第33話 クリスへの神託




 ——フジワラの街 真聖光教神殿 聖女クリスの部屋——




「んあっ……ふぅふぅ……すーはー……んんっ……足りない」


 私は勇者様の下着を顔から離した。


 匂いがどんどん薄くなっていっている。


 勇者様の新鮮な匂いを嗅げなくなってもうどれくらい経つでしょう?


 勇者様の顔を見るとあの時の光景を思い出してしまい距離を置いてしまいます。一緒に患者さんの治療をする時も恥ずかしくて目も合わせられません。そんな私の態度に勇者様はきっとご不快な思いをされていることでしょう。


 飾りなのに……私はこの世にご降臨なされた勇者様の起こす奇跡を隠すための隠れ蓑に過ぎないのに。その役目すら満足に果たせないなんて。


 それでも勇者様は私のよそよそしい態度など気にもせず、疲れていないかと優しい声をかけてくれます。そして元気になった患者さんが勇者様ではなく、私に感謝する姿を見てとても嬉しそうな表情を浮かべます。ああ、なんとお優しく慈悲深いお方なのでしょう。


 聖人……まさにそんな言葉がピッタリなお方です。そう、勇者様は聖人だったのです。


 羨ましい……そんな勇者様のお情けを受けているシュンランさんやミレイアさんたちが羨ましい。そしてローラさんも……


 夜、ローラさんの部屋に度々入っていき、朝になると出ていく勇者様。いったいいつの間にそんな関係になっていたのでしょう。ローラさんに聞きたいですが、今でもお祈りをせず車という馬の必要のない馬車に乗り外を走り回っている彼女を叱っている立場の私からは聞けません。


 何度勇者様とローラさんがいなくなった彼女の部屋に忍び込もうと思ったことか。きっとあの部屋には勇者様の聖水の残りが……どのような匂いなのでしょう? きっとこの下着以上の……


「あっ……んっ……」


 私は下腹部に再び手を伸ばし自分を慰めます。


 嗅ぎたい……勇者様の聖水の匂いを……神の片鱗をこの身で感じたい。


「駄目……想像だけじゃ……」


 私は天に昇れず伸ばしていた手を引っ込めます。


 もう三週間は天に昇れていません。やはり勇者様の新鮮な体臭が無いと私は……


 ああ、いったいどうすれば。


 もう女神様におすがりするしかありません。そうです、いつだって女神様は私を導いてくれました。


 あの日、教会本部で司教様に襲われそうになっていた私にローラさんを遣わしてくれました。そのローラさんを通し、私をこの第二の聖地と勇者様の所に導いてくれました。


 なら今回もきっと、この火照ったままの身体を鎮める方法をお教えいただけるはず。私が再び天へと昇れるようお導きしていただけるはず。


 私は全裸だった身体をベッドから起こし、急いで勇者様が用意してくれた白い豪奢な聖女服に着替え部屋を出ました。


 部屋を出るとすぐに女神様の像が見えます。時刻はもう深夜。神殿に人影はありません。他の部屋も玄関灯の灯りしか見えません。


 あら? ローラさんの部屋だけ玄関灯が点いていないませんね。いつもは早めに帰ってくるのに、こんなに遅くまで飲んでいるということはきっと勇者様と一緒に酒場で飲んでいるのでしょう。ということは今日はローラさんの部屋に勇者様が来られる日ということですか。


 羨ましい……私がこんなに苦しんでいるのに……明日ローラさんの股間の匂いを嗅げば勇者様の聖水の匂いも……ハッ!? いけません! 私はいったい何を考えているのでしょう。そんなことあのローラさんにできるわけがありません。


 私は羨望の眼差しで見ていたローラさんの部屋から視線を逸らし、女神様の像の前で跪き両手を組み祈り始めました。


「女神様、女神フローディア様。どうか迷える子羊をお導きください」


 私は全ての精神力を捧げるつもりで一心に、ただ一心に祈りました。


《週に……一度……レイ……ド……じゃ……負け……れぬ!》


 すると頭の中に聞き慣れた声が響き渡りました。


 フローディア様のお声!?


 届いた、私の願いが女神様に届きました!


 女神様、どうかお導きください! 勇者様の聖水を求めるこの身体を鎮める方法をどうか!


 すると今度はハッキリとフローディア様のお声が頭の中に響き渡りました。


《怯むな! 押し倒せ! そして一気に念願を果たすのじゃ! 押して押して押し倒すのじゃ!》


 ええ!? お、押し倒す!? 勇者様を私が!? め、女神様! 私にはそんなこと……女神様?


 ああ、もう聞こえなくなってしまいました。


 私が勇者様を押し倒すなんて……でもこれは女神様からの御神託。聖女を名乗っている私が無視するわけには……もし女神様の御神託を無視してこの世界に災いが起こってしまったら、崇拝する勇者様にもご迷惑が掛かってしまいます。


 恥ずかしいし、はしたない行為だとは思います。ですがこれは御神託。やらなければいけません。この世界のために、そして勇者様のために。


 私は覚悟を決め顔を上げました。するとそのタイミングで階段を降りてくる音が聞こえてきました。振り返るとお互いの腰に腕を回し、笑顔で話している勇者様とローラさんの姿がありました。


「あら? クリスじゃない。どうしたのこんな夜中に。また眠れなかったの?」


 私に気づいたローラさんが心配そうに声を掛けてくれます。最近わたしが寝不足なことに気付き、何か悩みがあるの? と頻繁に声をかけてくれています。相変わらず優しくて思いやりがある方です。そういえば私が襲われそうになった後も、こうして頻繁に声を掛けてくれていましたね。これで女神様への祈りもしっかりやってくれれば、心から尊敬できるのですが。


「クリス……」


 勇者様も心配そうに私を見ています。なんと声を掛けて良いのかわからないのかもしれません。私に元気がないのは、あの光景を見られたからだと思っているのでしょう。


 あの時は確かに恥ずかしかったです。ですが勇者様は見ていないフリをしてくれました。その後も距離を置く私に優しく声を掛けてくれました。


 ですがあれは仕方のないことだったのです。勇者様の匂いに魅了された私のこの身体は我慢という物を知りません。きっと他人からは淫乱だとか変態だとか思われるでしょう。ですがそれは違います。神の使徒である勇者様の匂い以外にはこんなことにはなりません。これはつまり神の放つ匂いに私の身体が反応してしまってるということ。聖なる匂いに興奮することは決して悪いことではありません。それこそが信仰の果てに感じる物だと私は信じています。


 ですから、ですから私がこれから行うことは神聖なものなのです。


 私は心配そうな二人の元にゆっくりと歩き出し、そして勇者様の目を見て口を開きました。


「ゆ、勇者様、親愛なる勇者様。大切なお話があります。どうか私の部屋で聞いて頂けませんでしょうか?」


 男の人を部屋に誘うなんて緊張します。きっと私の顔は真っ赤になっていることでしょう。神殿内が薄暗くて良かったです。


「……わかった。ローラ、すまないが部屋で少し待っていてくれないか?」


「フフッ、ええ、期待しないで待ってるわ。クリス、がんばってね」


 ローラさんが私を見て笑顔でそう言ってから自分の部屋に向かっていきました。どうやらローラさんにはバレバレのようです。これはしばらく弄られるかもしれません。


「で、では行きましょう」


 私は勇者様の腕を胸に抱き自分の部屋へと歩き出しました。


 ああ、久しぶりの勇者様の匂い。今すぐ顔を埋めたい、スーハーしたい。


 も、もう少しで部屋です。我慢しないと。


 そして私は聖女用の1LDKの部屋へと勇者様と入り、リビングへと向かったところで


「それで話というのは……うおっ! ちょ、クリス!」


 ソファーに腰掛けようとする勇者様をそのまま押し倒しました。


「スーハースーハー、勇者様! せ、聖水を! 聖水をください!」


「せ、聖水? なんのこ……ちょ、なんで脱ぐんだ。お、落ち着けクリス! うわっぷ!」


 私は聖女の服を脱ぎ、乳房を勇者様の顔に押し当てました。


 恥ずかしい、ですが押すのです。女神様の御信託の通り押して押して押し倒すのです。


 この日、私は聖水の匂いだけではなく味まで知ることができ、何度も天へと昇りました。


 もうこの匂いからは離れられない!


 強く心の中でそう思うのでした。




 ♢♦︎♢



 シュバイン公爵の使者であるエルムートさんとの会談から十日ほどが経った。


 最初の一週間は女神の街へ狩りに出掛けたりしたが、その後は念の為フジワラの街にいるようにしている。皇帝が逃げてくる際にトラブルがあるかもしれないしな。即応できるように待機していた。とは言っても何もしていなかったわけではなく、新たに真聖光病院の2号棟を建てた。


 2号棟も5階建てだ。収容数や効率を考えたら10階建てを建てるのがいいんだろうが、ここは滅びの森の中だ。万が一のことがあった際に、自分一人では移動が困難な病人を逃すのに10階建てでは時間がかかる。そういうわけで5階建てにしたわけだ。


 まあ土地はいくらでもあるし、ダークエルフ族が全て移住してくれたから人手もある。募集したらすぐ集まったしな。ダークエルフの女性は中年でも美しいので、病院に来る度に目の保養をさせてもらっている。美魔女だらけという感じだ。この街に住むようになって好きなだけ食べることができるからか、肉付きが良すぎる女性もいるがそれはそれで良いとは思う。患者からも人気があるみたいだしな。そんな彼女はこの歳で王国の貴族に求婚されて困ったわと、全然困ってない顔で話をしていた。120歳の女性が。いや、まあ十分綺麗なんだけどな。


 2号棟は皇帝が来る予定もあるので、最上階を高位貴族用とした。そのため2室しか作っていない。8LDKが2室だ。貴族は侍女やらが泊まり込むからな。高位貴族ともなれば護衛が部屋に入り浸るだろうし、そのために部屋数を多くした。もちろん入院費は高額だ。常に埋まるような部屋じゃないのでかなりの高額に設定してある。1ヶ月しか入院しないんだしまあ払えるだろう。


 新たに来た病人や四肢の欠損患者は順次2号棟に入院させている。稼働率はあっという間に50%を超えた。とにかく毎日ひっきりなしに患者が来る。これも王国の一般人たちを治療した成果だと思う。一般人に関しては治療費は激安だ。これは真聖光教が負担している。王国と帝国が国教に指定してくれたら健康保険制度の導入をしてもらうつもりなので、それまでは真聖光病院の負担は大きいだろう。


 それでも獣王国から来た大司教のおかげで上級治癒水を作れているし、司教や司祭たちも毎日大量に中級治癒水を作っている。それをギルドや各国に販売しているので、教会は結構儲かっているはずだ。以前治療費の代わりに患者の身体を求めるという問題を起こしたセクハラ大司教にはしっかり監視をつけており、毎日欠損患者の治療と治癒水の作成をさせている。最初は不満たらたらでうるさかったが、最近は夜にデリヘルのサキュバスを呼んで楽しんでるようだ。


 フジワラの街で人気のデリヘルサービスも、増員に増員を重ね今では50人在籍している。稼いだお金で欠損を治したサキュバスの子たちなど大人気だ。実入りの良い彼女たちは春蘭マンションの上層階に住んでいたりする。みんな毎日美味しい食べ物や美味しい酒。そして便利な魔道具に囲まれた生活にホクホク顔だ。下着姿で1回の自販機コーナーに買いに来るのはやめて欲しいが……注意したらこれも営業だと言われた。確かにあんな姿を見たらムラムラするだろう。商魂逞しい。


 まあそんな感じで病院の方は順調だ。クリスとの仲も回復し、今では病院内で常に俺に抱きついて脇の匂いを嗅いでいる。身長差的に彼女が抱きつくとちょうど俺の脇の下辺りに顔が来るんだ。それでずっとスーハーされて、目がイキ始めたら職員用のトイレに二人で入り発散させている。彼女は顔にかけられるのが好きなので、毎回顔がベタベタだ。本人は聖水パックと言って恍惚とした表情で悦んでいるが。そんな彼女の姿を見たローラはドン引きしていた。彼女のあんな表情を見たのは初めてだ。


 俺? 俺はもうあの逆レイプ事件から一週間経ったしな。いい加減慣れた。


 しかしまさかクリスに襲われるとは夢にも思っていなかったよ。あの日、ローラと二人で酒場で飲んで、良い感じに酔っ払った。さあそれじゃあこれからローラの部屋で言葉責めプレイをしてもらおうと、ウキウキした気分で神殿地下の彼女の部屋に向かったらクリスが駄女神像の前にいたんだ。


 それでどうしたのか聞いたら、何やら覚悟を決めた顔で俺に話があるって言うもんだからきっとあの時、俺の下着で自慰していた件のことだろうと思って彼女と話し合うことにした。ずっと気まずかったしな。ここらでちゃんと話し合おうと思ったんだ。


 そしたらいきなりクリスに押し倒されてさ。酔って足に力が入らなかった俺は、あっさりとソファーの上に倒れてしまった。そこからは怒涛の展開で、俺の胸に顔を埋めて匂いを嗅いでいたクリスが、今度はいきなりおっぱいを出して俺の顔に押し付けたんだ。デカイ! やわらかい! と混乱していると、次に彼女は体を回転させて69みたいな体勢になって俺のズボンを脱がせ始めた。抵抗するにもおっぱいの圧力に屈し、それと同時にこれからどうなるんだっていう謎の期待感が生まれてしまいされるがままになった。


 そしたらパンツまでずり下ろされて、次に彼女は俺の両足を掴んでマングリではなくチングリ返しみたいな格好にされた。いつの間にか俺の顔にはおっぱいではなくビショビショになった彼女の股間が押し付けられていた。そしてそのまま俺のペニグルを咥えられ、俺もいつの間にか彼女の股間を舐めていた。そして快感が頂点に達して発射したら聖水! 聖水! と言って彼女は顔に塗り始めた。そのエロい光景に我慢できなくなった俺は、クリスを組み伏せそのまま彼女の初めてを奪ってしまった。


 エロかった。とにかく彼女は視覚的にエロかった。まあその後、俺の脇の下やヘソ、終いにはお尻の匂いを嗅いできたりして羞恥心で悶絶しまくったけど。ローラの言葉責めとはまた違う不思議な興奮を覚えたよ。しかし匂いフェチだとは知っていたが、まさかあそこまでとは。


 その後は恋人たちにクリスに手を出してしまったことを告げたが、シュンランとミレイアはいつも通り苦笑するだけだった。サーシャはなんで私のところに来ないのよと静かに怒っていて、クロースはお仕置き部屋だなと嬉しそうにしていた。ロープで吊るされるのはクロースなんだが……


 結局それなら本物の聖女にしてしまおうと、今後はクリスも狩りに連れて行くようにした。治療のない日は一日中神殿で祈っているから時間はあるだろうと。確かに彼女が欠損を治せたり、完全治癒などを本当に使えるようになれば俺は楽になる。完全治癒のギフトでできる治癒水にも興味があるし。抱いてしまったものは仕方ないから未来志向で行こうと思う。


「ああ……聖……水が……いっぱい」


 そんなことをトイレでその小柄な体型に似合わない巨大なおっぱいを露出させ、大股を広げ顔と胸をベトベトにしながら至福の表情を浮かべるクリスを見下ろしながら考えていた。


 うーん、エロい。


 そんなクリスの痴態に興奮した俺は、彼女の両足を再び抱え上げ2回戦目を始めるのだった。



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