第4話 機関銃無双



 恐らくミスリル製だろう。鬼馬に乗り全身鎧に身を包んだ30代くらいに見える騎士がこちらに向かって来た。


 そして正門から30メートルほどのところで立ち止まり、外壁の上に立つ俺に向けて口を開いた。


「私はラギオス帝国第一皇子、ルシオン・ラギオス様率いる天雷騎士団副団長 カーマイン・ソルド男爵だ! 我が国の領土へ無断で砦を建てた王国の先兵たちよ! 我々は貴様らを皇帝陛下の命により討伐しに来た! 無駄な抵抗などせず即刻門を開け降伏をせよ!」


「俺はこのフジワラの街の責任者である藤原涼介だ! 言い掛かりはやめていただこうか! ここが帝国の領土である証拠は一つもないし、我々は王国の先兵などではない! この街はハンターによるハンターのための宿泊施設だ! よって王国であろうと帝国であろうと明け渡すつもりはない!」


 そう、王国にはこの土地に千年以上前に王国に従属していたという国の資料はあるが、帝国には一切ない。よって帝国がここを自分の領土だと言っているのは全て言いがかりに過ぎない。まあ日本の隣国にもそういった国はあったしな。だが嘘も百回言えば真実になるというなら放置しておけばいいが、タチが悪いことにそういった国は認めないなら戦争をして決着をつけると脅してくる。軍事大国というのは世界が変わっても似たようなもんだな。


「戯言を! この土地は紛れもなく帝国の土地だ! それに中に王国の第三王女と宮廷魔導師のエルフがいることはわかっている! それでも王国の関与を否定するつもりか!」


「そのような者はいない! ここにいるのはハンターだけだ!」


「とぼけるか! よかろう、ならば力ずくで確かめさせてもらう!」


「できるならな」


 俺がそう答えると騎士は鼻を鳴らしたあと、後方で包囲をしている軍の中へと戻っていった。


 そういえば正門の前に布陣している2000ほどの兵は、北や西にいる革鎧を装備している兵と違って半分以上が全身鎧を着込んでいる。本陣がその真後ろにあることから、ルシオン直属の軍なのかもしれない。まあ革鎧だろうが鉄の鎧だろうが俺たちにとってはそう違いはないがな。


 それにしてもみんな疲れた顔をしているな。まあ心当たりはあるんだが。


 しばらくして森の中から雷球が複数打ち上げられた。恐らくは全員が雷のギフト使いらしいルシオンの親衛隊が打ち上げたのだろう。この本陣を囲むように布陣している300ほどの赤い点がその親衛隊ぽいな。彼らだけは要注意だ、なんとか前に出て来てもらって殲滅しておきたい。


 そんなことを考えていると、雷球が合図だったのか盾とハシゴを持った兵たちを先頭に包囲していた軍が一斉に前進を開始した。


 盾は鉄製の盾で、これは弓やギフトの攻撃を防ぐためだろう。ハシゴを持つ兵を守るように頭上に掲げながら前進している。そしてハシゴを持った兵の背後には弓を持った兵、その背後の中央付近には無手の騎士が数十人ほど続いている。無手の騎士は恐らく何らかの攻撃ギフト持ちだろう。


 ギフト持ちであろう無手の騎士の両側とその後ろには、剣を持った通常の騎士が続いている。さっきの副騎士団長はというと、前進はせず後方で数十ほどの騎士に守られて動いていない。


 俺は手に持ったペングニルを地面に突きながら、ゆっくりと距離を詰めてくる兵たちを魔物探知機と一緒に見ていた。

 

 全力で駆けながら突撃してくると思っていたが、随分と余裕だな。


 魔物探知機には俺のいる正門のある東と、ダークエルフ街区の入口のある北。そして同じくダークエルフ街区の西の外壁にいる部隊も同じ速度で街との距離を詰めていっているのが確認できる。岩山のある南側からも数百ほどの敵対する人間を意味する点滅した青い点が岩山を登っている。この程度の数なら別荘の横に配置した機関銃隊だけで十分対処できるだろう。


 そうこうしている間に盾を持った兵が掘りにたどり着き、ハシゴを持った兵が掘りにハシゴを架けようと前へ出た。そのタイミングで俺はペングニルへと精神力を流し頭上へとその穂先を掲げた。するとペングニルは青白い強烈な光を放った。


 そのペングニルから発せられる光を見た各射撃助手たちにより射手へ伝えられると、全ての砲塔から機関銃の斉射が始まった。


《ぎゃあああ!》


《なっ!? 盾を貫通しただと!》


《急げ! ハシゴを早く架け……ぐふっ》


 左右の砲塔からガガガガッという機関銃の音と、兵士の叫び声が絶え間なく聞こえてくる。堀の前にいた兵たちは、一切の抵抗もできないままバタバタと倒れていく。


 その光景を見た後方にいた弓兵が弓を構え、ギフト持ちが両腕を前に突き出すがそこは既に機関銃の有効射程範囲だ。事前に指示をした通り、ダークエルフたちはギフト持ちを狙って機関銃の弾を撃ち込み一瞬で全滅させた。そしてそのまま弓兵にも弾をばら撒いた。


 M240機関銃の有効射程距離は800メートルだが、それはあくまでも殺傷力を維持できる範囲だ。ダークエルフたちが狙い撃てるのは100メートルという所だ。俺は確実に狙い撃つことができ、簡単に撤退できない50メートルまで近づくのを待ってから遠距離攻撃ができる兵を殲滅するように指示をしていた。


 そんな前方と後方で兵が倒れていく姿に混乱しつつも、それでもハシゴを拾い掘りに架けようとしている者もいる。しかしそのことごとくが機関銃の斉射を受け倒れていく。


 俺は人がまるで焚き火に飛び込む虫のように簡単に死んでいく光景を前に湧き出す罪悪感を押さえつけ、後方で鬼馬にまたがり前線の様子に唖然としている降伏勧告に来た副騎士団長と、その隣にいた騎士団長と思わしき男へに向けてペングニルを放った。


「ダブル! ロスト!」


 俺の手を離れたペングニルは真っ直ぐ二人の指揮官に向かっていき、二本に分裂した後に透明化した。そして一瞬の後、二人の指揮官の首が撥ね飛ばされた。


 その光景を確認した俺は北側と西側へ向かって駆け出し、同じように指揮官へ向けてペングニルを投擲していった。


 北と西側の指揮官を失った軍は混乱し、砲塔からの未知の攻撃に臆した兵たちは後方の森の中へと逃げていった。だが機関銃は容赦無くその背を撃ち抜いていく。それでも何百人かは森へ逃げることに成功したようだ。


 正門へと戻ると堀の前はまるで地獄絵図のようだった。2000ほどいたと思われる兵のほとんどが倒れ、まだ息がある者のうめき声がそこかしこから聞こえてきている。北と西を攻めていた兵は早々に森の中に逃げたのに対し、正門前にいた兵で逃げようとした兵はほとんどいなかったようだ。恐らくルシオンの直属の騎士団と兵士だからだろう。


 不幸なことに精鋭と呼ばれていた彼らは、命令なく退却するということはできなかったのかもしれない。これは少し誤算だ。


 サーシャから聞いた性格なら大打撃を受けた後なら前に出てくると思っていたが、さすがに精鋭部隊が全滅したとなれば逃げる可能性がある。


 少しやり過ぎたか? できるなら頭に血が上って前に出てきて欲しいんだが、さてどう出るルシオン?





 ——滅びの森 フジワラの街東側 本陣 第一皇子 ルシオン・ラギオス——



「なんだあの無数に聞こえる小さな爆発音は?」


「恐らく報告にあった火球を放つ魔剣の音でしょう。かなりの数を用意していたようです」


「これがか? 着弾の音がこんな小さいなら思っていたよりも大した威力はなさそうだな。もう外壁を登っているんじゃねえか?」


 降伏勧告を拒否したくらいだからどんだけ自信があるのかと思ったが、所詮はこの程度か。いくら魔剣を数多く用意していようが、包囲された状態で使っても焼け石に水だってのがわかんねえのか? 本当に馬鹿な野郎だ。降伏すればお仲間の命だけは助かったってのによ。


 まあ俺はこの方がいいけどな。男はリョウスケという奴以外は皆殺しにした方が、帝国に連れていく手間がはぶけるってもんだ。


「まだ爆発音が聞こえます。外壁の上で激しく抵抗しているのではないではないかと」


「無駄な足掻きを。早くサーシャ姫とお付きのエルフをを組み敷きてえぜ。どんな悲鳴を聞かせてくれるか楽しみだ」


「ルシオン様。あまり非道なことは……」


「うるせえ! どうせこれから滅ぼす国の王女だ、死のうがどうしようが関係ねえだろうが! シュバイン、テメェは南街で女を調達するのを邪魔しやがった上に、ここでも俺の楽しみの邪魔をするってのか!? 俺の邪魔ばかりしやがるなら、テメェが砦の勢力に殺られたってことにしてもいいんだぞ?」


「ルシオン様……わかりました」


「フンッ! 親父の学友だか情報収集が上手か知らねえが、あんま調子に乗るんじゃねえぞ。俺が皇帝になった後も公爵家を維持してえなら、これから砦の中ですることも黙っ……」


 そう言いかけた時だった。1人の騎士が本陣に倒れるように駆け込んできた。


「!? どうしたエルフィン! なんだその姿は!? 何があった!」


 俺は座っていた椅子から立ち上がり、全身から血を流している配下の騎士へと叫んだ。


「ぐふっ……天雷……騎士……団……全滅……グノシス……団長……ソルド……副団長……討死……敵は……無数の……鉄の……つぶてが……盾を……貫通し……ミスリル……も……」


「なんだと!? エルフィン! オイ! 目を覚ませ! 鉄の礫ってのはなんのことだ! オイッ!」


 俺は報告の途中で力尽きたエルフィンへ駆け寄り身体を揺さぶった。しかし既に事切れているようで何の反応も返って来なかった。


 俺の騎士団が全滅? なんだってんだ盾もミスリルも貫通する鉄の礫というのは!? 


 それからすぐに北と西に配置していた部隊から似たような報告が入った。


 その報告によると砦の外掘りに到着したタイミングで、やぐらから伸びる鉄の棒の先から火が吹き、次の瞬間無数の鉄の礫が飛んできて鉄の盾どころかミスリルの鎧まで貫通したらしい。あまりにも大量の礫が短時間で飛んできたこと、そして後方の弓隊とギフト隊に指揮官まで一瞬で殺されたことで軍は混乱し多くの兵が鉄の礫の犠牲となったらしい。


「ふ、ふざけんじゃねえ! 俺の精鋭部隊である天雷騎士団が全滅した上に、ここにいる俺とシュバインの護衛の600以外に1500程度しか残ってねえだと!? 6000だ! 6000近くいた軍がこの短時間で半分以下になるとはどういうことだ!」


 俺は次々と入ってくる全滅の報告にブチ切れ、周囲を囲む天幕を雷撃で焼き払った。


「ル、ルシオン様落ち着いてください! 撤退した兵によると、敵の魔槍らしき鉄の棒は予想以上に強力な物のようです。連射ができるなど予想外です。そのうえ鉄どころかミスリルまで貫通するなど、帝国にいるあらゆるギフト使いの放つギフトより強力です。ここは一時撤退をするべきかと」


「シュバインてめえ! 次期皇帝の俺に魔人と人族のハーフとダークエルフから逃げろだと! んなことできるわけねえだろうが! そんなことをすりゃあ弟に皇帝の座を持ってかれんだろうが! 鉄の礫なら雷で防げるはずだ! 俺自ら親衛隊と生き残った兵を連れて前に出る! さっさと兵を集結させろ!」


 ここで退けば、俺を嫌う多くの貴族どもが弟を次期皇帝にしようとするはずだ。そうなれば親父も認めるかもしれねえ。それだけはさせるわけにはいかねえ! 皇帝になるのはこの俺だ!


 それに敵の魔槍の能力がわかったのなら大丈夫だ。飛んでくるのが鉄の礫なら、強力な雷のシールドを形成すれば防げる。俺と親衛隊で魔槍を潰してやる!


「お待ちください! 敵の魔槍は強力です! 雷のギフトで確実に防げるかわからない以上、ルシオン様を前線に出すわけにはいきません! 先ずは数人の親衛隊で試すべきです!」


「うるせえ! 邪魔をするならテメェからぶっ殺すぞ! いいから兵をかき集めろ!」


「……承知いたしました」


「それでいい。まあ見てろ。俺と親衛隊で櫓を潰してやる」


 シュバインの兵を盾にしつつ、雷のシールドを形成しながら確実に狙い撃てる30メルまで近づき俺と親衛隊の雷であの櫓を無効化してやる。その後は黒鬼馬と親衛隊の鬼馬で堀を飛び越え、ハシゴを使って外壁を乗り越える。そして内側から他の櫓も無効化して魔槍を奪ってやる。


 待ってろよリョウスケ! この落とし前はつけさせてもらうぞ! 捕らえた後は殺してくださいというまで拷問してやる! 治癒水はあるんだ、生きてさえいればいいだろう。俺の天雷騎士団を殺した罪を償わせてやる!



 ♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎



「お? 出てきたな」


 外壁の上で魔物探知機で確認していると、森の中の本陣にいた点滅している青い点の集団がこちらへとゆっくり移動しているのがわかった。


 どうやら正門を一点集中で突破するつもりのようだ。


「あら、あれだけやられておいて逃げないのね。ここで逃げたら皇位継承に響くと思ったのかしら?」


「うおっ! ローラ! 外壁には来るなと言っただろう!」


 突然背後から声を掛けられ振り向くと、そこには相変わらず深いスリットの入った修道服から生足を覗かせているローラがいた。本来なら外壁の上に来ようとすればシュンランやカルラたちが止めるはずなんだが、恐らく帝国軍の進軍が止まったことで砲塔の中の氷の様子を見にいくとでも言って上がってきたんだろう。


「ずいぶんと帝国兵も減ったようだし、もう逃げたのかと思ったのよ」


「見ての通りまだ終わっていない。というかこれからが本番だ。雷のギフト持ちが大量に攻撃してくるからな。危ないから下がっていていてくれ」


「ルシオン皇子の親衛隊は全員が雷のギフト持ちよ? いくら結界のギフトでも大丈夫なの? 精神力が切れたら危ないんじゃないかしら?」


「フッ、心配してくれているのか? 問題ない。丸一日雷を撃ち込まれても俺に傷一つつけられやしないさ」


 先代勇者のギフトと違い、火災保険は精神力を使わないギフトだからな。ゲームにたとえるならパッシブスキルといった所か。


 しかしローラは俺が心配で上に登ってきたのか。普段はクールなうえに酒が強くてハンターの男たちにはやたら攻撃的だが、可愛いところもあるじゃないか。


「丸一日って……どういう精神力をしているのよ」


「ははは、色々種があるんだよ。さあ、もうすぐルシオンの部隊が森から出てくる。大人しく下で待っていてくれ」


「わかったわ……一緒に飲む相手がいなくなるのは寂しいから無理はしたら駄目よ?」


「ああ、安全第一でいく」


 俺がそう答えるとローラは安心したのか笑みを浮かべた後、階段を降りて行った。


 一緒に飲む相手がいなくなるのは寂しいか。そういえばローラが俺以外の男と一緒に飲んでいる姿を見たことがないな。話が合うからかな? 確かに俺も物知りなローラと話すのは楽しいが。


 おっと、本隊が出てきたようだ。


 あの中央にいる黒鬼馬に乗っている30代くらいの金髪の男がルシオンぽいな。あの青みがかった色の全身鎧は魔鉄製だろうしな。隣にいる男も魔鉄の全身鎧を着ているが、第一皇子って割には年を取りすぎている。恐らくあの男がシュバイン公爵だろう。


 二人の周囲にいるミスリルの全身鎧を着た騎士たちは親衛隊かな? 全員がミスリルの全身鎧を着てるし間違いなさそうだな。お? 親衛隊が持っているあれはミスリルの盾か? ミスリルの盾とミスリルの鎧だと、いくら機関銃でも貫通は難しいか。しかし親衛隊全員の鎧に盾までミスリル製とか、さすが第一皇子だ。金持ってるな。


 前にいる兵も全員が盾持ちか。ハシゴを持ってるのがいないのを見ると、外堀の前に落ちているハシゴを拾って使うつもりか? しかし鉄の盾なんかじゃ……ん? 兵士が持ってる盾は二枚重ねっぽいな。なるほど。それなら貫通は厳しいかもしれない。この短時間で学習してきたってわけだ。


 だがそう上手くいくかな? 鉄の盾の二枚重ねだろとミスリルの盾だろうと、弾は防げても着弾の衝撃までは防げないと思うけどな。


 やはり注意すべきは雷のギフトだな。撃たせる前に倒さないと危険だ。


 おーおー、ルシオンは立ち止まってすごい形相で俺を睨んでるな。睨んでないで早く攻めてくればいいのに。


 俺はそんなルシオンを無視し、スーリオンのいる砲塔ともう一つの砲塔に指示をした。その後、森から姿を表したまま動かないルシオンを見下ろしながらペングニルの穂先を向けニヤリと笑った。


 ここから攻撃してもいいが、親衛隊に守られて森に逃げ込まれたら厄介だからな。機関銃の射手にとっては危険だが、ルシオンたちにはできるだけ前に出てきてもらわないといけない。


『クソがっ! 半魔のくせに舐めやがって! 全軍突撃! あの黒髪と女以外は皆殺しだ!』


 俺が挑発していることが伝わったようだ。ルシオンは顔を真っ赤にして叫びながら突撃の号令を掛けた。その号令を受けて徒歩の一般兵と騎士が盾を掲げながら全力で駆け距離を詰めてくる。その後ろをルシオンとその親衛隊も、少し距離を置いて鬼馬に乗りついていった。


 なんともやりやすい相手だ。これなら計画通りに行きそうだな。


 そう思った時だった。前列の親衛隊が白い雷を盾状に展開した。


 オイオイ、持っていたミスリルの盾を構えないと不思議に思っていれば、土の盾ならともかく雷の盾だって? まさか雷の盾で銃弾を防げると思ってるのか? あっ! もしかして銃弾が鉄の弾だと思ってる? それなら雷による磁界の発生で弾を防げると思うこともあるか。


 残念だったな。銃弾は鉄じゃなく、鉛と銅でできているんだよ。鉛と銅は磁石にはくっつかない。つまりその雷の盾はなんの役にも立たないということだ。大人しくミスリルの盾を構えていた方が生き残れたのにな。


 俺はルシオンたちに心の中でご愁傷様と呟いたあと、ペングニルに精神力を流し掲げ攻撃の合図をした。


 その瞬間。左右の二つの砲塔から機関銃から射出された。そして7.62ミリの鉛玉が、二枚の盾を重ね構えながら堀へと向かう兵へと襲い掛かった。


 二枚重ねの盾は確かに弾は防げたようだ。だが次々と着弾する銃弾の衝撃に耐え切れず盾が吹き飛んだ。そして盾を失った兵たちの末路は先ほどと同じだ。盾を失った兵士は銃弾を浴びて倒れていく。


 俺もルシオンの親衛隊の最右翼へ向けペングニルを次々と放っていき、正面からミスリルの鎧を貫いていった。


 とにかく親衛隊の数を減らす。ルシオンは最後だ。


 やがてルシオンの親衛隊にも機関銃の斉射が始まり、前列で雷の盾を展開していた者たちがあっさりと銃弾に撃ち抜かれ倒れていった。


 その光景を目の当たりにしたルシオンの率いる親衛隊はその場に停止し、全員が下馬をしてミスリルの盾を構えた。そして盾の後ろから片手を前に突き出した。


 雷のギフトを放つつもりか! まだここまで50メートル以上はあるぞ? そんな所から狙えるのか? 


 ルシオンの伸ばす腕は俺に向かっており、残りの親衛隊の腕は二つの砲塔にそれぞれ向いている。しかしそこに再び機関銃の銃弾が襲い掛かった。


 機関銃の銃弾は親衛隊へと命中するが、盾と鎧に防がれて数発では致命傷を与えられていない。さすがは親衛隊というべきか、なかなか盾を吹き飛ばすことができていない。


 当然何十人もの親衛隊に守られたルシオンにも銃弾は届かず、機関銃の斉射を耐えた200人以上の腕が光った。そしてルシオンの頭上には10本の雷の槍が、親衛隊の頭上には何百本もの雷の矢が現れ一斉に発射された。


「ゴムの盾を構えろ!」


 俺は大声で左右の砲塔にいるダークエルフへと叫んだ。その瞬間。俺と砲塔へと雷の槍と矢が襲い掛かった。


 ルシオンの放った雷の槍は半分ほどが俺へと直撃コースだったが、当たる直前で弾け飛んだ。しかし狙いが甘いとはいえ、何百本もの雷の矢が一斉に襲い掛かった左右にある二つの砲塔からは呻き声が聞こえてきた。


 さすがにあの数は防ぎきれなかったか!


「スーリオン無事か!」


 俺がペングニルを親衛隊に向け投げて続け、反撃と牽制をしながら大声でスーリオンのいる砲塔に移動しながら声をかけた。すると中から『大丈夫だ』という力ない声が帰ってきた。そして砲塔の背後から土の精霊魔法が外壁の内側に向かって放たれ、下から救護要員と交代要員が上がってきてスーリオンと射撃助手を運び込んでいった。それはもう一つの砲塔でも同じだった。


 俺はペングニルを親衛隊に放ちながらその様子をハラハラしながら見守っていた。すると救護のためスーリオンたちを運び込んでいたダークエルフが、指でOKの合図をした。


 良かった。どうやら命に別状はないようだ。


 それからすぐに交代要員による機関銃の斉射が始まった。その後も何度か反撃を受けたが、俺が牽制のためにルシオンの周囲の親衛隊を狙ったことで、攻撃が俺に集中したこともあり、最初の一撃ほどまとまった数の雷の矢は飛んでこなかった。ルシオンが雷の槍を俺に向かって放つ度に、首を傾げて挑発した事も効いたのかもしれない。真っ赤な顔をして周りの親衛隊に俺を狙えとか叫んでいたしな。


 そして俺たちは親衛隊をほぼ壊滅状態にすることに成功した。


 300人いたルシオンを守る親衛隊員は、もう50人くらいしかいない。親衛隊はルシオンを守ることを優先し、牽制のために雷の矢を放つことくらいしかできていない。ルシオンは周りが見えていないのか相変わらず俺にこだわって雷の槍を大量に放ってきているが、こちらはまったくの無傷だ。


 そんなルシオンにも機関銃の弾が何発か当たるようになったが、さすがは魔鉄の鎧だ。二、三歩ほど後退するだけで済んでる。


 そんなルシオンに公爵が叫んでいる声がここまで聞こえて来た。


『ルシオン様もう撤退を! 親衛隊は壊滅状態です!』


『どけっ! あの半魔野郎はぜってえにぶっ殺す!』


『いけませんルシオン様! あの男にはどういうわけか雷のギフトが通用しません! 先ほどからいくら当てても無傷ではありませんか! このままではルシオン様のお命が危ないです! 早くお逃げください!』


『うるせえ! てめえは引っ込んでろ!』


 おーおー、逃げろという公爵をぶん殴りやがった。その間にも親衛隊の騎士たちがその身を盾にして機関銃の射線から守ってくれてるっていうのにな。


 まあその方が都合がいいけど。


 よし、もう頃合いだろう。


 俺は生き残った親衛隊に守られながら、今度は両腕を俺に向けて前に出しているルシオンに対しペングニルを振りかぶった。


 その瞬間、ルシオンの前に雷でできた巨大な竜の頭が現れた。


 なんだ、やっと大技を出したか。


『もう出し惜しみはしねえ! 死ね! 半魔野郎! 雷竜のあぎと!」


「お前がな」


 俺がそう呟いたと同時に、雷竜が俺を食い殺そうと襲い掛かってきた。


 しかし俺はその雷竜を無視してペングニルをルシオンへ向け放った。


「ロスト! ダブル!」


 そう叫んだ瞬間。俺の身体を雷竜の顎が飲み込んだ。


 と同時に雷竜はかき消えた。


『なっ!? 馬鹿な! 俺の最強の技が! なんでアイツは無傷で……ぎゃあああ!』


 自慢の大技でさえ通用しない俺の姿を見て、信じられないという表情で何かを叫んでいたいたルシオンだったが、次の瞬間。見えない槍と化していたペングニルがルシオンの両肘から先を吹き飛ばした。


 どうやらペングニルは前を塞ぐ親衛隊を避け、伸びきっているルシオンの腕を真上から垂直降下して切断したみたいだ。ロストすると俺も見えないから推測だけど。


『ル、ルシオン様! 撤退! 撤退せよ! 親衛隊は射線を塞ぎ盾となれ!』


 ルシオンが両腕を失い倒れたあと、殴り飛ばされ後ろにいたシュバイン公爵が即座に親衛隊へと撤退するよう命令した。


 その命令を聞いた親衛隊はルシオンを背負い、機関銃の射線から一列となってその身を犠牲にしながら防ぎつつ森へと後退していった。


 失敗した。本来ならルシオンの両腕を切断したタイミングで降伏勧告をしようと思っていたんだが、公爵と親衛隊のあまりにも見事な判断と素早い動きでその機を逃してしまった。


 帝国との交渉のためにも、皇帝の息子であるルシオンを殺すわけにはいかなかった。だから親衛隊を減らした後に降伏勧告をするつもりだった。両腕を失いギフトを放てなくなり、頼みの親衛隊も残り少ないとなれば降伏すると思っていた。


 まあ逃げられたのなら仕方ない。親衛隊は最終的に残り15人までは減らせたし、あとは将軍に任せれば大丈夫だろう。


 ため息を吐きながら首からぶら下げていた魔物探知機を確認すると、17個の青く点滅した点がものすごい速度で南へと向かっている。


 どうやらテイムのギフト持ちも生き残っていたようだ。ルシオンたちは鬼馬に乗って逃げたか。


 俺は森へと撤退したルシオンへ背を向け、第二フジワラマンションの屋上で待機していたリキョウ将軍たちへとペングニルを左右に振った。


 するとリキョウ将軍とシュンランの師匠であるカコウ。そして竜王の護衛の竜人の戦士5名がその場で竜化をし、翼を広げ俺のいる外壁まで飛んできた。


「勇者様。出番ですね?」


「ああ、リキョウ将軍。ルシオンの捕縛を頼む。ルシオンの両腕は切断したから危険はないが、親衛隊は15人程残っている。彼らは捕縛の必要はないので思いっきりやってくれ。ああ、ついでに一緒にいた公爵も連れてきてくれ」


「承知しました。では捕らえてまいります」


「ああ頼む。仮面を忘れずにな? リキョウ将軍は有名人だからな」


 俺がそう答えるとリキョウ将軍は頷き、事前に渡しておいた鼻から上を隠せる黒い仮面を装着しカコウと配下の竜人を連れて飛び立っていった。


「これでよしと」


 しかし機関銃から逃げ切れたと思ったら、竜人のしかも竜化済みの精鋭部隊が空から追ってくるとか。敵ながらルシオンと公爵には同情したくなるな。



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