第30話 セイラン・ハニーサックル




 真聖光病院で十日ほどクリスとの気まずい雰囲気の中での治療を終えた俺は、暇そうにしていたローラとサーシャとリーゼを連れて雪の降る女神の街にやって来ていた。


 街道は毎日定期便と巡回警備の車が走っている為そこまで積もっておらず、チェーンを巻けば問題なく走ることができた。


 2泊ほどする予定で来たので日中は街の視察や結界の外に出てレベル上げをし、夜は最上階の別荘の部屋で四人でゆっくりして過ごしていた。


 そして二日目の夜。夕食を食べ終わり、エルフの繁栄の秘薬を服用して屋上の露天風呂で今夜もがんばろうかなと思っていると、突然街中に鐘の音が響き渡った。


「敵襲!? まさかAランクのドラゴンが結界を破って来たのか!?」


 そう思った俺は慌てて棚に置いてある魔物探知機を手に取り革のカバーを外した。


 そして金色の光を発する魔物探知機の画面を覗き込んだ。


「ん? 魔物じゃない?」


 しかし表示されたのは魔物を表す赤い点ではなく、人間を表す青い点だった。その青い点は三つあり、敵意を示す点滅もしていなかった。


 その三つの青い点はゆっくりと南西方面から、街の南にある正門へと向かって来ている。


 街道ではなく夜の森の中を一定のスピードで進んでいることから、恐らく空を飛んで来ているんだろう。考えられるのは竜人族のハンターだが、その割には青い点が大きい。


 どういうことだと考えていると、鐘が聞こえたと同時にバルコニーへ出て行っていたリーゼが戻って来た。


「リョウ! シルフに確認しに行ってもらったけど向かって来てるのは飛竜よ! 背には吸血鬼が乗ってるって!」


「なんだって!? てことはこの間の報復に来た? いや、でも敵意はないぞ? というかどうやって飛竜を飼い慣らしたんだ?」


 先日の吸血鬼との一件は竜王に報告した際に、竜王から魔王を通して吸血鬼族にフジワラの街だけではなく女神の街にも手を出さないよう通達すると言っていた。とは言っても吸血鬼族は魔王の言うことをなかなか聞かないようで、竜王やリキョウ将軍が女神の街を心配してこっちまで狩りに来て泊まって行ってくれるようになった。


 しかし今日は俺が女神の街にいるので竜王やリキョウたちは来ていない。そんな留守を狙った襲撃かと思ったのだが、魔物探知機は敵意が無いと言っている。それにテイムのギフトを持たない魔族が、どうやって飛竜を飼い慣らした? 卵から育てたとかか?


「確かに点滅してないし、吸血鬼が飛竜を操るなんて聞いたことがないわね。どういうことかしら?」


 魔物探知機を覗き込みリーゼが首を傾げながら言う。


「どうやって飛竜を飼い慣らしたのかはわからないけど、敵意がないなら謝罪に来たんじゃないの?」


「プライドの高い吸血鬼が謝罪に来るとは思えないわ。何か別の目的があるわね」


 俺がプレゼントした魔鉄の軽鎧に着替えながら口にしたサーシャの言葉に、同じく魔鉄の胸当てを装備しているローラが答える。


「確かにあの傲慢な吸血鬼が謝罪に来たとは思えないな。飛竜のことは気になるが、とりあえず正門に行くか」


 そう言って俺は部屋着からスーツに着替え、コートを羽織って装備を身に付けた恋人たちを連れ正門へと向かった。



 ♢♦︎♢



 正門に着くと、壁の上で多くのダークエルフたちが既に機関銃を南の空に向けて待機していた。


 そんな彼らを頼もしく思いつつ、俺は正門から外に出て空を見上げた。


 女神の街にも堀があり橋が架かっている。その橋の手前でサーシャを俺の背に、ローラとリーゼを両隣に配置してやってくる吸血鬼を待ち構えた。


 するとハンターにテイムされた飛竜と同様に、難なく結界を超えてきた飛竜の姿が枯れ木となった木の間から見えた。しかしその飛竜は見慣れた焦茶色の飛竜ではなく、灰色の飛竜だった。


 灰色の飛竜は警戒しているのか、かなりゆっくりこっちへと向かって来ている。


「灰色の飛竜?」


「確かに灰色ね……まさか眷属化したとか? でも魔獣は眷属化できないんじゃ無かったかしら?」


「私もそう教わったわ」


 俺の呟きにリーゼとサーシャが答える。そうだよな、吸血鬼が魔物まで眷属化できたら先代魔王より強いよな。


「…………」


「どうしたローラ? 思い当たることでもあるのか?」


 灰色の飛竜を見てから黙り込み何か考えているローラに声をかけると、彼女は視線を俺に向け口を開いた。


「あの灰色の胴体を見て思い出したのだけど、昔に父から吸血鬼の中に魔物を眷属化できる一族がいると聞いたことがあったわ。父が言うには先代魔王の魔物を隷属化する魔法を研究し、魔物を眷属化することに成功した一族がいるらしいの。代々その一族の当主がその技法を受け継いでいると言ってたわ。ただ、魔物を眷属化させてそれを維持するにはかなりの魔力が必要なうえ、数も揃えられないことから教会も気にしていなかったようなの」


「そんな一族が……不死の飛竜三体ってだけでも魔国以外の国には十分脅威だと思うけどな」


 竜王から聞いた話では、勇者に倒された先代の魔王は魔物を隷属させる魔法を持っていた。この魔法は特殊個体である魔王にしか使えない特殊魔法らしく、魔王と同じ種族であるデーモン族であっても使うことができなかったそうだ。


 ローラの父親が言うにはその魔法を研究した吸血鬼一族がいて、吸血鬼の眷属化の能力に取り込み魔物も眷属化することができるようになっていることなのだろう。それがBランクの飛竜。それも眷属化して不死になったのが三体もだ。十分脅威だと思うが、ローラの父親や教会はなんでスルーしたんだ?


「飛竜を眷属化してるなんて聞いてなかったもの。たいていがオークやオーガクラスだと聞いていたわ」


「最高でCランクの魔物か、確かにそれが数体程度ならそこまで脅威ではないか。てことはかなり魔力の高い一族の当主が現れたってことか? ……っと、来たな」


 ローラの返答に思考を巡らせていると、ゆっくりとこちらに向かって来ていた飛竜が正門から100メートルほど離れた街道に降り立った。そして執事服とメイド服を着た二人の吸血鬼らしき男女と彼らが乗る飛竜を置いて、1頭の飛竜だけが5メートルほどの高度を維持しながらこっちへと飛んできた。


「まだ撃つな! 相手に今のところ敵意はない!」


 俺は首からぶら下げている魔物探知機に視線を送り青い点が点滅していないことを確認したあと、門の上で機関銃を構えている十数人のダークエルフへと攻撃をしないよう命令した。


 とは言っても相手は飛竜に乗った吸血鬼だ。正門の上からダークエルフたちが緊張している気配が伝わってくる。


 その吸血鬼の乗る飛竜が徐々に近づいて来て、橋の上に着地すると飛竜は首を地面へペタリとつけた。すると背に乗っていた者が見え、俺はその姿に少し呆気に取られた。


 飛竜の背には3人掛けの豪奢なソファが設置されており、そこに真っ赤なドレス姿の吸血鬼の女性が寝そべりながらキセルをふかしていたからだ。


「フム……黒髪の半魔か。その方が我の妹とその婚約者を瞬殺した者の一人か?」


「何週間か前に力尽くでここを奪おうとしたジークなんちゃらとかいう吸血鬼の男と、一緒にいた女を撃退したのは俺だ。貴女はあの時の女の姉ということか?」


 確かハニーなんとかっていう甘そうな家名だった気がする。


「うむ、我こそハニーサックル家当主。セイラン・ハニーサックルだ」


「俺はこの女神の街の町長の藤原涼介だ。姓が藤原で名が涼介となる」


 寝そべりながら自己紹介をする女に、白い息を吐きながら答える。


 やたらと偉そうなのは当主だからか。てことは俺は当主の妹を瞬殺したってことか。やっぱり報復に来た? でも魔物探知機は点滅してないんだよな。


 しかし凄い美人だな。周囲に積もっている雪とまるで同化しそうなほど真っ白な髪と肌。見事な逆三角形の輪郭にエルフ並に整った顔立ち。真っ赤なドレスの胸元からは、真っ白な大きな胸がこぼれ落ちそうだ。寝そべっているからこそわかる、キュッとしまった細い腰から尻のラインも完璧だ。完璧なんだが……この真冬に露出の多いドレス一枚とか寒くないんだろうか?


「フム、リョウスケと申すか。妹は何があったのかわからないまま木っ端微塵にされたと言っておったが、吸血鬼二人を瞬殺するとは……その方は強い男のようじゃ」


「こんなところで宿屋をやれるくらいにはな」


 どうやら俺一人で瞬殺したと誤解しているようだ。まったく手を出していないんだけどな。まあ俺が犯人だと思ってもらった方が、都合が良いからわざわざ本当のことを言うつもりはないが。


「フフッ、そうか。強いのか。まだまだ未熟者とはいえ吸血鬼二人を瞬殺するくらいじゃ、そうであろうのう。どうじゃ? 我の眷属にならぬか? 我は強い眷属を集めるのが趣味での。我の眷属になれば永遠に生きられるし、働きが良ければ特別に我が踏みつけてやってもよいぞ?」


「お断りだ。永遠の命に興味はないし、踏みつけられて喜ぶ趣味もない」


 俺をクロースと一緒にするな。最近ローラの言葉責めに興奮している自覚はあるが、それでも踏みつけられて悦ぶドMなどではない。


 しかし詫びじゃなくて強い者を眷属化しに来たってわけか。


「ほう、ハニーサックル家当主である我の誘いを断るか」


 セイランがソファから身を起こし、口元からは牙を覗かせ獰猛な笑みを浮かべた。


「断ったからどうだってんだ?」


 やっぱコイツも妹と同じか。


「力ずくで眷属にしてやろうかの」


「妹の二の舞になりたいなら好きにしろ。肉片の一つくらいは残してやるから蝙蝠になってキーキー言いながら失せろ」


 両手から真っ赤なマニキュアで塗られた爪を伸ばし見下ろすセイランの後方から、執事服とメイド服を着た吸血鬼の乗る二体の飛竜が飛び立ちこちらへと向かって来る。


 そんな彼女に不適な笑みを返しながら、俺は胸から取り出したペンをペングニルへ変形させ構えた。


 頭上からはガチャガチャと、機関銃の装填ハンドルを引く音が次々と聞こえて来る。俺が合図をすれば前回のように一斉射撃が始まるだろう。


 背後からはサーシャが女神の祝福のギフトを発動した際の黄金の光が周囲を照らし、それと同時に体の奥から力がみなぎってくるのを感じる。隣にいるリーゼに視線を送ると彼女の足元では風が渦巻き積もっていた雪が舞い、ローラは手に氷を纏わせ微笑んでいた。


 どうやらセイランは機関銃のことを知らないようだし、お付きの執事とメイドと一緒にリーゼの精霊魔法で動きを止めて、機関銃で蜂の巣にしてローラのギフトで凍らせてペングニルで粉砕ってとこかな。と、そんなことを考えながら俺はセイランへと視線を戻すとセイランの表情は一変していた。


 先ほどまでの獰猛な表情はどこへやら、驚愕の表情を浮かべ固まっている。彼女の後ろからこちらに向かって来ていた吸血鬼たちも動きを止め、乗っていた飛竜と共に空中で停止している。


「なんだ? かかってこないのか?」


 いつまでも動く気配の無いセイランへ声を掛ける。


「そ……その槍」


「ん? この槍がどうかしたか?」


「そ、その光……竜王の持つ青龍戟と同じ、いやそれ以上に強く光るその青白い光はまさか……」


「なんだ、神器を知ってるのか。そうだ、これは神器だ。だからどうした? 力ずくで眷属にするんだろ?」


 竜人族と敵対していた長寿というか不死の種族の、その十二だか十三ある一族の当主なら知っていて当然か。竜王も勇者がいなくなった後に、調子に乗り始めた一部のデーモンや吸血鬼を青龍戟を手に討伐したことがあると言ってたしな。


「ま、待て! とりあえず待て! な、なぜ神器をその方が持っている!? ハッ!? そ、その黒髪は魔人とのものではなく……まさかお主!」


「さて、どうだろうな」


 勇者だって言ってもいいんだが、そうすると流れ的になんのために駄女神から遣わされたって話になるしな。毎度毎度駄女神の家を作るためですって言って沈黙されるのも辛い。あの『え? そんなことで?』っていう空気は本当に辛い。ギフトの名前を言うのはもっと辛い。なのでここは想像にお任せすることにしよう。


 しかしさっきまでキセルをふかして余裕たっぷりだったってのに、神器を見た途端に凄い狼狽っぷりだな。確かに強力な武器ではあるが、そこまで狼狽するほどか?


「間違いなく勇者……だがなんの為に……しかしあの光は間違いない……青龍戟と同じ……しかも青龍戟と比較にならないほど強い光……あんな物で貫かれれば一撃で消滅……祖父と同じように我も……」


「ねえ貴女。何をぶつぶつ言ってるの? もう夜も遅いのよ。やるのかやらないのかハッキリして欲しいわね」


「そうだな。寒いし早く風呂に入りたい。とっとと終わらせるか」


 やる気満々だったのにぶつぶつ言い始めたセイランにイラついたのか、ローラの辛辣な言葉に俺も乗っかりペングニルを投擲する構えを取った。


 セイランが戦意喪失をしているのは分かっていたが、真冬で外は寒いんだよ。雪だって積もってるんだ。早く風呂で身も心も股間も温まりたい。


「!? ま、待て! 我に敵意はない! こ、今回は妹が迷惑をかけたことを詫びに来たのじゃ! す、すまなかった! 妹とジークスルー家のあの男は我が折檻しておく! ああ、詫びの品を忘れていた。これは失礼をしたの。取りに帰って改めて詫びに来るとしよう。では今日のところはこの辺りで、夜遅くに迷惑をかけた。失礼する!」


 セイランは勢いよく飛竜から飛び降り橋の向こう側で軽く頭を下げながら詫びたあと、そのまま飛竜の背に設置してあるソファに飛び乗り一緒に来ていた執事とメイドのまたがる飛竜と共に去っていった。


「なんだったんだアレ?」


「さあ? 神器によほどトラウマがあったんじゃないの?」


 ものすごい速度で去っていくセイランたちの後ろ姿を眺めながら、ため息混じりにつぶやくとリーゼがそう返して来た。


「確かにリョウスケの神器を見て一気に態度が変わったわね」


 サーシャも剣を納めながら話に加わる。


「神器も聖水と似たような効果があるのかしら?」


「ん? 吸血鬼に聖水は効かないと聞いたぞ?」


 聖水を掛けたら消滅とかしないかと竜王に聞いたら笑ってたし。


 するとローラがリーゼと俺の会話に入ってきた。


「確かに吸血鬼に聖水を掛けても効果はないけど、切り刻んだ肉体が修復する速度を遅くすることはできるわ。まあそれも高位の吸血鬼にはあまり効かないみたいだけど。でも神器は女神から直接もたらされた武器だし、聖水より強力な効果があっても不思議ではないわ」


「ああ、そういうことか」


 なるほど。聖水をただ掛けても効果はないが、不死の特性を妨害するくらいはできるのか。んで神器は聖水と同じ駄女神が作った物で、いくらでも湧き出てくる聖水と違って一点物だ。そりゃ聖水なんかよりは不死の特性を妨害する効果は高いだろう。それも初期化された青龍戟と違って、何度も進化をしたペングニルだ。さっきセイランがボソッと一撃で消滅とか言ってたのが聞こえたけど、もしかしたらこの事なのかもしれないな。


 それならあの態度も納得だ。一撃で消滅させられるかもしれない武器を持っている相手と戦う気になんかなれるはずがない。妹をペングニルで攻撃してたら危なかったな。


「逃げたならどうでもいいわ。帰ってお風呂に入りましょう。その後は……ね? フフッ」


「そうね。寒いし早くお風呂に入りたいわ。戻りましょ」


「ああそうだな。警備隊のみんなご苦労さん! もう解散していいぞ!」


 身を寄せ胸を押し付けてくるローラとリーゼに頷いたあと、門の上で待機している警備兵たちに解散を命じた。そして恋人たちと一緒に部屋へと戻り、繁栄の秘薬を飲んだあと露天風呂とベッドで朝まで愛し合った。



 そして翌日の昼。


 フジワラの街に戻るためマンションの地下駐車場からグラディエーターに乗り外に出ると、警備隊のダークエルフの青年に呼び止められた。


「どうした?」


 運転席の窓を開け青年に何があったのか確認すると、どうもセイランがまたやって来て俺に合わせて欲しいと言っているらしい。一応古いハンター証を提示されたが昨日の今日ということもあり中に入れていないそうだ。


 なんだ? 何か言い忘れたことでもあるのか?


 そう思いつつ俺は正門まで車を走らせたあと降りて、サーシャたちを連れて門の外まで徒歩で向かった。


 するとそこには三頭の飛竜を背後に従え、昨夜と違い紫色のドレスを身に纏ったセイランと執事とメイド服姿の吸血鬼の姿があった。執事とメイド服の吸血鬼は俺の姿を見るなり深く頭を下げ、セイランは笑みを浮かべながら歩み寄って来た。


「リョウスケ殿、昨夜は失礼した。これは我が妹の粗相の詫びの品じゃ、受け取って欲しい」


「あ、ああ……まさかこれを取りに?」


 昨夜国に帰って詫びの品を用意してすぐに戻って来たということか?


「うむ、こういったことは早い方が良いからの。どうかこれでハニーサックル家の一族のしたことは許して欲しい」


「いや、まあこっちも微塵切りにしたし、昨夜はちゃんと謝罪も受けたから気にしてないけど。セイランさんが気にするというならこれで和解ということで」


 俺は差し出された包みを受け取り謝罪を受け入れることを伝えた。


「セイランと呼んで欲しい」


「そうか、じゃあそう呼ばせてもらうよ。俺のこともリョウスケでいい」


「うむ、わかったリョウスケ。それでの、我も付き合いのある支族の当主たちには伝えるが、今後十二支族の愚か者がこの街に再びちょっかいをかける可能性もゼロではない。その度に吸血鬼族とリョウスケとの間に不幸なすれ違いがあってはいかぬと思うのじゃ」


「まあ、こんなところに宿屋があれば時間の問題だろうな」


 十二支族ってのは横の繋がりが薄いのか? よくわからんが、確かにセイランの妹みたいな吸血鬼がまた来るのも面倒だ。うちの宿は設備も酒も特別だからな。俺が毎日ここにいるわけじゃない以上、俺がいない時に他の吸血鬼とモメてダークエルフの警備隊に犠牲者が出る可能性もある。


「そうであろう。そこで我をリョウスケの側において欲しい。さすれば他の支族の者が来ても平和的に追い返すこともできよう」


「セイランを? それなら別に当主自らが俺の側にいなくても、セイランの一族から誰かを女神の街に常駐させてくれればそれで済む話だろ? トラブル防止のための人員なら宿泊料を安くするぞ?」


「当主自ら対応するからこそ相手も矛を収めるというものじゃ。我のことは気にせずとも良い。吸血鬼族にこの街のことと、我が目を光らせていることが広まるまでの間じゃ」


「うーん、しかしなぁ」


 なんか裏がありそうなんだよな。支族間での政争とか? そのために俺を取り込もうとしている? 


「誓ってリョウスケに不利益が及ぶようなことはない。我が側にいたいのは、吸血鬼族とリョウスケを不幸な誤解から敵対させぬ為なのじゃ」


「どんだけ跳ねっ返りがいるんだよ」


「恥ずかしながら吸血鬼は少々自尊心の高い者が多くての。一族の長以外の命令はなかなか聞かぬのじゃ」


「でもそれならセイランがこの街に滞在してくれればいいんじゃないか?」


「いや、それでは困る。吸血鬼には赤い蝙蝠という闇組織を運営してる者もおるゆえな。支族から追い出された半端者の集まりじゃが、常にリョウスケの近くにいてそういった者たちから我が身を挺して守りたいのじゃ」


「闇組織って、暗殺とかか」


 暗殺されるほど恨まれて……はいるな。寺送りになってる魔王の息子のバガンとか、最近軟禁状態から逆転して皇帝代理になったルシオンとか。


 街の防衛は万全だし、魔物探知機もあるし別に怖くはないんだよな。でもセイランとしてはそういった輩が俺に来たことで、吸血鬼全体と敵対されたくはないと。身を挺して守ることで吸血鬼支族の潔白を証明したいということなのだろう。言ってることはわかる。わかるんだけど、そこまでして俺の側にいたい理由はなんだ? やっぱ他の支族との政争の道具か? さっきの謝罪も妹と一緒にいたジクスルー家に関しては許して欲しいとは言ってなかったしな。あくまでハニーサック家だけだ。そもそもハニートラップを彷彿とさせる名前自体が怪しい。本人もめちゃくちゃ美人だしこれは罠だな。


 政争の道具にされるのはごめんだ。側に置くことは断るか。


「それにじゃ、我を側におけば我の眷属である飛竜を使い放題じゃぞ? 確かここから南にも街があると聞いた。飛竜に乗ればすぐに着くぞ?」


「マジか! これからよろしく頼むセイラン! 仲良くしような!」


「え? あ、ああよろしくの」


 俺はセイランの提案にそれまで浮かんでいた疑念を全て捨て去り、満面の笑みを浮かべ彼女の両手を握った。


 政争の道具にされようが、関わらなければいいだけだしな。ハニートラップだって一緒に酒を飲まなければいい話だ。それよりも今はフジワラの街と女神の街に何かあった時にすぐに駆けつけることのできる足を得ることの方が重要だ。


 しかしまさか飛竜を複数頭ゲットできるとはな。セイランとは是非仲良くしていきたいものだ。





 ※※※※※※※



 作者より


 いつも誤字報告ありがとうございます。助かっています。


 くろっぷさんより今度はクロースのファンアートを頂けました。ゴーレムを操るクロースが可愛かったです。是非見てみてください。


 https://kakuyomu.jp/users/shiba-no-sakura/news/16817330650783194421

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