第17話 兇賊団殲滅と募集図面




 第二フジワラマンションの地下から1階の倉庫に上がりエントランスに出ると、ちょうど春蘭マンションの裏手からライゴウが率いる集団が現れた所だった。


 80名ほどいた彼らは正門の方角と神殿とで二手に分かれつつ、俺たちのいる第二フジワラマンションの前を通り過ぎようとしていた。


 どうやら正門を先に押さえ外にいる仲間を呼び込みたいようで、ライゴウたちと別れた20人ほどのインキュバスとサキュバスたちが向かっていた。


 俺はエントラスから外に向かいながら無限袋より機関銃を取り出し、街の皆への合図も兼ねて正門に向かうインキュバスたちへ数十発ほど適当に連射した。


『ぐあっ!』


『ぎゃっ!』


『な、なんだ? 何が!?』


『と、頭領あそこから音が!』


『なっ!? リョウスケ!? それにシュンランと雷女まで!』


 突然真横から聞いたことのない轟音が響き渡り、数人のインキュバスとサキュバスが撃ち落とされたことでライゴウたちは俺の存在に気づいたようだ。空を飛んでいた者も走っていた者たちも全員が足を止め、俺たちが立っている第二フジワラマンションの入口へ視線を向けた。


 その顔はまるで幽霊でも見ているかのようだった。


 それと同時に街には緊急事態を告げる鐘の音が響き渡り、外壁の上からは大量の発煙筒の煙が見えた。機関銃の音を聞きつけた警備隊が、事前に指示していた通り鐘を鳴らし発煙筒を使ってくれたようだ。


 神殿の入口へ視線を向けると、ハンター管理部のレフとベラたち。そして受付を手伝ってくれていたダークエルフの女性たちが武器を手に立っていた。


 背後から『雷女って……ヒドイです』と呟くミレイアの声が聞こえてきたが、俺は内心でまったくだと同意しつつライゴウたちへと声を掛けた。


「ラガッツ兇賊団だな。この街を襲おうなんていい度胸じゃねえか」


「クッ……罠か。全部お見通しだったってわけかよ。だが狩りに行ったはずのテメエがなんで街に……」


「そ、そうだ! オレは確かにリョウスケが女たちと一緒に外に出るのをこの目で見た! なのになんでいるんだよ!」


 ラガッツ兇賊団だと否定しなかったライゴウ。いや、ラガッツか。奴が疑問を口にすると、手下の魔人が自分は嘘を言っていないと証明するかのように叫んだ。


「街への入口は正門だけとは限らないということだ。それよりどうする? 降伏するか?」


 俺は焦るラガッツたちに肩をすくめながら答えた。


「クソッ! 竜化! 俺が受付に行って人質を取る! お前らは足止めをしろ! インキュバスどもは正門の制圧だ! 外の仲間を引き入れろ!」


 俺の提案にラガッツは悩むことなく竜化を始めた。そして全身を緑色の鱗で包んだラガッツは、翼を広げながら手下に指示をして神殿へと飛び立った。


 その速度はさすが風竜族と思えるほどだった。


 敵わないと見たら逃げるのではなく、人質を取ることを選択するとはな。外の仲間を率いれようとすりのは、俺が人質を見捨てたときに自分が逃げるための保険か?


 なかなかに悪知恵の働く奴だ。俺が相手じゃなかったら成功していたかもな。


 俺は襲い掛かってくる手下たちの相手をシュンランたちに任せ、あっという間に距離を離していくラガッツの背へ向けペングニルを構えた。


 しかしラガッツが第二フジワラマンションの陰からから抜け出た時だった。


 神殿のある岩山の陰から竜王と側近の竜人たちが現れ、入口にいるレフたちの前へと降り立った。


「げえええ! なんで竜人まで!」


 さらにそれと同時に聞き覚えのある女性の声が響き渡った。


『今だ! 放て!』


 その女性の声とともに、動揺しているラガッツに向けてダークエルフ街区の方向から無数の石槍が襲い掛かった。


「うおっ! ぐっ!」


 百を超える石槍により不意打ちを喰らった形になったラガッツは、咄嗟に身を捻り高度を下げて避けようとしたが数本を胴と翼に受け体勢を崩し落下した。


 石槍では竜人族の鱗を貫くことはできなかったようだが、翼にはしっかりと突き刺さり穴を開けていた。


 恐らくこれはダークエルフ街区の壁の上からの攻撃だろう。そしてそれ指揮したのは、声からして恐らくナルースさんで間違いないと思う。彼女は元里長だからな。鐘の音が鳴ってすぐに自分が声を掛けれる女性のダークエルフを集め、ダークエルフ街区との境目にある内壁の上で陣取っていたのかもしれない。


 事前に兇賊が入り込んでいることを知らせていたとはいえ、みんな動きが早い。


 そう内心で頼もしく思いつつ、俺は落下していくラガッツにペングニルを放った。


「ダブル!」


「ぬっ!? おおおおお!」


 俺の放ったペングニルに気付いたラガッツは、ダークエルフたちに貫かれた翼を必死にはためかせ体勢を整えようとする。


「ロスト!」


「なっ!? ぐふっ!」


 しかし直前で姿を消した2本のペングニルに対応できず両胸を貫かれた。


「ラガッツを討ち取ったぞ! 残党狩りだ! 一人も生きて帰すな!」


 俺は胸を貫かれ、口から血を吐きながら力なく地面に落ちていくラガッツへ戻ってきたペングニルを向けそう叫んだ。


『奴らは魔族の恥じゃ! ワシらが一番多く狩るぞ!』


『『『おおおおおお!』』』


 俺の叫び声に竜王が答え、リキョウ将軍とカコウらが戟を掲げシュンランたちと戦っている手下へと向かっていった。マンションの裏からナルースさんを先頭に、女性や老人たちが掛けてくる姿も見える。


 正門の方からは機関銃が連射される音が響き渡っており、空を飛んで向かっていたインキュバスとサキュバスたちが次々と撃ち落とされていた。指示した通り砲塔に設置していた機関銃を外して撃ってくれているようだ。


 あっちは大丈夫そうだな。


 そう思った俺は、戦意を喪失し逃げようとするラガッツの手下たちへとペングニルを次々と投擲していった。


 それから数分後。


 俺たちの前には60人ほどの魔人が転がっていた。数人ほど息のあった者はいたが、情報を聞き出した後にリキョウ将軍が首を刎ねたのでもう街にラガッツ兇賊団の生き残りはいない。


 正門の方角を見ると、1区の外壁の上にいるダークエルフの警備兵が笑顔で手を振っていた。無事にインキュバスたちを全滅させれたようだ。


「なんじゃ、手応えがないのう。これが長年西街を悩ましておった大兇賊団か」


「逃げ場がなかったからな。それで動きが読めたってのも大きいかもな」


 俺たちの実力を知っていたからラガッツは慎重に動いていた。しかしその俺たちが現れたこと。そしてここが高い壁に覆われた街の中だったことで、人質を取る選択肢しかなかった。これが滅びの森の中だったなら、逃げる一択だっただろう。そうなれば何人か逃していたかもしれない。


「まあクズの考えることは読みやすいからの。だからワシらを岩山に配置したわけじゃろうしの」


「受付を狙うのはわかってたからな……お? そろそろ何も知らない仲間たちがやってくるぞ。ナルースさんたちは念のためダークエルフ街区の北門を守っていてくれ。さあ行くぞ」


 魔物探知機の範囲ギリギリの500メートルほど離れた場所から、100と50ずつに分かれた合計300ほどの点滅した青い点が東と北と南から迫ってくるのを確認した俺は、ナルースさんたちに北門を守るように告げて正門へと向かった。


 また、サーシャと神殿前で守っていたレフたちには、念の為ショッピングモールの商人ら非戦闘員を神殿の中に避難させ石扉を閉めるように指示をした。これで何があっても大丈夫だ。


 正門に着くと無限袋から機関銃を取り出し、警備隊の全員に渡した。そして2区の正門の上に10人ほどを残し、残りは1区の内壁の上に配置し伏せさせた。これなら外から警備隊はいないように見えるので、これからやって来る兇賊たちはラガッツの作戦が成功したと思うだろう。


 先ほどリキョウ将軍が尋問したラガッツの手下が言うには、正門をインキュバスたちが制圧し、そのあと外にいるラガッツの残りの手下100名と協力関係を築いた5つの兇賊団200名を招き入れる予定だったらしい。思ったより数が多いことには少し驚いたが、まあ想定の範囲内だ。


 俺たちは1区の内門。拡張前は正門だった門を閉じ、その前で陣取っている。魔物探知機知には100メートル先の2区の外壁の上に10。後ろの内壁の上には20の青い点が横一列に並んでいる。これはダークエルフの警備隊たちの反応だ。


 街の外から迫ってくる点滅した青い点は最初ゆっくり近づいてきていたが、街から100メートルほどの距離まで近づいたところで一気に速度が上がった。門に警備隊がいないことで、ラガッツたちの作戦が成功したと思ったのだろう。そんな兇賊たちの背後から、30ほどの点滅をしていない青い点が一定の距離を置いて近づいてきている。


 カルラとクロースたちだ。


 ちゃんと兇賊を見つけて追ってきてくれたようだ。


 彼女たちのずっと後方からも、数十ほどの青い点がこちらへと向かってきている。こっちは街から昇る発煙筒の煙に気付き、戻って来てくれたハンターたちだろう。時間が経つにつれてハンターの数はどんどん増えていくはずだ。まあ恐らくは彼らの力は借りずに済むだろうけど。


「来るぞ! 警備隊は中に引き込むまで撃つな! カルラたちが追ってきている! 彼女たちが入るまで正門を閉じるなよ!?」


 そう指示をした瞬間。数人の兇賊が正門を潜り2区へと侵入した。そして閉じられている内門と、その前で陣取る俺たちの姿を見て立ち止まった。


『お、おい!どういうことだ!? 頭領はどこだ!』


『黒髪の半魔!? なんでアイツがここにいるんだ!? 留守じゃなかったのかよ!』


『ラガッツの奴はどこだ! なんで門が閉まってんだ! クソッ! 竜人まであんなにいやがる! 話がちげえぞ!』


 次々と正門を潜ってくる兇賊たちが俺たちの姿を見て戸惑っていると、彼らの後方から機関銃の発砲音が鳴り響いた。


『ぎゃあああ!』


『な、なんだあれは!』


『て、鉄のゴーレムだ! 見たこともねえ魔道具で攻撃してきているぞ!』


 兇賊全員が正門を潜ったことを確認したのだろう。彼らの後方から5メートルはありそうな鉄の巨人が、両腕に持った機関銃を斉射していた。鉄の巨人の頭部にはクロースが立っており、その周囲はまるで王冠のように鉄の盾で覆われている。そんな盾の合間からクロースが機関銃を撃ちまくっていた。そして弾詰まりの解除要員なのだろう。鉄の巨人の両サイドには、それぞれ石のゴーレムが弾薬箱を手に持ち追従している。


 そう、この鉄のゴーレムがクロースの言っていた新兵器の『鉄人1号だ』。


 今までゴーレムはクロースにとっての盾であり、それと同時に攻撃手段でもあった。だがゴーレムに鉄の盾を持たせてクロースを守りながら機関銃を撃ち、それと同時に2体のストーンゴーレムを操る。さらには彼女自らも機関銃を撃つのは、レベルアップしたクロースでも難しかった。


 そうして悩む彼女に俺はつい『だったらクロースがゴーレムに乗っちゃえばいいじゃん』と言ってしまい、そうしてできたのがこの鉄人1号だ。


 ハーピークイーンとの戦闘での失敗を反省し、吹っ飛ばされないようゴーレムの重量を増やし、頭部にまるで王冠のように鉄の盾を配置してそこにクロースが乗る。そしてその隙間からクロースが機関銃を撃つことで攻防一体の攻撃ができるという訳だ。


 これなら彼女の持つ機関銃が弾詰まりをしても、しゃがんで盾に守られながら詰まった弾を排除できる。足もとに大量の弾薬箱が置いてあるので弾切れになることもない。


 俺が思っていたのとは若干違うが、最初見た時はよく考えたなとシュンランとミレイアと共に感心したものだ。スーリオンほか、ダークエルフの警備隊の面々は顔を引き攣らせていたけど。


 そんな彼女が先頭になり、満面の笑みを浮かべて機関銃をブッパしている。鉄人1号の後ろからはカルラとスーリオン。そしてダークエルフの女性を含む棘の警備隊の女性たちのうち、約半分ほどが機関銃を手に持ち斉射している。彼女たちの防御に関しては前方は鉄人1号が、側面はダークエルフの女性の警備隊が作ったストーンゴーレムが守っているから完璧だ。


 最初の攻撃によって数十人は倒れただろうか? そんな圧倒的な攻撃を前に兇賊たちは一斉に左右へと散っていった。そこへ正門の外壁の上で伏せていた警備隊の皆が一気に立ち上がり展開し、逃げ惑う兇賊たちを外壁の上から追いながら機関銃で仕留めていく。さらには正門の門まで閉じられ、兇賊たちは逃げ場を失い完全に袋の鼠となった。そしてあっという間に兇賊たちは半分にまで減った。


 左右に散っても空を飛んでも撃ち落とされる。そんな彼らの視線は俺がいる内門へと注がれた。


 後ろは駄目だ。得体の知れない大量の魔道具で撃ち殺されるし、門まで閉じられた。なら正面の門にいる奴らをなんとかして、中にいるラガッツたちと合流しない限りは死ぬだけだ。


 そう思ったのかもしれない。ラガッツはとっくに死んでいるが、彼らに中の様子はわからないからな。


 そんな小さな望みに賭けた彼らはお互いに目配せをして、一気に俺が待ち構える内門へと駆け出した。


 しかし


「撃て!」


 俺の号令により内門の壁の上で伏せていた警備隊20名が一斉に立ち上がり、向かってくる兇賊たちへ向け機関銃を斉射した。


 それにより兇賊たちはバタバタと倒れ、なんとか射線から逃れた者もミレイアとローラのギフトにより撃ち抜かれ凍らせられ、反転して逃げようとした者はリーゼロットの精霊魔法によりその場に縫い付けられ機関銃の的となった。


 それでも数人が横へと逃げることに成功し、一番近い別館の中に逃げ込もうとしたがリキョウ将軍たちが空から戟でその首を刎ねていった。


 うん、俺もシュンランも出番はなさそうだ。


 目の前で起こる虐殺とも呼べる惨劇を前に、俺とシュンランはお互い顔を見合わせて苦笑するのだった。



 ♢♦︎♢



「お疲れ様みんな。上手くいってよかったよ」


 数人を残し侵入してきた全ての兇賊を討つことに成功した俺は、合流したクロースたちにねぎらいの言葉をかけた。


「リョウスケ! 見たか私の新兵器の力を! 兇賊など私の圧倒的火力を恐れ逃げ惑うことしかできなかったぞ!」


「ああ、凄かった。平地なら無敵だな」


 足場の悪い森に中だと重量を増やしたぶん不安は残るが……


「お疲れリョウスケ。いやぁ、兇賊どもにぶっ放す機関銃は気持ち良かったぜ。見ろようちの隊員の笑顔を」


「あ、ああそうだな」


 カルラに言われて視線を向けた先には、今まで意図的に見えないし聞こえないフリをしていた光景があった。そこではアジトの場所を吐かせるためだろう。生かしておいた兇賊の股間を、凄惨な笑みを浮かべながら剣や槍で突き刺し尋問している棘の警備隊の女性たちの姿があった。


 俺はそっと視線を外し、再び見えないし兇賊の絶叫も聞こえないフリをすることにした。


「アジトにも何人か残ってるだろうし、この後潰しに行ってくる。貯め込んだお宝も臨時収入になるしな。街はもう大丈夫なんだろ?」


「ああ、中にいた奴らはラガッツという頭領も含め全員殺したよ」


 捕虜にしてもどうせ兇賊は死罪だ。生かしておく理由がない。


「あーやっぱりラガッツ兇賊団だったか。そんな大物を潰したなら、この街はまた有名になるな」


「今回のことでハンターたちが今まで以上に安心して泊まってくれるならそれでいいさ」


 安心度もお客様満足度に影響しそうだしな。


 そんなことを話したあと、尋問を終えたカルラたちはクロースを連れて再び街の外へと出ていった。


 スーリオンは警備隊への後片付けの指示や、ダークエルフ街区の町長への説明のためにも残ってもらった。心配そうな目でカルラの背を見ていたけど、兇賊の残党狩り程度は彼女たちだけで大丈夫だ。クロースもいるし大丈夫だと言って安心してもらうことにした。


 早いとこくっ付けばいいのに。そしたら二人の部屋を用意するのにな。もちろんVIPルーム仕様だ。二人には世話になってるからな。


 その後はレフと残っているハンターたちに頼んで死体の処理と、ギルドにラガッツ兇賊団を壊滅させたことを報告した。


 そしてその夜。狩りから戻ってきた魔族のハンターたちにラガッツ兇賊団が潜入していたこと。そしてそれを逆手にとって壊滅させたことが伝わり大騒ぎとなった。そしてそのまま興奮した彼ら彼女らが主催した宴会に誘われ、今回の戦いに参加した者が代表である俺とレフと竜王とカルラの代役としてスーリオンが出ることになった。


 どうも魔族の利用者には友人や知り合いをラガッツ兇賊団に殺された魔人やインキュバスたちが多いらしく、中には仇を討つために探していた人もいたようだ。それがまさか同じ街にいて、しかも酒場で見たこともあった竜人がそうだったとはと悔しがっていた。


 全員から称賛され感謝されアホみたいに酒を注がれ、最後ベロンベロンになったところをアンジェラ姉妹に攫われそうになり、そこにシュンランが現れて助けてくれて背負われながら家へと帰った。


 どこからどう見てもダメ亭主ですハイ。


 そして翌日。


 レベルが高いせいか相変わらず二日酔いとかしないのは不思議だな。これもレベルアップの恩恵なのかなとか考えながら、退去者の部屋で原状回復をするべくマンカンを開き『原状回復』のタブをクリックしようとした。が、その下に新しいタブが追加されていることに気づいた。


「『マンション管理規約』? 『使用細則』? 今さら必要かこれ?」


 原状回復のタブの下に追加されていた、見覚えのある項目に俺は首を傾げた。


 マンション管理規約とは、マンションに住む人たちが守る大雑把なルールなどが書かれている物だ。


 例えば管理費の案内や駐車場の使用料。エントランスや多目的室など共有部分の使用方法。ペットの飼育や騒音などでトラブルが予想される事柄についての制限。とまあそんなことがおおまかに記載されている。


 このマンション管理規約のタブを開くと、その下に『使用細則』という項目が現れる。この使用細則はマンション管理規約をさらに細かくした物で、主に入居者の日常生活における細かな注意事項なんかが書かれている。


 例えばバルコニーは共有部分なので物を置くなとか、勝手に部屋を改造してはいけないだとか、騒音を出してはいけないなどなど。マンションによって書かれている内容はさまざまだが、基本的には他の入居者に迷惑がかからないよう生活をしましょうと言った内容が書かれていると思ってくれていい。


 まあつまりマンションで生活する上でのルールブックみたいなもんだな。


 だがそういったものはマンスリー事業を立ち上げた時に既に作成済みで、今はパソコンからプリントアウトして入居者に配っている。だから今さら必要かと首を傾げたわけだ。


「まあせっかくあるんだしこっちにも後で書いておくか」


 でもなんでいきなりこんな項目が追加されたんだ?


 あっ! マンカンに機能が追加されたってことはもしかして!


 もしかしたら募集図面の方でも変化があるのではと思い至った俺は、最初の画面に戻りヘヤツクのアイコンをクリックして募集図面を呼び出した。


 そして現れた白紙の募集図面の写真を貼り付ける箇所をクリックした。するとヘヤツクに登録されているマンションのテンプレの外観写真が現れた。


「おおやっぱり! 6、7、8……10階建てか!」


 以前は5階建てマンションの写真が5つしかなかった所に、10階建てのマンションが5つ追加されていることに俺はガッツポーズを取った。


 タイミング的にラガッツ兇賊団を倒したことで、お客様満足度が規定値に達したってことか? そうとしか考えられないよな。


「しかし春蘭マンションを建てたばかりだってのに、ここで10階建てにバージョンアップするとは、ぐぬぬ……」


 募集図面が初めて現れた時からほぼ1年ぶりと考えたら遅いんだろうが、前回はマンションを建てれるようになっても金がなかったからな。結局年明けに建て始めたんだよな。


 今回はいくらだろ? 5階建てが元は2億円くらいで、部屋の内装にエレベーターやら自販機やら追加しまくって、結局3億円くらい掛かったからな。10階建てになるし、建物だけだと4億ってところか?


 俺は価格を確認するために適当な写真と、構造のところに鉄骨鉄筋コンクリート10階建てと書いてみた。すると右上の必要魔石の項目に、Cランク魔石12000個と表示された。


「ぐっ、建物だけで6億円かよ。異世界価格とはいえ高くね?」


 設備や部屋の内装を入れたら8億くらいになるんじゃないか? いや、金はあるけどさ。魔石を買い集めるのも大変なんだよ。それでもCランクの魔石だからどの国も外に売ってくれるけど、これがBランクの魔石となったらそうもいかないんだよな。今後のことを考えると、やっぱりBランクの魔獣がいるエリアへの進出は不可避だなこりゃ。


 しかし10階建てくらいになるとカッコいいな。この円柱型なんか特にいい。おお、この屋上に庭園があるのもいいな。都会の中での庭園とか癒されるよなぁ。ってイヤイヤ、森の中で庭園を作ってどうするんだよ。見渡す限り緑しかないじゃん。


 そんな事を考えながら色々な10階建てのマンションを見ていると、一つ共通している設備があることに気付いた。


 あれ? どのマンションも駐車場や地下駐車場の入口が映ってるな。いやでも肝心の車がないのに駐車場なんか作ってどうすんだ?


「車かぁ……あれば便利なんだけどな」


 森の北や各街へ繋がる道の舗装はほぼ完成している。警備隊がマウンテンバイクで楽々走ってるくらいだ。魔物の襲撃はあるし、少しでも放置するとすぐに木が生えてくるけど。


 でも軍用のジープとかで装甲の厚いやつとかあったよな。ああいうのがあれば機関銃を設置できたりするし、そうなれば歩いて十日の距離を一日で行けるんだけどな。自転車みたいに貸し……ああっ! そうだよ! カーシェアリングサービスがあったじゃないか!


 カーシェアリングのことを思い出した俺は、もしかして自動車が手に入るんじゃないかと胸を高鳴らせた。


 カーシェアリングサービスとは、マンション側が用意した車を入居者が好きな時に有料で借りることができるサービスだ。マンション側が用意すると言ってもマンション側が車を買うわけではなく、だいたいが大手レンタカー会社と提携して車を提供してもらう形となる。そしてその会社に入居者が車を借りる際の手続きを丸投げしている。


 つまりカーシェアリングサービスとは、数十分単位で借りれる安いレンタカーサービスみたいなもんだと思ってもらえるといいかもしれない。


 これは車の所有率の低い都心部で高い支持を得たサービスだが、逆に都心部だけにしか人気がなかったサービスでもある。地方は車の所有率が高いからな。


 俺が管理していた六本木のタワーマンションでも当然導入していた。普通はそういった高級マンションに住む人は車を持っているんだが、俺が管理していたのはマンスリーマンションだ。地方から出張で来ている人が多く、そういった人たちは当然車を持ってきていない。だから結構需要があったのを覚えている。車も高級車ばかりだったし、ハマーなんかもあった。あの車はカッコよかったよなぁ。


 こりゃ試してみる価値があるな。そのためには図面を完成させて、魔石も急いで集めないと!


 待ってろよ俺のハマー!


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