エピローグ 神託?
「お父様、行きます!」
「来いラティ!」
「やっぱりラティはスピードタイプか」
「白狼人族は狼人族より速いらしいわよ?」
「へえ、確かに速いな」
俺は隣にいるサーシャにそう答え、獣王にいなされながらも足を使い様々な角度から剣を打ち込むラティを見て納得した。
確かに速い。オークを倒したことがあるだけのことはあるな。
ラティの治療から3日後の朝。
俺はサーシャたちと一緒に病院の中庭で、獣王相手に元気に剣の稽古をしているラティを眺めていた。
「でも原状回復って本当に不思議なギフトよね。一人で起き上がることもできなかったラティがその日のうちに歩き回って、今では剣を握って鍛錬をしているんだから」
「ははっ、確かにそうだな」
原状回復のギフトか……17歳のラティが14歳の頃の肉体に戻ったことで、時間巻き戻しの能力があることは確定した。今までもそうじゃないかとは思ってたんだけど、獣王とメレサさんが3年前の体型だと認めたことでそれが確信に変わった。
ただし、本人の健康な時の強いイメージが必要であることと、若返るには全身を蝕む病気を長年患っていることが条件のようだ。強くイメージするだけで時間を戻せるなら、エルフの繁栄の秘薬が必要なくなるんじゃないかと一瞬考えたが、そもそも股間を怪我しないと原状回復の対象にならない。怪我した状態で恋人たちを抱けるはずもなく、第一股間を怪我したくなんかないから無理だという結論に至った。
そんなくだらないことを考えているとサーシャが俺の手を握り、上目遣いをしながら口を開いた。
「リョウスケ。ラティを救ってくれてありがとう」
「助けられてホッとしてるよ。無限袋にユニコーンの角が無かったしな」
そう、先日王国宰相でありエルフの長老であるアムロドが、十数人のエルフを供に無限袋を持って飛んでやってやってきた。アムロドには取引のような形になってしまい申し訳ありませんと謝られたが、俺はもともとダークエルフのために精霊の森は奪還するつもりがあったこと。そして奪還後はダークエルフへ迫害を禁止することを改めて伝えた。アムロドはしっかりと約束してくれたよ。
エルフに関しては、リーゼロットや俺にエルフの秘薬を融通してくれるルーミル以外はそれほど親交がないからな。まして水精霊の湖のエルフは誰一人知らない。優先すべきはダークエルフであることはしっかり伝わったと思う。とまあ偉そうに言ってはいるが、まだ精霊の森を取り戻せるかはわからないんだけど。
恐らく精霊喰いと呼ばれる竜を倒すだけじゃ駄目だろう。途中にあるという飛竜の巣の排除や、精霊の森周辺にいるBランクの魔物たちの間引きも必要だろう。今の俺じゃまだ手は出せない。
まあそうして手に入れた無限袋だが、大量の魔鉄にミスリル。そして古代竜の鱗など貴重な素材が入っていたが、ユニコーンの角だけは無かった。
あると思ったんだけどな。まさか無かったとは……
原状回復のギフトでラティを治せて良かった。治せなかったら今頃はラティも獣王も俺も絶望していただろう。
無限袋の中身を確認した時のことを思い出しながら冷や汗を流していると、サーシャと反対側の俺の腕を抱いているリーゼロットが口を開いた。
「私もあると思ってたんだけど、使っちゃったのかしら?」
「そうね。リーゼの言う通りきっと勇者様のことだから、親しい人が重病になった時に使ったのよ」
「それはあるかもな」
確かにその可能性は高い。それでもSSランクの古代龍を倒せるほど強かった勇者だし、ユニコーンの角を複数持ってると思ったんだけどな。それだけユニコーンは見つけにくいということか。幻獣だしな。
いやぁでも原状回復のギフトで治って良かった。この件に関してはフローディアには本当に感謝だな。
そんなフローディアのことを考えていたからだろうか?
聖騎士が慌てた様子で病院の敷地に駆け込んできた。
「た、大変です勇者様! 聖女様が突然光って!」
「はあ? クリスが光った? 」
「は、はいっ! とにかくローラ様が勇者様を呼ぶようにと! 」
「わかった。とりあえず行こう」
わけがわからなかったが、とりあえず行けばわかると思い、俺はサーシャとリーゼロットを連れて神殿側に繋がる通路へと向かった。
神殿の入口に着くと、第二フジワラマンションを清掃していたはずのシュンランとミレイアがいた。恐らく聖騎士が病院に走っていった姿を見かけ、何かあったのかと思って来たのだろう。俺の姿を見て何があったかと聞く二人に、クリスのことを話しながら地下へと向かった。
「これは……」
「本当に光ってるわね」
地下に降りると女神像の前で跪いているクリスの姿が真っ先に視界に映った。聖騎士が言っていた通り、彼女の全身からは薄っすらと黄金の光が発せられている姿を見て俺とサーシャにシュンランたちは驚きを隠せなかった。
まさか本当に光ってるとは……
「リョウスケ、呼び出して悪かったわね」
俺が呆然としているとクリスの周囲で聖騎士やシスターたちと共に、彼女を見守るように立っていたローラに声を掛けられた。
「ローラ、これはいったいどうなってるんだ?」
俺はローラのいる場所まで向かいながら、彼女からどうしてこうなったのか事情を聞いた。
「わからないわ。クリスがいつものように朝の祈りを捧げていたら、突然フローディア様の名前を叫んだ後に光りだしたのだもの。声を掛けても聞こえないみたいで、どうしていいかわからないから取り敢えずリョウスケを呼びに行かせたのよ」
「フローディアの名前を叫んでから光った? オイオイ、もしかしてそれって」
まさか神託? あのフローディアが?
「多分ね。でもクリスならあり得そうでしょ?」
「確かに……いや、しかし」
フローディアと会い、ギフトももらった俺にも感じられない女神の気配みたいなのをクリスは感じる能力がある。だから聖女に祭り上げたんだが、まさか本当にフローディアからの神託を受けることができるのか?
クリスに視線を送ると、彼女は目をつぶり祈りながら必死に何かを訴えているようだった。
うーん、あのフローディアが神託ねえ……今さら何を伝えたいんだか。
そんな気持ちでクリスを眺めていると、彼女が発していた黄金の光が徐々に収まっていった。そして光が消えた瞬間、クリスがその場に倒れた。
「クリス!」
ローラーが慌ててクリスのもとに駆け寄り彼女を抱き起こす。
「ん……ローラ……さん」
「良かった。意識はあるのね」
「クリス大丈夫か? いったい何があった?」
意識を失ってないことに安心しているローラを横目に、俺はいったい何があったのかとクリスに確認してみる。
「あ、勇者様……いつものようにお祈りをしていたら、突然フローディア様のお声が聞こえてきたのです」
「「「「「!?」」」」」
クリスの言葉にこの場にいる俺とローラ以外の全員が息を呑んだ。
そんな中で真っ先にサーシャが我に返った。
「ク、クリスさんそれは本当なの!? 女神様はどんな御神託を?」
サーシャはかなり興奮している様子だ。そういえば信仰心が厚かったっけ。まあ聖光教を国教としている国の王女様だしな。
「いえそれが……声は聞こえたのですが、御神託はいただけませんでした。フローディア様は魔神との戦いの最中のようでして」
「は? 魔神との戦い?」
どういうことだ? あのフローディアが魔神と戦っている?
「はい。魔神ヴァーノルドを倒せと叫んでいました。私がどんなにお声がけをしても、一緒に戦っている他の神々へ大声で指示をしているばかりで……」
「ぶっ!」
俺は魔神ヴァーノルドという名前を聞いて思わず吹き出した。
それは有名なMMORPGに出てくるレイドモンスターの名だったからだ。
あの駄女神め! そんなことだろうと思ったよ! しかしなんだってゲーム中にクリスに神託をしようだなんて……いや、違うな。そもそも俺を無理やり送ってあとはよろしく! ってやっていたあの駄女神が神託なんてするはずがない。となると、クリスがフローディアと一方的に繋がったと見るべきだろう。
そして相変わらずゲームをしながら叫んでいる駄女神の声を拾ったってところか? 指示をしていた相手はもちろん他の神ではなく、ネットで繋がっている他のプレイヤーだろう。
《なっ!? 女神様は魔神と戦っているの!?》
《だから我々の世界におられないのか》
《そんな……女神様が私たちを守るために魔神と戦っておられたなんて》
《皆さん祈りましょう。少しでもフローディア様のお力になるために》
しかしサーシャや聖騎士。そしてシスターたちは女神がゲームをしており、その時の独り言をクリスが拾ったなどと思うはずもなく、クリスの言葉を間に受けその場で跪き祈り始めた。
ローラだけはクリスにもう一度女神と繋がって、教会をどうにかしてくれるよう伝えるように言っている。
「涼介、女神は本当に魔神と戦っているのか?」
「涼介さんの故郷にいるのではなかったのですか?」
「リョウが送られてくる時にも女神は戦っていたの?」
「いや、あー、あとで話すよ」
聖騎士やシスターのいるここで、女神がファンタジーゲームをしていてその独り言をクリスが拾ったなどと言えるはずもなく、俺はシュンランとミレイアとリーゼロットに曖昧な返事を返すのだった。
あの駄女神め。相変わらずゲーム三昧の楽しい日々を送ってるようだな。こっちは大変だってのにいい気なもんだ。
しかしまさかクリスがフローディアの声を聞けるようになるとはな。まだ駄女神に声を届けるのは無理みたいだが、聖女として成長したら届けることもできるようになんじゃないか? そうなれば俺とローラの文句も伝えることができるかもしれない。
でもいったいどうやれば聖女って成長するんだ? 信仰心? 魔力? わからないな。今度ローラと相談してみるか。
女神像に祈る聖騎士たちを前に、俺はそんなことを考えるのだった。
——ラギオス帝国 城外 ルシオン・ラギオス——
「ルシオン様。準備が整ったようです」
「ならとっとと出発させろ。十日だ。十日で砦まで着いて1日で落とすぞ」
「ルシオン様。千や二千の軍勢ではないのです。それではかなりの強行軍となります。せめて移動に二週間はみてください」
「うるせえ! 俺が総大将だ! シュバインは黙ってろ! 遅れた者は置いてい行く、出発だ!」
「……承知いたしました」
チッ、シュバインのジジイめ、ことあるごとに口出ししてきやがって。性奴隷を連れて行こうとしたのを反対して親父にチクッたことは忘れねえぞ! クソッ! 二週間も女抜きとか我慢できるわけねえだろうが! こっちはとっとと終わらせて砦にいる女を犯してえんだ。十日だ。十日で全て終わらせてやる。
砦にいるダークエルフの女は結構な数がいるみてえだからな。俺の雷撃を打ち込んで抱いても使い捨てにできそうだ。もしも竜人の女ハンターが参戦していたら、なんとか飛んで逃げられる前に捕らえてえな。竜人の女の具合は中々良いと聞くしな。それに強靭な肉体を持つ竜人なら長く楽しめるだろう。
砦を手に入れて次期皇帝の地位を磐石にできるうえに、捕らえた女どもで楽しめるとはな。さらにその後は砦と国境から王国に攻め入り、王国の王都を陥落させ第二王女のマルグリットを手に入れられる。
ああ、王国でエルフの女も捕らえねえとな。確かエルフには繁栄の秘薬ってのがあると聞く。それを飲めば一日中楽しめるらしい。こりゃ下半身が大忙しになりそうだ。
まずは滅びの森にある砦だ。魔槍使いのリョウスケだったか? 速攻で陥落させてやるから待ってろよ。
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