第4話 映画鑑賞と字幕とガンドム



《僕は……ガンドムで行く!》


「凄い! 一瞬で土の精霊魔法で鉄人を作ったぞ! しかもカッコイイ!」


「本当にすごいです! クロースお姉様もガンドムを作りましょう! 中に入って戦うのです!」


「うむ、今の私ならできる気がする。これは明日さっそく専用の剣を作って試してみないとな」


「完成したらラティも乗せてくれますか?」


「いいぞ、二人でAランクのドラゴンと戦うのだ!」


「はいっ! クロースお姉様!」



 バージョンアップをした日の夜。我が家のリビングでは、ラティほか恋人たちと映画鑑賞会を行っていた。


 最初スマートテレビを出した時は、以前何も映し出さなかったことを知っていたシュンランとミレイアは首を傾げていた。


 しかし動画アプリを起動し、様々な映像を見せると目を見開いて驚き。そして“これが涼介の言っていた映画というものなのだな”と、シュンランが満面の笑みを浮かべながら珍しく興奮していた。


 その後クロースも仕事から帰ってきて、サーシャとローラたちも呼ぶと皆が驚きながらも喜んでくれた。それでさっそく映画を見てみたいということになり、クロースが仮想世界で青年がアニメやマンガなどで出てくる兵器を使って戦うという古い作品を選んだので皆で観ることになった。



「ちょっとクロース! ラティも! 隣でうるさいって言ってるでしょ! ニホンゴを読むの大変なんだからおとなしくしてて!」


「うーん、面白いんだけど難しいわね」


「サーシャとリーゼの言う通りまだまだニホンゴは難しいわね。クリスはもっとわからないでしょう? 大丈夫?」


「はい。下に書かれているニホンゴの意味とかはさっぱりですが、この『えいぞう』という魔法は凄いですから。それだけで楽しめてます。こんな小さな箱の中で小人たちがこれほど凄い魔法を使っているなんて、いったいどうなっているんでしょう?」


 暗くした部屋で大画面のスマートテレビに映し出される映像に夢中になっている皆は、お菓子の自販機で買ったポテチやポッキーにポップコーン。そしてコークやビールを片手にリラックスした姿勢でそれぞれが映画を見ていた。


 しかしそんな中で、クロースだけは大はしゃぎで、時折サーシャに怒られてはまた騒いでを繰り返している。


 そんなサーシャたちを見て隣りに座っているシュンランが口を開いた。


「確かに普段有線放送からは聞かない単語が多く、私でも理解できない部分がある。まだごく簡単な漢字しか覚えていないサーシャたちでは難しいだろうな」


「涼介さんに家で何年も日本語を教わっている私たちでも難しいですもんね。まだ勉強を初めて1年にも満たないサーシャさんたちには、少しハードルが高いと思います」


「やっぱりそこが問題か」


 かなり前から勉強していたシュンランとミレイアとクロースの日本語はかなり上達しており、今ではよほど難い漢字でなければ読み書きができるようになっている。そんな彼女たちでも映画の中に出てくるような、SF作品の単語は難しいという。確かにSF作品を見慣れてないと、仮想世界とかメタバースとかなんのこっちゃって感じだろう。


 最初は戦争や単純なアクション物が良かったかもしれないな。でもクロースがさ、映画のプレビューでリアルなガンドムが戦っている姿をを見て“ガンドム? もしかして有線のアニソンで流れてくるあの歌のガンドムか!? めちゃくちゃカッコイイぞ! 私はこれを見たい! ”と、強引に見る作品を決めてしまった。


 俺もまあ最初はどんな映像かだけみんなに観てもらえばいいかと許可したわけなんだが、やはりサーシャたちには難しかったようだ。ちなみにラティは日本語を全く理解してないが、映像だけで楽しめているようだ。


 どういうわけか洋画は日本語吹替版がないんだよな。うーん、ならせめて字幕の文字の大きさだけでも大きくするか。


 そう考えた俺は皆に一言言ってから一時停止をし、リモコンを操作して字幕の設定画面を開いた。


「文字の大きさは……ここじゃないか。どこだ? あった、字幕の言語設定。ここを開いて日本語を選択し……ん? え? まさか!?」


 字幕の言語設定画面で日本語字幕を探していると、『日本語』の下にこの世界のミミズの這ったような文字で『大陸共通語』と書かれていた。


 もしやと思いそれを選択して映画を再生すると、なんと字幕がこの世界の言語になっていた。


「え? さっきまで画面に出ていたニホンゴが大陸共通語に変わったわ」


「あら? そんな事もできたのね。リョウ、それなら最初からやってくれればよかったのに」


「いや、俺も驚いてるんだよ。まさかこっちの世界の言語の字幕が出るとは思わなかった」


 急に字幕が自分たちの普段使う言語に変わったことで、サーシャは驚きリーゼは最初からそうしてくれればよかったのにと口にした。


 しかし一番驚いているのは俺の方だ。まさか地球の映画に異世界の言語の字幕がつくとは……いや、思えば洗浄便座や電化製品の説明書はこっちの世界の共通語に翻訳されていた。車もそうだ。文字に限り翻訳されるということか? 駄女神にしては気が利いているが……恐らく自分が使う時のためだろうな。


「これなら意味はわかるわ。『めたばーす』とか知らない単語はあるけど、そこはリョウが教えてくれるのでしょう?」


「ああ、なんでも聞いてくれ。知っている単語なら教えるから」


 そうローラに答えた俺は、これなら恋人たちが楽しめるなとホッとするのだった。


 それから映画を見終わったあと、今度はゲーム大会となった。


 ゲーム機の説明をした時のサーシャとラティの喜びようは半端なかったな。あれだけ喜んでくれるのなら、用意した甲斐があったというものだ。


 ゲームはみんなで楽しめる電車の双六系の物や、カーレース物をやった。


 もちろん不動の1位は俺だ。こればかりは年季が違うからな。またパソコンに入っているゲームのようにすぐに抜かれるだろうけど。


 案の定、負けず嫌いのサーシャとラティが、特訓よ! と言ってゲームを自分の部屋に持ち帰っていってしまった。一番弱かったクリスも数合わせで連れて行かれた。クロースはリビングの和室スペースで、畳の上に寝転がりながらスイッチでガンドムのゲームを一人で黙々とやっている。その顔はもの凄く楽しそうだ。


 シュンランとミレイアとリーゼとローラと俺は、一緒に風呂に入った後にもう一本映画を見ることにした。今度は地球の100年以上前に沈んだ豪華客船を舞台にした悲恋物にした。かなり古い映画だけど、舞台となる年代が古いのでシュンランたちも入り込みやすいんじゃないかと思ったんだ。


 思惑通り皆楽しんでくれたようで、中でもミレイアが目を輝かせながら観て最後は号泣していたのが印象的だった。いつか船の船首で彼女を後ろから抱きしめてあのシーンの再現をしてもいいな。


 翌日はまずはサーシャと竜王たちの泊まるVIPルームに、スマートテレビとゲーム機を設置した。竜王は最初テレビを見てなんじゃこれはと訝しんで見ていたが、先代勇者が生きていたと思われる古代中国を舞台にした映画を見せたら大興奮していた。これまでは先代勇者の口からしか聞いたことがなかった古代中国の文化や芸術。そして軍備などが実際に見ることができるんだ。そりゃ興奮もするか。


 竜王がまるで子供のように映画に釘付けとなっている姿に苦笑しつつ、次にマンションの管理室や棘の警備隊たちなどが住む女性従業員宿舎に彼女たちの許可を得てスマートテレビを設置していった。宿舎の各部屋に設置したスマートテレビは大型のものではなく小型のものだ。それでもBランク魔石1個、50万円はするけど。まあこれも福利厚生の一環だ。


 ゲーム機に関してはやらない人も多いだろうから、1階の共有スペースに大型テレビと一緒に置いた。この宿舎に住む、ハンター管理部のレフの部下である猫人族のミリーはかなりのゲーム好きだ。よくサーシャたちとパソコンのゲームをしていたことから、きっと喜んでくれると思う。


 宿舎への設置を終えた後は、とりあえずフジワラマンションとシュンランマンション。そして病院とダークエルフ街区にある2棟のマンションの1階エントランスに1台づつ設置した。全ての部屋に設置すると膨大な魔石が必要になるので、まずはエントランスに置いて少しずつ各部屋の設備をバージョンアップしていくつもりだ。


 マンションは現在、真聖光病院に5階建てが2棟。

 フジワラの街の1区にフジワラマンションと春蘭マンションの10階建てが2棟。

 同じく1区単身用の従業員宿舎とファミリー用の宿舎の5階建て2棟。

 ダークエルフ街区に5階建てが2棟。

 最後に女神の街に10階建てが1棟と5階建てが1棟ある。


 この他、街の2区や病院の敷地。そして女神の街にも多数の倉庫型の別館が建っている。


 これだけの数の部屋の設備をバージョンアップしていくのは大変だ。貴重なBランク魔石でしか購入できないためコストが高い。なのでまずはエントランスに設置して希望者に有料でレンタルする形を取ろうと思う。そしてそのレンタル料を使って各部屋に少しずつ設置していけば、無理のない経営ができるんじゃないだろうか。


 俺が狩りや帝国の賠償金で手に入れたる魔石は、できるだけ次に来るであろうマンカンの募集図面のバージョンアップに取っておきたい。5階建て、10階建てと来たので、次は15階建てだろうしな。10階建てが設備込み、車は別で7億から8億くらいだったことから、次は恐らく設備も込みで15億くらいになると見て間違いないだろう。


 金額だけなら二つの街の2ヶ月分の収入で建てることができる。が、ここで問題なのは次にマンションを建てる時は、Bランク魔石で支払わないといけなくなるということだ。


 Bランク魔石の現在の相場とギフトで支払う時の価格は倍以上違う。Bランク魔石をハンターたちから買うには金貨5枚。50万円必要だが、ギフトでは金貨2枚。20万円の価値としか認識してくれない。つまり現金でBランク魔石を買う場合は、15階建てのマンションの建設費は30億以上になるいうことだ。


 シュンランたちが住んでみたいと思っているタワーマンション(駄女神が求めているものより5階分ほどより低い20階建てで妥協するが)を建てるために、顧客満足度を稼ぎつつも節約していくことは必要だろう。


 なに、必ずスマートテレビのレンタル事業は上手くいく。だってDSMドットコムのアダルト動画が見れるんだからな。顧客満足度だって爆上がり間違いなしだ。


 とにかく節約のためにも自分でBランク魔石を手に入れていかなければいけない。恋人たちも理解してくれているので、手に入れた魔石は全て俺に渡してくれる。


 今夜クリスがレベル20になって完全治癒を覚えるだろうから、明日からは全員で狩りにいってで稼ぎまくらないとな。



 だがその日の夜、レベル20になったクリスが完全治癒を覚えることはなかった。


 これによりショックで放心状態のクリスと、そんな彼女を苦笑して見ているローラを連れて更に1週間。クリスのレベル上げを行うことが決定したのだった。



 ◇◇◇



「500メル先に地竜2頭がいるからコイツを狙おう。その向こうからは飛竜も3頭こっちに向かってきている。恐らくさっき倒したトロールの血の匂いに反応したんだろう」


 滅びの森の中心付近よりやや奥地にある土がむき出しの高いハゲ山の麓で、俺は魔物探知機に映し出された反応を見て皆に次のターゲットを告げた。


「地竜が2頭に飛竜が3頭か。なかなかに手応えがありそうだな」


「飛竜は私が雷で撃ち落としますね」


「地竜は鱗が硬いのよね。そのうえ土の魔法で土壁を作るし土槍も飛ばしてくるし。比較的柔らかい腹部を狙おうにも、重いから風の精霊魔法でなかなかひっくり返せないし。というわけで私も飛竜を担当するわ」


「私の氷も足止め以外にはあまり効果はないわね。まあ、魔鉄製の剣で斬ればいいだけだけど」


「祝福は掛けるからみんな頑張ってね」


 俺の言葉にシュンランは不敵な笑みを浮かべ、ミレイアは腕をまくって気合を入れた。そしてリーゼはうんざりした顔で飛竜を担当すると言い、ローラは氷の剣ではなく魔鉄製の剣を腰から抜いた。そんな彼女たちにサーシャが女神の祝福を掛けていった。



 クリスのレベル20完全治癒獲得計画が失敗に終わってから十日後。セイランから吸血飛竜をもう一頭借り、俺は久しぶりに恋人たち全員と一緒に滅びの森へ狩りに来ていた。


 クリスだが、レベル30になった際に無事完全治癒のギフトを獲得することに成功した。シュンランもレベル30の時に爆炎のギフトを取得したことから、派生系というか特殊なギフトはレベル30くらいにならないと取得できないのかもしれない。


 しかしそれも確定というわけではなく、クリスのレベル上げに付き合っていたローラもレベル37になったが氷のギフトの他に新たなギフトを得てはいない。その代わり氷の威力と範囲は恐ろしく上がったが……今の彼女なら街一つ凍らせることも可能だと思う。


 現在の恋人たちのレベルは、シュンランとミレイアとクロースがレベル40で変わらず。リーゼが30、サーシャが25、ローラが37でクリスが30となっている。ローラはシュンランたちにだいぶ追いついたので満足そうだが、リーゼはクロースにレベルの差をからかわれて少し悔しそうだ。今度二人きりで狩りに行ってあげないとな。


 そんな事を考えていると、吸血飛竜のおやつとなるのモグラのような無害な下級魔物を土を掘り返して探していたクロースが、俺たちの会話が耳に入ったのか元気よく手を上げて駆け寄ってきた。


「はいはいはーい! 地竜は私がやるぞ! ここは広いからいいだろ?」


「うーん、まあ……あんま無茶するなよ?」


 クロースには、トロールやハイオーガとの戦闘の時に機関銃を撃たせず土の精霊魔法で動きを止めるよう指示していた。既にそのクラスの魔物相手だと機関銃の効果も限定的だからだ。


 そんな役割に不満だったのか、彼女は新たに作ったゴーレムを使いたいとずっと俺に言ってきていた。その都度こんな木々の生い茂っている狭い場所じゃ駄目だと却下していたんだが、ここは周囲に木々のない禿げ山の麓だ。ここならまあ問題ないだろう。


「やった! それじゃあ早く行こう!」


 俺が許可をするとクロースは地竜がいる場所へ駆けていった。そんな彼女の後ろ姿を俺たちは苦笑しながら追うのだった。



 そして400メルほど進んだ所で、2頭の地竜が池で水を飲んでいる姿が見えた。地竜の真上には既に3頭の飛竜が到達しており、俺たちのいる場所へと向かってくる。


「ミレイアとリーゼは飛竜を頼む。ゾロたちを呼んでもいいぞ」


 俺はまずは飛竜を処理することにし、ミレイアとリーゼに声を掛けた。ゾロとは吸血飛竜の名だ。セイランが騎乗しているのがオスでゾロ。俺たちが借りているのがメスでアニマという名前だ。二頭は番だったらしく、セイランが今よりずっと若い時に倒して眷属化したそうだ。もう相当長い付き合いなのだとか。


 ゾロたちは高高度を旋回しながら俺たちの後をついてきているので、呼べばすぐにやってくるはずだ。体力が無限なだけあってずっと飛びっぱなしでも問題ない。便利なもんだ。


「必要ないわ。私もレベルを上げないと。えっと、飛竜は翼の被膜が高く売れるんだっけ? シルフ、そういうことだからお願い」


 そう言ってリーゼは風の精霊魔法を発動し、こちらへ向かってくる飛竜のうち先頭の2頭の両翼を根本から切断した。


 滅びの森に飛竜の断末魔の声が響き渡る。


「残りは私が……『雷槍』」


 続いて遅れて飛んでいた飛竜へ向け、ミレイアが3本の雷の槍を発現させ射出した。


 しかし目的の飛竜は先頭の飛竜があっさり仕留められたことに動揺したのか、飛行を止め滞空していた。ミレイアの雷槍は飛竜が通るであろう場所へ、未来予測をもとに放たれている。今のままの軌道では飛竜に雷槍は当たりそうもない。


 しかし3本の雷槍は急に軌道を変え、滞空状態の飛竜の。それも頭部と喉に全て突き刺さった。


 実は槍の後部には雷の糸のようなものがあり、ミレイアの手と繋がっている。彼女はこの雷の糸を通して雷槍を操っているんだ。これはアニメ『ガンドムシード』をクロースと一緒に見た時に思いついたらしい。間違いなく地球連合軍のMAに装備されていた、有線式遠隔誘導兵器を見て思いついたんだろうな。


 雷の槍を頭部と喉に受け、おまけに感電までした飛竜は既に絶命しており真っ逆さまに地上へと落ちていった。


「凄いわねアレ。リョウの神器みたいな動きをするわね。シルフ、素材が駄目にならないように飛竜の落下速度を相殺して。あ、生きてたら喉を切り裂いておいてね」


「クロース、飛竜の声で地竜がこっちに気付いたみたいだ。突っ込んでくるぞ」


「まかせろ! 私は……ガンドムで行く!」


 どこかで聞いたことのあるセリフを吐いたクロースは、大きな背嚢を背負い両腕に機関銃を持ったまま駆け出した。すると走る彼女の足もとから次々と鉄の板が現れ彼女を包んでいく。その際に彼女の背嚢からミスリルの塊とガラスらしきものが現れ、薄い板状となってクロースを包む鉄の上に重なっていく。


 それらはやがて全高20メトほどの銀色に輝く人形機動兵器の形へとなっていった。


 手には巨大な鉄の剣が握られており、頭部の額部分には機関銃の銃身が2つ見える。バルカン砲のつもりなのだろう。恐らく頭部には2体のゴーレムがいると思われる。


 そして胸部には1メトほどの横に細長いガラスがはめ込まれており、ガラスの向こう側にドヤ顔をしているクロースの顔が見えた。あのガラスはマンション最上階の部屋にはまっている強化ガラスだ。彼女に頼まれて外した俺が言うんだから間違いない。


 そんな鉄の剣とバルカン砲を装備した人形起動兵器は、ズシンズシンと地鳴りを起こさせながら2頭の地竜へと向かっていった。そして地竜へ剣を振り上げると、地竜も自分の倍以上あるガンドムを警戒したのか土の槍を放ってきた。


 しかしそんなものがガンドムに効くわけがない。


 ガンドムはそれらをミスリルでコーティングした装甲で防ぎながら大剣を振り下ろした。


 グシャッ!


 そんな音とともに大剣が地面をえぐる音と共に地面が揺れた。そして大量の土煙が舞う中、もう一度地面をえぐる音と地響きがしてその後に機関銃の発砲音が鳴り響いた。


 リーゼが気を利かせて風の精霊魔法で土煙を払うと、そこには倒れ伏す二頭の地竜とその地竜を見下ろしているガンドムの姿があった。


 地竜は斬られたと言うよりは、鈍器によって潰されたと表現したほうが適切だろう。二頭とも魔石以外回収しようと思えないほどにグチャグチャだ。


 そんなグロい光景を眉をひそめて見ていると、ガンドムの胸部が開きクロースが現れた。


 彼女はそのまま器用にガンドムの腕を伝って地上に降り、まるで投げた棒を取ってきた犬のように満面の笑みを浮かべ俺たちのもとへ駆けてきた。


「見たか! これがガンドムの力だ! これならたとえドラゴンが相手でも……アイタッ! 何をするのだシュンラン!」


 が、当然のごとくシュンランの持つ青龍戟で頭を殴られる。


 ゴンって音がしたぞ今ゴンって。


「何をするのだじゃない。地竜は高く売れるのだぞ。それをあんなにして!」


「そうですよクロースさん。リーゼさんが飛竜の皮膜に傷をつけないように攻撃していたのを目の前で見ていたじゃないですか。それなのになんであんなにしたんですか」


「うっ……土の精霊魔法で作った剣は砥げないから仕方ないのだ。どうしても斬るよりも叩き潰す形になるのだ。リョウスケ、びーむさーべるが欲しいぞ。作ってくれ」


「そんなもの作れるわけがないだろう……」


 クロースはアニメの見過ぎだ。最近は夜遅くまで見てるみたいだしな。そのうち右腕が疼くとか言い出さないか心配になってきたぞ。


「聞いているのかクロース。剣を使うのはもう禁止だ。今後は地竜に抱きついて動きを止めるだけにしろ」


「なっ!? それはかっこ悪いぞ! バルカン砲も鱗に阻まれてなかなか貫通しないのだ。やはり剣で斬らなければ!」


「なら素材を潰さないように斬ってみろ」


「あうっ……それは」


「できないのならこの話は終わりだ。魔石を回収して次に行くぞ。涼介もいいか?」


「あ、うん。クロース、シュンランの言うとおりにするんだ」


 まあ魔石さえあれば俺は素材なんかどうでもいいんだけど、そんなこと経理担当のミレイアの前では口にはできない。そして怒っているシュンランの前でもだ。


 ここで甘やかしたら怒られるのは俺だからな。ただでさえクロースに甘過ぎるとシュンランに言われているんだ。ここは心を鬼にしなければ。


「ううっ……わかったのだ。良い妻は夫の言うことを素直に聞くのだ……」


 そう言ってガンドムのところへとトボトボと歩いていくクロースに、俺は昨日見た戦争ものの映画で出てきた重機関銃を購入できるか試してみようと思うのだった。


 やっぱりクロースには甘いな。でも俺も重機関銃でドラゴンの鱗を貫通できるか興味あるしな。


 そんな言い訳を心の中でしつつ、魔物探知機を取り出し次の獲物を探すのだった。




 ※※※※※※※



 新連載作品のお知らせ。


 この度新作を投稿いたしました。


 タイトルは【送還された勇者……の孫、しかも淫魔】です。


 現代ファンタジーのハーレム物となります。


 召喚され異世界で魔王を倒した勇者とサキュバスの孫が、送還陣を使って日本にやってきて何故か存在していたダンジョンを攻略しつつ、知り合う女性たちを無意識に発動した淫魔の力で落としてわからせていくお話です。


 なんかホントこういうのばかりでスミマセンw


 既に7話4万文字ほどと公開済ですので、お時間がある時に是非ご一読ください。一応10万文字以上ストックがありまして、ストックが無くなるまでは毎日11時に更新していきます。


 https://kakuyomu.jp/works/16817330652227230159



 以下あらすじ


 日本から召喚され魔王を倒し異世界を救った勇者、工藤秋斗にはサキュバスとの間にできたユウトという孫がいた。


 しかしサキュバスは魔族であり、その血は異世界では忌み嫌われていたためユウトは幼い頃から差別的な目で見られていた。

 そのためかユウトは祖父である秋斗の影響もあり、幼い頃から魔族のいない日本に憧れていた。


 そして20歳を迎えた頃。ユウトは日本へ行くことを決意し、祖父が最後まで使うことのなかった送還陣を使い日本へと転移をすることに成功した。


 しかし日本には確かに魔族こそいなかったが、祖父から聞いていたのとは異なりダンジョンが存在していた。さらにダンジョンの影響で男性の寿命が短くなっており、女性の権力の強い世界でもあった。


 ユウトは祖父の妹の家で世話になりつつ、祖父の妹の孫。ハトコとなる双子の美人姉妹と共にダンジョンに挑むことになる。


 ユウトの圧倒的な力を目にした姉妹は強くなりたいと懇願する。二人に頼まれたユウトは、二人の魔力を底上げするために異世界では家族以外にはしてはならない秘術を施した。


 しかしその秘術は、ユウトの中に眠っていた淫魔の能力を発動させるきっかけとなってしまい……


 ユウトは力を求める女性たちを淫魔の力で無意識に『わからせ』ていき、ダンジョン攻略したり隣国との戦争に巻き込まれたりしつつ、いつか来る魔王軍の侵攻に備えていくことになる。


 そんな勇者の孫が本物の淫魔…ではなく勇者になって世界を救うかもしれないお話。



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