフが助手席から出てきて怒っているが、あれはコースが悪いと思う。後で長老に改修するように言っておこう。日本の教習車みたいに助手席にブレーキはついてないからな。道のない森の中を想定しているとはいえ、さすがに初心者には厳しすぎるコースだ。


 まあ教習場以外はちゃんと出来ているようで良かった。


 今回帝国の賠償金でフジワラの街に10階建てのマンションを2棟。女神の街に1棟追加で建てた。そしてフジワラの街にあるマンションと倉庫型の宿泊所は、賃料を3割値下げした。大部屋は据え置きだ。もともと格安だからな。


 これにより一番安い倉庫型のワンルームが1泊銀貨1枚(1万円)だったのが、小銀貨7枚(7千円)。月契約のマンションの1階のワンルームは、月金貨3枚だったのが金貨2枚になった。


 もちろんハンターたちには大好評だ。設備も最新のバージョンに更新して、マンションは各部屋にスマートテレビがあるからな。それなのに値下げしたんだ、喜ばれて当然だと思う。


 ああ、もともとフジワラの街のマンションより割高な女神の街のマンションだけど、こっちは一切値下げしていない。あっちは金持ちばかりだからそれでも文句は出てこない。それどころかギルド支部の誘致の話を進めていると言ったら喜んでいた。


 帝国の賠償金はBランク魔石6万個と、Aランク魔石200個。そして白金貨1万枚と思っていたより多かったおかげで、賃貸に出している分は古いバージョンの設備を全部新しい物にすることが出来た。病院なんかは設備は前のままだけどな。あっちを更新しちゃうと、原状回復のギフトを使うのにBランクの魔石が必要になってしまう。だから一つ前のバージョンのままにしている。ロビーと各階の遊戯室にだけテレビを置いておけばいいと思う。


 ちなみに新築で最新の設備の部屋を建てると、10階建てでBランク魔石5千個だ。もちろんカーシェアリングによる車は無しでだ。


 駄女神の設定した相場じゃBランク魔石1個金貨2枚(20万円)だから、10億円で建てれることになる。まあ以前の設備で建てると8億くらいだったから、新設備でこれなら妥当といえば妥当かもしれない。Bランク魔石が金貨2枚で帰買えるならだけどな! 今は金貨5枚なんだよ。そうなると1棟25億円……考えるのはやめよう。これは賠償金だ、タダで手に入った魔石だし。


 それでもやっぱり一気に使うのが怖くて、既存マンションの設備の更新と、3棟の新築追加だけにしたというわけだ。募集図面のバージョンアップが来たら、恐らく15階建てを建てれるようになるし。必要以上に建てる必要は無いかなと。


 んで、もともとBランク魔石は8千個あったので、賠償金で6万8千個になって設備の更新がおよそ700部屋分で2700個使った。そこに新築3棟で1万5千個使ったので、今のBランクの魔石の残高は5万と300個となる。


 月に女神の街のハンターたちからの買い取りで2千個は増えるので、いつ募集図面のバージョンアップが来ても大丈夫だと思う。俺も積極的にBランクの魔物を狩りに行くつもりだし。


 とりあえずマンションを増やすことが出来たし、設備も更新できた。ギルドの誘致も感触は良かった。まあ、やっぱりダークエルフを職員として行かせるとになるから、まずはこっちで仕事を覚えてもらわないといけないんだけどな。


 あとはデーモン族か、そろそろ第二陣が来てもいいと思うんだけどな。魔物探知機から目が離せないなこりゃ。来るなら早く来てくれないかな。

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