第25話 強制退去とバス



 ピピピッ


 ピピピッ


「う……ん……」


 あ〜朝か


 俺は目覚ましに手を伸ばし止めたあと身を起こした。


 昨夜はサーシャとリーゼの部屋に泊まっており、ここはリーゼの部屋だ。エルフらしくこの世界の観葉植物が部屋の至る所に置いてある。森の中なのに部屋の中にまで植物を置くのかと前に聞いたら、精霊がその方が喜ぶかららしい。そういえばクロースの部屋の床はフローリングじゃなく、コンクリート剥き出しだったな。アレは土の精霊が喜ぶからそうしていたのかと思い納得した。


 目覚ましの音と俺が身を起こしたことに気がついたのか、隣で寝ていたリーゼも目を覚まし目を擦りながら起き上がった。


「……おはようリョウ。ん〜」


「おはようリーゼ」


 全裸で伸びをするリーゼに挨拶を返したあと軽くキスをする。するとリーゼの視線が俺の下半身に注がれた。


「あら、リョウ。昨夜あんなにシタのに今日も朝から元気ね」


「生理現象だから夜にしたのとはまた別なんだよ」


 我ながらよく勃つなとは思う。


「でもそのままじゃ着替えにくいでしょ? 抜いとく?」


「あ、ああ頼むよ」


 俺がそう言うとリーゼは嬉しそうに布団の中に潜り込み、元気になっている俺のペニグルを口に含んだ。


 そして日に日に上手くなって行くリーゼの舌技を堪能しつつ、彼女の口の中に朝の一番搾りを解き放った。


 それからスッキリした俺は裸のまま、二人で寒い寒いと言いながら浴室に早足で向かいシャワーを浴びた。


 そしてシャワーを浴びた後、バスローブ姿でリビングに向かうとサーシャがコーヒーを飲んで待っていた。彼女はすでに運動用の服に着替え終えている。


「おはようリョウスケ、リーゼ。もう時間よ」


「おはようサーシャ。すぐに着替えてくる」


「あら、もうそんな時間? もう少し待っててね」


 サーシャに言われリビングの時計を見ると、すでに朝の訓練の時間だった。


 少しゆっくりし過ぎたなと反省した俺は、サーシャたちの部屋に置きっぱなしにしてある運動用の服に着替えた。そして彼女たちと一緒に玄関を出てエレベーターで1階へと向かった。


「リョウスケ、またアルケイン夫婦がいるわよ」


「ん? あ、本当だ。また夫婦喧嘩したのかよ」


 エレベーターを降りてエントランスを歩いていると、入居者同士の談話のために置いてあったソファーに1組のカップルが寝ていた。そのうち男の顔は腫れ上がり、顔には血の跡が残っている。


 この夫婦は王国出身のCランクのハンターで、入居者の間ではよくエントランスのソファーで寝ていることで有名だ。と言っても部屋を借りるお金がないわけじゃ無く、ちゃんと1部屋借りて二人で住んでいる。


 ではなぜこの夫婦だけエントランスで寝ているかというと、部屋をマンションによって強制退去させられたからだ。


 そう、俺や管理人がじゃない。マンションによってだ。


 先日10階建てのマンションが建てれるようになった時、マンションの管理規約や入居者使用細則という項目が追加された。俺はとりあえずそこに騒音禁止やら武器の使用禁止などマンションの決まりを書き込んだんだが、実はそこに書かれた決まり事を破ると部屋から強制退去させられるんだ。


 この規約と細則は10階建てのマンションだけではなく、ヘヤツクで建てた全ての建物と部屋に適用される。そのため毎日誰かしらが部屋から追い出されている。そして一度追い出されたら、登録されている管理人の許しを得ないと再度部屋には入れない。なので最初の頃は管理人として登録しているダリアとエレナ。そしてハンター管理部のレフとベラ以外の者たちが毎朝建物を回って説教して回って忙しそうにしていた。レフとベラを管理人にしていないのは二人もよく部屋を強制退去させられ、寮として与えている春蘭マンションのエントランスで寝ているからだ。


 強制退去の原因のほとんどが深夜に有線の音を最大にして聴いていたり踊ったりなどの騒音や、仲間内やカップルでの喧嘩による騒音と喧嘩中に部屋の設備を破損したことが原因だ。ちなみにマンションの建築者である俺にもペナルティを解除する権限はあるが、ダリアたちの仕事を取ることになるので他のマンションや建物を回ったりはせず、朝の訓練に行く時にエントランスにいる者たちだけにペナルティの解除をしている。


 この規則を破ったら強制退去という機能は管理者としては便利な機能だなと思うが、もう12月も終わりに近いこの真冬に部屋着のまま外に出される入居者はたまったもんじゃ無いだろう。マンションならエントランスにソファーもあるし暖房も効いているからいいが、倉庫型だと冷たい床しかないし暖房も無いので下手したら凍え死ぬ。なので寒くなってからはマンション以外の建物には寝袋と毛布を設置するようにしている。まあそれでも暖かい部屋の中に比べたら寒いことに違いないし、朝になると他の入居者に笑い者にもされる。


 そのせいか夜中に部屋で騒ぐ者は激減し、普通に生活しているハンターたちからは静かな夜を迎えられるようになったと喜ばれている。


 ただそれでも男女間の痴話喧嘩だけはどうしようもなく、特にこのアルケインとベスタ夫婦は頻繁に喧嘩をしており、部屋の契約期間の3分の1の夜をエントランスで寝泊まりしている。もうエントランスに住めばいいんじゃ無いかと思うくらいだ。そんな頻繁に夫婦喧嘩をしている二人だが別れる気配はまったくない。今も寒いのもあるだろうが、強制退去させられるほどの喧嘩をした後だというのにお互い抱き合って寝てるし。


「アルケインさんにベスタさん、起きてくれ」


 俺は顔を腫らしながらも幸せそうな寝顔で抱き合っているアルケインとベスタの肩を軽く叩いて起こした。


「んあ? ああ……朝か……イテテテ……待ってたぜリョウスケ町長」


「ん……おはよ町長……寒い……もう戻っていい?」


 ベスタに殴られたのだろう顔の痛みに眉を顰めるアルケインがいつもと同じ台詞を吐き、朝が弱く寝ぼけ眼のままのベスタは俺に部屋に戻る許可を求めてきた。


「ああいいよ。今日からパーティメンバーの仲間たちと聖地を目指すんだろ? 早いとこ部屋に戻って準備しないとバスの時間に間に合わなくなるぞ」


 そんな二人に俺は苦笑しながら部屋に戻る許可を出した。アルケインがリーダーをしているパーティは、Bランク《ゴールドランク》になるために今日からBランクの魔物がいるエリアで狩りをする。そのためダークエルフが運転する聖地行きのバスに途中まで乗る予定らしい。


 バスと言ってもハイエースのワンボックスカーだ。その前後を物資を積んだ護衛のダークエルフが乗るジープが一緒に走る形で、フジワラの街と聖地の宿場町を1日1回往復している。途中Bランクの魔物とCランクの魔物の境目のエリアに駅を作り、そこで以前俺が作った部屋で休憩することになっている。


 バスの乗客は聖地の宿場町に向かうためにフジワラの街に集まるゴールドランクのハンターたちと、聖地の宿場町を拠点として狩りをする力がまだないが、Bランクの魔物を狩ってゴールドランク《Bランク》になりたいハンターたちだ。ゴールドランクを目指すハンターたちは途中の駅で降り、夕方に聖地の宿場町から戻ってくる車に乗ってフジワラの街に戻ってくる。そのため開門と同時にバスは出発するのいで朝が早い。


 それでも森で野営することなく日帰りでBランクの魔物がいるエリアで狩りができるということで、フジワラの街で滞在するシルバーランク《Cランク》のハンターたちにバスは大人気だ。利用者の中にはすでにBランクの魔物を安定して狩り、ゴールドランクに昇格したパーティもいる。もちろんそのパーティは聖地にあるマンションに入居済みだ。


 アルケインのパーティもギルドランクの昇格を目指す者たちで、今日が初めてのBランクの魔物との戦いとなる。心配だが他にも数パーティが同じように駅の周囲で狩りをするので、万が一の時があっても発煙筒を使用すれば助けが来るだろう。


「あーそうだった。ほら、急ぐぞベスタ」


「あい……」


 バズの時間に待ち合わなくなるぞという俺の言葉にアルケインは急いで立ち上がり、まだ眠そうなベスタを背負ってエレベーターへと駆けていった。


 そんななんだかんだ言って仲の良いアルケイン夫妻の背を見送りながら、俺たちはお互いに顔を合わせて苦笑した。


「ふふっ、昇格したらあの二人も見れなくなるわね」


「私たちが聖地のマンションの別荘に行った時にエントランスでまた会えるわよ」


「あはは、確かにあっちでも朝にエントランスで会いそうだな」


 レフとベラもそうだが、喧嘩するほど仲が良いということなんだろう。


 アルケイン夫妻を見送った俺たちはエントランスからマンションの外に出る。外は冬ということでまだ陽は登っていないが、マンションの外壁沿いに設置されている外灯により道は明るい。そんな中、隣の春蘭マンションの1階店舗はすでに電気が点いており、ブラインド越しに中で人が動いていてる影が見える。軽食喫茶の『プリンセスサーシャ』だ。


 サーシャが帝国のハンターたちから買い取った奴隷の女の子たちは今では健康的な肉体となり、毎日楽しそうに働いている。健康になったからか結構可愛い子も何人かいて、彼女たちを手放したハンターたちが買い戻したいとサーシャに頭を下げている姿をよく見かける。まあサーシャは散々あの子たちを酷い扱いしておいてふざけんじゃないわよ! って怒って断ってるけど。


 そんな可愛い女の子たちが俺の考えたミニスカメイド服で接客する店は毎朝満席で、昼から夕方は彼女たちが作ったケーキや自販機のコーヒーやジュースを飲みに来るお客さんに事欠かない。人も育ってきたので、今じゃサーシャが店にいなくても問題なく運営ができているそうだ。当然売り上げも順調で、二号店を聖地の宿場町に出すべくサーシャがハンターたちから奴隷の買取りを始めている。サーシャは王国のように人権の無い帝国の奴隷への扱いに怒っているが、こればかりはな。停戦したとはいえ帝国は仮想敵国のままなので、俺が口を出せることでも無い。病院にも帝国貴族は身分を隠さないと来れないくらいだし。


 現在皇帝はルシオンの代わりに温厚な性格の第二皇子を次期皇帝にするべく色々と動いているらしいので、第二皇子が皇帝になったら帝国と仲良くやれる可能性がある。その時に奴隷への扱いを良くするようお願いすることができるかもしれない。それまでは帝国のハンターの奴隷に手を差し伸べるくらいしかできないだろう。


 そんなことを考えながら春蘭マンションの前を通り過ぎ、街の北の端にある訓練場に着くとすでにシュンランやローラなど俺の恋人たちが訓練を始めていた。俺とサーシャとリーゼは訓練場の倉庫から木槍や木剣を取り出し、その中に混ざり朝の訓練を始めるのだった。



 小一時間ほど訓練をして軽く汗をかいた俺は、タオルを持って待っていたクリスからタオルを受け取り汗を拭いて彼女に渡す。そして顔を赤らめながらタオルを受け取って急いで帰っていく彼女の後ろ姿に首を傾げつつ、木槍を倉庫に戻して恋人たちと一緒に訓練場を後にした。


 マンションに戻ると各自がそれぞれの部屋に戻り、シャワーで汗を流してから俺の部屋のリビングに集まった。ローラは神殿の部屋には戻らずサーシャの部屋でシャワーを浴びている。そして皆で朝食を摂りそれぞれが自分の仕事へと向かった。


 俺はクリスを迎えに行った後に病院に一緒に治療を。シュンランとミレイアは各マンションや建物の巡回および清掃に。サーシャとリーゼはプリンセスサーシャで朝の弁当販売の手伝いをしに行き、その後にローラと一緒にハマーに乗って森をドライブというか巡回したりしている。


 クロースは最近忙しく、三日前に到着したダークエルフの残りの里の者たちの世話と教育のためにダークエルフ街区に丸一日いる。聖地の宿場町に100人ほど精鋭とマンションの管理要員を送ったが、それでも3千人近く残っている。この大陸にいるダークエルフのほぼ全てがこの街に移住してきたことになる。そのため準備はしていたとはいえ、ダークエルフ街区は倉庫型の住居で埋め尽くされていおり人でいっぱいだ。まあこれは一時的なものだ。精霊の森が近くなる聖地への移住希望者は多いので、今回移住してきた者たちの中で若い者は順次移住させていこうかと思う。


 今回移住してきた者たちは前回移住してきたフェルノールの里長のナルースさんたち同様、以前からフジワラの街に移住を希望していたこともあって皆非常に腰が低い。そのおかげで今のところトラブルもあまりなく過ごしてもらえている。


 とは言ってもあまりないというだけで、多少のトラブルはある。まあ大体がゴールドランク《Bランク》ハンターで実力と自信のある一部の若手なんだが。原因は大体が先住民だけマンションに住んでいるのが気に食わないというやっかみだ。自分たちの方が街のために役に立つと。ハンターでも無い者が、恋人(逆夜這いの被害者でもある)と一緒に良い家に住んでいるのが気に食わないらしい。ダークエルフは基本的に温厚だが、まあ3千人もいれば中にはこういうのも少なからずいる。大抵が若く強いダークエルフの男なんだけど。


 そんな時はクロースが有無を言わず瞬時に鉄人1号を作りあげ鉄拳制裁をしたあと、『先住民たちはこの街を守るために王国と帝国軍1万を相手に戦ったのだ! その報酬であるマンションに住めないからと文句を言うのなら、今すぐ帝国に行って1万の兵を殺してこい! それができないなら文句を言うな! 』と言うと誰も文句を言わなくなったらしい。いや、ツッコミどころが多すぎてその話を聞いた時は頭を抱えたんだけど。停戦協定結んだ帝国に攻め入って来いってやめてくれないかね?


 それとそんなクロースの実力というか膨大な魔力量と巨大なアイアンゴーレムを瞬時に作れる技量を目の当たりにして、新しく合流した里の長たちは皆が顎が外れるんじゃ無いかって顔でクロースを見て驚いていたらしい。


 すでにダークエルフの中では戦妃クロースと呼ばれているそうだ。エルフの戦妃だったエレンミア様のイメージが壊れるからやめて欲しいとリーゼは眉を顰めていたけど。確かに戦妃がトリガーハッピーのドMエロフは外聞が悪いよな。しかもその戦妃は三角木馬をダークエルフの爺さんに作らせ、この間お仕置き部屋に運んできたんだが俺にどうしろと……


 まあそんな感じで年内は新しくやって来たダークエルフたちに街の生活に慣れてもらうのと、彼らに車の運転の教習に病院での治療と忙しい。シュンラン、ミレイア、クロースはもうすぐレベル40になるし、サーシャたち新しい恋人たちもサーシャ以外はもうすぐレベルが30になりそうだ。聖光教会に動きがなければ、来月の13月末は聖地の別荘へとみんなで狩りに行って全員をレベル30以上にしたいと思う。


 特にサーシャだな。このあいだ彼女がレベル20になった時に、ギフト『女神の祝福』での身体能力と精神力がまた上がった。レベル10の時に1.2倍から1.5倍になったので、レベル20で1.75倍とかかと思ったんだが、地上げ屋を限界まで使って計測してみたところどうも2倍になっている感じがした。レベル10以降は0.25刻みじゃなく、0.5刻みなんじゃないかと考えている。


 というわけで現在レベル22の彼女のギフトの効果は2倍だ。そう、身体能力と精神力が2倍だ。しかもギフトの有効範囲内がレベル10で10メートル、レベル20で20メートルと10メートルずつ増えている。正直言ってサーシャのギフトは相当なチートだ。特に軍対軍で戦う時はこれ以上ないくらいに有効だ。


 そりゃいくら勇者がいたとはいえ、人魔戦争で魔族相手に人族が戦えるわけだ。例えばアルメラ王国の元王女であり戦妃であったティファ・アルメラのレベルが50とかだったなら、50メートルの範囲の味方の身体能力と精神力を3.5倍にできたわけだしな。竜人もその時は味方だったわけだし、そりゃ戦争に勝つわ。ただでさえ強い竜人の身体能力が3.5倍とか。勇者必要だったか? って感じだ。もうシュンランとサーシャが勇者と賢者でいいんじゃなかろうか。


 なんかサーシャがいればAランクの魔物のエリアにも行けそうな気がする。それに精霊の森に巣食う、精霊喰いと呼ばれているSランクに近いらしいドラゴンにも早い段階で勝てるようになるかもしれない。全てはサーシャのレベルにかかっていると言ってもいいだろう。


 本人もエッチの後のデレモードの時に、早くオパの実を手に入れて挟んであげたいと言ってくれているし。恋人の願いは叶えるのが男の甲斐性というものだろう。決して大きくなったサーシャとリーゼの胸に挟まれたいと思っているわけじゃない。


 これは年末は聖地でレベル上げ合宿だな。勇者シュンランパーティの底上げのために頑張らねば!

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