第31話 ラティの治療の日
「リョウスケ、そろそろではないか?」
リビングで有線から流れる20年前の音楽を聴いていると、隣で聴きながら日本語の歌詞を書いていたシュンランが窓の外へと視線を送りながらそう問いかけてきた。
「そうだな。病院に行こうか」
俺は窓の外に見える夕日を見て、部屋にいたミレイアとクロースに声を掛けてから家を出るのだった。
今日でラティが入院してちょうど1ヶ月だ。俺はこれから彼女の病気を治療しに行く。
この1ヶ月の間に重傷を負った長期滞在者のハンターや、病気で倒れたダークエルフの老人を治療して回った。ハンターに対しては聖女クリスを矢面に出して彼女の力で治したことにしてあるが、身内であるダークエルフに関しては俺が前面に立って治した。
腕を欠損したハンターは新しい腕が生えてきて、筋肉も元通りになっていた。
そして肺の病気を数十年前から患っており、今回は風邪をひいたことからそれが悪化して重度の肺炎を起こしたダークエルフの老人の場合は、ギフトを発動するとそれまで荒かった呼吸が穏やかになった。しかも次の日には起き上がって酒造りを始めていた。その後もこれまで感じていた呼吸をする際の息苦しさもなくなり、以前より健康になったと言っていた。これは治療の際に老人に健康な時を強くイメージするように言った結果だと思う。
これらの事からこの原状回復のギフトは、何年も前から患っている病気にも効果があるということ。そして今までなんとなくそうじゃないかと思っていたが、原状回復のギフトとはただ治療するだけではなく、その者がイメージした通りの原状を回復するギフトなのだと確信することができた。
つまり怪我や病気をする前の自分の身体を強くイメージすれば、その時まで身体の状態が戻るという、ほとんど時間を巻き戻すようなギフトだということが確定したわけだ。
これならば。不治の病にもこのギフトが有効ならばラティの病気だけではなく、3年前にはオークをも倒していたとは思えないほど骨と皮だけになった弱った彼女の身体も元通りになるかもしれない。彼女が14歳の頃の体を強く思い浮かべることができればきっと。このギフトが不治の病に有効であればだが……
そう考えながら俺はオーナー倉庫へと入り、その奥にある病院と繋がる扉を開け敷地内へと足を踏み入れた。
病院に入るとあらかじめこの時間に呼んでおいた、竜王とリキョウ将軍にシュンランの師であるカコウが待合室にいた。
「来たかリョウスケ殿。今日は勇者の奇跡をこの目で見届けさせてもらうぞ」
「まだ成功すると決まったわけじゃない。不治の病にこのギフトを掛けるのは初めてだからな」
無限袋はまだ届いていない。できれば今日までに欲しかったが、リーゼロットに精霊の森を取り戻すと返事をしたのが1週間前のことだ。さすがにそんなに早くには届かなかった。せめてエルフにもあの無限袋の中身を確認できたていたら、ユニコーンの角の有無がわかるんだけどな。
ああ、やっぱり不安だ……もし原状回復で治らなくて、無限袋にもユニコーンの角がなかったらどうしよう。
この1ヶ月の間。もしも原状回復のギフトで治らなかったり、無限袋にユニコーンの角が入ってなかった時のことを考えて俺もユニコーンを探しに行こうと思ったこともあった。しかし長期間この街を離れることはできないし、ダークエルフたちに機関銃の訓練もしないといけないことから動けなかった。そんなやれることがあったのにできなかった不安。それがいざこれから治療をしようという直前になって今まで以上に俺に襲いかかってきていた。
「ずいぶんと暗い顔をしているのう。それではラティも不安になろう。偽りでも良い、自信を持つのじゃ。奇跡はリョウスケ殿だけで起こすのではない、患者であるラティも共に起こすものじゃぞ」
竜王の言葉に将軍とカコウも黙って頷いた。シュンランとミレイアも優しく俺に微笑みかけてくれている。クロースだけはなぜか胸を張り、まるで俺が失敗するなんて微塵も思ってないと思える自信満々の笑みを浮かべているけど。
竜王の言葉とクロースの態度に俺は肩の力が抜けていくことを感じた。
「そうか……そうだな」
病は気からとも言うしな。治療しようとする俺が不安な顔をしていたら、ラティも不安な気持ちになるのは通りだ。そうなったら治るものも治らないよな。
俺の女性関係をさんざん笑っていた竜王に諭されるのは癪だがその通りだ。
俺は背筋を伸ばし胸を張り、気合を入れてラティの病室へと向かった。その後を竜王たちもついて来る。
病室の前に立つと、中から複数の女性の楽しげな笑い声が聞こえてきた。中でもサーシャの声が目立っている。
きっと今日もゲームで盛り上がっているのだろう。
そんな楽しげな声を耳にしながら病室をノックした。するとラティ付きの侍女がドアを開けてくれ、俺の姿を確認すると深々と一礼した後に中へと入れてくれた。
中に入ると広い病室のソファに獣王と第二王妃がおり、ラティのベッドの前にサーシャとリーゼロット。その周囲には聖女クリスとローラに侍女たちがおり、ラティとサーシャのパソコンの画面を覗き見ていた。
クリスもローラを連れて何度かラティのお見舞いに来てくれており、その際にパソコンの存在とゲームのことは知られている。だがゲームに興味を持ったのは意外にもローラだった。ローラに誘われて飲んでいる時に、ラティがやっていたポーカーが楽しかったと聞いたので、教会の入出金管理用という建前でパソコンを渡したら喜んでいた。今では徐々に増えてきたハンターの信者たちのいない日中に、女神像の前で聖騎士たちを相手に賭けポーカーをして遊んでいるらしい。その度にクリスに女神様の前で不謹慎ですと怒られているようだが、ローラはやめるつもりはないみたいだ。さすが不良シスター。
まあ自分の世界をほったらかしにして日本でゲームしているような女神だ。目の前で賭けポーカーをしたら一緒になってやりそうだし、あの駄女神に限っては不謹慎ということはないだろう。
俺が来たことに気付いた獣王と第二王妃のメレサさんが、ソファから立ち上がり出迎えてくれた。その様子が視界に映ったのだろう。楽しそうにラティとサーシャの対戦を眺めていたクリスたちも俺が来たことに気づいた。それにつられてゲームをしていたラティとサーシャも、入口で立っている俺へと視線を向けた。
「あ、リョウスケ」
「リョウスケ様」
「リョウスケ、来たわね」
「ゆう……しゃ……さま」
「こんにちはラティ。治療に来たよ」
俺の姿を見てそれまで浮かべていた笑顔から真剣な表情となったサーシャやクリスたちに手をあげて応え、ラティに笑顔でそう言った。
「……はい……おねが……い……します」
「すぐ終わるから。苦しいこともないし、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
不安そうな表情のラティへと、そう言って彼女の頭を優しく撫でながら答えた。そんな俺の態度に少しは安心したのか、ラティの表情が幾分か柔らかくなった。
「リョウスケ、頼む」
「勇者様。どうか、どうか……」
「確実にとは言い切れませんが、もし駄目でもエルフから無限袋が届きます。その中にユニコーンの角が入っている可能性もありますので、希望は捨てないでください」
ベッドの横までやってきて深々と頭を下げる獣王と第二王妃に俺はそう告げ、サーシャとクリスたちにベッドから離れるように言って間取り図のギフトを発動した。
「え? ふわぁ……これが……おとう……さまと……おかあ……さまが……言って……いた……すごく……きれい」
突然目の前に現れた黄金に輝くパソコンを前にラティが驚きつつも目を輝かせて見ている。
「本当に神々しい光」
「さすがは女神から直接与えられた勇者のギフトね」
「うむ。そうじゃな。ロン・ウーを思い出すの」
サーシャとリーゼロットと竜王も感心したように呟いている。
ラティが入院してから獣王とメレサさん。そしてサーシャたちと竜王には部屋を作ったり原状回復のギフトで怪我を治したりと実演付きで何度か見せたりしたが、毎回同じことを言っている気がする。
ふと視線を下に向けるとクリスとメレサさんがあれだけやめて欲しいと言ったのにも関わらず、侍女たちと一緒にベッドの手前で俺に向かって跪いて手を合わせている。
俺はもう言うだけ無駄だと思いそんな彼女たちを気にしないようにして、マウスを操作しマンカンのアイコンをダブルクリックして起動させた。そして画面右側にある『原状回復精算』のタブを願いを込めつつクリックした。
すると画面にラティのいる病室と、病室と繋がっている両隣の部屋の間取り図が映し出された。その間取り図の中央。今いる病室の場所には、5人の人型のマークが表示されたている。この5人はラティと隣の部屋で寝泊まりしていたメレサさんと侍女たちだろう。そしてその中の1人。ベッドのマークの上で寝そべった形になっている人型の全身が真っ赤に点滅していた。
よしっ! よしよしよしっ!
俺はラティの病気が原状回復のギフトに認識されていることに心の中で
原状回復のギフトに認識され赤く点滅するということは、その病気は治せるということだ。魔石さえ積めばラティの病気は治せる。その事実に俺の口元は思わず緩んだ。
俺のそんな表情に気付いたのだろう。ベッドの向こう側にいたサーシャとリーゼロットが満面の笑みを浮かべ、ローラも俺と同じように口元を綻ばせた。ラティは相変わらず黄金に輝くパソコンを見て目を輝かせていて気付いていないようだ。
俺はサーシャたちとローラに向けニヤリと笑い、画面へと視線を戻した。
しかし相変わらずこの女性の股間が赤く点滅するのはなんとかならないものか……怪我といえば怪我なんだろうが、ここにいる侍女たちに知られたらどんな目で見られるか。
まあこのおかげでカルラたち棘の警備隊の中で、前に進むことができたって子がいるのも事実なんだが……シュンランが原状回復のギフトは細かい指定ができないとか上手く伝えてくれたおかげで、俺は知らなかったことになっているのは救いだな。もし細かく指定できることを知られたらなんて考えたくもない。
俺は知ってはいけないことを知ってしまった罪悪感や、もしもバレた時の恐怖をを感じつつ、ラティのものであろう人型へとカーソルを移動させクリックした。すると画面右上の必要魔石数が表示される場所に、Cランク魔石400個と表示された。
お? 日本円で二千万か。思ったより安いな。
バージョンアップしたことで原状回復もCランク魔石が必要になったのは痛いが、ダークエルフの持病持ちの老人の治療費がCランク魔石100個。日本円でだいたい500万円くらいだった。本人には言えないが臨床実験みたいなものだから、治療費はいらないと言ったんだが、ダークエルフの里の皆で狩りをして返してくれることになった。
ラティの病気は治療方法のない不治の病だ。だからいくら掛かるかわからなかったので、獣王には1億円分くらい用意するように言っていた。と言っても獣王に俺の能力を話した時はバージョンアップ前でDランク魔石で治療できたので、獣王は当初Dランク魔石を1万個馬車に積んで持ってきていた。だがバージョンアップしたことで、Cランク魔石が必要となってしまった。その俺の話を聞いて獣王は怒るでもなくわざわざ国に人をやり改めてCランク魔石を2千個集めさせ、急いで持って来させることになってしまった。
獣王に用意してもらった魔石が無駄にならなくて良かった。そして思ったより安く済んで良かった。
「獣王、Cランク魔石400個だ」
俺は不安そうな表情を浮かべながら黄金に輝くパソコンを見ていた獣王に顔を向けそう伝えた。
「!? と、ということは!」
「ああ、治療可能だ」
「お……おおおおおお! こ、これだ! つ、使ってくれ!」
獣王はそう言ってソファの横まで転げるように駆け、そこに置いてあった装飾された豪華な箱を手に取り俺へと差し出した。その顔は涙に濡れ、感激のあまりか手は大きく震えていた。
「ああ、勇者様!」
「「「勇者様!」」」
俺と獣王の会話を聞いていたメレサさんと侍女たちも、涙を流しながら地面に額がつきそうなほど頭を深く下げた。
サーシャとリーゼロットも二人で抱き合って喜んでいるし、背後からシュンランとミレイアの喜ぶ声も聞こえて来る。クロースだけは『私は最初からできると思っていたぞ!』と自信満々に言っていたが。
俺はそんな彼女たちに笑みを浮かべつつ、箱から魔石を取り出し黄金に輝くパソコンへと投入していった。そして必要魔石数を投入し終え、カーソルを実行ボタンの上まで移動させながらラティへと声を掛けた。
「ラティ。病気になる前の健康な時の自分の体を強く思い浮かべてくれ。その時の自分の身体に戻りたいと強く願うんだ」
「びょうき……になる……まえ……ですか?」
「そうだ。そうすれば病気は治るし、すぐに自分の力で立てるようになるはずだ」
「ラティ、大丈夫よ。リョウスケを、今代の勇者様を信じて言う通りにして」
「さーしゃ……さま……はい……けんこう……な……ときの……わたし」
「思い出せない? 前に話していたお兄様たちとのオーク狩りの時を思い出したらどう? 剣でオークの首を一撃で刎ね飛ばしたんでしょう? その時の自分の体や動きを強く念じればいいのよ」
ラティが健康な時の自分を思う出そうと苦心していると、サーシャがそう助言した。
14歳でオークの首を一撃で刎ねるとか……目は窪み、身体は痩せこけて今にも命の灯火が消えそうなラティからは想像がつかないな。
「あのとき……の……わたし……」
ラティはしばらく目を瞑り、3年前の自分を思い出そうとしていた。
そしてそれから数分ほど経過して、ラティはその目をゆっくりと開けた。
「イメージはできたか?」
「はい……でき……ました」
「じゃあもう一度目を瞑ってくれ。ああ、目が焼かれるほどの光が出るから枕で顔を隠した方がいいな。サーシャ、手伝ってやってくれ。他の皆もできれば後ろを向いて目を瞑っていてくれ」
俺がそう告げるとサーシャが枕をラティに渡しその枕にラティは顔を埋め、皆は後ろを向いた。
それを確認した俺は実行ボタンをクリックしたあと目を瞑り腕で顔を覆った。
するとラティを中心に眩いほどの強力な光が発せられ、しばらくしてその光は収まった。
「ラティ、もういいぞ」
俺がそう告げるとラティは恐る恐る顔を隠していた枕を外した。そして自分の身体を見て、目を見開かんばかりに驚いていた。
俺も彼女の姿を見て驚いた。
そこにはギフトを発動する前と比べ、まるで別人とも言えるラティがいたからだ。
身体は小さい。しかし彼女の窪んでいた目や頬にはしっかりと血色の良い肉がついてこり、骨と皮だけだった腕にも肉が付いていた。そのせいかこれまでの身体に合わせて着ていたワンピースタイプの寝衣が、明らかにサイズ違いとなっている。布団から出ているのは上半身だけだが、彼女の身体が3年前の不治の病を患う前の身体へと戻っているのはそれだけでもわかった。
「あ……腕が……身体も動く……言葉もはっきりと……苦しくない」
「ラ、ラティ……おお……こんな……本当に……ラティ!」
「ああ……ラティ……私のラティ……」
光が収まり俺とラティの会話に気付いた獣王とメレサさんが、良い意味で変わり果てた愛娘の姿を見てラティの側に駆けつけた。そして壊れ物にでも触れるかのように優しく抱きしめた。
「お父様、お母様。身体に力が入ります。今すぐにでも歩けそうです」
「そうか! そうか!」
「ラティ! ラティ!」
「リョウスケ、治ったのよね?」
「ああ、間違いない。ラティの病気は完治した」
サーシャの言葉に俺は画面に視線を送り、真っ赤に点滅していたラティを模した人型からそれが消えていることを確認して答えた。
「さすがリョウスケね! よくやったわ! ラティ! 治ったのよ! これで一緒にオーク狩りに行けるわよ!」
「サーシャ様……は、はい! オークを狩まくります!」
ラティに思いっきり飛びつき抱きしめるサーシャに、ラティは満面の笑みを浮かべそう答えた。
「良かった。涼介、これで一安心だな」
「ああ、治せなかったらどうなるかと思ったよ」
俺の腰に腕を回し肩に顎を乗せながら労ってくれたシュンランへ、俺はホッとしながら答えた。
「涼介さんお疲れ様でした。ラティちゃんの病気がちゃんと治って良かったです」
「ありがとう。17歳の女の子を死なせずに済んでホッとしてるよ」
「私は成功すると信じていたぞ!」
「ははは、そうだな」
病院に入ってから今までずっと自信満々だったもんな。クロースのことだから根拠はなかったのだろう。けど無条件に俺を信じ、それを態度で示し続けてくれた彼女の気持ちは嬉しい。
「しかし驚いたの。ユニコーンの角がなければ治らないはずの不治の病が、たったCランク魔石400個で治ってしまうとはの。聖光教の未来は決まったの」
「はは、そうだな。実質治せない病気はないということになるからな」
竜王の言葉に俺は自身ありげにそう答えた。
病院のキャパ的に大病に限定する必要はあるが、聖光教にはできない大病の治療を真聖光教はできることが確定した。ただ治療費に関しては金持ちはともかく一般市民にとってはCランク魔石100個でも相当高額な治療費だし、1ヶ月もの入院費となると払うのは厳しいだろう。けどその辺は俺が一般人から治療費を取らない代わりに、魔石代金は真聖光教会に半分以上負担させればいい。信者が増えればその分お布施も増えるだろうし、貴族から多めに治療費を取れば採算は取れるはずだ。ノブレスオブリージュだったか? そういうやつだ。
今回のラティの治療が成功したことで、聖光教会を恐れることはほぼ無くなったな。あとは宣伝だけだ。それに関しても竜王と獣王。そしてサーシャを通してアルメラ国王と調整中だ。
不治の病を治せることがわかった以上、まずは王国と獣王国の貴族と力のある商人を取り込み真聖光教の信者になってもらう。病気を治せない聖光教より、どんな病気でも治せる真聖光教を重宝しないはずがないしな。こう言ってはなんだが、権力者ほど生き汚いものだし。
その後は口止めしていたこの街を利用しているハンターたちに、真聖光教で四肢の欠損を格安で治してくれるということを宣伝してもらう。それにより聖光教で治療を受けれない魔国のハンターを中心に、多くのハンターがやってくるはずだ。それまでに病院はさらに拡張する必要があるだろう。その流れで一般の民衆も受け入れていく。
そこまで行けば聖光教が真聖光教を異端認定しようが、敵対するのは教会所属の聖騎士と帝国くらいなものだ。
「この街を狙っておるらしい帝国は難しいじゃろうが、魔国は大丈夫じゃ。もともと竜人族以外で信仰している者は少ないからの。獣王国も問題はないじゃろう。あそこも聖光教会にうんざりしている者が多いしの。王国さえなんとかすれば聖光教会が騒ごうが大したことはできん」
「そうだな。王国さえなんとかなれば聖光教なんかどうとでもなるな」
もともと帝国とは敵対が確定しているしな。怖いのは熱心な信者が多いアルメラ王国だ。王妃も貴族や国民から突き上げを受ければ、聖光教の要請に逆らうのは難しくなると言っていた。もし聖光教会から王家が異端扱いされれば、王族が処刑される可能性があると。そうならないためにも王国の貴族と商人。そして民衆を完全に取り込む必要がある。
王国を取り込めれば、聖光教にいるまともな大司教や司教から離反者が出るかもしれない。そうなれば現状クリスしか作れない中級治癒水を増産できるし、ここでは作れない上級治癒水も作ることができる。まあ最悪もしも大司教クラスが離反しなくても、格安で四肢の欠損を治せば信者を獲得できるだろう。
「カカカ、帝国といい教会といい、勇者ロン・ウーの教えに逆らった者たちに鉄槌が下される時が来たのう」
「別に勇者の教えを守らせるためにやるわけじゃないんだけどな」
この街を狙っているという帝国と、腐敗しまくっている教会とは仲良くできそうもないからな。
「おお! ラティ!」
「ああ、ラティ!」
そんなことを竜王と話ていると、獣王とメレサさんの喜ぶ声が聞こえてきた。
どうしたのかとラティを見ると、彼女はベッドから降りて二本の足で立っていた。
周囲にいる者たちはそんな彼女の姿に笑顔で拍手を送り、ラティは照れ臭そうにしていた。
それからラティはサーシャに支えられながら病室を歩き回り、その歩みは段々と早くなり最後にはサーシャと一緒にスキップまでしだした。そんな娘の姿を獣王とメレサさんは流れ出る涙を拭うのも忘れて見ていた。
そうだな。今は帝国や聖光教のことよりも、不治の病に冒され死から逃れた17歳の女の子の回復を祝福しよう。
良かったなラティ。
それとラティを治すことのできるギフトを与えてくれたフローディア。まあ今だけは少しだけ感謝してやるよ。ありがとよ。
俺は肉付きが良くなったことで寝衣のサイズが合わなくなり、スキップする度に丸見えになるラティの白いパンツから神殿のある方角へと目を逸らし、心の中でフローディアに感謝の言葉を告げたのだった。
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