第16話 涼介の罠


 

 新しく建築した2区の正門(東門)前で、俺はカルラたち棘の警備隊とその同行者たちを見送っていた。


「んじゃリョウスケ、ちょっくら兇賊どもの討伐してくる」


「ククク、この街のハンターに手を出す兇賊など、私の新兵器『鉄人1号』で皆殺しにしてやるのだ!」


「ああ、気をつけてなカルラ。スーリオン、クロースが暴走しないようにしっかり見張っていてくれ」


 俺はカルラの隣で不敵な笑みを浮かべているクロースから視線を外し、彼女たちに同行するスーリオンへと彼女のことを頼んだ。


「わかっている。もう手加減は必要なさそうだしな」


「酷いぞリョウスケ! 私は暴走などしない! あと兄上! いま機関銃を叩いて手加減が必要ないとか言わなかったか!? さすがの私も撃たれたら怪我するぞ!」


「あんなゴーレムを作り出したクロースを止めるにはこれで撃つしかあるまい。多少の怪我は受け入れろ」


「妹虐待だ! リョウスケ! 愛しの妻が義兄に虐待を受けようとしているのだぞ! 兄上を討伐部隊から外してくれ!」


「スーリオン、弾丸は持たせた数で足りそうか?」


「無視された!?」


「ああ、問題ない。では出発しようカルラ」


「あははは! クロースの扱いは相変わらずだな。そんじゃ兇賊どもを蜂の巣にしに行くとするかね」


 そう言ってカルラは機関銃を手にした棘の警備隊を引き連れて東へ歩き出した。


 しかしクロースは納得がいかないようだ。


「リョ、リョウスケ! 妻を無視するとは何事だ! 昨夜はあんなに激しく私をむちで……」


「リーゼロット頼む」


 またプライベートなことを暴露しようとするクロースに、俺は用意していた対抗手段を実行した。


「ふふふ、鞭を何に使っているのか気になるけどまあいいわ。シルフよクロースの声を打ち消してちょうだい」


「なっ!? 貧乳エルフ! いったいなにをしようとし————」


 リーゼロットの精霊魔法により、クロースの周囲の空気が遮断され声が聞こえなくなった。


 クロースはそれに気付いていないのか必死に何かを叫んでいる。


「ふう……おとなしくなったな。スーリオン、連れて行ってくれ」


「ククク、これはまたクロースに有効な精霊魔法を思いついたものだな。ほら、クロース行くぞ」


「——————!」


 クロースは声が届いていないことに気付いたのか、リーゼロットに何か文句を言っていた。しかしスーリオンに機関銃の銃口を向けられ、渋々とカルラたちの後をついていった。その姿はまるで看守に追い立てられる囚人のようだった。


「いいの? 帰って来たらうるさいわよ?」


「大丈夫だ。今朝から久々に兄妹で出かけられることを喜んでたからな。嬉しさ余って暴走してるだけだ」


「ふふっ、そういえば朝顔を合わせた時に、兄上とカルラをくっ付けるんだとか張り切っていたわね」


「そんなことを言ってたのか? まあ今回は大規模な兇賊狩りになりそうだからな。スーリオンも良い所を見せるチャンスだろう」


 昨日街から徒歩で5時間ほど離れた場所で、うちに泊まっているハンターたちが兇賊に襲われたという報告があった。幸いなことに襲われたハンターたちは、すぐさま入居者にだけ貸し出している発煙筒で救援要請をしたことで犠牲者が出ることはなかった。


 うちに泊まっているハンターたちには、発煙筒の煙を見たらすぐに向かうように教育してあるからな。付近にいたハンターたちが集まったことで兇賊は逃げたらしい。当然警備隊も緊急出動して現場に向かっている。この連携で開業以来多くの兇賊を狩っているし、逃したとしても翌日にカルラたちを向かわせ見つけ出して殲滅している。


 そこで今日はその逃げた兇賊を狩るためにカルラたち棘の警備隊と、スーリオンとクロースが兇賊狩りに出かけるわけだ。


 こういった安全保障体制が整っていることも、フジワラの街にハンターが集まる理由の一つでもある。


「ほんと、ダークエルフの男は奥手よね。エルフの男たちと足して二で割りたいくらいだわ」


「男のエルフは宰相のアムロドとルーミルくらいしか話したことがないが、そんな軽いようには見えないけどな」


 宰相はもう年ってのもあるが、ルーミルは恋人に一途だし。リーゼロットの言うような、エルフの女性なら誰にでも声をかけるのがエルフの男だというようには思えない。


「ルーミルの恋人は嫉妬深いうえに彼より強いから、浮気なんかしたら殺されかねないのよ。まあだから私の副官としてサーシャの騎士団に入れたんだけどね。彼なら私を口説いたりしないし」


「なるほど、そういうことだったのか。苦労してるんだなルーミルも」


 リーゼロットはよく口説かれると言ってたしな。だから恋人が嫉妬深いルーミルを副官にしたのか。


「そういえばリョウはルーミルとそんなに顔を合わせていないのに、やたら仲が良いわよね? 今度彼と恋人を招待するために、春蘭マンションのVIPルームを貸し出さないようにしてるんでしょ? そこまでするなんて、いったい彼との間に何があったの?」


「ルーミルは命の恩人だからな」


 彼がいなかったら俺は死んでいた。


 ミレイアの腹の上で。


 ミレイアの魅了にわざと掛かってみた時はマジでやばかった。秘薬を飲んでなかったら間違いなく俺は死んでいただろう。


「命の恩人? そんな出来事とかあったかしら?」


「あったんだよ。まあ男同士の秘密だ」


「男同士の秘密? エルフの男とリョウで命がかかった秘密……あ、もしかして」


「そ、そんなことより俺たちも昼から出掛けるぞ。準備をするようにサーシャに言っておいてくれ」


「え? ちょ、ちょっと押さないでよ」


 何かに気づきそうなリーゼロットの思考を俺は大きな声で遮り、春蘭マンションの1階にある食堂&喫茶『プリンセスサーシャ』のある方向へと彼女の背を押した。


 プリンセスサーシャの朝は大混雑しており、最近はシュンランとミレイアが手伝いに行っているくらいだ。サーシャも奴隷を増やさないといけないわねってホクホク顔だ。


 早いとこ客をさばいて、ハンターたちを街から出さないとな。


 今日は忙しくなりそうだ。





 ——フジワラの街 第二フジワラマンション 208号室 ラガッツ兇賊団 頭領 ラガッツ——




「頭領、予定通りリョウスケが女どもを連れて街を出ました。その前には普段はあまり狩りに出かけない竜人族のハンターどもも、さすがに資金が心許なくなったのか森の奥でBランクの魔物を狩りに行くと出て行ったようです。竜人の爺さんだけは部屋で相変わらず呑んでるみてえですが」


「そうか! 高い酒を奢った甲斐があったてもんだぜ!」


 ここん所竜人族の若い男と女たちに、情報を聞き出すために酒場で酒を奢りまくってたからな。奴らも俺が同族ってことで警戒することなくベラベラと喋ってくれたぜ。


 どうも奴らは貴族の爺さんの道楽のために雇われているBランクのハンターらしく、かなりの高給で雇われているそうだ。だが、毎日飲んだくれの爺さんの世話しかやることがなく暇みてえで、受付の警備なんかを手伝ったりして時間を潰していたらしい。それで身体がだいぶ鈍ってきたということもあり、今日あたり運動不足の解消も兼ねて飛竜か地竜を狩りに行くと言っていた。


 それを聞いた俺はチャンスだと思った。そしてなかなか決定的な隙を見せねえリョウスケを揺さぶるべく、協力させている兇賊団の一つにこの街のハンターを襲わせてみた。


 襲撃は失敗したみてえだが、そのおかげで今日警備隊を街から出すことに成功した。その中にはダークエルフの警備隊の隊長である男もいたらしい。奴はかなり強く、ダークエルフをまとめる役でもあると聞いている。そんな男が街を離れてくれたのは僥倖だった。


 ダークエルフ街区にいる男のほとんどは、いつものように道作りと狩りに出掛けている。若い男で残ってるのは指揮官のいない警備隊の奴らだけだ。


 そんな街を守るための重要な戦力がいないってのに、リョウスケって男はいつも通り女どもを連れて狩りに出掛けやがった。


 これを隙と呼ばずなんと呼べってんだ? 


「オイ、街に残っているハンターの数はどれくれえだ?」


 俺は念の為に街に残っているハンターの数を確認した。


 もしかしたら罠かもしれねえからな。もしこれが罠なら、リョウスケの息が掛かったハンターがある程度固まって街に残っているはずだ。そうなると当然街に残っているハンターの数はいつもより多いはずだ。


「俺たちの団以外ですと50から60ってとこです。どいつも解体所や訓練所、それに酒場や部屋にいたりとバラバラです」


「なるほどいつも通りか。なら罠ってわけじゃなさそうだな。潜伏している手下で十分対応ができるな」


 この街にいるハンターはシルバー《C》ランクが結構いるが、俺の手下の実力は最低でもCランク以上はある魔族だ。インキュバスなど空を飛べる奴も多くいるし、まとまりのない人族や獣人のハンター程度がバラバラに出てきても鎧袖一触にできる。


「ではいよいよ?」


「ああ、この隙を逃す手はねえ。手下のインキュバスに外に潜伏させている仲間と、ほかの兇賊団にすぐにこっちに向かうよう連絡に行かせろ。街にいる手下どもには2時間後に計画を実行すると伝えるんだ。やるぞ! 今日俺たちがこの街の主となる!」


「へいっ! すぐに伝えてきます!」


 俺は急いで部屋を出ていく魔人の手下の背を見ながらほくそ笑んだ。 


「ククク、1ヶ月も待った甲斐があったてもんだぜ」


 堅牢な街の中に潜伏している80人の手下に、街の近くに潜ませている手下が100ほどいる。もう少し呼び込みたかったが、指名手配されてたりギルド登録してねえのが多いから仕方ねえ。だがすぐに周辺の5つの兇賊団の400人と合流して街に来るだろう。最大戦力が不在なうえ、残ってる警備兵はダークエルフとはいえ30かそこらしかいねえ。それに比べてこっちは580人だ。これだけいりゃあこの街を占拠できるだろう。


 まず空を飛べるインキュバスとサキュバスで、門を守っているダークエルフを全力で倒して門を確保し、外の仲間を街に入れる。ダークエルフは空からの攻撃に弱いからな。その間に俺が手下と共に受付と神殿を制圧し人質を確保する。そして合流した仲間と共に、街に残っているハンターどもを殲滅する。今後頭数は必要だから降伏した奴を手下にしてやってもいい。


 正門さえ閉じていれば、隣のダークエルフ街からは援軍が来れねえ。ダークエルフ街との境界の内壁は高く分厚いってのもあるし、こっち側で働いているダークエルフの女子供を人質にすれば奴らは動けねえ。種族として数の少ないダークエルフは、同族愛が強いことは有名だ。


 そうしてハンターどもを制圧した後は、ゆっくりギルドと酒場とショッピングモールを制圧する。門は閉じているからな、逃げたくとも逃げれねえってわけだ。


 こっち側の制圧が終わった後は、全員で人質を盾にダークエル街区へと乗り込む。女子供と爺さん婆さんばかりだ。残っているダークエルフ街区を警備している連中も人質がいれば手を出せねえはずだ。


 ダークエルフ街区を制圧したら、若い女のダークエルフと人質に使える子供以外は皆殺しにする。これを夜までにできりゃあリョウスケたちが戻ってきても、もう何もできやしねえ。竜人のハンターも、雇い主の竜人の爺さんをこっちが手に入れりゃあ手を出せねえって寸法だ。貴族みてえだからな、見放したら魔国に戻れなくなるだろうよ。


 ククク、クハハハハ! 馬鹿が! 滅びの森最大の兇賊団が街にいることに気付かず、間抜けにも隙を見せたなリョウスケ! 今日この街は俺のものとなる! このラガッツ兇賊団頭領のラガッツ様のな! 




 ♢♦︎♢



「やっと動いたか」


 俺は第二フジワラマンションの地下の一室で、魔物探知機を見ながらそう呟いた。すると隣でコーヒーを飲んでいたシュンランが顔を寄せ、魔物探知機を覗き込んだ。ミレイアとサーシャとリーゼロットとローラも、ソファーに座りながら俺の言葉に顔を向けている。


「やはりリキョウ殿たちを警戒していたか?」


「そうみたいだな。まあ竜人は6人もいるしな」


 シュンランの言葉に俺は頷き、魔物探知機に映る光点へと視線を戻す。


 魔物探知機には速く点滅する80もの青い点が、春蘭マンションの裏手に向かってゆっくりと集まってきている様子が映し出されている。青い点は魔物以外の人間であることを示しており、点滅はその点滅速度によって俺に対しての敵意の強弱を表す。つまりこの速く点滅している80人は、俺に強い敵意を持っているということだ。


 今まで滞在するハンターの中で、ここまでではないが俺に敵意を持っている者は多くいた。ハンターとして潜伏していた帝国のスパイなんかもそうだし、奴隷の扱いを注意したハンターなんて逆恨みで点滅することは多々あった。友好関係を築いている王国のハンターにもいたりしたしな。恐らく王国人のハンターは以前攻めてきた貴族たちの親族か何かかもしれない。


 ただ数が少なかったので顔と名前を確認して恋人たちと情報を共有し、警備隊や受付に監視するように言うだけで放置していた。いちいち対応していたらキリがないし、敵意がわかるという手の内を知られたくなかったからだ。


 しかし1ヶ月くらい前からだろうか? まとまった数の青い点滅が街に現れ、それは日を追うごとに増えて行った。彼らが滞在する部屋から身元を調べると、全員が竜人族や魔人にインキュバスにサキュバスなどの魔族だった。


 それを知った時は、俺に彼らの種族との因縁はないことから困惑した。さらに彼らは魔物探知機上では俺に敵意を持っているはずなのに、俺に対して気さくだし狩りの成果のお裾分けもしてくる。ほかのハンターとも友好的で、酒場で揉め事も起こさない善良なハンターだった。


 これはおかしいと思った俺は、スーリオンとリキョウ将軍に相談した。すると彼らは恐らくこの街を狙っている兇賊なのではないかと俺に言った。そして動員されている人数的に、魔国の兇賊で最大勢力であるラガッツ兇賊団の可能性が高いとも。


 そこの頭領は頭が働くらしく、目撃者は確実に皆殺しにしていることから顔が割れていないようだ。ラガッツ兇賊団だという名前が知られているのは、彼らの犯行現場には必ずそう刺繍されたバンダナが残されているかららしい。何度か西街のギルドから討伐部隊が出たが、一度も見つけることができなかったようだ。


 なるほど。外面が良いのは俺を油断させ、隙を見てこの街を手に入れるための演技か。そう納得した俺は、このラガッツ兇賊団と思われる一団を一網打尽にすることを決意した。


 しかしいきなり襲い掛かることはできない。指名手配されているならともかく、現時点ではハンター登録をしているハンターでありお客さんだ。本人たちに聞いても兇賊だなんて答えるわけないし、俺がこいつらは兇賊だと言って皆殺しにしても周りのハンターが信じてくれる保証はない。かといって魔物探知機の存在を明かすのは論外だ。


 ならば兇賊に行動を起こさせようと狩りに行く回数を増やしたり、奴らの手下が見ている前で夜に狩りに行くことなどをそれとなくしたりと色々とやってみた。が、兇賊たちは動かなかった。


 頭領らしき男が誰かはわかっている。第二フジワラマンションの208号室に泊まっているライゴウという竜人だ。ハンター用の偽名なのだろうが、この男は狩りに行かずほぼ毎日娼婦を呼んで遊んで暮らしている。だがこの男の部屋には、隣の部屋に住むオスルという魔人の手下がよく出入りしている。そしてその手下はインキュバスの男とよく接触しており、そのインキュバスは同族と2人で街の外によく出て行っていることまで確認できている。恐らく外にいる仲間への連絡係ではないかと思う。


 ライゴウに狩りに行かないんですかと声を掛けたことがあるが、この街と部屋の居心地が良すぎて有り金が尽きるまでゆっくりさせてもらうと言っていた。魔物探知機がなければ信じてしまうほど腰が低い男だった。あれが演技だというのだからたいしたもんだと思う。


 そうこうしているうちに2週間ほど経過し、街の中に当初の数よりライゴウの仲間らしき者たちが増えていった。しかし最近になってライゴウ自身が動き出し、竜王の側近の中でも若い竜人に接触をしてくるようになった。そこでリキョウ将軍の発案で、側近に竜人たちが外に狩りに行く日を漏らし揺さぶることにした。


 するとその日の夜にライゴウの部屋にオスルが出入りし、そのあとオスルはインキュバスの男と接触しそのインキュバスの男は翌朝単独で外に出て行った。そしてその日の夕方にお客のハンターが兇賊に襲われるという報告が入った。


 これは間違いなくライゴウの仕業だと思った。


 というのもうちの発煙筒を使った安全保障システムにより、この街のハンターを襲う兇賊は半年以上いなかったからだ。そのこととタイミングの良さから、俺は外にいるライゴウの仲間の仕業だと思ったわけだ。


 こっちの戦力を分散させるつもりだなと考えた俺は、お望み通りカルラたちを今朝討伐に向かわせた。そして予定通りリキョウ将軍たちにも狩りに出掛けてもらい、俺もクロース以外の恋人たちとサーシャたちを連れて街を出た。


 そして街と外を繋ぐ秘密の地下通路を通って街の中に戻ってきてみれば、案の定ライゴウたちが動き出したってわけだ。ちなみにこの地下通路は帝国が攻めてきた時に使う予定だった通路だ。第二フジワラマンションとダークエルフ街区の町長宅の地下にあり、それぞれ1キロほど離れた街の外に作った隠し部屋へと繋がっている。


 今朝討伐に出かけたカルラたちには、外からも兇賊が来る可能性が高いので街の外で隠れてもらっている。リキョウ将軍も北の森で待機しているはずだ。合図をしたら空から街に来てくれることになっている。


 そのことを知らないライゴウは、俺たちだけではなくカルラが率いる棘の警備隊と、ダークエルフの警備隊長。そして竜人まで街を離れたと思い、こうして行動に移ったのだろう。



「それじゃあギフトを掛けるわよ?」


「ああ、だいぶ集結して来ているみたいだからな、頼む」


「行くわよ、『女神の祝福』」


 俺たちに手をかざしたサーシャがそう口にすると、彼女の手と俺たちの身体が白く輝いた。


 すると身体の奥底から力が湧いてくる感覚があった。


 これで身体能力と精神力が1.2倍になるんだからな。相変わらず凄いギフトだ。ただ、帝国ほど血筋による継承はなく、王家の血筋でもサーシャの他には王様と弟だけしかギフトを与えられてないらしい。このギフトを受け継げたかどうかで王国の王位継承順位が決まるのもわかる気がする。


 その貴重なギフト持ちを、遠回しに俺の嫁にと寄越してくるんだから困ったもんだ。リーゼロットだってよくよく聞いてみれば、アムラス族長の親族らしくエルフ族の中では血筋がいいみたいだし。


 二人とも美人だし性格も良い。そのうえ俺に好意を持ってくれているのも態度でわかる。でもだからって王族に手を出すのはなぁ。王籍からいくら外れたって言われてもなかなかね。


 正直サーシャのギフトは欲しい。レベル1で1.2倍ってことは、レベル10で1.5。レベル20で2倍となる可能性もある。このギフトの恩恵を受けることができれば、いずれ戦うことになるAランクの魔物との戦いも楽になる。けどそんな気持ちで受け入れるのも気が引ける。でも二人はこの街から離れるつもりはないみたいだし……参ったな。


 そんなことを考えていると、サーシャが恐る恐る俺とシュンランに確認をしてきた。


「どう? いつもより身体能力が上がったりしてない? 気持ちも強くなったとかは?」


「いや、いつも通りの身体能力の上がり方だな」


「俺も同じだな」


 なんだ? 最近やたらと聞いてくるが、サーシャ自身ギフトの能力が上がった感覚があるのかな?


「そう……やっぱり飲むだけじゃ……」


「サーシャ! 大丈夫、継続は力なりって言うでしょ! これからよこれから!」


「まだ結果を出すには早いわ。もう少し続けましょう」


 サーシャが何か言い掛けたところでリーゼロットとローラが俺とサーシャの間に入り、彼女の肩を掴んで励まし始めた。


 なんか飲むとか言ってたな。何のことだ? 俺の知らない精神力を上げる薬とかがあって、それを飲んでるのか?


 シュンランとミレイアを見ると苦笑いをしている。なんだ? 二人は何か知っているのか? 苦笑いってことは、実は効果が無い薬とか? それをリーゼロットとローラがイタズラで飲ませてる? でもそんなイタズラなら、優しいミレイアは止めに入るはずだしシュンランも苦言を口にするはず。うーん、わからん。


 っと、それより早くしないと!


「急ごう! そろそろ動き出しそうだ!」


 俺は魔物探知機に移る光点が一箇所に集まりつつあるのに気付き、全員に声を掛けた。


 するとシュンランたちは立て掛けてあった武器を持ち、地下室の出口へと向かった。


 さて、ようやく動いてくれたんだ。街の大掃除をやるとするかね。




 

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