第40話 帝国VSフジワラ連合 前編



 ―― 緩衝地帯 帝国宰相 ユーラ・フルベルク公爵――




「クハハハハ! 馬鹿が! 数が少ねえうえに丘くれえしかねえこの平原で包囲だと? 王国の王妃っつっても所詮は女だな。大軍同士の戦いをまるでわかってねえ」


 帝国北部で遅れてきた貴族たちと合流した我軍は、翌日の昼には滅びの森と各国の間に広がる緩衝地帯へとたどり着いた。


 そしてそこにはシャオロン魔王国、アルメラ王国、獣王国の連合軍が我々を待ち受けていた。


 我々は帝国と緩衝地帯の国境付近にある丘の手前に布陣し、偵察兵を送り各国の様子を確認した。すると驚くことに獣王国はアルメラ王国と一緒におらず、フジワラの街から派遣されてきたのであろう千人ほどのダークエルフと共に正面に布陣していた。


 その結果、我らの陣から右側にアルメラ王国軍1万5千。正面に獣王国とフジワラの街軍1万5千。左側にシャオロン魔王国軍1万の合計4万の軍に半包囲されていることになる。


 しかし我軍は6万。各個撃破すれば容易にこの包囲を破れるだろう。そのことにルシオン様は大笑いし、獣王国を側に置かなかったアルメラ王国王妃を侮蔑していた。


「おっしゃるとおりですルシオン様。しかし偵察に行った者の報告によると、正面に布陣している獣王国軍1万5千には魔導車という馬のいない馬車に乗った、例の黒い魔槍を持ったダークエルフもかなりの数がいたとのことです」


「チッ、あの魔槍が大量にあんのかよ。てっきり防衛用の固定式のものだと思ってたが魔導車か……馬もなしに動く馬車ってのがどうにも想像できねえが、それがあるから持ってこれたってことか?」


「恐らくは……そのうえ緩衝地帯の右に布陣している王国軍1万5千の中にも、数千にも及ぶ数のエルフの姿があったとか。油断はできません」


 ルシオン様が恐る魔槍は見たことがないが、前回の敗戦から戻ってきた者たちの話ではミスリルの鎧すらも貫通する鉄の礫を連続で放ったと聞く。対策はしてきたが数が数だ、油断はできないだろう。それにエルフの数も多い。国境での紛争では多くとも数百程度しか参戦しなかったエルフが、まさか数千もいるとは。弱兵の王国の騎士や兵はともかく、エルフによる風の精霊魔法は強力だ。こちらも油断をして勝てる相手ではない。


「エルフが数千だと? ククク、エルフの女を大量に捕らえるチャンスじゃねえか。あんな遠距離攻撃しかできねえ奴らなんか恐れることはねえ、魔国と獣モドキに1万ずつ抑えを残して残り4万で王国を攻めりゃ、たとえエルフどもがいようが余裕で蹂躙できる。違うか?」


「……いえ、1万5千に対し4万であればたとえエルフがいようとも押し切れるかと」


 魔国と獣王国に抑えの軍を配置するのであれば問題ない。倍以上の戦力で攻めればエルフが相手といえども押し切れるだろう。犠牲は多く出るであろうが、王国が撤退すれば獣王国も魔国退く可能性がある。であるならば全力で王国軍を片付けるべきだろう。


「総攻撃は明日の朝、日が出る前に暗闇に紛れて行う。兵にはそれまで英気を養うように言っておけ。俺は休む、あとは任せた」


 ルシオン様はそう言って新たに集めた親衛隊の若い騎士たちを連れ、自身の天幕へと戻っていった。


 ルシオン様の天幕には侍女や途中の街や村で見初めた女たちがいる。これから親衛隊の者たちと楽しみむつもりなのだろう。いくら敵が分散しているとはいえ、4万の軍に半包囲されているというのに呑気なものだ。


 確かに勝てるとは思うが、戦場では何が起こるかわからん。いざとなった時に逃げることができるよう手配しておかねばな。





 ――フジワラ軍陣営 ローラ・シュミット――



 帝国軍が緩衝地帯に布陣した日の深夜。獣王軍と共に布陣している陣地の中央付近にある大きな石のドーム内で、私はシュンランたちと一緒に待機をしていた。


 石のドームといってもただのドームではない。中は4LDKとなっていて、複数ある冷蔵庫と物置には大量の食材と缶ビールやジュースなどが保管されている。帝国が戦争の準備をしていると知った際に、リョウが飛竜でここまで来て事前に作ってくれたようなの。おかげで街にいた時と変わらない生活を送れている。打ち合わせの時に来た獣王が羨ましがっていたけど、缶ビールを渡したら笑顔で帰っていったわ。


 そんな戦場の野営地に相応しくない部屋のリビングのソファーには、私とシュンラン・ミレイア・クロース・サーシャ・リーゼが座っている。皆いつ動いてもおかしくない帝国軍に備えて寝ずに待機してるの。


「あら? この曲いいわね。なんという曲なの?」


 リョウからもらったパソコンで日本語の勉強をしていると、リビングに流しっぱなしにしていた有線から激しくノリの良い曲が流れてきた。興味が湧いた私は、ソファーで曲に合わせて首を振っているクロースに訪ねた。


「これはベイビーメタルという女性ユニットの曲だな。ヘビメタってジャンルらしいぞ」


「そう、このユニットだけの曲を色々聞きたいわね。有線だとそれができないのは知っているけど」


 私の部屋にも流れてるけど、どうしてもヒット曲ランキングとかそういうくくりでしか選べないのよね。歌手別に聞けたらいいのだけど。


「私もそう思う時が多々あるぞ。これはリョウスケから聞いたのたが、もう一度ギフトがバージョンアップすれば、次はパソコンで『どうが』というのが見れたり好きな音楽が聞けるようになるかもしれないそうだ。それに期待するしかないな」


「バージョンアップでそんなことができるの? それは楽しみだけど……バージョンアップしたらマンションを建てる時のコストが高くなると聞いたわ。次はBランクの魔石が大量に必要になるって」


 色々と便利になるのは嬉しいし楽しみだけど、街を大きくするのに建物のコストが高くなるのは問題があるわね。


「Bランクくらいなら大丈夫ではないか? 私たちも狩れるし、女神の街もあるしな」


「それはそうなのでしょうけど、いずれAランクやSランクの魔石が必要になっていくのよ? さすがに今の私たちでは厳しいわ」


 レベルアップで身体能力も精神力も大幅に強化された。クロースの成長ぶりを目の当たりにして知っていたとはいえ、自分が経験してみてレベルアップというのがとんでもない能力だというのがわかった。今なら私一人でBランクの魔物を狩ることもできる。でもAランクやSランクは? 恐らくシュンランたちと一緒でも容易ではないでしょうね。


「大丈夫だって! 私の鉄人と機関銃があればAランクのドラゴンだって撃ち落としてみせるぞ!」


「何言ってるのよクロース。無限袋に入っていたドラゴンの鱗で試して駄目だったじゃない」


 ソファーから立ち上がり胸を張ってまったく説得力の無い事を言うクロースに、自動販売機で買った午前の紅茶を温めたものを飲んでいたリーゼが呆れた顔で口を挟んだ。


「あ、あれはSSランクのドラゴンの鱗だったからだ! Aランク程度のドラゴンだったら撃ち抜けるはずだ!」


「傷一つつかなかったのに?」


「だ、大丈夫だ」


「Bランクの魔物相手でも通用しない時がたまにあるじゃない。そろそろ精霊魔法一本にした方がいいんじゃない?」


「何を言う貧乳! 私は機関銃を手放さないぞ! きっとリョウスケがもっと強力な機関銃を買ってくれるはずだ! 私はそれを信じてるのだ!」


「あっそ、そんな都合の良いのがあればいい……あ、ちょっと待って」


 クロースと言い合いをしていたリーゼが、ふと虚空へと視線を向けた。恐らく王国軍から精霊による連絡がきたのだと思うわ。


 リーゼは頷いたあと魔力を渡しながら精霊にありがとうと告げ、隣で腕を組み目をつぶっていたシュンランへと声を掛けた。


「シュンラン、帝国軍が動いたみたいよ」


「そうか。思っていたとおり夜襲を仕掛けてくるか」


 シュンランはリーゼからの報告に閉じていた目を開け、テーブルに置かれている目覚まし時計に視線を向ながら口にした。


 私も釣られて時計を見ると、時計の針は午前3時15分を示していた。


 予想通り帝国軍の動きは早かったわね。お父様は今はどの辺りかしら? ちゃんとリョウが来る朝に間に合ってくれるといいのだけど……リョウが勇者だということをもっと早く教えてあげるべきだったかしら? 


 いえ、それだとお父様は教会本部に説得に行ってしまうわ。追放されたお父様の言葉をどこまで今の教皇が聞くかわからないけど、万が一信じでもされたら迷惑もいいところ。真聖光教の存在を認めるとか言い出して、リョウを教会が勇者と認め利用しようとする可能性もある。それはリョウが一番避けたいと思っていること。


 彼と生涯を共にすると決めた以上、彼が嫌がることはしたくない。だって嫌われたくないもの。彼の圧倒的な強さと、勇者なのに女神に対しての価値観が私と同じという所に惚れた私は、リーゼとサーシャを巻き込んで強引な手を使ってでも彼の恋人になりたかった。


 そしてそれは成功したけど、シュンランとミレイアに比べたらいつ捨てられてもおかしくないような立ち位置なのは確か。あの二人は特別だもの。その特別に私もなるためには、リョウに嫌われるようなことはしたくないわ。


 だからお父様には悪いけど、知らせるのはギリギリになってしまった。間に合えば聖光教会は自浄能力があることを証明できる。でも間に合わなければ信仰するはずの女神の使徒である勇者に刃を向けた者として、聖光教は完全に滅ぶ。


 聖光教が滅ぼうが私にとってはどうでもいい話なのだけど、幼い頃から私を守ってくれたお父様を巻き添えにはしたくない。だからどうか間に合って欲しい。そして教皇となって腐敗した聖職者たちを粛清し聖光教を生まれ変わらせて欲しい。


 リョウもできたばかりの真聖光教だけで各国の民への対応は難しいし、何百年後には真聖光教も今の聖光教今日のように腐敗するかもしれないと言っていたわ。だから同じ女神を信仰する宗教は二つあった方がいいと。そして教えの違いから争うことのないように、しっかりと聖典で同じ女神を信仰する者同士での争いを一切禁じると書くべきだと。


 だからお父様には期待しているわ。教皇になってなんて言ったらものすごく嫌な顔をされるかもしれないけど、勇者であるリョウが言えば断れないでしょう。


 それもこれも全てはこの戦場にお父様が間に合うのが前提の話。死ぬ気で走ってきてくれないと困るわ。


 そんなことを時計を見ながら考えていると、リーゼがまた精霊から情報を受け取ったのか口を開いた。


「どうも本命はこっちにではないみたいね。こっちと竜王のところに1万ずつ配置されていて、残りの4万は王国軍の方向を向いて陣形を作っているらしいわ」


「ふむ、抑えの兵を配置して各個撃破か。私たちより王国軍の方が与し易いと見たか」


「一度機関銃で痛い目にあってるものね。王国軍を圧倒して士気を上げてからこっちってとこかしら?」


「外壁に守られた防衛戦だったとはいえ、たった20丁の機関銃に何もできなかったというのに士気を上げた程度で勝てると思われているとはな。大した自信だ」


「こっちにはジープがあるのにな! シュンラン! 半数を私が率いて王国軍の援軍に向かう! いいだろ!?」


 不敵に笑うシュンランへ、クロースがソファーの横に置いていた機関銃を手に取り叫んだ。


「いや、ここにいる全員で行く。恐らく帝国軍はこっちには攻めてこないだろう。来てもスーリオンとカルラを残しておけば、たった1万の兵が相手なら大丈夫だ。ならば600のダークエルフに300ほどの機関銃を持たせ、私たち全員で行って敵の先鋒を殲滅する。それでだいぶ時間は稼げるはずだ」


「むう……私だけで十分なんだけどな。まあサーシャも王妃が心配だろうしいいか」


「そうね、こっちに来る可能性が低いなら私も行きたいわ。4万の軍相手だといくらお母様でも厳しいと思うもの。私のギフトがあれば多くの兵たちを生き残らせることができるわ」


「なら全員で行くということでいいわね? 準備をするわ」


 私は話が終わったと思い武器を取りに部屋へと向かった。


 とりあえずお父様の心配よりは、先に帝国軍の進軍を止めないといけないわね。





 ―― 緩衝地帯 アルメラ王国陣地 シュンラン――



「シュンラン、よく来てくれました。まさか帝国がこちらを先に狙ってくるとは思いませんでした」


「王妃様、礼は無用です。そもそもこの戦争はフジワラの街と帝国によるものなのですから」


 ローラたちと共にジープに乗り小高い丘の上にある王国軍の陣に着くと、魔鉄製の豪奢な全身鎧に身を包んだ王妃が出迎えてくれた。


 王妃は身体強化のギフト持ちとは聞いていたが、まさかこんな前線にいるとはな。サーシャが言っていたとおり、なかなかに剛毅な性格をしている。


「それでもあなた達が来てくれたおかげで兵の犠牲がぐっと減るのは確かよ。サーシャもありがとう。女神の祝福のギフトの効果と範囲が相当上がったと聞いたわ。皆を助けてあげてね」


「わかってるわよ。私が来たからには大船に乗った気でいてよね」


「まあたくましい! さすが戦妃ね!」


「ふふふ、戦場の女神と言われた戦妃ティファ様の後継者が誰なのかを王国の皆に知らしめてあげるわ」


 ハァ……まったくサーシャは単純というかなんというか。


 得意げにしているサーシャをわたしは呆れたながら見ていた。王妃の誘導尋問に気付かず、戦妃と呼べるほどの力を得た事を認めたことを理解しているのかと。


 王妃のことだ。涼介の伴侶になることで戦妃になれることには気付いていたのだろう。だからサーシャとリーゼを送り込んだ。そしてそれをサーシャが認めこれから証明するわけだ。


 まあそれは私もこれから両軍合わせて10万以上の兵の前で証明することになるのだから、サーシャだけのせいではないのだが。せめて涼介と夜を共にするのではなく、心から愛されることが条件だということだけはサーシャから王妃に伝えるように言っておこう。でなければ戦後に王国から大量の女性が送られてきそうだ。


「王妃様、私はエルフ軍のところに行っているわ」


「リーゼロット、お願いしますね。長老がなかなか言うことを聞いてくれなくて困っていたのです」


「ハァ……まったくあの老害たちは……張り倒してくるから安心してちょうだい」


「フフッ、お願いしますね。戦妃エレンミア様の後継者さん」


 王妃の誘導にリーゼは苦笑で返し、風の精霊魔法を発動してエルフ軍のいる場所まで飛び去っていった。


「王妃様、では私たちは最前列に布陣します」


「お願いします。機関銃という魔道具の威力、この目で見させていただきますね」


 好奇心溢れる表情でそういった王妃に私はリーゼと同様に苦笑いで返し、サーシャを置いてミレイアとクロース。そしてローラとともに最前列へと向かった。


 王国軍の最前列に着くと既にダージュエルフたちが機関銃を設置し終え、頭上を石のドームで覆っているところだった。


 相変わらず仕事が早い。さすがは土の精霊魔法使いといったところか。


 連れてきたダークエルフは600名だ。そのうち300名が射手で、残りが射撃補助要員となる。


 機関銃を構えるダークエルフたちの後ろには等間隔でジープが置かれており、荷台には弾薬が山程積まれている。戦闘時には王国の兵にも手伝ってもらいながら、弾薬をジープから補充する予定だ。そのジープも石のドームで覆うので、敵の雷や火球などのギフトからの攻撃にも対処できる。


 そうして迎撃準備をしていると、帝国軍の先鋒の姿が遠くに視認できた。


 先鋒は2千ほどで、その全てが馬に乗っているようだ。


 騎馬によって中央を切り裂き、混乱しているところを残りの兵が突撃をして一気に決着をつけようとしているのかもしれない。


「敵は騎馬突撃をするつもりだ! フジワラ軍! 射撃準備!」


「「「「「オオッ!」」」」」


 私の号令にダークエルフの射手は一斉に機関銃を構え、射撃補助の者はその隣へと腰を下ろした。


 そして早足で徐々に近づいてくる帝国軍の騎馬部隊を丘の上から見下ろしていると、騎馬の速度が上がった。


「シュンランさん、騎馬が走り始めました!」


 隣にいたミレイアが叫ぶ。


「ミレイア、機関銃の射程距離に入ったら一緒に馬の脚を止めるぞ」


「はいっ!」


 ミレイアに声を掛けた私は、機関銃部隊と同じ位置まで前に出て彼女と共に迫りくる騎馬部隊に向け両腕を向けた。


 フフッ、こうしていると一緒にオーガキングと戦った時のことを思い出すな。


 あの時は私たちは弱かった。だが今は違う!


「あと100メト……50……今だ! 『黒炎弾!』」


「はいっ! 『轟雷!』」


 私は50を超るえ黒炎の弾を次から次へと作り出し、向かってくる騎馬部隊の先頭を走る者たちへ放った。それらは狙い通り騎馬やその背に乗る騎士やその足元に着弾し爆発した。


 それと同時にミレイアが無数の雷を騎馬部隊の至る所に落とし、馬と共に騎士たちを焼いていった。


 突然の黒炎と雷による攻撃に馬たちは怯えその場で立ち尽くし、それにより騎馬部隊の足が止まった。


「今だ! 撃て!」


 私がそう号令をかけると一斉に機関銃の音が鳴り響いた。そして丘の下に迫っていた騎馬部隊が次から次へと倒れていった。


 数分後、2千はいた騎馬部隊は弾薬の交換をする間もなく全滅した。





 ――緩衝地帯 帝国軍陣地 帝国宰相 ユーラ・フルベルク公爵――




「チッ、やっぱこっちにも魔槍を配備してやがったか」


 伝令からの報告にルシオン様は舌打ちをした。


 どうやら王国軍にも魔槍が配備されているようだ。だから獣王国軍と別々に布陣していたのやもしれぬ。魔槍があれば勝てると思ったか。


「ハッ! 雷と炎のギフトにより足が止まったところを無数の魔槍によって撃ち抜かれたようです」


「足の速い騎馬で突っ込めば半分くらいは生き残って魔槍を持つ奴らをぶっ殺せると思ったが、聞こえてきた音からこりゃ相当な数があるな」


 確かに凄まじい音だった。あれがミスリルの鎧をも撃ち抜くという魔槍というものから出た音なのか。なんと恐ろしい魔導兵器だ。


 王国軍の布陣する場所に大量の魔導車が向かっていくという報告を受け、ルシオン様が念の為にと威力偵察を兼ねて騎馬隊を送ったのが功を奏するとは。あのルシオン様がここまで慎重になるとはな。これも魔槍に対する恐怖心からか。


「まあいい、どうせ先陣の騎馬隊は反抗的な貴族たちの騎士を集めた威力偵察用の捨て駒だ。大量の魔槍があるとわかったなら成果はあった。対魔槍部隊を最前列に配備しろ」


「ハッ! 対魔槍部隊を配備いたします!」


「ルシオン様。ミスリルの鎧を貫通するという魔槍が放つ鉄の礫を、本当にミスリルと鉄の合板の盾で防げるのでしょうか?」


「重ねれば防げる。これは前の戦いで実証済みだ。とにかく相手の陣地に着くまで耐えられればいい。懐にさえ入っちまえば魔槍なんかただの黒い棒だ。奪って帝国の物にしてやる」


「なるほど……あれを重ねるのですか。ならば確かに」


 私は異常な数の盾を用意させたルシオン様の狙いがわかり、さすがは一度痛い目にあっているだけのことはあると感心しつつ静かに頭を下げるのだった。


 

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