第8話 デーモン族と活性化ギフト



 ――魔国 デーモン族領 旧魔王城 謁見の間 吸血鬼族ソロモン家当主 アグマ・ソロモン―― 



「フム、ソロモン家の当主か、久しいな。それで? 今日はこの魔王に大事な話があると聞いたが?」


 700年前に勇者によって半壊させられ、再建後は長い年月を掛け魔王都にある魔王城より立派な城となったその謁見の間。


 そこで私は玉座に座り肩肘をつき、つまらなそうにしているデーモン族の族長であるヴォイドと面会していた。


 デーモン族は蒼い肌に頭部から二本の曲がりくねった角を生やし、口は裂け牙を剥き出しにしてるオーク並みに醜い種族だ。だが彼らの操る闇魔法は強力で、攻撃力もそうだが一度その魔法で傷つけられると簡単には治らなくなる。まるで呪いのような魔法だ。吸血鬼の私の場合は患部を切断すればいいだけだがな。


 そんな醜く、相変わらず未だに魔王を自称している愚かな男に私は答える。


「そうだ、今日はデーモン族にとって有益な話を持ってきた」


《貴様! 配下の分際で魔王様に何という口を利くのだ! そもそもなぜひざまずかん! 無礼であろう!》


 私が口を開くと、壁際でずっと睨んでいたデーモン族の文官や武官の中から若い魔法使いの男が叫びだした。


 しかし私はそれを無視する。デーモン族の配下になった覚えなどないのもそうだが、いつまでも配下だと思っている者たちにそれを言っても無駄だということがわかっているからだ。


「よい、吸血鬼族は先の人魔対戦でその数を大きく減らすほどの働きを見せた者たちだ。口の利き方程度のことでそう目くじらを立てるな」


《ハッ! ソロモン家当主よ、魔王様の寛大さに感謝するが良い》


「話を続けても?」


 私は絡んできた魔法使いを一目もせず、正面に座るヴォイドへと問いかけた。


 また魔法使いの男が騒ぎ出すが、ヴォイドが再び諌め口を開く。


「続けよ」


「では、まず最初にデーモン族は滅びの森にある街の事を知っているか? そしてその街の長であるリョウスケという男のことも」


「ふんっ! 裏切り者のダークエルフを匿っている半魔のことなら知っている! 竜王め、我らが裏切り者を取り戻すことを止めよって。数が多いだけの偽りの魔族が!」


 何が裏切り者だ。魔王ドーマに我ら以上に尽くしたダークエルフを奴隷のように扱っていた者がよく言う。その結果ダークエルフに逃げられ、取り戻すのを邪魔した竜王を逆恨みか。


 だがまあデーモン族としては恨まずにいられないのだろう。ダークエルフという労働力を失ってから、デーモン族領の税収はほとんど無くなったと聞いている。そして千年以上も働いたことなどないデーモン族の者たちが働くはずもなく、蓄えを切り崩しながら生活しているようだからな。自業自得といえばそれまでだが。


 だが、だからこそ、将来が不安な今だからこそ私の提案に乗ってくるというもの。


「ダークエルフのことはともかく、先日の帝国とフジワラの街による戦いを知っているか?」


「帝国が1万の軍を差し向け撤退したという話は知っておる。恐らくはダークエルフたちが手を貸したのだろう。ダークエルフも半分ほどは数を減らしたであろうが、帝国も弱くなったものよ」


「それは去年の話だな。私が話しているのはつい最近の話だ」


 やはりデーモン族の情報収集能力はこの程度か。魔国に領地を構えているというのに、滅びの森に行くこともそのプライドから魔王都に行くこともない。過去の栄光を誇りに、この領地で魔王ごっこをしているだけの哀れな種族よ。


「ほう、帝国の皇帝は二度も攻めたということか。それで? 今度こそ半魔と裏切り者共は皆殺しになったのであろうな?」


「いや、帝国が負けた。軍を率いていた皇太子も勇者に殺された」


「……今なんと言った? 勇者と聞こえたが? たわむれであるならばその名を口にするのはやめよ。我らの不倶戴天の敵であることは貴様も知っていよう」


 ヴォイドがそれまでのつまらなそうな顔から一転、その醜い顔を怒りに歪ませ全身から魔力を放出させながら私に警告をする。


 ヴォイドが怒るのも当然だ。勇者は先々代の魔王ドーマを殺し、デーモン族を没落させた張本人なのだからな。その恨みも一入ひとしおであろう。


 それにしても膨大な魔力だ。魔王ドーマよりも魔力が少ないと聞いていたが、さすがはデーモン族をまとめるだけの力を持っているというところか。もしもドーマと同じ能力を持っていたならば、我が一族は再び膝をつかねばならなかったであろうな。


 そんなヴォイドから発せられる膨大な魔力の奔流に耐えつつ、私は答える。


「ああ、知っている。知っていて言っているのだ。勇者が現れた。前回とは別人だが、その力はどうやら本物のようだ。当然戦妃も側にいた。それも4人もだ」


「馬鹿な……」


 ヴォイドの圧力を受けてなお勇者が現れた口にする私の言葉に、ヴォイドだけでなくこの謁見の間にいるデーモン族全員が驚愕の表情を浮かべている。


「私の配下の者が神器の存在と、戦場で圧倒的な力で帝国兵を蹂躙する女たちの姿を確認した。勇者は間違いなくいる。我ら魔族を再び滅ぼすために、あの憎き女神が遣わしたのだ」


「……確認を取らせる。嘘であったなら……わかっているな?」


「好きにするがいい。だがこれだけは言っておく。我らも詳細を確認するべく勇者のいる街に人を送ったが、ことごとくその存在を見破られた。直接あの街を探ることはやめておけ。竜王も勇者側についているうえに、これは吸血鬼族の恥になるのだがハニーサックル家も早々に勇者に膝を屈した。恐らく戦妃となり力を得るためであろう。帝国と王国に探りを入れることを勧める」


「竜王がだと? あの竜王が……本物である可能性は高いというわけか。だが……フンッ、我がデーモン族の魔法を、貴様ら吸血鬼族がコウモリに化けて探る程度の能力と同じにするでない。我らは闇に愛されし種族。そのフジワラの街とやらに侵入し、本当に勇者がいたのならばそのまま首を切り取ってやろう」


「……そうか、好きにするがいい。ただ、あまり派手にはやるな。先日の戦争では魔国と王国と獣王国が勇者に付き兵を出した。個の能力が優れていようが、圧倒的な数に攻められてはいくらデーモン族でも今度こそ滅びは免れぬだろう」


 私がそう口にすると謁見の間にいるデーモン族の文官や魔法使いから、竜王など何するものぞや滅ぶのは竜人族と人族と獣の方だなど凄まじい罵声が飛んでくる。


「静まれ! ソロモン家当主よ、この魔王への忠誠心からの忠告ということにしてやろう。貴様の言う通り本当に勇者が存在するのであれば確かに危険であろうな。まずは5人ほど送り様子を見るとしよう」


「そうだな、それがいいだろう。そちらで勇者だと確認できた時は連絡が欲しい。勇者は我ら共通の敵だ、力を合わせたい。私も他の吸血鬼一族をまとめ、共に戦うことを約束しよう」


「ほう……吸血鬼族からそのような言葉が出るとはな。いいだろう、勇者の存在が確認できた時は、再びこの魔王の下に集まるが良い。勇者を殺し、竜人族を滅ぼし正統なる魔王国を取り戻すためにな」


「……では連絡を待っている」


 再び魔王軍を結成することを想像でもしたのか、上機嫌となったヴォイドに私はそう言って背を向け謁見の間から退出した。




「いかがでしたか当主」


 謁見の間から出て馬車に乗ったところで、待っていた叔父上に話し掛けられる。


「ドーマの眼の話までは持っていけなかった。やはり我らは信用がないようだ。まあそれも当然だと言えば当然だが」


 魔王ドーマが倒れて以降、数を大きく減らした我らは竜王と勇者に睨まれることを恐れデーモン族から距離を置いた。そしていつまでも我らを配下だと思っているデーモン族に、更に距離を置いてきた。ダークエルフが逃亡した際は竜王への反抗心からその奪還に賛成はしたが、その程度では拭えぬほどの不信感を持たれているのだろう。


「なるほど、ではこれからどうするのだ?」


「デーモン族が直接あのリョウスケという男が勇者かどうか探るそうだ。まあ精鋭の数は減らすだろうな。そして魔国を含めすべての国が勇者に付いていることから、我らに招集をかけようとするだろう。その時にあの話を持っていく」


 5人送り込むと言っていたが、1人も生きて帰ることは出来ないだろう。そうなると次は精鋭を10人。それでも駄目なら20人と増やし、そこでやっと勇者がいるのではと考え、帝国や王国に情報を集めに行き勇者がいることを確信するだろう。その後は自分たちだけでは勝てないことを自覚し、我らに招集を掛けるだろう。その時がチャンスだ。


「相変わらず愚かな種族よな。では当主、我らはしばらく様子見ということでいいか?」


「いや、ローゼルリーッター家とフォルムーン家に声を掛けておこう。彼らも勇者の存在を知っているはずだ。計画のことは伏せるが、人を出してもらうためにも協力体制を構築する必要がある」


 この2家は我がソロモン家に次ぐ力を持っている。勇者という共通の敵がいるのだ、協力してもらうことは容易いだろう。


「あの計画に人を出させるためにだな?」


「そうだ、何も我が一族だけが身体を張る必要はあるまい」


 ドーマの眼を手に入れたなら、他の家にも手伝わせる。一番危険な場所に我が一族の者を行かせることもあるまい。


「ククク、その通りだ。兄上のようになかなかに狡猾になってきたじゃないか」


「そうか、それは嬉しいな」


 私にはとことん優しかった兄上。その兄上に似ていると言われるほど嬉しいものはない。


 もう少しだ、もう少しで父上と兄上の敵を討てる。


 そのためにもデーモン族には踊ってもらわねばな。


 私は口角を上げながら、馬車の中から見える旧魔王城を見上げるのだった。



 ♦♦♦



「あっ、あっ、あっ、勇者様……き、気持ちいいです」


 仰向けで俺を受け入れていた彼女はそう言って開いていた両足で俺の腰をロックし、逃がさないとばかりに抱きついてきた。


 俺はそんな彼女が愛おしく、彼女とキスをし舌を絡めながら腰を深く押し込んでは引きを繰り返す。


 やがて彼女の中に全てを吐き出した俺は、ベッドに横たわり彼女へと腕を伸ばした。


 すると達したばかりで放心していた彼女はその腕に気付き、嬉しそうに腕を枕にしながら抱きついてきた。Cカップほどだろうか? ちょうど良い大きさに育った日焼けあとの残る胸と、白くてフサフサした狐耳がこそばゆい。


 そう、白い狐耳だ。


 俺は滅びの森の中にある町長専用の休憩所で、ラティとベッドを共にしていた。しかも既に3回戦目だ。


 このロリコン野郎。ラティは身体が幼いから、孤児院の時に面倒を見ていた子たちと重なって食指が動かないって言ってたじゃないかって?


 弁明、いや説明をさせて欲しい。まずラティはもう18歳だ。ロリコンにはあたらないということだけ言わせてくれ。


 そしてラティの身体が幼いということだが、以前のラティなら確かにそうだった。メイクなんかも覚えて大人っぽくなってはいたが、やはりその体型は中学3年生くらいにしか見えなかった。

 

 だが今は違う。今の彼女は身長が150センチ半ばから10センチ近く伸びて165センチほどになっている。胸も少し盛り上がっている程度だったのが、今じゃお椀型で手に収まるちょうどいい大きさにまで成長した。お尻もぺったんこだったのが、弾力を保ちつつ引き締まった良いお尻に成長している。


 顔付きも幼さが消え、さらに化粧も覚えたことからもう大人女性と言っていいほどだ。獣王の側室で母親のメレサさんに本当によく似ている。ただ、メレサさんは透き通るような白い肌だったが、ラティの場合はしょっちゅう仲の良いクロースやサーシャたちと森に出ているので日焼けしまくって褐色の肌だ。まあ、脱がすと胸やお尻は真っ白なので、そこがまた興奮するんだけどな。


 それでだ。なぜラティの身体がこんなに急成長したかなんだが、話は皇帝とシェリスがやって来た1ヶ月前まで遡る。


 シェリスは調合のギフト持ちだ。当然幼い頃から親馬鹿の父親から優秀な調合士の先生を付けてもらい、希少な素材を山ほど与えられ調合をしまくっていた。そして調合したその薬を、領内の村や街に配っていたそうだ。


 ギフトを使いまくったらどうなるか? それはごく低確率だが、カルラのように派生系のギフトが覚醒する。


 シェリスもつい最近、生きている物を活性化させる能力が覚醒したそうだ。これはベテランの調合士が稀に発現する派生ギフトで、『活性化』のギフトというそうだ。


 生きている物が対象なので、植物も人間の身体も活性化させることができる。実際に病院横にシェリスのために作った薬草用の畑で見せてもらったが、あっという間に種から芽が出てビックリした。


 弱っていた患者さんも少しだが活力を取り戻したりと、クリスがいなかったら聖女認定していたかもしれないほどだ。ただ、かなりの精神力を使うので多用はできないらしいが。


 ここまで話せばもうおわかりいただけるだろう。そう、ラティがシェリスに頼み毎日活性化のギフトを掛けてもらっていたんだ。それによってみるみる内にラティの身体が成長していき、1ヶ月もしないうちに年相応の身体付きになった。


 上皇が言うにはこれは誰でもそうなる訳ではなく、病気により成長が止まっていたことが影響しているのではないかということだった。確かにラティは一定の成長を遂げた後は、それ以上成長することはなかったらしい。母親のようにもう少し大きい胸になるのを期待していたのに、それが叶わなくてガッカリしたと言っていた。つまりラティは病気によって妨げられていた成長を、活性化のギフトによって取り戻したということになる。


 これまで身体が幼いから無理をさせたくないと、そう俺に断られていたラティの行動は早かった。普段からクロースとローラから夜のことを色々と学んでいたこともあり、シュンランの許可を得てセクシーランジェリーを身に付けて俺の部屋に現れた。そして”勇者様のお情けをもらいにきました”と顔を真っ赤にしながら言ったんだ。


 毎日成長していく彼女を見ていたから俺も拒むことは無かった。婚約者であるし、大人の女性となったラティを拒む理由などあるわけがない。彼女のしなやかな筋肉で覆われた身体と、狐耳と尻尾を心ゆくまで堪能させてもらった。


 それからは暇を見つけては彼女を連れ、二人で森にレベル上げに来ているわけだ。


 ちなみにラティは純粋な獣人なのでギフトは得られない。ギフトは種族的に弱い人間だけが与えられたものだからだ。ただ、そのぶんレベルアップによる身体能力の上昇率は、人族のサーシャやローラを圧倒していると言っていいだろう。まだレベル18だというのに、レベル37のローラよりも身体能力は高い。レベル40になったら、剣から真空の刃とか飛ばすんじゃないかと思えるほどだ。


「勇者様。ラティは幸せです。もっもっと可愛がってください。明日もたくさん魔物を狩って立派な戦妃になりますから」


 ラティはそう言いながら俺のペニグルへと手を伸ばし、どこで覚えたのか袋を揉み始めた。


 そして元気を取り戻したペニグルを掴み、上下にこすりつつ俺の耳たぶを甘噛みする。


「うっ……ラティ、もう一回だ」


「はいっ!」


 俺は我慢できずラティを抱きかかえ、四つん這いにさせる。そして後ろから腰を突き出し激しく前後させた。


 獣人の女性はこの態勢が一番興奮するというのをレオから聞いていたとおり、ラティも乱れに乱れまくっていた。そんな彼女を見ながら、俺は心の中でラティにギフトを掛けてくれたシェリスに感謝をするのだった。

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