第3話 バージョン2020

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 はじめに。今まであやふやだった部分の説明と、さすがにギフトに必要な魔石の設定が厳しすぎたので下記のように修正します。


 ■Cランク魔石がBランク魔石の代替えにならないのはそのままにします。


 ■設備に関しては前バージョンの物に限り購入は可能です。


 ■原状回復に必要な魔石のランクについて。


 前バージョン時に購入した設備は、購入時に使用したランクの魔石にて再購入または原状回復が可能。


 今回の場合は

 バージョンアップ前の設備はCランク魔石で原状回復が可能。

 バージョンアップ後の新設備はBランク魔石で原状回復が可能。


 これにより原状回復の応用となる四肢の欠損の治療も、滞在した部屋の設備によって必要魔石ランクが変わります。設備に新バージョンの物がある場合は、新しい設備を基準とします。


 ■新築に関しては5階建や10階建を建てるとしても、全て新しいバージョンの設備しか設置できないものとします。よって今後はBランク魔石でしか新築は建てれません。


 ■ギルドの魔石買取り相場


 Fランク魔石 銅貨5枚 日本円で500円くらい

 Eランク魔石 小銀貨5枚 日本円で5千円

 Dランク魔石 銀貨1枚  日本円で1万円

 Cランク魔石 銀貨5枚  日本円で5万円

 Bランク魔石 金貨5枚  日本円で50万円(市場に出る数が少ないうえに、涼介が様々な所から買い漁ったことで相場が倍以上に跳ね上がってしまった)


 Aランク魔石 白金貨2枚 日本円で200万

 ※国家のインフラや魔道具研究に必須の魔石であることから買取のみ。


 Sランク魔石 白金貨20枚 日本円で2千万円 

 ※Aランク魔石以上に国家が必要としているので買取のみ。



 色々矛盾するところがまだあると思いますが、とりあえずこんな感じで認識お願いします。



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「とうとう来てしまったか」


 俺は目の前で点滅する『ver.2020』という文字を前に複雑な気持ちでいた。


 1年振りのヘヤツクのバージョンアップだ。


 2020年の設備ならば、俺が日本で借りていた築10年の部屋と同レベルの設備だろう。


 やっと日本にいた時と同じ設備を使える。が、コストがなぁ……最近Bランク魔石がバカ高いんだよな。せめてバージョンアップするかしないか選ばせてくれればいいんだけど強制だもんな。


 まあ選べるなら20階建てくらいまで建てたらもうバージョンアップしない自信はあるが。あの駄女神がそんなことをさせるわけないか。


「とりあえず確認するか」


 どんな設備が増えているのか確認するために、俺はヘヤツクのアイコンをタップして間取り図を開いた。


 そして家具や水回りなどの様々な設備のタブが並んでいる所から、ミレイアがバージョンアップ後の水回りを楽しみにしていたので最初に確認しようとクリックした。


「おお〜ビルトイン冷蔵庫に電子レンジにワインセラーか。これはミレイアが喜ぶだろうな」


 水回り設備には、新たにシステムキッチンと一体化した冷蔵庫や電子レンジなどがあった。キッチンを今より広く使えますと喜ぶミレイアの顔が目に浮かび、思わず頬が緩む。


 ミレイアはいつも美味しい料理を作ってくれているからな。こういった形でお礼ができるのがこのギフトの良いところだよな。


 次にシャワー設備を見てみると、新たにレインシャワーが追加されていた。これは天井から雨のように水が降り注ぐ装置で、俺の日本の部屋には無かった設備だ。


「これは……冬にシュンランたちとシャワーを浴びている時にシタくなったら身体を冷やさなくて済むな」


 うん、これは採用だな。


 それから新型のドラム式洗濯乾燥機や、自動開閉式のノータンクタイプの洗浄便座などを確認していった。


「どれも今より使いやすくていいな。さて、部屋の設備はどうなってるかな」


 俺は次に部屋の設備のタブを開いた。


「どれどれ……追加された電化製品はっと。へえ、マイナスイオンドライヤーか。これはシュンランやサーシャたちが喜びそうだな」


 シュンランは髪が長いうえに多く、サーシャは髪が跳ねやすいのでドライヤーを使う時間がいつも長い。ローラもシュンランと同様に毛量が多くドライヤーをする時間が長めだ。髪が痛みにくいドライヤーなら彼女たちは喜んでくれるだろう。


「あとはエアコンが今よりも節電できる物になってるな。まあ電気代なんて無いに等しいけど」


 魔石式エネルギー供給装置は、バージョンアップしても必要な魔石のランクが上がったりはしていない。しかし電化製品が増えたり、より機能が増えて大型化したりしたことにより消費電力量は増えている。今までは1Kの一人部屋でFランク魔石1個で5日。1ヶ月で6個もあれば生活できていた。


 しかし今ではその倍の12個は必要になっている。Fランク魔石は銅貨5枚で日本円でだいたい500円なので、月6千円の電気代だ。今後も設備がバージョンアップしていけば増えていくと思う。


 ただ、電気代が増えたことに文句を言う入居者は誰一人としていない。それどころか電気代が増えてもいいから、部屋に自動販売機を設置してくれと言ってくる者がほとんどだ。特にドワーフたちからの突き上げが凄い。設置しないけど。これ以上1部屋作るときのコストを上げてどうすんだって話だ。


 ああ、でもサキュバスのアンジェラや、女性ハンターたちの要望で警備隊の女性寮の1階にアダルト自販機コーナーは設置した。可愛い下着が欲しいんだってさ。それ以外のおもちゃの売れ行きが凄いことは黙っていよう。どうせサキュバスたちが買って使ってるんだろうし。


 下着はタオル同様にマンションの外に持ち出せるせいか、かなり売れているようだ。ブラジャーとか物珍しいんだろうな。Tバックなんかも、もともと紐パンを履いてるこの世界の女性は抵抗ないみたいだし。Oバックが便利だと言っていた女性ハンターもいると聞いた。危険な森で用を足す時に無防備となる時間を短縮できるからかな? さすがハンターというべきか。


「ん? これは……」


 そんなことを考えながら新型の電化製品を見ていると、液晶テレビのとなりにスマートテレビとゲーム機が追加されていることに気付いた。


 スマートテレビとは、簡単に言うとネットに繋がるテレビのことだ。このテレビがあれば、パソコンやスマホなどでネット接続しないと見れなかった有料動画サイトなどをテレビで見ることができる。


「まあ駄目でもともとで試してみるか。もし駄目でもゲーム機があるなら皆は喜びそうだし」


 今までテレビは当然のことながら地球から電波が届かなかったことで見れなかった。だから設置もせずにスルーしていた。このスマートテレビもネットに繋がらないのかもしれない。それでも試して見る価値があると思った俺は、急いでマンカンを開き今いる部屋の現状回復を行い最上階の自宅へと向かった。


「よし、まずはスマートテレビだな。32型と55型と70型があるのか……やっぱ大きいほうがいいよな。うちは大所帯だし」


 自宅のリビングに着いた俺は、再度間取り図のギフトを発動しヘヤツクのソフトを開いた。そして一番大きいスマートテレビを選択すると、画面右上の必要魔石数の欄にBランク魔石3個と表示された。


「ぐっ、今の相場だと金貨15枚ほどか。150万か……以前だったら金貨6枚だったんだよな。それならまあ異世界だし適正価格と思えなくもない。でも今は相場が倍以上になってるからなぁ。駄女神も相場のアップデートくらいしろよな、ったく」


 国家がギルドから買取るのであまり市場に出回らないBランク魔石。それを俺が世界中のギルドや商人から買いまくったせいで相場が上がってしまった。そのせいでハンターたちから買い取る時もコストが高くなる事態を招いた。各国の財務官僚も俺を恨んでいるかと思ったが、リアカーなどのお陰で魔物素材が今まで以上に市場に出回ることになり財政が潤っているらしい。


 つまり損をしているのは、ハンターたちから高く買い取ってもその半分以下の価値しか認めてくれないギフトを持つ俺だけというわけだ。自業自得とはいえ、せめて間取り図の設備も現実の買取相場に合わせた販売価格にしてくれればいいんだけどな。日本でゲームに夢中の駄女神にそんなことを期待するだけ無駄か。


 その駄女神は最近はガチャのあるゲームをやってるらしく、クリスが『エスエスアールってなんですか? それが現れると女神様が発狂しているのですが魔神の名前ですか?』って聞いてきたのには困った。それはただガチャでSSRが当たって歓喜してるだけだとか言えないし。


 無課金でやってんだろうな? まさか俺が置いてきた財布に入っているクレジットカードを使ってないだろうな?


 今は心配しても仕方ないか。どうせ日本に帰るつもりはないんだし、向こうでカードを止められようが関係ない。あー、だったら預金を全部俺を育ててくれた孤児院に振り込んでおけばよかったな。でもそんな時間なかったしな。あの駄女神はほんとに使えねえよな。


 日本のことを思い出し深くため息を吐いた俺は頭を振り、今はテレビを確認しようと決定ボタンを押した。


 ちなみに同じく画面右上にはCランク魔石が5000個ほど。Bランク魔石が6000個ほど保有魔石数として表示されている。日本円にするとCランク魔石がおよそ5億円で、Bランク魔石が30億円ほどだ。保有するBランク魔石のうち8割ほどは自分で集めたり、相場が上る前に買い集めたものなので実際はもっと安く集めることができている。今後はそうもいかないが……


 帝国からの賠償金はまだ受け取っていない。帝国も粛清やら治安の回復で忙しいらしそうだからな。落ち着くまでは待つつもりだ。できるだけBランク以上の魔石で欲しいと伝えているから、今頃用意をしていてくれているはずだ。



 決定ボタンを押すと目の前に黒の高級感溢れるテレビキャビネットと、その上に70インチの液晶テレビが現れた。


 俺は早速テレビのコンセントを差し込み電源をつけた。本来ならネットに繋げるためにケーブルを部屋に設置されているモジュラージャックに接続しないとネットには繋がらないのだが、そんなジャックもケーブルもここには無い。


 やっぱ駄目っぽいなと思いつつ、何も映さないテレビを見ながらリモコンにある『アプリ』というボタンを押してみた。


「おっ!?」


 すると見覚えのある動画配信サイトのアイコンがいくつか現れた。


 アイコンがるということは? と、少し期待しつつ一番左にあるフーリューという洋画や邦画にアニメなど、あらゆるジャンルの動画を配信している配信サイトのアプリへリモコンを操作してカーソルを合わせ決定ボタンを押した。


 するとアプリが開き、おすすめ映画のプレビューが流れ始めた。


「マジか! よっし! ヨシヨシヨシ! 観れる! 映画が観れる!」


 映画が見れることに俺はリモコンを持つ手を高く突き上げて喜んだ。


 それはそうだ。二度と見れないと思っていた映画がまた観れるのだ。


 こう見えても入社前はそこそこ映画好きで、長期休暇が取れたら過去の見逃した映画をまとめて見るんだとずっと思っていた。長期休暇が取れることはなかったが。


 そして俺が映画の存在を話したせいでもあるが、ローラを筆頭に恋人たちが今回のバージョンアップでパソコンがネットに繋がって見れるようになるんじゃないかと期待してもいた。クロースの場合はアニメだが。


 どういう仕組かは知らないが、ケーブルを接続しなくてもネットに繋がり動画サイトが見れるんだ。これならパソコンもネットに繋がるだろう。そうなれば俺がいなくなった後の日本の様子も知ることができる。


 そんなことを考えながらフーリューが配信している映画のラインナップを一通り見た後、他の動画配信サイトも見てみることにした。


 残念ながら素人が配信できるmytubeなどはなかったが、それはパソコンで見ればいいかと有名どころの動画配信サイトを次々と開いていく。


「嬉しいことに全部無料っぽいな。しかしネットフェニックスは相変わらずお隣の国のつまらんドラマばかりだな。お? DSMドットコムもあるのか。ということは……おお……これはお客様満足度が跳ね上がるな」


 DSMドットコムは映画もアニメだけでなく、アダルト動画も配信しているサイトだ。そして期待通りアダルト動画が多数あったことで俺は確信した。スマートテレビを各部屋に設置したらお客様満足度が跳ね上がることは間違いないと。


 募集図面の方のバージョンアップは思っていたより早くやって来そうだと思った俺は、画面を閉じリビングのソファーセットの前にテレビを配置した。


 そして今度はゲーム機を購入しようとヘヤツクの画面へと視線を戻した。


「PL《プレイランド》5と忍天堂スイッチの本体に、それぞれ人気ソフト10本付きでBランク魔石が各1個か。本体だけの価格じゃなくてよかった。ゲーム好きのクロースとサーシャとラティの喜ぶ顔を見れるなら安いもんだな」


 俺はPL5を1機、スイッチに関してはみんなで楽しめるように3機購入することにして決定ボタンを押した。すると目の前に懐かしい2機種とソフトが現れ、さっそくテレビに設置した。


「あはは、懐かしいな。学生の頃よくやったな」


 カートに乗り妨害ありのレースをするゲームをやりつつ、俺は学生の頃に友だちとよくやって遊んでいたことを思い出した。


「これならみんな喜んでくれそうだ。さて、次はパソコンでネットサーフィンしてみるか」


 1レースだけやってあとは皆が帰ってきたときの楽しみしようとゲームを終わらせた俺は、次にSOHOの設備からパソコンを買ってネットサーフィンを楽しむことにした。


 デスクトップのパソコンが追加されていたので、Bランク魔石2個と高額だったが新しいパソコンデスクを購入して設置し電源を入れてみる。


 しかしネット接続のための設定画面などは現れず、ヤホーなどの検索サイトも開くことはできなかった。


「スマートテレビは繋がったのにどういうことだ?」


 そういえばスマートテレビにmytubeも無かったな。だいたいが最初からスマートテレビに入ってるんだけどな。


 となると考えられるのは、この世界の人間に日本や地球の情報を与えないためか? 


 なるほど。確かに検索サイトで兵器の作り方なんか調べられたらまずいか。地球の宗教や文化が必要以上に入るのも警戒してるんだろうな。マンションの設備をこの世界の人間が外に持ち出せないようにしているくらいだしな。


 まあ俺は持ち出せるけど。車をこの世界の人間が解析できるとも思えないから問題ないと思っているが、ネットで原理を学べるとしたら話は別だ。mytubeが見れないのも納得だな。検索サイト並みに色んな情報が配信されてるしな。


「妥当な判断なんだろうな」


 悔しいが見れるサイトを制限するのは仕方ないか。動画配信サイトだけでも見れることを喜ぼう。



 それから新しく追加された家具などを見て回り、気になったのを自分の部屋に設置したりしてみた。その中で高反発式のマットレスがなかなかいい感じで気に入ったので、腰が痛いと言っていたドワーフのオルドにプレゼントしてやろうと思う。


 クリスのメイスを作ってもらうのにかなり苦労かけたしな。魔鉄を打てる鍛冶師は貴重らしいし、ここらで機嫌を取っておこう。まあ酒の自販機を置いてくれたほうが嬉しいとか言われそうだけど。置かないけど。置いたら間違いなく呑んでばかりで仕事しなくなるだろうし。


 ちなみに前回追加された特殊設備に変わりはなかった。機関銃も新型ではなく従来の型のままだった。まああれはヘヤツクの開発者のお遊び設備みたいなもんだしな。


 恐らくだけど、車の車種を指定できたように図面に型式や名称を書けば別の種類の機関銃を買えそうな気はする。しかしいかんせん俺は銃火器に詳しくない。その辺は映画が見れるようになったので、スパイ映画や戦争映画なんかを見て勉強しようと思う。確か重機関銃で凄いのがあったんだよな。あれならドラゴンの鱗も貫通できそうな気がする。名前が思い出せないけど、映画とかで出てくれば思い出すはず。


 そんな感じで恋人たちが買うときの参考にするためにも自分の部屋の家具を一新した俺は、次にキッチンやトイレに浴室。そしてリビングの家具などを新しいバージョンで追加されたものに交換していった。


 そうこうしているうちに日も暮れ始め、皆が帰ってくる時間が近づいてきた。


 動画が見れるなんて皆喜ぶだろうな。それだけで今回バージョンアップして良かったと思える。


 確かに今後新築を建てる時や、今建っているマンションの設備をバージョンアップさせる時はBランク魔石が必要になる。でもそこはハンターたちに頼らず、俺が頑張ってBランクの魔物を狩ればいいだけだしな。


 もうこの街を狙う勢力はいないし、今まで以上に狩りに行く時間を増やすとするか。

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