第15話 新築マンションと最強の兇賊団



 9月も半ばに入ったが、1年が13ヶ月あるこの世界はまだまだ夏真っ盛りで暑い日が続いている。


 そんな中、2区の整備に新規入居者の受け入れをするのと同時に、入居者同士狩場が被らないよう森の中を移動しやすくするための道の整備も急ピッチで行っている。一番危険な北に続く道の舗装などは、新たにやってきたダークエルフたちが率先して参加してくれており、今までよりも早く安全に工事ができている。


 そのおかげでフジワラの街から4日の距離まで石で舗装された道ができた。予定している7日の距離まであと半分だ。そこから先はBランクの魔物が多く出現することから、一旦北への道作りは終わりとなる。


 その他ダークエルフたちには、今まで隠蔽していた南街まで続く道の拡張をしてもらっている。王国から来た商人も東街の商人たちと同じく、荷馬車を引いてここまでやって来れるようにするためだ。もともとここから2日の距離までは俺が舗装を終わらせているので、すぐにできるだろう。


 帝国との交渉以降、商人だけではなくこの街を知らなかったハンターや、王国の難病を抱えている貴族に富豪の商人などが続々と街にやって来ているからな。道は広い方がいい。


 病院は四肢の欠損が理由でハンターを辞めた魔族を中心にあっという間に満室になり、別棟を建てて対処している状態だ。入院客は病気の人を除外すれば、ほぼ全てが魔人とインプとサキュバスと竜人だ。まだ見たことがないデーモン族や吸血鬼族だが、警戒はしていたが病院にもマンションにも来る気配はない。


 竜王はデーモン族は基本領地にいて滅びの森など来る事はないと言っていたが、自分たちを養ってくれていたダークエルフがいなくなったのに大丈夫なのかね? いずれ食えなくなって滅びの森に来そうな気がするんだよな。入院を希望しても入れる気はないけど。ああ、その前にダークエルフを返せって言ってくるかもな。まあそうなったら潰せばいい。所詮は人口5千人程度の少数種族だ。いくら全員が強力な魔法を使えるといっても負ける気はしない。


 吸血鬼族も若い人だけは訓練のために森に来るそうだが、彼らは不死なので四肢を欠損しても自力で治せるらしく、病気にもならないらしい。確かにそれなら病院なんて必要ないし、この街に用は無いだろう。そもそもあんまり自分で戦うこともないだろうし。


 と言うのも吸血鬼族は地球に伝わる吸血鬼と同じく、人を吸血して眷属を増やすらしいんだ。でも人族を眷属にすることは滅多にないらしい。理由を聞いたら眷属になるとギフトも失うからだそうだ。それで基本的には魔人やインキュバスを眷属にするようだ。たまに獅子や虎の獣人もいるみたいだけど。


 今は竜人を眷属にすると滅ぼされるからしてないらしいが、人魔戦争前の竜人の立場が弱かった時に結構な数の竜人を眷属にしたみたいだ。恐らくだが、その生き残りがいる可能性があると言ってた。吸血鬼族も馬鹿じゃないから眷属化した竜人は当然隠してるだろう。魔王や竜王に見つかったら速攻で処分されるのは目に見えている。不死で使う魔法も強力とはいえ千人しかいない魔族きっての少数種族だ。保身のためにそのくらいはやってるだろう。


 そんな危ない種族の人たちが来ないならその方がいい。不死になった竜人とか、そんな面倒なのと戦いたくもないし。


 それよりも宣伝の成果か、以前より圧倒的に増えたお客さんの住む部屋を建てないといけない。そのために2区での別館の建設を客が増えるのに合わせて建てていった。


 そして今日は1区に新たに建設した物をお披露目するために、早朝からハンターや商人たちを集めた。


「それじゃあ壁を取り除くぞ」


 俺はそう言って地面に両手をつき、地上げ屋のギフトを発動した。


 その瞬間、目の前の壁がズズズという音とともに地面へと沈んでいった。


『『『『『おおおおおお!』』』』』


 その光景を見た数百人のハンターとダークエルフたち。そして王国からやってきた商人らの驚きの声が街中に響き渡った。


 俺のギフトに対してではない。王国の商人はともかく、今さらここの利用者がその程度では驚くはずがない。


 彼らが驚いているのは、壁が無くなった後に現れた真っ黒な5階建てのマンションに対してだ。


 この第二フジワラマンションの隣に建てたマンションは、病院とダークエルフ街区のマンションに続き4棟目となる5階建てマンションとなる。


 建設に必要な魔石集め自体は9月に入る頃には集め終わっていたが、新たに発覚した自動販売機の可能性に商機を感じたサーシャが俺にお願い事をしたこと。そのお願いを叶えるために、設計を一部やり直すことになりって遅くなってしまった。


 それとマンションを建てるにあたり、この規模の建物をハンターたちが多く住んでいる1区に一晩で建てるわけにはいかないのを忘れていたのもある。そのためマンションと同じ高さの壁を四方で囲んで目隠しをし、年末年始のように二週間ほど掛けてから建てたように偽装したわけだ。


 そんなんで偽装になるかってツッコミをいれたくなるだろうが、ハンターたちは騙されてくれているんだよ。これまで俺が一晩で倉庫型の別棟やギルドにショッピングモールを建てたことに関して彼らの認識では、土のギフトかその派生の何らかのギフトで俺が建てて、その後に内装や魔道具の設備を運び込んでると思っているようだった。


 年明けにフジワラ第二マンションを建てた時も何日も土のギフトを使って建て、そのあと73もの部屋に魔道具を設置したと認識されていたようなので今回もそう思ってもらえるはずだ。いや、それすらも常識から外れているんだけどな。桁外れの土のギフト使いであることと、数々の高度な技術が用いられた魔道具から、俺ならそれくらいやるだろうと思われているのかもしれない。


 そんなこんなで実は一晩どころか1分で完成した新たなマンション。その名も『春蘭マンション』が今日この日お披露目となったわけだ。


 ちなみに1号別館と別館『春蘭』、『美麗』、『多利庵』、『恵令奈』は2区へと移設した。これで5階建てマンションの西側、ダークエルフ街に向いている1階と2階の日当たりが以前より良くなった。


 そんなことを考えていると、真っ先に建物の2つある入口のうちの一つを開けたサーシャの元気の良い声が聞こえて来た。


「さあみんな! ハンター専用の食堂&喫茶『プリンセスサーシャ』のオープンよ! 今日はオープン記念として、新作料理がなんと銅貨1枚! どれも5分以内にできるから待たないで済むわよ! 100人同時にだって同じ時間で提供できるんだから安心しなさい!」


『新作料理が銅貨1枚だって!?』


『相当やばいやつなんじゃねえか? 前の激辛のやつみたいに』


『いや、最近の姫さんはハズレがないんだよ。冒険するのはやめたって言ってたし』


『マジか、それなら期待できるな。でも100人に5分で提供できる料理ってなんだ?』


『さあな、焼肉とかじゃねえか? それより隣の女の子かわいくないか?』


『肉を銅貨1枚とか大赤字もいいとこだな。そうか? 俺はあのちっちゃい子がいいな』


『ん? あの子はどこかで見たことあるような……』


 マンションの1階の入居者用の入口のすぐ隣にある、全面ガラス張りの店舗の入口の前でメイド服を着たサーシャが大声で食堂のオープンを宣伝している。


 そんなサーシャの両隣には、笑顔でお盆を持っている10人近くの人族の女の子たちがいる。全員が10代半ばから後半と若くて可愛い。


 この女の子たちは全員が帝国のハンターのお客さんの元奴隷だ。だからハンターたちが見たことがあると言ってるのも当然だろう。彼女たちはサーシャが帝国のハンターたちと交渉し、今までお弁当販売で稼いだお金で買った子たちだからな。もとはハンターの荷物持ちや性処理に使われていた女の子たちなだけに、サーシャが買った時はみんなガリガリで目が死んでいる子ばかりだった。


 それがサーシャが買い取ってからは、彼女たちだけのために大部屋を用意して毎日好きなだけご飯を食べさせ、ジュースやクッキーまで差し入れしていた。その結果、たった二週間くらいで肉も付き笑顔を見せてくれるようになった。


 念願のお店をオープンできてサーシャも嬉しそうだな。


 最初にローラと一緒に飲んだ翌日からしばらくは謝ってもまともに話してくれなかったが、今では前のように普通に話せるようになった。たまに俺の股間に視線を感じるが、きっと気のせいだと思う。


 あれから二度ほどまたローラに飲みに誘われたが、クロースを連れて行ったことで前のような尋問を受けることはなくなった。最初はクロースが俺より先に潰れて役に立たねえなとか思ったが、どういう訳かレベルアップのことは一切聞かれなくなった。どうやら諦めてくれたようだ。まあそれでも結局俺も酔い潰れてるんだけど。ローラのチャイナドレスはリーゼロットの時より衝撃が大きかったわ。あれで酒が進んだんだよな。サーシャのベビードール姿も目の保養だったし。


 そんなことを思い出している間に、ハンターたちが次々と店舗の中に入っていく。


 まあこの元王女だということを隠す気もないこの『プリンセスサーシャ』という食堂兼喫茶店が、サーシャが俺にお願いしてきたものだ。どうもお弁当を作ってるうちに自分の店が欲しくなったらしい。それで自販機の新たな可能性を知って、今しかないと思って俺に店舗を作って欲しいとお願いして来たんだ。


 以前より自炊が苦手なハンターたちから食堂を作って欲しいという要望もあったし、今回新築マンションも建てるからちょうどいいかと思い一階を店舗にしてサーシャに貸すことにした。賃料は本来設置する予定だった1K10部屋分を潰して作ったうえに店舗なので結構高いが、サーシャは新作料理があるから大丈夫よって自信満々だった。


 その新作料理が、さっき彼女が言っていた5分以内に提供できる新作料理のことだ。実はこれがさっき言った自動販売機の新たな可能性に繋がる。そう、新作料理とは『カップ麺』のことなんだ。


 そりゃ何百人いようとも5分以内で提供できるわな。お湯を注いで、できた物を器に移し替えるだけだもん。


 このカップ麺の自販機は先日無性にカップ麺が食いたくなった時に、試しにヘヤツクの図面の自販機コーナーにカップ麺の自販機と書いてみたら現れたんだ。商品は赤いきつねのやつと緑のやつのうどんとそばに有名なヌードル系に焼きそばの6種類だ。価格はFランク魔石1個だから、日本円にするとだいたい500円くらいとなる。


 もう爆買いしたよ。そしてシュンランとミレイアとクロースと一緒に食べた。みんな美味しい美味しいって喜んでた。ただ、レベルアップして身体能力が爆上がりした俺たちには1個じゃ全然足りなくて、一人5個くらい食べてた。うちは食料の消費がすごいんだよ。まあほとんどが自分たちで狩ってきたのと、ハンターたちからのお裾分けなんだけど。


 何でもっと早くに気づかなかったかなと嘆息しつつも、他にも設置可能なんじゃないかと思い日本にあった様々な自販機を思い出し色々試してみた。そしたら嬉しいことにお米の自販機、高速道路のサービスエリアにあるフライドポテトやたこ焼きにホットドックなんかの調理自販機、本格コーヒーをその場で淹れてくれる自販機、うどんの自販機、チョコ菓子系の自販機、タバコの自販機に牛乳などの自販機などが現れた。


 米は2キロでEランク魔石1個、こちらの通貨で小銀貨5枚。日本円でだいたい5千円と高かったが、これまで避難グッズに入っていたレトルト白米のみだったからめちゃくちゃ嬉しかった。これで今まで設備から外していた炊飯器が使えるし、炊きたてのご飯が食べれる。


 ほかはタバコも嗜好品だからか1箱Eランク魔石1個だったが、他はカップ麺と同じ価格で一律Fランク魔石1個から2個の500〜千円てとこだった。


 こうして一通り思いつく自販機を試したが、日本にあるような物は全部出て来た。そこで俺の脳裏に一つの自販機が思い浮かんだ。そう、ファッションホテルの部屋にある大人の自販機だ。


 いや、まさか流石にこれはないだろうと思って試してみたら、家庭用冷蔵庫くらいの大きさのピンクの自販機が現れた。中には見覚えのある大人のおもちゃや、えっちな下着にローションなどがたくさん陳列されていた。下着なんかサイズが豊富でびっくりした。そのうえ鞭などSM用の道具一式まであったし。これどこの高級ファッションホテルの自販機だ?


 品揃え豊富なだけあってどれも日本で売っている時よりかなり高く5万円から20万円相当の魔石が必要だったが、迷うことなく自販機にある物全て買った。下着というかこの世界に無いブラジャーがあったからな。これだけでも即買い案件だ。その後はすぐに自販機コーナーから大人の自販機を撤去した。


 そして夜に下着をみんなにプレゼントしたあと、3人を俺の部屋に呼んで試してみたら、今まで感じたことのない感覚に全員がいつもと違う反応を見せてくれた。特にピンク色のローターの威力はすごかった。もうさ、全員が痙攣するほど悦んでくれたんだ。俺はそんな彼女たちの反応を見て満足しつつ、これは発情期が来た時の対ミレイア戦の最終兵器になる。そう確信した。


 話はそれたが、大人の自販機以外のこれらはミレイアやクロースからサーシャに伝わり、そのお手軽さと美味しさから高評価を得てVIP部屋のある5階に設置することになった。カップ麺やホットドック以外にも、本格的なコーヒーを淹れてくれる自販機なんて、サーシャたち女性陣全員に好評だったしな。たこ焼きとフライドポテトはそこまで好評じゃなかった。たこ焼きはしなびていてあまり美味しくなかったし、フライドポテトは毎朝揚げたてを食べてるからだろう。


 5階に設置すればVIP部屋を借りている竜王の目にも当然入り、興味を持っていたのでカップ麺の作り方を教えたら、この街に滞在している竜人族の間でカップ麺が爆発的に流行した。リキョウ将軍とカコウなんか毎日食べてるってシュンランが笑いながら言ってた。


 あとタバコが竜王ら竜人の男性陣から好評だった。もともとキセルを使ったタバコはこの世界にあったんだが、吸った後に毎回灰を捨てて新しい葉を詰めてと結構面倒らしい。そこに火をつけたらすぐに吸えるという紙タバコが現れたんだ。しかも色んな銘柄があって飽きないとくれば当然の結果だろう。


 俺も昔一時期吸っていたが、もう何年も吸っていなかった。でも竜王たちが吸っているタバコでなかなかいい匂いのするのがあったので吸ってみたら、結構美味しかった。これはハマりそうだと思ってシュンランたちに吸ってもいいかと聞いたら、シュンランは両親が吸っていたから気にならないそうだが、でもミレイアとクロースが匂いはいいが煙がダメみたいだった。なので吸う時は外かバルコニーならいいということになった。異世界でホタル族になるのかと感慨深かったよ。


 ちなみにホタル族とは、タバコを家で吸うことを家族に嫌がられた結果、マンションのバルコニーで吸うことになったお父さんたちのことだ。マンションの外から各部屋のバルコニーを見上げると、お父さんたちがタバコを吸い込む時の先端の灯りが、まるで蛍のように見えたことからホタル族と呼ばれるようになった。


 まあホタル族の話はいいとして、そんな好評の自販機シリーズの中でカップ麺の自販機と調理系の自販機。そしてうどんの自販機とコーヒーの自販機を、サーシャの店の厨房の隣に作った専用の部屋に設置したわけだ。ほかにも元からあるジュースとアイスと酒の自販機も設置した。


 この自販機部屋は経営者のサーシャとリーゼロット。そしてサーシャが竜王と交渉して雇うことになった、竜王の側付きで竜人の女性であるメイファンしか入ることができないようになっている。そうそう、メイファンは実は竜王の親族の娘らしいんだ。どうりで竜王によく毒舌を吐くし、尻を撫でる竜王の頭を平気でぶっ叩いてると思ったよ。


 サーシャとしては今後は奴隷の子たちを育てながら口の固そうな子に自販機の存在を明かし、全てを任せるつもりらしい。そして自分は好きな時に店で料理をしたり俺と狩りに行くようだ。


 いくら自販機産の珍しい食べ物だからと仕入れ値の倍で売るとはいえ、奴隷たちは王国の奴隷法にのっとって雇用するらしいから奴隷にも給料を払わないといけない。メイファンさんに払う給料がいくらか知らないが、決して安くはないだろう。そのうえテナント料も高額なのに、ちゃんと経営が成り立つのか心配だ。うちとしては部屋を貸すよりは儲かるし、自販機のことがハンターたちに漏れなきゃ文句はないけど。



「フフッ、盛況のようだな」


 あっという間に満席になったサーシャの店をガラス越しに見ていると、シュンランが笑いながら話しかけて来た。


「まあ小銀貨1枚で売る予定のカップ麺が銅貨1枚だしな。正直量としては少なめだし、明日以降売れるかどうかわからないと思うけどな」


 物価の高い南街でも一食銅貨5枚。5百円もあればお腹いっぱい食える。それがあの小さなカップ麺で千円だ。滅びの森価格としても、なかなかに手を出しにくいと思うんだけどな。


「あれだけ美味しいんですからきっと売れますよ。自炊が苦手なハンターも多いですし」


「ミレイアの言う通りだ、焼きそばなんか絶品だったしな!」


「あはは、確かにクロースは焼きそばばかり食べてたな。まあ売れなきゃ価格を下げればいいし、ビールも出すことを認めたしな。他のちゃんと作った料理も出す予定みたいだし、そこで儲けが出ればなんとかなるかもな」


 サーシャには酒場と競合しないよう、ビールだけ販売を認めている。それと自販機の料理だけではなく、ちゃんと作った料理も出す予定のようだ。これはサーシャとメイファンさんと奴隷の女の子たちが作ると聞いた。リーゼロット? 彼女に料理を期待するだけ無駄だ。護衛なのに王女に朝夕食を作らせていたくらいだからな。サーシャが店にいる時は、メイファンと一緒に自販機のボタンを押す係だろう。


「それにしても色んな自動販売機があるのだな。まさかあれほど精巧な造りの下着まで売ってるとは思わなかったぞ? ブラジャーだったか? こんなものまであるとは思わなかった。少しデザインがその……刺激が強すぎるとは思うが」


「そうか? お尻に穴が空いてるやつなんか便利だと思うけどな。トイレで用を足しやすくなったぞ?」


 シュンランが少し顔を赤らめて言った言葉にクロースが反論するが、違うぞクロース。その下着はOバックと言って、トイレをしやすくするための物じゃないんだ。そうだな、後で時間を見つけて森に行って教えてあげよう。外でこそその真価を発揮する下着だということをな。


「ク、クロースさん。あれだとお尻がスースーして落ち着かないですよ。他の頂いた下着も、前が透けているのばかりで……ブラジャーなどは胸が垂れにくくなるみたいなので本当に嬉しいですし、色や使われている生地の着け心地や履き心地はとても良いんですが……涼介さん、ほかの普通の下着はなかったのでしょうか?」


「え? あ、ああそうだな。残念ながらああいうのしか売ってなかったんだ。どうしてだろうな」


 置かれている場所が場所の自販機だからな。そこは諦めて欲しい。まあ普通のが売ってても買わないが。


「涼介でもわからないのか。それたらどうしようもあるまい。なに、ミレイアの言うように胸も固定されて動きやすいし、着け心地も履き心地も確かに良い。布の面積というか透けているのは少し恥ずかしいしが、どうせ涼介以外に見られるわけではないしな。そう思えば動きやすくなった分、この下着の方がいいか」


「Tバックだったっけ? リョウスケが凄く喜んでたしな。私は毎日もらった下着を履くぞ!」


「そ、それなら私も……恥ずかしいですが……履きます」


「そう言ってもらえると嬉しいよ」


 服屋で知っている限りの色々な大人の下着を作ってもらったが、この世界にはゴム紐が無いからな。ブラジャーはもともとこの世界に無いから当然だが、ショーツも理想の下着にはなかなか出会えなかった。とはいってもヒモパンでここまで作れるのかと感動をすることも多々あったが、それでもやはりブラジャーといい、ショーツといい地球の下着はいいものだ。


 これからまた夜が楽しくなりそうだ。





 ——フジワラの街 第二フジワラマンション 208号室 ラガッツ兇賊団 頭領 ラガッツ——



「つくづくとんでもねえ野郎だなあのリョウスケって奴はよ」


 俺は今朝お披露目された新たなマンションを思い出しながら呟くと、部屋にいた魔人の手下が首を縦に振り頷いた。


「あの土のギフトはとんでもねえです。それにこの建物や部屋にあるとんでもねえ魔道具を作る魔導技術もです。それを盗まれないように防ぐ結界みたいなもんも、いったいどうなってるのかサッパリです。なんでこんな宝の山みたいな街を、魔国や王国は手を出さねえんですかね」


「帝国の1万の兵を撤退させるほどの街だ。そうそう簡単には手を出せねえだろ」


 帝国が攻めてきた時、ハンターたちは危ねえからと街を出されていたせいで、どうやって撃退したのかの情報がねえ。だがあのリョウスケという男とその女たちとダークエルフが中心となって追い返したのは間違いねえ。特にリョウスケの持つあの強力な槍と、ミレイアという女の雷のギフトはとんでもねえ威力があるからな。


 この間2頭の飛竜がここにやって来た時に見たが、槍の一撃とミレイアのギフトでそれぞれ一頭ずつ瞬殺してやがった。竜人族であり、Bランク《ゴールドランク》の俺でも竜化してやっと倒せる相手だってのにだ。そのうえ100人以上のダークエルフの戦士までいると来たもんだ。恐らく奴らが帝国軍に突っ込み、混乱させているうちに指揮官をあの槍か雷で狙い撃つことに成功したんだろうよ。ダークエルフには相当犠牲は出ただろうがな。


「そんな国が手出しできない街を乗っ取ろうとしている頭領が何を言ってるんですか」


「ククク、確かにリョウスケって男は腕は立つし高度な魔導技術を持ってることから頭も相当良いんだろう。だがそういう奴ほど隙があんだよ」


 自分を賢く強いと思っている奴ほど、ほころびが出てもどうとでもなると思って放置しがちだ。


 ハンターしか入れねえっていうこの街のルールとかまさにそれだ。確かにリョウスケは強い。奴の女もダークエルフも強者ではある。最初にハンターたちから聞いた帝国軍1万を壊滅させたって話はさすがに盛りすぎだが、撤退させたのは間違いない。だがそれができたのは帝国が街の外からこの分厚く高い壁に囲まれた街を攻撃し、街はそれに対しての防衛準備ができていたからだ。でなきゃここまで高い壁を作るわけがねえ。


 だが俺は帝国のような攻め方はしねえ。


「どんな堅牢な要塞も内側からの攻撃には弱いってやつっすよね? さすが頭領だ。頭の出来がオレらとは違います」


「フンッ、こんなこと俺じゃなくとも思いつく。他の兇賊団より早く気付き動いただけだ」


「動いただけって、なかなか商売敵である他の兇賊団を協力させることなんかできませんって」


「俺たちはこの滅びの森最大の兇賊団だぞ? その程度できて当たり前だろう。断ればそのまま滅ぼすと脅せば首を縦に振るしかねえんだしよ」


 団の規模だけじゃねえ。滅びの森の南西部で魔人とサキュバスどもを相手に活動している俺たちが、人族や獣人程度を相手にしてる奴らに負けるわけがねえ。


「あはは、そりゃそうですね。魔族だけで構成された俺たちの団とその人数に、人族や獣人の兇賊どもはみんなビビってましたもんね」


「ククク、まさかこんなところまで俺たちが出張ってくるとは夢にも思ってなかったんだろうな」


 戦闘能力が高く、森の奥地まで狩りに行く魔族を襲った方が実入りは良いからな。そんな俺たちが森の西からこんな中央にくるとは思ってなかったんだろう。俺たちの団の名前だけは知れ渡っていたから、協力させるのは楽だったけどな。


「それでもうこの街に滞在して2週間近く経ちますがいつ実行するんです? 団の仲間も怪しまれないためとはいえ、毎日狩りに行かされることに文句が出てきてます」


「どうせまともに狩りなんかしてねえだろうが。暇だからってハンターを襲ってねえだろうな? 騒ぎなんか起こしたら俺がぶっ殺してやると伝えておけ」


 兇賊が近くにいると思われると警戒されちまうからな。団の引き締めはしっかりしとかねえと。


「それはしっかり言い聞かせてます。ですがこの街に50人近く潜入してますからね。外の仮のアジトにいる奴らも含め、改めて各班長に頭領の言葉を伝えておきます」


「それでいい。だいぶあのリョウスケという男の動きが読めたが、焦りは厳禁だ。待ってれば必ず大きな隙が出る。それまでこの住み心地の良い部屋でのんびりさせてもらう。ああ、娼婦を呼べ、お前も呼んで楽しんでいいぞ」


「おっ、ありがとうございます! さっそく呼ばせていただきます」


「まったく、居心地の良い街だぜ」


 ここには各国の軍も守衛もいねえ。それでいて堅牢と来たもんだ。しかもクズ魔石を入れれば水も魔道具も使い放題だ。トドメに治癒のギフト持ちのシスターまでいやがる。こんな街を手に入れねえわけにはいかねえよなぁ? 


 この街を手に入れたら、ここを拠点に俺が全ての兇賊を支配する。ここなら軍がやってきても追い返せる。あのリョウスケって半魔がそれを証明してくれたからな。


 そうだな、せっかく住む部屋を増やしてくれたんだからもう少し手下を呼ぶか。これまでは空き部屋がなくて少しずつしか呼べなかったからな。なに金はいくらかかってもいい。どうせこの街を手に入れれば大金が手に入るんだしな。


 ククク、リョウスケさんよ。兇賊にとって絶好の立地にこんなすげえ街を作ってくれてありがとよ。この街は俺が貰ってやる。テメエがこの街を離れ、防備が薄くなった時を狙ってな。まさか滅びの森最強の兇賊団が、ハンターになりすまして潜入してるなんて思ってねえだろう。俺たちは潜入する前に襲ったハンターたちから情報を集め、ここを追い出されないよういい子ちゃんにしてるからな。


 たとえ俺たちに奪われた後に取り返しに来ても、お前が身内には相当甘い性格だってのは有名だ。この街にいる従業員やダークエルフのガキを人質にとればなんにもできねえだろうよ。


 さあリョウスケ、早く隙を見せろ。その時がお前がこの街を失う時だ。



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