第11話 クロースの新武器


 ————南街西側 帝国貴族街 皇家屋敷 執務室 皇帝 アルバート・ラギオス——




「失礼します」


「うむ、来たか。無事で何よりじゃ」


 勇者から解放され帝国へと戻された我が友ウルムに、余は労いの言葉を掛けた。


 昨日の勇者との会談の後に獣王から色々と聞いたが、愚息のことでウルムには相当苦労をかけたようじゃ。


「この度は戦に負けただけではなく、ルシオン様をお守りできず共に虜囚の身となってしまったこと誠に申し訳なく。私はどのような処罰でも甘んじて受ける所存です。ですがどうかシュバイン家の一族には類が及ばぬよう、伏してお願い申し上げます」


「責任など感じる必要はない。あのリョウスケという男には勝てぬ」


 裏切り者のアルメラ王国と獣人を率い、先祖を討った勇者ロン・ウーに二度と負けぬよう皇帝は強くあらねばならぬ。そう、幼い頃から兄弟と共に言い聞かされて来た。


 ゆえに勝てぬと認めるのは抵抗がある。


 勇者一人だけならば対抗もしよう。だがすでにあの男は世界を味方に付けておる。こうなってはもう手出しなどできぬ。


「は? あ……いえ……た、確かに強くはありましたが……我が帝国が勝てないとは……その」


「ククク、余が負けを認めるのが意外か?」


 どうやらウルムも勝てぬことは分かっているようだ。まだあのリョウスケという男が勇者だとは知らぬはずなのにの。何かがおかしいということには気づいておるようじゃな。


「は、はい……であるのならば、恐れながら陛下に申し上げたい議がございます」


「なんじゃ、申してみよ」


「はっ! 恐らくではございますがあの砦の主人であるリョウスケという黒髪の男。あの男は勇者かその末裔ではないかと。何を世迷言をと、敗戦をよりにもよって勇者のせいにするのかと思われるでしょうが、あのリョウスケという男が持っていた武器に、自らが作ったという魔道具の数々。どう考えましてもこの世の物とは思えず……何より勾留中にダークエルフや竜人らから、勇者と呼ばれているのを何度か耳にしました。勇者を崇拝している竜人だけではなく、過去に勇者に敵対していたダークエルフがリョウスケという男を勇者と認め敬意を払っていたのです。このことからリョウスケ殿は勇者本人、もしくはギフトを受け継いだ末裔なのではないかと」


「うむ、よく気づいたな。さすがは帝国の諜報を担う男よ」


「!? で、では本当に?」


「うむ、リョウスケは女神が新たに遣わした勇者じゃ。竜王の持つ青龍戟よりも遥かに強烈な光を発する神器に、エルフの持っておった無限袋から古代竜の頭部を取り出す姿を余のこの目で確認した」


 神器の放つ光と、神々しい光に包まれたリョウスケは凄まじい圧力を放っておった。槍を向けられたというのに、余も帝国の最精鋭である近衛も誰一人動けなんだ。


「そ、それは本当でございますか!?」


「信じられぬのも無理はなかろう。余も同じ気持ちじゃった。じゃが信じようと信じまいと、帝国以外の全ての大国があの男に味方しておるのは事実じゃ。あの竜王ですらじゃ。勝てぬと言ったのはそういうことよ」


「りゅ、竜王もですか……確かに勇者であろうとなかろうと、リョウスケ殿の下に竜王を含む3カ国が付けばいくら我が帝国とはいえ勝つことは難しいとは思いますが」


「そう思ったからフジワの街のある領地を諦め、勇者にくれてやったわ」


「なんと!? 3年の停戦をお認めになったとは聞いておりましたが、あの土地を手放されたので?」


「うむ、しかも正式に書面にしての。まあ、あそこはもともと王国の属国があった土地じゃしの。しかしあの場所を王国に取られるのは地政学的にまずかったのでの。係争地にして王国に手出しできぬようにさせていただけのこと。それが王国以外の第三者の土地になるのであれば、最低限目的は達しておる。帝国の腹は何も傷まぬ」


「確かにそうですが……私以外の四公が、勇者に負け領土を差し出したなど言って納得するでしょうか?」


「納得はせぬだろうな。じゃから勇者の存在は伏せる。今回の戦いは王国との戦いであることが知れ渡っておるからの。それを利用し、あの土地に関しては王国と不可侵条約を結んだことにする」


「王国に負け領土を諦めたと受け取られれるのは避けられませんが」


「勇者に負け領土を奪われたと言うよりはマシであろう」


 勇者に負けたなどと四公に知られれば、帝国民の耳にも必ず入る。田舎はともかく都市部の帝国民は幼い頃から反勇者の教育を施しておるからの。四公のうち二つの公爵家は間違いなく帝国民を扇動しよう。そうなれば国が割れる可能性もある。


「確かに陛下のおっしゃる通りですな。この度の戦争は王国との小競り合いであり、ルシオン様率いる軍が敗戦したことで今後あの土地での紛争をやめるよう王国と話し合ったという体にした方がマシではあります。しかしそうなりますとルシオン様は……」


「皇位継承から外すしかあるまい」


「……それしかございませんな」


 四公としてルシオンの唯一の後ろ盾じゃったウルムは残念そうな、それでいて納得した表情で頷いた。ウルムもこれ以上ルシオンを支えるのは難しいと理解しておるのじゃろう。


 すまぬのウルム。もともと今回の遠征はルシオンの皇位継承を盤石とするためのものじゃった。問題をよく起こし手のかかる子じゃが、余に匹敵するギフトの使い手であり覇気のある所を気に入っていた。強い帝国を維持するためには、余の後継者はルシオンしかいないと心の底から思っていた。


 だが戦争に負け捕虜となり、勇者が現れたのではもうあやつを皇帝にするわけにはいかぬ。そんなことをすれば、あの負けん気の強い子は必ず復讐をしようとするだろう。その結果、帝国が世界を敵に回し滅ぶであろう。


 まさか藪を突いたことで、蛇どころか群れを率いたドラゴンが現れるとはな。こうなってはルシオンを切るしかあるまい。


 これからの帝国は弟のメルギスのような内政や外交に長けた者が、皇帝として君臨した方が安定するのやもしれぬな。


 メルギスを後継にか……メルギスは余の祖父が交流のあった竜王から、強く長生きするよう竜王の名であるメルギロスから字をもらい付けた子である。我が子の名を留守中に勝手に付けられたことに当時は怒り、そして名前負けするほどメルギスのギフトは弱かったことにガッカリしていた。しかし今となってはあの子が皇帝となるのは運命だったのやもしれぬな。


 勇者が現れた以上、これからは調和の時代なのやもしれぬ。


 だがあの子ははかりごとに弱い。人を信じ過ぎるのじゃ。そのうえ強さも苛烈さも、そして覇気もないメルギスは上位貴族たちに利用されるであろうな。シュバイン以外の四公がメルギスを次期皇帝に推しているのも、傀儡にしやすいからじゃろうの。


 余が退位するまえに大掃除が必要じゃの。帝国が荒れようとも、勇者の存在のおかげで王国と魔国からの横槍は無いと思っても良いじゃろう。念の為に竜王に話は通しておくか、また竜王に借りが増えるの。まあよい、いくらなんでもそろそろ竜王にもお迎えがくるじゃろう……多分。会談後に飲み会を始めよったからの、あの御仁は。


 しかしその時に飲んだ、フジワラの街で売られているというあのビールやチューハイというものは美味かったの。土産に欲しいと言ったら断られたわ。竜王以外は街から外に出せぬらしい。どうも容器は返さねばならぬのが理由のようじゃ。確かに見たこともない貴重な金属で出来ている容器じゃった。その割には飲んだ後に獣王が握りつぶしておったがの。


 そうそう、竜王がフジワラの街に別荘を持ってると聞いた時は驚いたわ。そんな街に知らぬとはいえ攻め込んでしまったとはの。とてつもなく強い竜人がいたと報告があったが、恐らくリキョウ元将軍でもおったのじゃろう。


 うーむ、しかしどうにかしてまたビールを飲みたいの。退位したら余もフジワラの街に行ってみようかの。



 ♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎



「見えた。あそこが巣のようだ」


 俺は森を流れる川辺に生い茂る背丈ほどある草木をかき分け、50メートルほど前方を指差しながら皆にそう告げた。


 指を差した方向には、木々の上に止まっている大量のハーピーの姿が見える。


 巣を見つけることができたのはラッキーだったな。これで恋人たちのレベルアップも進むというものだ。



 南街での交渉を終え二週間ほど経ち8月の初旬を迎えた頃。


 フジワラの街の大工事を終えた俺は、ここ数日恋人たちやサーシャたちを連れて滅びの森へ狩りに来ていた。


 南街で皇帝との交渉を終えた後の今日まで何をしてたのかというと、まず南街で帝国からもらった身代金の一部を南街に二つあるギルドのうちの一つ、王国専用のギルドで魔石を買い漁った。そしてすぐにフジワラの街に戻ってダークエルフ街区にマンションを建てた。


 若いダークエルフの女性たちは、ハンターが住む新築マンションに憧れていた子も多かったらしく大喜びしてたよ。ファミリー用だと言ったら速攻で意中の男性に迫ってた。その日の夜は逆夜這いが多かったらしく、翌日は若い男のダークエルフが皆疲れた顔をしてた。そうそう、スーリオンのところにも何人か来たみたいだけど、全部断ったらしい。


 なんで知ってるかって? 酒場でそのことをカルラにいじられた時に、スーリオンが脂汗を流しながら必死に弁明していたのをローラが聞いていて教えてくれたからだ。


 けどその時にカルラに男なら夜這いするくらいじゃねえとなと言われたらしく、後日俺に相談しに来られて困った。棘の警備隊の女子寮の警備は街で一番厳しいからなぁ。多分無理だと思うと言ったら、ホッとしたのか残念なのかわからない顔をしていた。そういうところだぞスーリオン。


 そうそう、ダークエルフ街区に建てた5階建てのマンションだけど、これは戦争で彼らが命を対価に得た物だから賃料は取らないつもりだ。実際下手したら死んでいたかもしれないほどの大怪我をしたダークエルフもいたし。


 といってもこのことは族長たちには伝えていない。言ったら断られるからな。もともとダークエルフ街区の賃料は、毎月まとめてこちらで計算して請求しているし、全体の賃料を値下げしたとかなんとか言って数字をいじればわかりはしないだろう。


 ダークエルフの族長たちはうちから請求されると、一族の者たちがうちで依頼したりギルドで受けた依頼などで稼いだお金を集め支払っている。といっても全員から全額集金しているわけではない。


 うちで働いているダークエルフたちはショッピングモールで買い物をして良い服や装備を身につけているし、この世界の調味料もかなり頻繁に買ってることから生活には余裕があるのがわかる。ハンターとして森に狩りに行く者たちや、森の北へ向かう道を作ってる者たちなんて稼ぎがいいから全員がミスリルの短剣を持ってるくらいだ。


 あとから合流したダークエルフの里の者たちも、魔国にいた時に比べ天地の差があるほど裕福な生活を送っていると言ってる。こうして豊富な仕事に高収入を得たことで、彼らの心に余裕ができたのだろう。二つほど他の里の人たちも招待したいと伝えたら、皆が喜んで賛成してくれた。


 二つの里を迎えるとなると、ダークエルフの数は今の倍である1200人になる。新たに壁を拡張したり建物を立てたりと大変だが、今後街を大きくしたり増やすためにはどうしても信頼できる人材や防衛のための武力を持つ者がたくさん必要だ。ダークエルフはその両方を兼ね備えている稀有な存在となる。


 だから先行投資と割り切り、俺は受け入れのための住居をどんどん建てた。魔石は魔国と王国を通して西街と南街のギルドから買えるように手配済みなので、信頼できるハンターたちに頼み、買い付けをして運び込んでもらっている。


 そのギルドだが、今回の帝国との会談を機にフジワラの街の存在を伝えた。東街以外のギルドは、フジワラ街の存在を知って驚いていたらしい。国がこちら側についている以上は協力しないわけにもいかず、今まで街の存在を隠していたハンターたちや、うちに支店を出した東街のギルドに恨み言を言ってるらしい。


 南街のギルドなんて支店を出したいと言っているようだが、二つもいらないと断っている。ただ、臍を曲げられて魔石を買えなくなるのもアレなので、もう一つ街を作った時はお願いしますと伝えてある。まだずっと先のことだし、誘致するとしても北にある聖地とかになりそうだけどな。Bランクの魔物に囲まれた街に支店を出してくれるかわからないけど。


 まあそんなこんなで夜中のうちにダークエルフ街区を含めた街の拡張。というか壁は取っ払わずに外側に新たに壁を作った2層造りの街になっているが、その作業も大方が終了したのでこうしてここ数日は皆で狩りに来ているわけだ。



「うわぁ、50匹はいるんじゃない? これは間違いなくハーピークイーンもいるわね。じゃあギフトをかけ直すわよ。『女神の祝福』」


 隣にいたサーシャが、俺の指さす方向にいる大量のハーピーたちを見て驚きつつもギフトを発動してくれた。


 すると俺たちの身体が一瞬白く光り、それと同時に力が湧き出てくる感覚を覚えた。アルメラ王家に伝わる特殊ギフトの効果だ。これは範囲内の仲間の身体能力と精神力を1.2倍にするという強力な物だ。


「よし、みんな準備はいいな? 一気に行くぞ!」


 俺は背後にいる恋人たちとリーゼロットやローラへそう告げたあと、前方に広がる木々の上に立っているハーピーへとペングニルを投擲した。


「あははは! 力が湧いてくるぞ! 私が一人で全滅させてやる! ゴーレムたちよ突撃だ!」


 俺の投擲を合図にまず最初にクロースが全長3メートルほどの2体のアイアンゴーレムと、1.5メートルほどのストーンゴーレムを1体を連れて飛び出した。彼女は左右の手に各一丁ずつの機関銃を持っており、そこから長く伸びる弾帯を隣でストーンゴーレムが手で支えながら彼女の後ろをついていっている。


 誰よりも早く前方に飛び出したクロースは20メートルほど走ったあと、俺たちの襲撃に気付き上空へと飛び立とうとしていたハーピーへと機関銃の斉射を始めた。その威力は凄まじく、耐久力の低いハーピーは次々と撃ち落とされていった。


「あの子はまたハイになってるわね。まあいいわ、右は私がやるわね。氷の矢よ!」


「ローラさんサポートします! 『百雷百矢』!」


「私は左に回り込もうとしてるハーピーをやるわね。シルフ、ハーピーを地上に叩き落としてちょうだい! 『シルフの鉄槌』!」


 ハーピーから飛んでくる羽の刃をアイアンゴーレムの持つ盾に隠れ防ぎつつ、圧倒的火力で反撃していくクロースの姿に前方は大丈夫だと思ったのだろう。左右から回り込もうとするハーピーへ、ローラとミレイアとリーゼロットが遠距離攻撃をしつつ前へと進んでいった。


「見るのだ! この圧倒的火力を! まるでハーピーがゴミのようだ! あはははは!」


 クロースは満面の笑顔で機関銃を連射している。でもちょっと前にで過ぎじゃないか? 大丈夫かなぁ。


「ふむ、ここでは出番はなさそうだな。私は後方を警戒するとしよう」


 俺がクロースを心配していると、近接戦闘は無いと思ったのだろう。シュンランが青龍戟を手に後方の警戒を始めた。


 俺は頼むと彼女に言ったあと、アンドロメダスケールを展開して流れ弾のように飛んでくるハーピーの羽の刃からサーシャを守りつつ、リーゼロットが地面へと落としたハーピーへとペングニルを投擲し止めを刺していった。


 すると巣が襲われていることに気づいたのだろう。巣から離れて狩りに出ていたらしき8匹のハーピーが、シュンランが警戒している左後方から近づいて来るのが魔物探知機に映った。


「シュンラン! 左後方から8匹が向かって来る! 援護する!」


「わかった! あれか!」


 俺の指し示す方向へと視線を向けたシュンランはすぐにハーピーの存在に気づき、一瞬消えたかと思えるほどの速度で駆け出した。そして地面を蹴り木の枝へと登った彼女は、木々を移動しハーピーの真下へと辿り着くと足場にしていた木の枝を大きく蹴って上空へとジャンプした。


 突然木から飛び出したシュンランにハーピーは全く反応ができず、彼女の振るう青龍戟により二匹があっという間に両断された。そんな彼女の動きに目を奪われつつも、俺もペングニルを投擲し2匹のハーピーを撃ち落とした。


 その時だった。


「クロースさんハーピークイーンです! 下がってください!」


「クロース! 前に出過ぎよ! 下がって!」


 クロースたちのいる方向から、ミレイアとリーゼロットが叫ぶ声が聞こえてきた。


 そちらに目を向けると彼女たちの前方の木々の合間から、ハーピークイーンが十数体のハーピーを引き連れて近づいてくる姿がチラチラと見えた。森の木々を盾にして接近戦を仕掛けるつもりのようだ。


 クロースはというと、ミレイアたちの言う通りやたらと突出している。


「やっぱこうなったか。クロース下がれ! リーゼロット! サーシャの護衛とシュンランへの援護を頼む!」


「わかったわ!」


 俺はリーゼロットに持ち場を任せ、クロースのいる場所へと駆け出した。


「あはははは! 出たなクイーン! リョウスケ! ここは私に任せるのだ! 今日こそ私が倒してみせるのだ!」


 しかしクロースは俺の言葉を無視し、ゴーレムを盾にさらに前へと進んでいった。


 いつも俺が倒しているから今回は自分が倒したいのか? 確かに機関銃なら倒せるとは思うが……まあ倒したいというなら倒させてやってもいいか。


 そう思い俺は足を止め、その場で見守ることにした。


 しかし木々に隠れながらクロースに迫って来るハーピーが、何体か機関銃によって撃ち落とされた時だった。機関銃という兵器の欠点とも言える現象が起こった。


「なっ!? で、出ない! 二丁同時に弾詰まりだと!? ア、アイアンゴーレムよ私を守るのだ! ストーンゴーレム! 早く弾詰まりを直すのだ!」


 まさかのBランク魔物を目の前にしての二丁同時の弾詰まりである。


 焦ったクロースは腰に差してある短剣を抜くことも忘れ、アイアンゴーレムの掲げる盾に守られながらストーンゴーレムと一緒に弾詰まりを直そうとしていた。


 しかしハーピークイーンとその取り巻きはもうすぐ目の前だ。木々に隠れ飛びながら近づいてきていたクイーンは機関銃からの攻撃が止まった瞬間に飛び出し、その巨大な鉤爪でアイアンゴーレムに襲い掛かった。その瞬間ゴンッという大きな音がしたと思ったら、アイアンゴーレムが横へと吹き飛んだ。そしてその空いたスペースに2匹のハーピーが入り込み、弾詰まりを直している無防備なクロースへと襲い掛かろうとしていた。


 クロースは突然目の前で自分の盾となっていたアイアンゴーレムが吹き飛ばされ、ハーピーが鉤爪を向け襲い掛かってくる姿に驚愕した表情を浮かべ固まっている。


「ローラ頼む!」


 俺は自分の攻撃では間に合わないと思いローラの名を呼んだ。


「まったく、世話の焼ける子ね。『氷壁』!」


「そこが可愛いところでもあるんだけどな。よっと! ミレイアも援護を頼む!」


 俺の声に反応したローラが、ハーピーとクロースの間に氷の壁を作りその鉤爪を防いだ。そこに俺がペングニルを投擲し、2匹のハーピーを始末した。すると後方から雷の矢が幾本も飛んできて、残りのハーピーへと襲い掛かった。


「やっぱミレイアのギフトは強力だな。ミレイア! そのまま大技でクイーンもやってくれ!」


「は、はいっ! いきます!」


 ミレイアは俺があげた無限袋に入っていた古代竜のローブを脱ぎ捨て、ビキニアーマー姿となった。


 火や水や雷などの自然の力を発現するギフトは、肌の露出が多いほどその自然の力を取り込みやすくなる。だからミレイアを苦労して説得し、こうしてビキニアーマーを身に付けさせている。


 俺は顔を真っ赤にしながら紫電を纏った両腕を前に出し、大きな胸をブルンと揺らしているミレイアを凝視していた。


 いいな。やっぱりビキニアーマーは最高だ。夜のバニーガール姿のミレイアもいいが、こうして野外で肌を露出させて恥ずかしがっている彼女もイイ!


「あ、あまり見ないでください……ら、『雷龍の咆哮』!」


 俺の視線に気づいたミレイアはより一層顔を赤らめつつ、目の前に直径3メートルはありそうな巨大な球体の雷を発現させた。そしてその球体からまるで龍のブレスのように野太い雷が放出された。


 それはものすごい速度で上空で滞空していたハーピークイーンへと向かっていき、そしてその全身を呑み込んだ。


 雷が通り過ぎた後、その空間にクイーンの姿はなく、クイーンのいた場所の真下に魔石が落ちる音だけが聞こえるだけだった。


「相変わらず凄まじい威力だな」


 サーシャのギフトによって精神力が上がり、さらに極限まで肌の露出をしているミレイアのギフトはまさに最終兵器と呼べる物だった。


 ルシオンのギフトを参考にして作った、この『雷龍の咆哮』を見るのは練習を含めてこれで3度目だ。あまりの高威力と精神力の消費量に使い所が難しいが、俺たちの中で一番威力があるギフトであるのは間違いない。


 恋人たちをRPG的に例えるなら、シュンランが槍士でクロースが精霊召喚士。そしてミレイアは雷に特化した大魔法士だろう。俺は……タンクに近い魔槍士か? 勇者ではないな、それは間違いない。


「た、助かったぞエロシスターにミレイア。でもクイーンは私が倒したかったぞ」


「誰がエロシスターですって? また胸を凍らせて欲しいのかしら?」


「ひっ! じょ、冗談だ! だから落ち着くのだローラ!」


「クロース、機関銃を信頼し過ぎだ。弾詰まりが起きやすいのは知ってるだろうに」


 機関銃は弾を弾帯から給弾する特性上、非常に弾が詰まりやすい。固定砲台として使ってもよく詰まるんだ。それを片手で振り回しながら使っていれば詰まるのは当然だ。これまでは弾詰まりを起こすのはどちらか片方だけで、その都度ストーンゴーレムが弾詰まりを直してと連携が取れていたが、今回のように二丁同時に詰まればどうしようもない。


「そうですよクロースさん。クイーンは巨体なんですから、いくらアイアンゴーレムでも空高くから勢いよく降下しながら振るう鉤爪の攻撃は防ぎきれませんよ」


「うう……まさか機関銃が二丁とも弾詰まりを起こした上に、私のアイアンゴーレムまで吹き飛ばされるとは思わなかったのだ」


「やっぱ機関銃を使うのはやめた方がいいんじゃないか? クロースが撃っている間はシュンランも俺も前に出れないし」


 三日前に殲滅力を上げたいと言ってきたクロースに機関銃を持たせてみたのはいいが、誤射が多く俺も背後から何度か撃たれた。まあ火災保険のギフトで無傷だったが。だからと言って撃たれても平気というわけではない。やっぱ銃で撃たれるのは精神的に嫌なもんだ。


「ダメだ! 機関銃を使いたいのだ! これがあればオーガの群れ相手でも無双できるのだ!」


 どうやら機関銃を手放すつもりはないらしい。土の精霊魔法とゴーレムを操っての攻撃は確かに強力だが、スピードや殲滅力が不足気味だったからな。それを補うことのできる機関銃を手放したくはないというのもわかる。飛竜の外皮も貫通できる威力があるしな。


「だったらせめて突出するのはやめなさいよ。まったく、全能感によって脳筋になる兵士が一定数出てくるのは、サーシャのギフトの欠点といえば欠点よね」


 クロースの言葉にどうしたもんかと考えていると、背後からリーゼロットがシュンランとサーシャを連れて合流した。


「まあ戦意向上の効果があることは否定しないわ。それでもクロースみたいに単独で突っ込む人間なんて今までいなかったわよ?」


 サーシャがリーゼロットの言うギフトの欠点に同意しつつも、クロースほどの脳筋はいなかったと反論する。


「クロースのアレは地だ。考えが足りないだけだ」


 そこにシュンランが呆れた口調で割って入った。


 うん、俺もシュンランに同意だ。


「うう……みんなして私への評価が厳しすぎるぞ」


「正当な評価だな」


「「「正当な評価ね」」」


 おお、ミレイア以外みんなが口を揃えて同じことを言うとは。さすがに少し可哀想になってきたな。


「くっ……私は負けない! リョウスケ! 機関銃をもう2丁寄越すのだ! ストーンゴーレムに予備として持たせれば、今回のような不運があっても大丈夫なはずだ! 早く出すのだ!」


「お前は本当に懲りないな……」


 そういう所がほっとけなくて可愛いんだけどな。


「そう言いながらリョウは無限袋から出してるし。そうやって甘やかすからクロースが脳筋になるのよ」


「だれが脳筋なのだ! 私がリョウスケに優しくされてるからって妬むな!」


「なっ!? ね、妬んでなんかないわよ!」


「また始まったよ」


 俺はいつも通り口喧嘩を始めた二人を放置し、倒したハーピーの魔石を集めることにした。


「あ、涼介さん。私も一緒に行きます」


「ん? あ、ああ」


 するとミレイアがローブを羽織りながら駆け寄ってきて、俺は閉じられていないローブの前部分でブルンブルン揺れるおっぱいに目を奪われた。


「そ、そんなに見ないでください。恥ずかしいです」


 ミレイアは俺の視線に気づいたのか、頬を染めながらいそいそとローブの前を閉めた。そんな彼女の姿に俺はモンモンとしていた。


 発情期の時はもっと赤ちゃんの種をくださいって、積極的に口や前や後ろも使ってまるで別人のように乱れるのに、普段は恥ずかしがり屋とか。このギャップが本当に堪らない。


 アンジェラたちの指導のもと、ミレイアが意識して魅了を発動できるようになってからまだ発情期は来てないが、次の発情期にはぜひ魅了に掛かりお互い獣のように求め合ってみたい。今からその日が楽しみで仕方ない。


 あっ、そろそろエルフの繁栄の秘薬の数が怪しくなって来たな。我が命の恩人であるルーミルに、リーゼロットを介して精霊通信でまた頼まないと。いつもの物を頼むというだけで1週間と掛からず王国から口の固いハンターに届けさせてくれるんだから、本当に優秀な男だ。今度日頃の感謝の気持ちを込めて、フジワラの街に恋人と一緒に招待してVIPルームに滞在してもらおうかな。うん、そうだ。そうしよう。


 そんなことを考えながらまたローラに絡んだのか、背後で胸を凍らされ悲鳴をあげているクロースを他所に魔石の回収をするのだった。


 平和だなぁ。




 ※※※※※※※


 作者より新作のお知らせ


 現代ファンタジージャンルですが新作を連載中です。


 タイトルは


『最凶災厄の救世主〜貧乏神の加護を得た俺は(他人の)運を対価に無双する〜』


 https://kakuyomu.jp/users/shiba-no-sakura/news/16817139557239745824

(クリックすると近況報告に飛び、そこにあるリンクから作品に飛びます)


 貧乏神に取り憑かれた主人公が、キングボンビー並に周囲を不幸にしながら軍学校からの成り上がってハーレムを作りつつ魔界化した日本を救う物語です。


 あらすじ↓


 西暦1980年

 突然世界中の首都や森林及び山脈地帯に魔界に繋がる門が現れ、そこから噴き出す致死性の毒。【瘴気】により、生きとし生けるものは次々と命を絶たれた。

 さらには魔界の門より悪魔や魔獣の精神体が遺体に憑依し、その姿を悪魔及び魔獣へと変貌させた。

 そうして悪魔や魔獣の住む魔界と化したかつての土地は、門から噴き出し続ける瘴気によって徐々に広がっていった。

 現代兵器が効かない悪魔や魔獣たちに人類に対抗する術はなく、このまま世界は魔界と化し人類は滅ぶと思われた。


 しかし天界の神々は人類を見放さなかった。


 神々は加護を人類へと与え、神の権能を使えるようにした。それにより人類は悪魔と戦う術を手に入れ、悪魔へと反撃を開始し魔界化した土地や国を次々と取り戻していった。


 しかしそれから50年。2030年となっても人類は未だに悪魔との熾烈な戦いを続けていた。


「くっ、みんな下がれ!俺の権能で片付ける!」


『た、隊長!まだ戦えます!自分たちでやれます!』


「我が隊に殉職者は出したくないんだ!いくぞ!」


『やめてください隊長!前に出……出るんじゃねえよ!』

『やっと彼女ができたばかりなんだよ!前に出てくんな!』

『く、来るな!もう階段から転げ落ちたり車に轢かれるのは嫌なんだよ!』


「ここで死ぬよりマシだろ!さあみんな!オレに運を分けてくれ!」


『『『や、やめろぉぉぉぉぉ!』』』


 これは貧乏神に見出されその加護を受けた青年が、(他人の)運を対価に無双し日本を救う物語である。


 是非ともご一読いただければ幸いです。

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