第18話 教会の動向とマンション設計



 ——アルメラ王国首都 聖光教会本部 教皇 ストロネーク・コニッシュ——




「フジワラの街が魔石を買い集めていると? それは何のためにです?」


 王国と帝国の状況の説明にやってきたミッテルト枢機卿へ、私は眉間に眉を寄せつつフジワラの街の奇怪な行動の真意を訪ねた。


「恐らくは街の宿舎に置いてあるという魔道具を動かすためではないかと。リョウスケという男は魔導技師でもあるようですから、新しい魔道具を開発するのにも使っているのではと言われています」


「そのために白金貨何十枚にも及ぶ魔石を、しかもCランク魔石ばかりを集めるものなのですか?」


「私は魔導技術には詳しくないのでなんとも言えませんが、大量に集めていることからあの街にある魔道具は性能が良い代わりに相当魔石を食うのではないかと」


「なるほど。ふむ、まあいいでしょう。それよりも王国と帝国のフジワラの街への出兵は何時ごろになる予定ですか? もう10月です。年内には街の占領と珍しいと言われる魔道具の回収。そして周囲の魔物の駆除を終わらせて欲しいのですが」


「そ、それについてはその……王国も帝国も腰が重く……帝国は敗戦の後始末に忙しくてすぐには難しいと。王国は貴族会議にかけるから時間が欲しいとのことでして」


「もうあれから2ヶ月も経っているのですよ? まだ帝国は後始末が終わっていないのですか? 王国も聖光教会からの要請を貴族会議にかけるなど、教会を軽視しているのではないですか?」


「は、はい。私もそう言ったのですが、帝国皇帝は体調を崩しているようで会ってももらえず。アルメラ王も王妃に関しては帝国と共同で聖戦を行うのであれば、いくら教会の要請とはいえ貴族たちの了承も無しにはできないとの一点張りでして」


「皇帝が体調を崩したなど聞いていませんよ?」


「第一皇子であり跡継ぎであったルシオン皇子を幽閉したことへの心労が祟ったのではないかと言われています」


「あの皇帝が心労ですか……にわかには信じられませんが、雷帝と呼ばれたあの男も人の親であったということですか。王国はそのルシオンが最近国境を攻めたことが仇になったのやもしれませんね」


 王国貴族の帝国への不信が貴族の間で広まってしまったようですね。私の読みが甘かったようです。あまり時間を置きたくなかったのですが……帝国四公の一家であり敬虔な信者であるフルベルク公爵にルシオン皇子に接触をするよう頼みましたが、幽閉に近い状態のために未だ会えていないようですし。ここは焦らず聖戦は来年へ持ち越しにした方がいいかもしれません。


「いいでしょう。王国には引き続き圧力をかけてください。帝国の皇帝の体調が戻り次第すぐ動けるようにしてください。最悪獣王国と王国で攻めさせてもいいかもしれません。獣王国にその旨を伝えてください。あそこには難病を患った姫がいたはずです。信仰心を示せば私自ら治癒を掛けてあげても良いと伝えなさい。きっと飛びついてくるでしょう」


 私に難病を治す力はまだありませんが、その症状を緩和させることはできます。その効果は獣王国に派遣した大司教よりも当然高いです。獣の王も涙を流して喜ぶことでしょう。


 さて、私ももっと女神様に祈りを捧げ精神力も鍛えねばなりませんね。そしていずれは700年前に聖女が到達したと言われている、治癒のギフトの派生である『完全治癒』を女神様より授かりたいものです。完全治癒のギフトさえあれば、あらゆる病気を治すことが可能になると伝え聞いています。獣王国の姫が患っている難病でさえもです。そうなれば信仰心がいまいち薄い帝国も、信仰心が全くない魔国でさえも聖光教会の、いえ私の前にひれ伏すでしょう。


 しかしそんな奇跡の力を授かった聖女を己の立場を守るために殺してしまい、さらには勇者の怒りを買って自らの命まで失うとは……700年前の教皇はなんと愚かだったのでしょう。まああの時代は聖光教会の力は強かったですからね。今のように信仰心が薄くなってきている状況であれば、聖女は殺さず上手く利用したでしょう。


 これも時代の差というものですね。



 ♢♦︎♢




 募集図面のバージョンアップにより、10階建てのマンションを建てられるようになってから二週間が経ち10月になった頃。


 帝国のギルドに足もとを見られながらもなんとか魔石を集め終えた俺は、恋人たちと相談しながら募集図面に間取りや設備を入力していった。


「ぐっ……Cランク魔石が18000個もするのか」


18000個ということは9億円か。今住んでるマンションを売却した金額を引いても7億円。3億以上したマンションを下取りに出したってのに、2億円しか戻って来ない。7億って、5階建てを2棟建てれるぞこれ。


 この10階建てのマンションは第二フジワラマンションをヘヤツク内で売却し、その跡地に建てるつもりだ。そのため現在第二フジワラマンションは20メートルの壁で囲んであり、10月になったので住んでいた入居者も一度契約切れになり各故郷に一度帰っている。その後は入居を一時的に断っている状態だ。現在このマンションに住んでるのは、俺たち以外だとVIPルームに住んでるサーシャと竜王だけだ。二人は俺のギフトを知ってるから別に退去してもらう必要がないしな。


 当初春蘭マンションに続く5棟目のマンションとして追加で建てようと思ってうたが、それは断念した。建設費用もそうだが、強力なギフトを使うミレイアが訓練場が狭くなることに難色を示したことが一番の理由だ。


 とは言ってもいざ募集図面に書き込んでいくと、予想より高くついてしまった。敷地面積が少し広くなるとはいえ、9億はさすがにクルものがある。実質7億円で済むとはいえ、集めたCランク魔石のほとんど全部使うことになってしまう。


「やはりこのハマーとグラディエーターというのはやめたほうがいいのではないか? 馬が必要ない馬車は便利だと思うが、1台でCランク魔石千個など高過ぎではないか?」


「私もそう思います。せめてどちらか1台だけにしてはいかがですか?」


「うっ……でも乗ってみたいんだよ。魔石はまたすぐ集めるからさ、いいだろ?」


 俺は1台Cランク魔石千個。日本円だと5千万円はする車の購入をシュンランとミレイアに指摘され、一瞬怯んだが両手を合わせて頼み込んだ。


 地球で1千万あれば買える車が5千万とか高過ぎだろ! 軽自動車も1千万はするしさ。5倍はボリ過ぎだと思うぞ駄女神!


「ふふ、別に私たちは反対しているわけではないぞ。普段ほとんど金を使わない涼介が欲しいと言ってるのだから買えばいいと思う。ただ涼介自身が価格に引いてるみたいだったのでな。そんなに無理して買う必要も無いのではないかと言っただけだ」


「確かに高いとは思ってる。それに滅びの森の中で乗ってればすぐ壊れそうだしな。でも自動車は便利なんだよ。これがあれば森の北への移動が楽になる。Bランクの魔物がいる場所まで、日帰りか1泊くらいで狩りに行くことだってできると思う」


「歩いて十日掛かる距離を1日でか? そんなにその『じどうしゃ』というのは速いのか。それならばCランク魔石千個を出す価値はあるな」


 俺の言葉にシュンランが驚きつつも頷いた。しかしクロースが疑問を挟んでくる。


「でもリョウスケ。森の中は危険だぞ? ダークエルフの警備隊が乗ってる自転車ならすぐに戦闘態勢に移れるが、その『じどうしゃ』というのはどうなのだ? しかも向かう先はBランクの魔物がいるエリアなのだろう? じどうしゃごと踏み潰されないか? 」


「そこは自動車の窓から機関銃をぶっ放していくことになるかな。みんなが運転を覚えたら俺だけでもなんとか撃退はできるし」


 ハマーだと窓からだけど、同じジープのグラディエーターは4ドアのうえに荷台がむき出しになっているデザインだ。その荷台に機関銃を取り付けて一人乗れば、倒せずとも追ってくる魔物を撃退くらいはできるだろう。


 じゃあグラディエーターだけでいいじゃんと思うかもしれないが、俺がハマーに乗りたいのだから仕方ない。しかしいくら金があると言っても、5千万の車を2台を恋人たちの許可なしで買うほど俺は怖い物知らずじゃない。特にミレイアは経理を統括しているからお金のことには厳しいし、俺たちが買い集めているせいで最近は南街でCランク魔石の価格が暴騰してるからな。商人との交渉で苦労かけていることもあって魔石の無駄遣いはできない。


 白金貨が使えればいくらでも車を買えるし、マンションだって建てれるんだけどな。明らかに魔物を狩れと誘導しているこのシステムは、さすがクソ女神のギフトだと思う。まあそれを理由にタワーマンションを建てれないと駄女神に言えるし、15階建てくらいにしたら魔石集めも終了でいいだろう。それでもBランクの魔石が大量に必要になるが、エルフの精霊の森を取り戻すのにそれくらいの力は必要だから許容範囲内だ。


 駄女神はクリスが聞く最近のお告げというか駄女神の独り言から察するに、FPSゲームに飽きてまたMMORPGのゲームに戻って遊んでるみたいだ。完全に引きこもりゲーマーと化してるなあの駄女神。地球で楽しくしてるようだし、アイツもそんなに俺に期待なんかしてないんじゃないかと思う。何か言われるまでは放置でいいんじゃないだろうか。


「『うんてん』とは馬車を操るようなことを言うのだったな。涼介、そのじどうしゃのうんてんは簡単なのか?」


「ああ、走るだけなら簡単だ。車庫入れとかは練習が必要だけど、マンションの地下に作る駐車場は広いから問題なくできると思う」


 ほかに車が走っていない舗装されたほぼ真っすぐな道を走るだけなら誰でもできる。問題は車庫入れだが、マンションの地下駐車場は50台ほど車が駐車できるようにした。それなら適当に停めても大丈夫だから車庫入れの技術は必要ないだろう。ゆくゆくは警備隊にも運転を教えて森の中の巡回や、各街への輸送をしてもらいたい。


 自動車を見た王国や帝国が欲しいとかうるさくなりそうだが、さすがにこんなオーバーテクノロジーの塊を貸すわけにはいかない。南街に王妃のために作った部屋はどうなんだと言われそうだが、あれは動かせないし設備を部屋から持ち出せないからな。ギリギリセーフということにしている。


「そうか、ならば覚えることにしよう」


「私も覚えるぞ! じどうしゃを操りながら機関銃を撃ちまくるのだ!」


「運転している時はほかの作業は禁止だ。森の木は硬いからな、ぶつかったらすぐに壊れちまう」


 車が壊れてもレベルアップした俺たちは無傷だろう。だが五千万円もする車が壊れたら俺は相当なショックを受けそうだ。クロースだけには運転はさせないようにしたい。スピード出しそうだし。


「なんだ、高いくせにそんなに脆いのか。前にラティが乗ってきていたミスリル製の馬車は森の木にぶつかっても平気だったぞ?」


「自動車の装甲は普通の鉄だ。いや、一部はそれよりも脆い。ミスリルと比較するな。それよりみんながOKならこの内容で建てようと思うがいいか?」


 俺はクロースとの話を打ち切り、募集図面が全員に見えるように移動してそう言った。


「私は構わんぞ」


「私もです。王城の最上階と同じ高さの部屋に住めるなんて楽しみです」


「私もだ! 高いところは好きなのだ!」


 クロースの言葉に馬鹿と何某は高いところが好きという言葉を思い出したが、口にするとまたうるさそうなので呑み込んだ。


 ちなみに募集図面に書いた内容は以下の通りだ。


【おすすめコメント】 滅びの森まで徒歩1分! 周囲は魔物だらけで狩り放題&稼ぎ放題! もし全滅しかけてもハンター間安全保障システムですぐに助けが来ます! 安全に稼ぐならここしかない!


【マンション名】 フジワラマンション

【所在地】 滅びの森入口から徒歩3日

【構造】 鉄骨鉄筋コンクリート 10階建て

【総戸数】164戸 (1K 150戸 1LDK 10戸 3LDK 3戸 5LDK 1戸)

【共有設備】 オートロック、エレベーター5基、自動販売機コーナー、遊戯室、倉庫、屋上露天風呂、駐車場50台、レンタサイクル、カーシェアリングサービス


 募集図面は誰にも見せないのでおすすめコメントに意味はない。でも恋人たちとみんなで考えて楽しかったし、なかなかの出来ではと思っている。地球じゃ笑われるだろうけど。


 マンション名は対外的に第一フジワラマンションと呼ばれている神殿マンションの1階に残っていた10部屋を撤去し、神殿の1階は受付と待合室にしようと思っている。地下はシスターと聖騎士たちの住居兼礼拝所だから、これで神殿にはハンターへの貸部屋が一つもないことになる。なので第二フジワラマンションを今後はフジワラマンションと呼称することにした。


 総戸数に関してだが1階が1K10部屋で2階〜8階が1Kが各階20部屋と、各階の1Kの戸数は5階建てと同じ数だ。ただ、5階建てより敷地面積が広いので同じ1Kでも広めになっている。そしてカップルのハンターから要望が多かった1LDKを9階に10部屋作り、最上階の10階にはオーナー住居である5LDK1戸と、VIPルームの3LDKを3つ作った。


 部屋の設備はバージョンアップしたわけじゃないので、賃料に関しては1Kは1階が1ヶ月金貨3枚。2階〜6階は金貨4枚と今までと同じだ。広いぶん春蘭マンションよりお得になる。ただ、7階と8階の1Kは金貨5枚と値上げした。これは眺めが良くなるからだ。9階の1LDKはカップル限定で金貨10枚にした。VIPルームの3LDKは眺望が良くなるが最上階を3室から4室に増やしたうえに、オーナー部屋も1部屋増やしたことでほかの部屋が若干だが狭くなるので白金貨3枚のまま据え置きにした。


 エレベーターは総戸数が増えたので2基増設した。今も夕方はエレベーター待ちのハンターが多いんだ。まあ夕方だけなんだけどね。そして自販機コーナーだが、酒場だといまいち売り上げが悪いジュースの自販機を設置して入居者へ開放しようと思っている。たいして利益が出ないならサービスで誰でも買えるようにしようということだ。


 これはオートロックがあるため、入居者しか買うことができない。それに缶や容器は外にも持ち出せないのでマンション内で飲むしかない。まあ中身を水筒に移し替えれば外に出すことは可能だけどな。シャンプーとリンスにコンディショナーなんか女性のハンターはそうしてるし。どうせ使い掛けの物は廃棄するので残ったのを持ち帰ってもうるさく言うつもりはない。


 ジュースの自販機は、好評なら春蘭マンションとダークエルフ街区に建てたマンションにも設置するつもりだ。ゴミとかが増えそうだが、そこは新しくやってきたダークエルフを大量に雇ったのでがんばってもらいたい。でも子供が多いから稼いだお金を全部魔石に換えてジュースに突っ込むんじゃないかと少し心配だ。その辺はクロースに子供たちへよく言い聞かせてもらおう。


 駐車場に置くカーシェアリング用の車の車種は、図面にも色を指定して書き込んだから問題ないと思う。車種の名前を消したら建築費用がごそっと減ったことから、車が買えることは間違いない。


 最後に屋上露天風呂だが、屋上に繋がる階段をオーナー部屋の玄関の横に設置して俺たちしか入れないようにした。そしてわざわざ図面まで書いてそこに脱衣所とベット付きの休憩室とトイレと自販機。そして大型のジャグジーバスを三つ設置した。10階建てのマンションの広い屋上で露天風呂とか、もう絶対楽しくなると思うんだ。



「じゃあ明日引っ越しの準備をして夜に建てようか」


「ああ、10階の部屋からの眺望は楽しみだな」


「私も楽しみです」


「私は露天風呂も楽しみだぞ。有線を流しながらのんびり入るのだ!」


「ははは、そうだな。丁度俺がこの世界に来て2年になるし。建てたらみんなで屋上で慰労会をしよう」


「そういえばそうだったな。ふふっ、慰労会か。確かにここまで来るのに苦労はしたな」


「そうですね、色んな人が攻めてきました。でもお客さんもいっぱい増えました」


「私も途中からだががんばったぞ。だから慰労するのだ」


「そうだなークロースもがんばったなー」


 トラブルメーカーとしてだけど。


「む? なんだか感情がこもってない気がするのだ。こうなったら今夜がんばるのだ! シュンランも一緒にどうだ? 鞭で叩かれるのも気持ちいいぞ?」 


「わ、私は遠慮しておこう。普通がいいのでな」


「一度経験してみるのもいいと思うぞ。後ろの穴だって最初は抵抗していたが、今では気持ちいいと言っていたではないか」


「またそういうことを平気で口にする。いいか? 外で言ったら承知しないぞ?」


 クロースの言葉にシュンランは若干顔を赤くしつつも、クロースに殺気がこもった視線を向け警告をした。ゲンコツが飛ばなかったのはここが家の中だからだろう。


 まあ確かにシュンランは後ろも好きだったりする。ミレイアは発情している時だけだけど、シュンランとクロースはいつでもOKって感じだ。


「わ、わかってるのだ。外では言わないのだ」


 シュンランに睨まれてクロースは冷や汗を流しながらコクコクと頷いた。


 そんな序列がはっきりと決まっている恋人たちを、俺はビールを飲みながら眺めていた。


 明日が楽しみだ。ハマーを買ったらみんなを乗せてドライブにでも行くかな。

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