第5話 重機関銃と来訪者



 ドガガガガッ!


 フジワラの街の北側にある射撃場で、機関銃の射撃音が響き渡る。


「す、凄い反動だ」


 伏せの姿勢で50発ほど撃ったクロースは、肩を何度か回しながらその場から立ち上がり的の方へ向かった。


「リョ、リョウスケ! 地竜のウロコが貫通してる! びーむらいふる並みの威力だ!」


「いやいや、ビームライフルはアニメの中にしか存在しないからな? 大丈夫かなクロースは……そのうち右腕が疼くとか言い出さなうだろうな」


 俺は最近アニメの世界と現実の区別がつかなくなってきているクロースに一抹の不安を覚えた。


 すると隣で一緒に見ていたシュンランが俺の呟きに反応した。


 彼女にはクロースが暴走した時用についてきてもらっていた。


「フフッ、確かチュウニビョウというのだったか? 大丈夫だ。クロースはそれくらいの分別はつく子だ。涼介が何でもギフトで出すから、アニメの世界にあるような物もあると思っているだけだろう」


「俺はド○えもんじゃないんだけどな……」


 いや、この世界の人間から見れば俺はド○えもんみたいなものか。遥か未来の道具を出して貸し与えているわけだしな。四次元ポケットと同じ機能の無限袋も持ってるし。でもあの猫というには相当無理があるキャラと同列か……うーん。


「ククク、サーシャが涼介はド○えもんみたいだと言ってたぞ?」


「既に言われていたか」


 俺は多分言われているんじゃないかと思っていたことが、もう既に言われていたことにガックリと肩を落とした。


 こうなったら開き直って無限袋を腹部のベルトに固定するか。いや、やめよう。最近ド○えもんに夢中なダークエルフの子どもたちに、あれ出してこれ出してと毎日言われかねない。


「ド○えもんよりは遥かにいい男だがな。それより新しい機関銃はものすごい威力だな。あの機関銃はこの間観た映画で出てきたものと同じ物なのだろう?」


「ああ、ブローニングM2重機関銃というんだ。前のより弾も大きくて、今クロースが撃った徹甲弾のほかに曳光弾えいこうだんや対戦車特殊弾とか色々あって汎用性も威力も抜群なんだ」


 M2機関銃とは20世紀初頭から米軍で100年近く使われてきた名機関銃だ。装甲車や戦車などが戦争で台頭してきた頃に、それらに対抗できるよう作られたものらしい。弾の大きさも今まで使っていたM240機関銃は7.62ミリに対し、12.7ミリと倍近く大きい。さらにはスコープもついており命中率も高くなっている。


 と、バージョンアップしてから部屋で見まくった映画の中で語られていたので、試しに間取り図のギフトの図面に書いたら出てきた。ほかにも警備隊が携行しやすいよう、対人用に短機関銃。いわゆるサブマシンガンも書いたら出てきた。ちゃんと銃の正式名称を書けば出てくるようだ。機関銃に限るけど。


 拳銃が欲しかったからワルサーP38と書いたけど駄目で、横でクロースがバズーカ砲を頼むとうるさかったから試したりもしたがやはり駄目だった。富豪の家の壁の上に設置されている機関銃というのが元なだけあって、機関銃以外の銃は名称がわかっていても駄目みたいだ。


「曳光弾?」


「ああ、夜間に機関銃を撃っても弾がどこに向かっているのか見えにくいだろ? だから光る弾を合間合間に挟んでおくんだ。それでちゃんと目的物に当たっているかわかるというわけだ」


「ああ、言われてみれば映画の中での夜間戦闘シーンで、時折光っている物が飛び交っていたな。そうか、あれが曳光弾か。なるほど、よく考えられているものだな」


「機関銃より遥かに強力な武器で戦争をしていた世界だからな」


「確かに。一緒に見た戦争映画は凄まじかった。涼介から聞いてはいたが、本当に鉄の塊が空を飛んでいるとはな。女神もそんな戦いの多い世界だから勇者を選んだというわけか」


「この世界より科学が発展して便利な物があって娯楽も多いから、神界の自分の家にも同じのが欲しくなっただけだ。あの駄女神はこの世界のことなんか微塵も考えてないぞ」


 マンションを建てるコストが高くなっていっているのも、俺が地球での生活をここでしたいと思うと思っているからだろう。その欲を利用してちょっと滅びの森の魔物の掃除をさせているんだろうな。見放しはしているが、滅んでもらっては困るということか?


 確かにバージョンアップしてから毎日映画やドラマの話や、ゲームの話に花を咲かせている恋人たちの楽しそうな顔を見ると俺も嬉しい。バージョンアップして良かったと思える。そしてもっと良い生活をさせてあげたいとも。俺自身も次のバージョンアップでは、ネットショッピングができるようになるんじゃないかと期待したりしてる。


 くっ……駄女神の思惑通りというわけかよ。


「涼介の言うとおり、ギフトを血縁以外で与えられない時点で見放されているのだろう。しかし神界にある女神の家か……確かこの世界の地上の建物や技術が、神界で女神の住む家に反映されるのだったか?」


「そうらしい。だから俺が地上でタワマンを建てろと飛ばされてきたわけだし」


「そのおかげで私とミレイアは涼介と出会えた。そして命を救われ再び自分で歩けるようになった。私は女神に感謝の気持しかないがな」


「それは……まあそうだな。駄女神はムカついてはいるが、同時に感謝もしている」


 俺の腰に腕を回し、角が当たらないよう胸に顔を埋めるシュンランの頭を撫でながらそう答えた。


 あのまま地球にいたら、シュンランやミレイアたちのような美女と出会うことなんて確実にできなかっただろう。まして七人もの美女を毎日昼も夜も取っ替え引っ替えに抱けるなんて、日本にいたら確実に無理だったろう。


 意地……なんだろうな。最初飛ばされた時は本当に途方に暮れたし、神器やギフトがあっても何度も命の危険に見舞われた。兇賊にだって殺されそうになった。その時に感じた怒りや恨みの気持ちから来る女神に対する意地なんだろう。駄女神の手のひらの中で踊っているのを認めたくないんだろうな。


 しかしこの世界に来たからこそシュンランたちと出会えたのは確かだ。


 タワマンか……やっぱ建ててやるかな。Sランクの魔石がどれだけ必要になるかわからないし、そんな高ランクの魔物を倒せるか今は自信がないけどけど。もっと強くなったら建ててやって、女神と再会したら文句を言うだけ言って……そしてこんな素敵な女性たちと出会えたのは、お前のおかげでもあると伝えるか。非常に業腹だが。


「あーー! なにをイチャイチャしているのだ!」



 的の確認を終えたのだろう、以前の物より銃身の長くなった機関銃を肩に掛けたクロースがプンプンしながら戻ってきた。


「ははっ、ちょっとな。それよりAとSランクの竜と古代竜の鱗の方はどうだった?」


 俺は他の的として地竜の鱗の横に設置していた、AランクとSランクの竜と古代竜の鱗がどうだったのかとクロースに確認した。ちなみにこれらは無限袋に入っていた素材だ。


「Aランクの竜の鱗はしっかり割れていたのだ。弾は貫通はしていなかったけど、何度か当てれば倒せそうなのだ。Sランクの竜の鱗もヒビが入っていたから、こっちも数を撃てばいけそうなのだ。でも古代竜は傷がついた程度だったのだ。さすが古代竜なのだ」


「なるほど、まあ古代竜なんかと戦うことはないからな。Sランクの竜に対抗できるなら十分だろう」


 滅びの森には古代竜の火竜種が森の奥地。Sランクの竜が大量にいる竜の棲家と呼ばれるエリアにいるらしい。


 古代火竜エンシェントファイアードラゴンの他にも古代黒竜エンシェントブラックドラゴンがいたらしいが、そっちは長寿の秘薬の材料を得るために先代勇者が倒した。その材料が残っているため、俺が今後戦うことはないだろう。誰も好き好んで竜の棲家なんかに行かないし、先代勇者みたいに無敵バリア《結界》のギフトのない俺がそんな化け物と戦うなんてゴメンだ。火災保険は魔物の爪や牙には無力だからな。


 それよりもSランクのドラゴンに対抗できる武器を一般人でも持てるのは大きい。これなら万が一女神の街の結界を破られても、俺が行くまで時間を稼ぐことは可能だろう。女神の街の結界は確かに飛竜などが近づくと弾くが、過信するのは禁物だ。


 勇者の結界のギフトも、ドラゴンとの戦いで何度か壊されたことがあったと竜王が言っていたからな。より広範囲を守っている女神の街の結界も、Sランクのドラゴンに攻撃されたら破られると考えて対策をしたほうがいいだろう。フジワラの街に魔物を近づけない結界も、怒った飛竜は平気で無視してくるしな。あの駄女神が作った物だということを忘れてはならない。


「私のガンドムにこの重機関銃をもたせても古代竜は流石に戦いたくないな。先代の勇者でさえ、古代竜が長寿の秘薬の材料になるから仕方なく戦ったらしいからな。それでもかなりの激戦だったと竜王が言っていたぞ。でも幸いなことに無限袋にその残りが入っていたのだろう? ならあとは調合のギフト持ちだけだな。どの街も手放さないと聞いたけど、攫ってでも連れてきてリョウスケの女にしてレベルアップさせるのだ。そうすればずっとリョウスケと一緒にいれるのだ」


「攫ってでもって……そんなことしないからな?」


 調合のギフト持ち自体は治癒のギフト持ちと同じくらいいるらしいが、レシピなど秘伝としているためどの街も囲っていて手放さない。貴重な街の収入源になっているかららしい。聖光教会ですら治せない病気に唯一対抗できるギフトだからな。教会は過去に聖女というあらゆる病を治せる存在がいたせいか、薬などに頼るのは信仰心が薄い証拠と言って調合のギフト持ちは抱え込まなかったようだ。


 まあその自称信仰心の厚い聖光教会もローラの父親が教皇になってからは、司祭や司教に大司教にまで異端審問をやりまくってかなり数を減らした。今は真聖光教会のシスターと聖騎士たちが、行き場を失ったまともな司祭などに勧誘を掛けているところだ。完全治癒のギフトを持つ聖女がいて、獣王国とアルメラ王国。そして帝国の国教となる真聖光教だ。誘うとすぐに来てくれているらしい。


 新しい教会を建てる費用も各国が援助してくれるそうだしな。ローラの父親から聖光教の使っていた教会も提供されたそうだし。カトリックとプロテスタントのように争うこと無く、同じ神を信仰する者としてうまいことやっていって欲しいものだ。


「しかし長寿の秘薬は早いところ作って欲しいというのは私も同感だ。勇者とはいえ、私の半分以下の寿命の人族であることは間違いないからな。先代勇者もそれがわかっていたから古代竜にまで挑もうとしたのだろうし」


「それはそうなんだけど、調合のギフト持ちを探してるなんて表立って言えないからな。それだと各国に協力を求めるのも難しい」


 俺ももう今年で28だ。できれば30までには飲んでおきたいとは思っている。


 ただ、勇者が調合のギフト持ちを探してるなんて言えば、長寿の秘薬のレシピと材料を持っていると思われる可能性がある。特にあの王妃が気付かない訳がない。材料に余裕がないわけではないが、一度例外を作れば俺も私もとやってくるのは目に見えている。百年後に長寿の秘薬が原因で戦争になる可能性だってないと言えない。やはり自分と妻となる女性以外には飲ませないほうがいいだろう。


「ん? それなら真聖光教教会で調合のギフト持ちを募集しているということにすればいいんじゃないか?」


「ふむ、なるほど。確かにクロースの言う通り真聖光教で募集すれば変に勘ぐられることもないだろう。クリスも完全治癒のギフトを覚えたことだし、その補佐として調合のギフト持ちを募集していることにすれば怪しまれないだろう」


「そうか……そうだな。その方がいいかもな。うん、いい考えだクロース。聖女がいると知れば、街に囲われていないギフト持ちが来てくれるかもしれない」


 なるほど病気を治せるギフトを持つ聖女の補佐か。それならまだ秘伝とかを教わっていない、駆け出しの調合のギフト持ちが来てくれるかもしれないな。街の長も聖女の元で勉強すると言えば送り出してくれる可能性はある。


 うん、これなら怪しまれないな。たまには良いことを言うじゃないかクロース。


 俺は良いアイデアを出してくれたクロースの頭を撫でたあと、試射はもう十分ということで射撃場を離れた。M2重機関銃の威力は十分わかったのであとは明日までに数を揃え、サブマシンガンと一緒にスーリオンとカルラの部隊にも撃たせてみるつもりだ。サブマシンガンを携行しジープに乗って巡回するダークエルフ。うん、威圧感が半端ないな。


 ◇


「ん? 正門が騒がしいぞ? どっかの馬鹿貴族がまたリョウスケに会わせろとか騒いでるのか?」


 射撃場からマンションに帰る途中。正門が何やら騒がしいことにクロースが気付き、最近になって頻繁に来るようになった王国か帝国の貴族の使いか何かだろうと口にした。


「そうかもな。まあ警備隊が追い返すだろう。剣を抜く馬鹿は流石にいないだろうし、放っておこう」


 俺が勇者だと広まってからは、あの戦場にいた貴族を筆頭にやたらと手紙が届くようになった。内容はうちの娘を是非とも妃にというのがほとんどだ。戦場でシュンランたちの圧倒的な強さを目にし、自分の娘にも勇者の加護が欲しいと思ったようだ。貴族間でも領地問題とか争いはあるからな。


 当然そんな奴らを俺が相手をするはずもなく、手紙は全て無視した。しかしその結果、今度は貴族が直接やってくるようになった。どうか娘と一度会って欲しいと。当然それも断り、正門で門前払い。今までならお付きの騎士が怒り狂うところだが、勇者相手にそんなことをする命知らずはおらず貴族たちは渋々と帰って行く。


 そんな貴族が次から次へとやって来るもんだから、俺はもういちいち相手をするのが嫌になってスーリオンとカルラに一任した。もしも相手が剣を抜いたら容赦をするなとだけ伝えて。


 今のところは俺が出てこないことに騒ぐ貴族はいるが、剣を抜く馬鹿はいないので放置している。今回もどこかの国の貴族がやってきたんだろうと、そう思って正門から視線を外した時だった。


 俺の姿を見つけたカルラが正門から走ってきた。


「リョウスケ! ちょっといいか? 来訪者とサーシャが揉めててよ。アタシたちじゃ収めきれないんだ」


「サーシャが? どういうことだ?」


 そもそもサーシャがなんで貴族と揉めてんだ? 王国の相当高位の貴族がやってきたからカルラたちがサーシャに頼んだとか?


「それが王妃様が第二王女と一緒にさ、護衛の騎士を連れて貸与しているグラディエーター2台でやって来たんだ。それもご丁寧にハンター登録までして。んでサーシャに対応を頼んだんだけど、正門で親娘喧嘩を初めて困ってよ。ちょうどリョウスケを呼びに行こうと思っていたところだったんだ」


「王妃様とサーシャの姉が!?」


 ハンター登録をしてから来たって……なるほど、サーシャは母親に似たんだな。やることが似すぎてる。しかし姉まで一緒に来るとは……まあ入れないわけには行かないよな。先日の戦争では世話になったし、万が一ここで追い返したあとに魔物に襲われて死なれでもしたら国際問題だ。恐らく王様は知らないだろうから、リーゼに連絡してもらって迎えが来るまで保護という形を取るしかないだろう。


「わかった。俺が王妃様と話そう。悪いがカルラはダークエルフ街区に行って、手の空いている人に迎賓館に王妃様たちを迎える準備をするように伝えてくれ」


 俺はカルラに以前竜王が初めて来訪した際に使ってもらっていた、迎賓館で受け入れの用意をしてもらうよう頼んだ。さすがに一国の王妃をハンターたちと同じ区画に住まわせるわけにはいかない。


 それから正門前で母親と姉にキレまくっているサーシャをなだめつつ、遊びに来ましたと笑顔で答える王妃を俺は内心でため息を吐きながら迎え入れるのだった。

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