第9話 皇女シェリスの奴隷改革と不良老人


 ――フフジワラの街 真聖光病院 本棟 ラギオス帝国第一皇女 シェリス・ラギオス ――



「おお……姫様ありがとうございます。痛みが軽くなりました」


「良かったです。聖女様の治療日まであと十日でしたね。それまでがんばってくださいね。必ず治りますから」


 私は『でんどうしき』と呼ばれるベッドの背もたれを倒しながら、我が国の南部の村からやって来たというホイットさんを励まします。


「私にとっては姫様も聖女様です。治療までの日々を、こうして苦痛なく過ごせるのは姫様のおかげです。他の病室の皆もそう言ってます」


「そんな……私は自分にできることをしているだけですから。では他の患者さんとの約束の時間ですから。薬が切れたらナースコールを押して、看護師さんにお伝え下さい。また調合して持ってきますから」


 そう言って私は何度もお礼を口にするホイットさんの病室を出ました。するとエレベーターから聖女様とそのお付きのシスターたちが降りて来ました。


《おお、聖女様だ! 今日は307号室と321号室の患者を治療するらしいぞ》


《俺もあと一週間後には治療を受けれるのか。ありがてえ、ありがてえ》


《治療費の大半を真聖光教が負担してくれて本当に助かっています。女神フローディア様万歳! 真聖光教会万歳! 聖女様バンザーイ!》


 重病人ばかりの病棟だと言うのに、聖女様が姿を現すと皆が部屋から顔を出します。苦しいはずなのに、皆が一目聖女様をその目で見ようと。本当にすごい人気です。


 聖女様が私の前を通り過ぎます。私は廊下の端に移動し、頭を下げて彼女を見送ります。


 すると聖女様が私に気付き足を止めました。


「あ、シェリス様。いつもありがとうございます。本当に助かっています。何か足らない薬草や魔物の素材はありますか? 騎士に取りに行かせますので、遠慮せずお申し付けください」


 聖女様は真っ白なローブに確かニカブというのでしたか? この間観た映画に出てきて、とても神秘的な衣装だったので勇者様に聞いたらそう教えてくれました。勇者様の故郷にあるアラブという地域の女性が、口もとを隠すために着けている衣装らしいです。


 白い布に金で装飾が施されたそのニカブを聖女様は着けており、優しい眼差しで、そしてどこか潤んだ瞳で私を気遣ってくれます。


「お気遣いありがとうございます聖女様。シスターローラやラティ様。そしてクロースさんに採取をお願いしておりますので大丈夫です」


 ローラさんは滅びの森のかなり奥地まで採取に行ってくれています。『どらいぶ』と言う、あの鉄の馬車を運転するのが好きなようでそのついでだからと。本当に優しいお方です。


 ラティ様もご自身が難病で苦しんでいたこともあって、頻繁に病院に来て入院している患者さんの容態を詳しく教えてくれます。そして必要な素材なども、私が活性化のギフトを掛けたことへのお返しだと言って率先して採取に行ってくれています。クロースさんはラティさんを妹のようにかわいがっていることから心配なのでしょう。一緒に採取に行ってくれています。


「そうでしたか。シスターローラが役に立っているようで何よりです。あれで礼拝にちゃんと来てくれれば言うことがないのですが……教会の代表としての自覚が……これでは新しく来てくれた司祭やシスターたちに示しが……」


 聖女様はローラさんに不満があるのでしょう。私が以前お父様と一緒に滞在させて頂いた時も、こうして時折不満を口にしていました。


 その時でした。聖女様のニカブの裏側から、青い布がハラリと落ちたのです。


「聖女様、何か落ちま……え? それは」


「!? な、なんでもありません。で、では患者さんが待っているので私はこれで」


 そう言って聖女様は落とした布を慌てて拾い、そして再びニカブと口の間に差し込みその場を離れました。


 今のは男性のパンツのように見えたのですが……いえ、そんなはずありませんね。清楚で純真で神に仕える聖女様が男性のパンツを口もとに固定するなんて、そんなことありえないです。ふふっ、私も疲れているのかもしれません。


 思えばこちらに来てからというもの。勇者様に用意していただいた調合室と病棟。そして迎賓館との往復しかしていません。たまにはこの街をお散歩でもして気分転換をしないといけませんね。


 私は頭を振り、フジワラの街を散歩するために病棟を出るのでした。


 病棟を出ると外で待っていてくれた護衛の騎士であるカインとユーリに、フジワラの街を散策したいと告げます。お祖父様から私の行動に干渉しないように言われているのか、二人は黙って私の後ろを付いてきてくれます。


 あ、あれはお祖父様と竜王様?


 酒場の前を通り過ぎた時でした。中から大騒ぎをしている聞き覚えのある声が聞こえたのでチラリと視線を向けると、お祖父様と竜王様が朝からお酒の飲み比べをしているようでした。


「また飲んでおられるのですねお祖父様」


 私はため息を吐いた後、そっとその場を離れました。


 この街に来てからというもの。お祖父様は毎日のように竜王様とお酒を飲んでいます。ある時は竜王様のマンションのお部屋で、ある時は迎賓館のお祖父様のお部屋で。そして最近では今日のようにわざわざ街の商会で買ったという古びた革鎧に着替えて身分を偽り、ハンターの皆さんと一緒に酒場で飲んだりもしています。酔っ払ったハンターとケンカをしたと聞いた時は頭を抱えました。上皇ともあろう方がいったい何をしているのかと。


 ですがあれほど楽しそうなお祖父様も初めてみます。叔父が仕込んだと思われる神経毒により、ついこの間まで話すことすらままならなかったお祖父様。そんなお祖父様が毎日楽しそうにしているのです。


 これでいいのかもしれません。家に酔って帰ってから竜王様の悪口を延々と聞かされるのは少々うんざりしていますが……それでも次の日にはまた一緒に飲みに行かれるのですから、本当は仲が良いのでしょう。


 そんな事を考えながら歩いていると、2区の正門から銃声が聞こえました。


 また飛竜がやってきたのでしょうか? でも警戒の鐘は鳴っていません。ではどこかの貴族が逆上して剣を抜いた? まさか勇者様がいるこの街でそんなことをする貴族など……帝国貴族ならやりそうで少し怖くなってきました。


 いけません。もしも帝国の貴族だったら、やっと修復の方向に向かっている帝国と勇者様の関係が再び悪くなってしまいます。ここは私が間に入らなければ。


「カイン、ユーリ。帝国の貴族が剣を抜いた可能性があります。大事になる前に私たちで収めます」


「承知いたしました姫様」


「シェリス様は私たちがお護りいたします」


 カインは私の言葉にスッと頭を下げ、ユーリは真剣な表情でそう言ってから私の前に出ます。


 二人に頷いた私は1区の旧正門を抜け、2区の正門へと足を向けました。



《ふざけんな! 俺の戦闘奴隷を返せ!》


《うるさい! 撃ち殺されなかったらとっとと失せろ! こんなに酷使しやがって! サラ、二人の容態は?》


《相当弱っているわね。治癒水で傷は塞がったけど、かなり悪いわ》


「あっ、姫様!」


 正門の前でハンターを囲んでいる棘の警備隊の女性たちの会話が聞こえた私は、ユーリたちを押し退けて駆け出しました。


 そして正門の外へ出ると、ハンターの男たちにサブマシンガンという名の新しい魔槍を向けているカルラさんに声を掛けます。


「カルラさん! 怪我人を看させてください!」


「え? シェリス様!? なぜここに?」


 カルラさんは私が来たことに驚いています。が、後ろで怪我人を介抱していた魔法使いのサラさんが私へ答えてくれます。


「シェリス様こちらです。かなり衰弱しています」


「!? ああ……なんて酷い……これを飲んでください。すみませんサラさん、こちらをもう一人の方に」


 私は防具すら身に着けず、ボロボロの衣服を着た痩せこけた男性二人を見て絶句しました。ですがこのままでは命が危ないと思い、急いで腰のポーチから勇者様から頂いたゼリー状の栄養補給食のパックを取り出し飲ませました。そしてサラさんにも渡し、もうひとりの男性にも飲ませるようお願いしました。


「では治療します。ギフト『活性化』」


 栄養補給職を全て飲ませた私はサラさんも飲ませ終わるのを確認したあと、活性化のギフトを二人へと発動しました。


「あ……ああ……力が……湧いて」


「あ、ありが……とう……ございます」


「良かった……サラさん。二人を真聖光病院へ運んでください。教会が預かります」


「わかりました。レイザ、この人たちを病院へ運んでくれる?」


「わかったわ。誰か、担架をお願い」


 私の頼みにサラさんは即座に警備隊の人たちを動かして答えてくれました。病院に運び込むことができればもう安心です。


「オイッ! ふざけんじゃねえぞ! そいつらは俺たちのパーティの戦闘奴隷だ! 勝手に治療したあげくに連れて行こうとすんじゃねえ!」


「そうだそうだ! どうしても連れていきてえなら金を払え!」


「奴隷? 戦闘奴隷と言いましたか?」


 私は信じられない気持ちでハンターらしき男性に問いかけます。


「あん? なんだガキ。帝国じゃ奴隷を滅びの森の狩りに連れていくことは認められ……ぎゃああ!」


「貴様! シェリス様に対しなんと無礼な物言いだ! 殺されたいのか!」


 男の言葉遣いにカインが剣を男の腕に突き刺し、それと同時にユーリが男のパーティ仲間へ剣を突きつけ牽制します。


 しかし私は戦闘奴隷という存在がいることに驚き、それどころではありませんでした。


 奴隷という存在がいることは私も知っています。奴隷になる方は様々で、自分だけの力では食べていけない方や、犯罪を犯した方などが奴隷になると。そいうった奴隷は労働力として欠かせない存在だと学びました。そして虐待などは法によって禁止されているとも。


 ですがその奴隷が実際にどのような生活をしているかは、領地の屋敷や帝城から出ることのない私には知ることが出来ませんでした。


 ましてやこのような仕打ちを受けていることなど、夢にも思っていませんでした。


「カイン、戦闘奴隷というのは皆さんがこういった仕打ちをされているのですか?」


「…………はい」


「ユーリ、貴方は知っていましたか?」


「あ……その……はい」


「そうですか……そこの我が国の民よ。私はラギオス帝国第一皇女シェリス・ラギオスです。奴隷への虐待は禁止されているはず。黙ってこの二人の所有権を放棄し、こちらに引き渡しなさい。でなければ傷害と虐待の罪で貴方たちを拘束します」


 私は湧き上がる怒りを堪えながら、奴隷にこの様な仕打ちをしたハンターへそう通告します。


 本当ならこの場で拘束し罰を受けさせたいのですが、ここは帝国領ではありませんし彼らを帝国に護送する人員もいません。本国から呼ぶにも、その間彼らを隔離する場所を私には用意する権限がありません。ですので悔しいですがこの場は奴隷の所有権を放棄することで見逃すしか無いのです。


「なっ!? 皇女様だって!?」


「嘘だろ……なんでうちの国の皇女様が……王国の姫がいるとしか聞いてねえぞ」


「聖女様のお手伝いに来ているのです。それで返事は?」


「あ……くっ……わかり……ました」


 私の自分でも驚くほど冷たい声に、男たちはガックリと肩を落とし頷きました。


「貴方たちの顔は覚えました。ユーリ、この方たちのハンター証を確認してください。そして二度と奴隷を購入することが出来ないようにしてください」


 こんな人たちに二度と奴隷を買わせてはなりません。


「ハッ!」


「そ、そんな……」


 男たちは絶望した表情で、ユーリとカインに剣で小突かれながら門の端へと移動していきます。


 サラさんも衰弱した奴隷の方たちを担架に乗せ、病院へ向かってくれました。


 その様子を見てホッとしていると、カルラさんお声が後ろから掛かりました。


「シェリス様、助かったぜ。あいつら剣を抜きやがったからさ」


「我が国の民が申し訳ございません。その……ああいったことは頻繁にあるのでしょうか?」


「あ〜、まあな。この街ができたばかりの頃は多かったな。でも最近はうちが奴隷を保護しているのが広まって、あそこまで酷い仕打ちをするようなのはいなかったんだけどな」


「そうですか……恥ずかしながら奴隷の方があんな仕打ちを受けていることを私は知りませんでした。皇女なのに……私は何も」


 何が苦しんでいる人を救いたいですか……私は一番救わなければならない人たちの存在を知らず……そしてそんな方たちの苦しみに気付くことなく……何が救いたいですか。愚かな……私は本当に無知で愚かな人間です。


「あちゃあ、そんなにヘコまないでくれよ。まあ……つってもよ? シェリス様はずっと領地にいたんだろ? 屋敷からあまり出なかったろうし、知らなかったのも仕方ねえさ」


「それでも我が国の民が苦しんでいることにすら気が付かなかったのです。皇女失格です」


「げっ! そ、そう思い詰めるなってシェエリス様。気が付かなかったのはしょうがねえって。あ、そうだ! だったらさ、二度とこういったことが起こらないようにすればいいんだよ。ここには上皇様もいるし、現皇帝が父親なんだ。シェリス様ならできんじゃねえか?」


「あ……そうですね。過去を悔やんでも何も解決はしませんね。でしたら二度とこのようなことが起こらないよう行動するべきですね。ありがとうございますカルラさん。さっそくお祖父様に相談して、お父様へ手紙を出そうと思います」


「それがいい。リョウスケもずっと心を痛めてたからな。帝国との関係が良くなったら提案するつもりだったみてえだし」


「勇者様が? やはり慈悲深いお方なのですね……わかりました。必ずや奴隷の解放を、それが難しくても待遇の大幅な改善と、所有者が違反した際には重い罰則を設けるようお祖父様とお父様にお願いしてみます」


「あー、まあ無理しない程度にな。それと上皇様に相談する前に、リョウスケに先に相談した方がいいかもな。勇者が心を痛めているって言ってたと、シェリス様が直接聞いたってことにした方が話は通りやすいかもしれない」


「勇者様にですか? あ、先代勇者様の獣人奴隷解放の戦いですね」


 先代勇者様は縦陣の方たちが人族によって奴隷にされていることに心を痛め、彼らの解放のために剣を取り最初に帝国と戦いました。それがまた起こるかもしれないと匂わせるということですね。それならばお父様も本腰を入れてくれるでしょうし、反対する者たちを説得しやすくなります。


「そうそう、勇者をまた敵に回したいのかってな。きっとすぐに動くと思うぜ?」


「わかりました。お教えいただいてありがとうございます。では、さっそく勇者様のところへ行って参ります」


 私はそう言ってカルラさんに頭を下げ、ハンターたちの身元の確認を終えたカインとユーリと共に勇者様を探しに向かうのでした。



 ♦♢♦



「おっ! 勇者様じゃねえか! 俺たち明日から女神の街を拠点にするからよ! この街とも今日でお別れだ、あっちでもよろしくな!」


 夕方になり家の戻ろうと2区の旧正門の前を通り過ぎたら、ちょうど狩りから戻ってきた顔見知りの帝国のハンターに声を掛けられた。


「バンクさんお帰り。もうBランクの魔物をメインに狩るのか。最近みんなすぐに女神の街に行っちゃうなぁ」


「戦闘奴隷たちがよ、メキメキと腕を上げて狩りが楽になったからな。Bランクの魔物がいるエリアにここ数日送迎バスで行って試しに狩ってみたが、なんとかやれそうだったんで拠点を移すことにしたってわけよ」


 そう言ってバンクは両隣に立っていた真新しい革鎧と、立派な槍を持つ二人の戦闘奴隷の男の肩を嬉しそうに叩いた。


「待遇を改善した成果ってことかな?」


 シェリスが先月の終わり頃に上皇に直訴し、上皇が皇帝にシェリスの手紙を直接渡しに行ったことで帝国の奴隷の待遇が劇的に改善された。俺も一言添えたのも影響があったらしいが、シェリスの功績なのは間違いない。あと上皇が帝国に行ったの大きかったと思う。貴族たちも反対はし難かったはずだ。


 俺が燃料の抜き取り作業をしていた訓練場に来て、泣きながら奴隷たちのことを知らなかった愚かな皇女に力をお貸しくださいって、勇者様も賛同してくださいって頭を下げてきた時は驚いたけど。


 あの時のシェリスはもの凄く情熱的だった。いつも調合室にこもって薬ができたら患者に配り、その後は薬草畑の世話をしているおとなしい性格の彼女とは思えないほどに。それだけ帝国の奴隷への待遇の現状がショックだったのだろう。


「ああ、最初は出費が激しくて冗談じゃねえって思ったけどよ。皇女様がここにゃいるからな、やらねえわけには行かねえと思ってやってみりゃ前より稼げるようになってビックリだぜ」


「ははっ、確かに最初は賃料の支払いを待ってくれって言ってきていたな」


 帝国は奴隷に対し衣食住の保証と、戦闘奴隷に対してはハンターと同様の装備の支給義務を課した。違反者にはかなり厳しい処罰が下る。


 そんな帝国からの奴隷の待遇改善の振れに混乱したのは帝国のハンターたちだ。


 それまでうちの決まりで戦闘奴隷を団体用の部屋を借りて住まわせてはいたが、装備なんてボロボロの中古品か、まったく与えていない者だっていた。それをいきなりハンターたちと同等の装備を与えろと言われりゃ、そりゃ混乱もする。おかげでうちの街のドワーフの鍛冶たちは在庫が全部掃けたってお喜びしていたよ。当分仕事を休んで酒場に通えるって。


 休まれると困るんだがな。


「かあぁぁ! それを言うなって勇者様よ。俺たちだけじゃねえじゃんか。帝国のハンターで戦闘奴隷持ちはみんな賃料の支払いがキツイって言ってたろ?」


「確かにな、まあそんな彼らも一昨日に女神の街に行ったらホクホク顔になっていたけどな」


 あの時はどの帝国のパーティも金欠で、賃料の後払いを頼みに来てたっけ。そんな彼らも今では女神の街のマンションでリッチな生活をしている。


「俺たちもそうなるってわけよ。あとはあの小型の新魔槍を売ってくれりゃあ完璧なんだけどな」


「非売品だ。変な欲をかくと……」


 俺はギロリとバンクを睨む。


「わ、わかってるって。俺たちが勇者様に敵対するわけねえだろ。んじゃあまた女神の街でな」


「ああ、成功を祈ってるよ」


 慌てたようにその場を去るバンクたちに、俺は手を上げて見送った。


 ったく、気持ちはわかるがみんなサブマシンガンを欲しがるんだよな。機関銃よりも持ち運びがしやすくて、Cランクの魔物でも仕留めることができる。Bランクの魔物相手でだって、牽制で使うなら十分な威力がある。そりゃ欲しくもなるか。


 だが流石にアレだけは売れない。ハンターにはロクでもない人間がいっぱいいる。そんな人間に持たせて凶賊にでもなられたら大変なことになる。というか、実際に巡回中のダークエルフを襲う奴らがいるんだ。中には元ハンターもいれば、兵士上がりの奴もいた。当然全員死んでもらったが。


 戦争であれだけの成果を出せば仕方ないことなんだろうけど、機関銃とサブマシンガンを狙う者は多い。そんな訳でどんなに頼まれてもハンターたちには売らないわけだ。


 しかし劇的に帝国の奴隷の待遇が良くなったな。ずっと戦闘奴隷の世話を陰ながらしていたミレイアと、奴隷を買い戻していたサーシャは心から喜んでいた。俺も帝国の奴隷のことはいずれ帝国と関係が改善したら皇帝に頼もうと思っていた。内政干渉になるような事だからな、慎重にタイミングを見計らっていたんだが……


 まさかあのおとなしい性格のシェリスが、上皇と皇帝を動かすだなんて思いもしなかったよ。


 この事だけでも上皇と皇女を受け入れて良かったと思える。


 パアァァァァン!


 俺が奴隷の待遇改善が成ったことで上機嫌でマンションへと帰る道を歩いていると、正門の方から車のエンジン音とクラクションの甲高い音が聞こえてきた。


 そして次の瞬間。旧正門を潜るハンターたちが一斉に横っ飛びをしたと思ったら、彼らがいた場所からグラディエーターが飛び出してきた。


 キキーーーーッ!


 そしてそのグラディエーターは俺の目の前で見事なドリフトをかましてピタリと止まり、ドアが開きサングラスをした白髪交じりの金髪の老人が現れた。


「勇者殿、燃料がわずかじゃ入れといてくれ」


「入れといてくれじゃねえよこの不良老人!」


 俺は映画で見て一目惚れして造らせたというサングラスと、黒い革のズボンに黒の革ジャンを身にまとった上皇へそう怒鳴りつけた。


「なんじゃと! 誰が不良じゃ! だんでぃの間違いじゃろ!」


「どこがだよ! 車を貸す時に乱暴な運転はしないって言ったよな? なんだよさっきのは! 猛スピードで突っ切ってきやがって!」


 シェリスに奴隷制度の見直しのことを上皇が相談され、一刻も早く帝国に戻らなければと言うからお付きの騎士たちと一緒に運転を教えたが……そして帝国だけ貸してなかったグラディエーターとジープを貸しはしたけど、まさか上皇が運転にハマって毎日のように乗り回すとは思わなかった。しかも日に日に運転が荒くなっている。


「燃料が無くなりそうじゃったんじゃ! 帝国の上皇たるもの、ガス欠で動けなくなるという恥をかくわけには行かぬ! それくらいわかるじゃろうが!」


「わかんねえよ! というか、わかりたくもねえよ! 普通は余裕を持って帰ってくるんだよ! あーもういいっ! 1ヶ月の免停だ! 1ヶ月後まで車には乗せない!」


「なっ!? 横暴じゃ! 権力者が権力を振りかざしてもロクなことにはならんぞ!」


「戦争を仕掛けてきたやつに言われたくねえよ! もう帰れ!」


 上皇と皇女を受け入れて良かった? 違うな、皇女だけ受け入れてよかったの間違いだ。


 俺は無限袋にグラディエーターを収納し、理不尽だのなんだのと叫ぶサングラスのジジイを無視して家へと帰るのだった。





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 新作のご案内


「送還された勇者……の孫、しかも淫魔」


 https://kakuyomu.jp/works/16817330652227230159


 ジャンル:現代ファンタジー


 現在48話 18万文字まで更新済みです。


 異世界生まれで日本人の血とサキュバスの血を引くエロ主人公のお話となります。


 タグを入れるとするなら


 主人公最強・戦争・ダンジョン・淫魔・ハーレム・セフレ・姉妹丼・親子丼


 後半はなんかすみません。


 一度ご覧いただければ幸いです。



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