第29話 第一皇子 ルシオン・ラギオスという男


 —— ラギオス帝国 帝城 第一皇子居室 ルシオン・ラギオス ——



「あっ、あんっ、あっあっ……」


「いいぞ、いい尻だ」


 俺はベッドの上で尻を突き出しながら喘いでいる魔人の女へと、腰を激しく打ちつけながらそう呟いた。


「そろそろやるか」


「ひっ! や、やめっ!」


 俺の言葉につい今し方まで喘いでいた女が後ろを振り向き、顔を青ざめさせながら四つん這いの姿勢のまま前へと逃れようとする。


 俺は女が逃げないよう腰をしっかりと掴み、そして掴んだ手から女の身体に雷撃を流し込んだ。


「あがががががががが!」


「ぐっ……しま……る……おおおおおお!」


 俺は雷撃を流し込まれたことにより、痙攣する女へとラストスパートをかけその奥で欲望を放出した。


「ハァハァハァ……生きてる……な。ふぅ……さすが魔族だ」


 俺は白目を剥き、口から泡を吹き出しながら気絶している魔人の女の呼吸を確認したあとその隣で横になった。


 いい締まり具合だったな。やはり雷撃を流し込んでするのは最高だ。これが人族だとたった一回で死んじまうから、貴族どもから娶った正室や側室にやるわけにはいかねえ。


 だが魔人の女であれば耐えることができる。この女は以前滅びの森で俺の配下の者が捕らえたハンターなんだが、額の角を折ってみたら俺好みの顔立ちなうえに初モノだったから性奴隷にしてやった。それで死んでもいいつもりで雷撃を流してみたら生き残った。それ以降はこうして度々俺の相手をさせている。


 できればダークエルフの女や竜人や吸血鬼も捕らえたいが、その強さや特殊な魔法により俺の配下では捕らえるのは難しい。かといって次期皇帝の俺が滅びの森に行くわけにはいかねえし。


 まあいい。俺が皇位を継いだ暁には平和主義を掲げる甘っちょろい王国と、奴隷から解放されて調子に乗っている獣王国。そして竜王がいなきゃなんもできねえ魔国も全て滅ぼし、ダークエルフも竜人も吸血鬼の女は全て俺の性奴隷にしてやる。サキュバスは初モノがほとんどいねえし、生かしておくと身の破滅になりそうだから絶滅させるが、獣人の女は配下の者たちにくれてやろう。俺は毛深い女や獣臭えのは嫌いだからな。


 そんなことを考えていると部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。


「なんだ」


 俺が部屋の外に控えている侍女に声をかけると、40代くらいの侍女が部屋へと入ってきた。


 俺の身の回りの世話をする侍女はこんな子持ちのババアばかりだ。若い侍女に手当たり次第手を出していたら、親父が侍女をババアばかりにしやがった。やっぱ10代の時に何人か殺しちまったのが不味かったな。侍女とはいえ下級貴族の子女だしな。


「失礼します……ルシオン様。陛下が執務室にてお呼びでございます」


 侍女はベッドで痙攣している魔人の女を一瞥したあと、何も見なかったかのように俺へとそう告げた。


「親父が? チッ、めんどくせえな……この魔人に治癒水を飲ませてやれ。死なすなよ?」


「はい」


 俺の命令に侍女は頷き、他の侍女を呼んで魔人の女の手当てをさせた。俺はそれを横目に、年増の侍女たちが用意した服を身につけ親父の執務室へと向かった。


 執務室の前に着くと警護の騎士がおり、俺が顎で指示をすると騎士たちは敬礼をした後に扉を開けた。そして中に入ると執務机に座っている親父と、その横に見慣れた顔の男が立っていた。


「来たかルシオン」


「親父、何の用だ? シュバインまでいるとするとまた小言か?」


 俺は不敵に笑っている親父と、その横で神妙な顔をしている親父の貴族学園時代からの親友であり、帝国四公の筆頭であるシュバイン公爵へと視線を向けながらうんざりしたようにそう口にした。


「ふんっ、アルメラ王国に勝手に攻め込んだり、魔人の女を拐って痛めつけて悦んでいるなど言いたいことは山ほどあるが今回は違う」


「なんだ違うのか。じゃあ何の用だ?」


「ルシオン様。何度も申し上げておりますが、いくら親子とはいえ皇帝陛下へのその口の聞き方。無礼ですよ」


「やっぱり小言じゃねえか。公式の場じゃねえんだから堅いこと言うなよ」


「先日ルシオン様が勝手に始めたアルメラ王国との国境紛争の弁明の際、謁見の間で陛下にお叱りを受けたのをお忘れですか? 普段からそういった言葉遣いをしているから公式の場でつい出てしまうのですよ」


「あれはちょっと口が滑っただけだろう。あーうるせえ。用が無いなら帰る」


「まあ待てルシオン。ウルムも今日は小言を言うためにルシオンを呼んだのでは無いことは知っておろう」


「はっ、失礼いたしました」


「チッ、で? なんの用だってんだ?」


 小言を言うために呼んだんじゃねえならさっさと要件を言えよ。


「うむ。ルシオンよ。お前には滅びの森に王国が建築した砦を攻め落としてもらう」


「はあ!? 滅びの森に王国の砦だあ? おいシュバイン。そんなのがあるなんて聞いてねえぞ?」


 シュバイン公爵家は代々帝国の諜報を担当している。その諜報能力のおかげで帝国にある四公爵家の筆頭となれていると言ってもいい。そのシュバインから今日まで滅びの森に王国が砦を建てたなど報告があったことは一度もねえ。滅びの森で砦を建てるなど1年やそこらで出来るはずがない。であるならばずっと前からシュバインはその情報を手に入れながら、今日まで何もしなかったということになる。


「私も砦の存在を知ったのはつい最近なのです。恐らくは王国は魔国を追い出されたダークエルフの一部を間接的に保護し、その見返りとして土の精霊魔法で一気に建築したと思われます」


「あのダークエルフが王国についたのか!? 信じられねえ……」


 帝国もそうだが、王国も人魔戦争では敵だった相手だぞ? それもあってこれまで一切人族と関わろうとしなかった種族だ。そのダークエルフを取り込んだだあ?


「間違いありません。私の手の者で確認できたのは200人程度ですが、砦で防衛やハンターの宿泊施設の管理を担当しているようです」


「あん? ハンターの宿泊施設? どういうことだ? 王国が建築させた砦じゃねえのか?」


 なんで砦にハンターの宿泊施設があるんだ?


 俺がそう疑問に思っていると、シュバインがフジワラの街とか呼ばれている砦の説明を始めた。



「なるほどな……帝国より高度な魔導技術を持つリョウスケとかいう魔人のハーフが、ダークエルフを取り込んだってわけか。だからさっき間接的に王国に保護されてると言ったのか。それでそのリョウスケとかいう奴が、魔導技術を取引材料として王国と取引をしてその砦の主人にとなっていると。兵士用に建てた宿泊施設をハンターに貸しているのは、帝国に対しての偽装工作だというわけか」


 投げたら戻ってくる魔槍に、無限に出る水とお湯の魔道具に小型の冷風機に冷蔵庫。そして髪を乾かす魔道具に音楽を記録して100ある部屋に流す魔道具か……確かに武器も魔道具も帝国では作れない物ばかりだな。


 帝国でも冷風機に冷蔵庫はあるが、そのどれもが大型だ。しかも高価で皇家や高位の貴族や大商人しか買うことができない。それを100以上もの宿泊所に全て設置しており、しかもどの部屋からも無限に水とお湯が出るなんて信じられるもんじゃねえ。しかしシュバインの手の者が実際に潜入し、複数の者がその目で見てきたと言われれば信じざるを得ねえか。


 しかしそんな高度な魔導技術を持つ魔人のハーフである男が、なぜ魔国ではなく王国と繋がってんだ?


「はい。第三王女のサーシャ姫が滞在していることから、王国と繋がっているのは間違いないかと。恐らくリョウスケという魔導技師を取り込むために王女を派遣したのではないかと考えています」


「サーシャ? ああ、あのマグリットの妹のツルペタか。確かマグリットと違って正室の娘だったな。ということはあの女狐王妃の娘か」


 確か数年前に俺が王国に行った時の晩餐会で、第二王女のマグリットと一緒にいたな。俺はツルペタに興味がなかったしマグリットを口説くのに夢中だったから一言二言しか話してないが、母親に似て生意気そうな顔をしていたのを覚えている。


 なるほどな。サーシャをリョウスケという男の嫁に出すとは、王国はよほどリョウスケという男の持つ魔導技術が欲しいと見える。


 だから王国にその魔導技術が渡る前に俺に砦を攻めろと言った訳か。


「それで? そのフジワラの街だとかいう砦はどこにあるんだ? 帝国に偽装工作をするくらいだから近いのか?」


「南街から北に真っ直ぐ3日の場所です」


「南街から北に3日だあ? その辺りは帝国の旧領地だろ」


 まあ王国も領土を主張してるがな。正直千年前のことだから記録がほとんどねえ。だがそんなのは言った者勝ちだ。帝国の領地だと言えばそこは帝国の領地なんだ。


 しかしあの辺りは飛竜の狩場だったはず。そのうえ水場も無いからハンターでさえ近づかねえと聞いた。親父が即位した時も、砦を建築する候補から外れていたはずだ。まあ親父が別の場所に建てた砦も、数十年経った今じゃ森に覆われて魔物に破壊されて跡形も無くなっているらしいがな。しかしそんなことは帝国臣民は知らない。公然の秘密ってやつだ。


「うむ。じゃからお前に攻め落とせと言っておる。お前のギフトは強力じゃが素行が悪い。アルメラの第二王女を手に入れるために国境紛争を勝手に起こした挙句、神器を身につけたアルメラ王が現れたことで撤退したという失態をおかしておる。この辺で実績を積まねば第二皇子のメルギスに皇位を譲ることも考えねばならぬ」


「なっ!? 俺は第一皇子だぞ! しかもメルギスよりも雷のギフトは遥かに強いんだぞ!」


 帝国ははるか昔に勇者によって皇帝を殺された。そのため代々皇帝は強い者がなると決まっている。魔国と王国と領土が隣接しているというのもあるが、最大の理由は再び勇者が現れた時に負けないためだ。だから皇家で雷のギフトを受け継いだ者は多くの子を作り、強力な雷のギフトを使える者が代々皇帝となっている。それを親父は曲げようとしているのか! しかも第一皇子である俺よりも第二皇子のメルギスを皇帝にしようとしてる? 


 確かにマグリットを側室にするために国境に手勢を率いて進軍した。弱気なアルメラ王なら戦わずにマグリットを差し出すと思ったからだ。それがまさか王自ら大軍を率い、神器を纏って戦場に現れるなんて誰が予想した? いくら俺でも3千対2万で勝てるわけねえ。それでもこっちはほとんど被害を出さずに王国の兵を減らしたんだ。ならあの戦争は俺の勝ちだ。それなのにメルギスを皇帝にするだぁ? そんなの認められるか!


「落ち着けルシオン。確かにメルギスは側室の子である上に、お前よりギフトの力は弱い。じゃがメルギスは内政方面で実績を積み重ねておる。じゃからお前に王国が建てさせた砦を攻略し、実績を作れと言っておる。じゃからルシオンよ、その武力をもって思い切り戦うがよい。ルシオンが砦を手に入れた後は、奪い取った砦と国境の二方面から余は王国へ侵攻し滅ぼすつもりじゃ。此度の戦争は王国が帝国領である土地に砦を建てたことが原因じゃ。今回ばかりは竜王に口出しはさせぬ」


「そういうことか。わかった。なら俺の兵でさっくり落としてきてやろうじゃねえか」


 戦争なら俺の得意分野だ。それに帝国にない魔道具にも興味があるしな。リョウスケって奴を捕らえたら俺専用の魔剣を作らせるか。そうだ、配下の奴らにサーシャを好きにしていいと言ったらやる気になるだろう。あの女は胸はないが顔だけは良いからな。


「お前の兵だけでは3千くらいであろう。シュバインにも兵を出させる。そうすれば1万にはなるじゃろう」


「シュバインの兵なんかいらねえよ。聞いたところ強いのは魔槍を持っているっていうリョウスケって奴と、ダークエルフくらいだろ? それも多く見積もっても2百程度だ。ああ、ハンターがいたか。だがシュバインの手の者が潜入してんだろ? なら砦の中から工作するだろうし俺の兵だけで余裕だろ。そもそも滅びの森の中を1万の兵を引き連れて統制が取れるのか? 途中で魔物に襲われたらバラバラになるだろ」


 滅びの森はハンターたちが踏み固めて自然にできた道くらいしかねえはずだ。そんなところに1万もの兵を送り込んだら、間違いなく長蛇の列になったあげくに横から魔物の襲撃に遭う。そもそもそ1万の兵が野営できる場所だってねえ。


 親父が即位した時だって3千の兵が木を切り倒しながら道を作り、その後を本軍が進軍したって話だ。ん? まさかもうすでに兵を送って道を作ってるのか?


「ルシオン様。南街から1日ほど進軍した後は、王国により砦までの道は整備されており馬車が2台は横並びで通れるほど広くなっております。それどころか軍が野営できる拓けた土地まで複数用意されています。ですので1万の兵が進軍するには支障はないかと」


「はあ? 王国は馬鹿なのか? なんでわざわざそんな攻め込まれやすいようにしたんだ?」


「恐らく我が国と同じことを考えているのかと」


「つまり王国がその砦と国境の二方面から帝国を攻めようとしているってことか? あの平和主義の国王がか?」


「はい」


 信じられねえな。だが実際道が整備されているということは、そういうことだとしか考えられねえのは確かだ。


 そう考えているとシュバインが続けて口を開いた。


「それとリョウスケという魔導技師とダークエルフ以外にも、強力な雷のギフトを持つ者がいます」


「なんだと? 雷のギフトだと? まさか公爵家の庶子か? いや、その子孫て可能性もあるか」


 皇家から公爵家に嫁いだ皇女は多い。そのため四公爵家でも雷のギフトを持つ者はたくさんいる。そういった者は通常なら公爵家当主になったり、皇帝直属の近衛兵として登用される。これも全て勇者が再び現れた時のための備えだ。ちなみにシュバインも雷のギフト持ちだ。まあ俺には遥かに及ばねえ技量だがな。


 だが良いことばかりでもねえ。皇家の血を公爵家限定とはいえ外に出すことに弊害はある。ギフトを受け継いだ四公爵家の者が、市井の娘と子を作ったりとかな。その子がギフトを受け継げばわかりやすいから公爵家の庶子として登用するんだが、その代ではギフトを受け継がずに何代か後にギフトを得たりすることが稀にあるらしい。そういった者も帝国で探して取り込むようにしているんだが、他国に移住してハンターとして活動している者はそうもいかねえ。恐らく砦にいる奴もそういった者の一人なんだろう。


「はい、恐らくは。ですが驚くことにその雷のギフトの使い手はミレイアというサキュバスと人族のハーフで、強力な雷のギフトを使うらしいです」


「はあ? サキュバスのハーフだ? 雷のギフト持ちということはインキュバスとどこぞの公爵家の血を引く娘の子孫か? しかもハーフで雷のギフトを受け継ぐとかどんな確率だ」


 貴族の女がインキュバスに魅了されて子を作ったなど、そんな醜聞が広まったら貴族社会で生きてはいけねえ。もし公爵家の女が魅了されて子ができたなら、生まれてすぐに殺されて無かったことにするのが普通だ。まさかインキュバスと本気で愛し合ったわけじゃねえだろう。


 だとしたらやはりギフトを受け継がなかった公爵家の庶子の娘が、インキュバスに魅了されて子を産んだってところか。それなら殺されずに育てられる可能性も皆無じゃねえな。庶子とはいえ、自分が庶子だと知らない市井の女なら隠れて育てるかもしれねえ。しかしそのミレイアって女は産まれてすぐに殺されなかったうえに、ハーフなのに雷のギフトまで得られるってどんな幸運の持ち主だ?


「まあいい。シュバインの言いたいことはわかった。だがそれでもシュバインの兵はいらねえ。俺の兵だけでその砦を落としてやる。その方が実績としては申し分がねえだろう」


 雷のギフトの使い手がいようとそれがどうしたってんだ? 俺は親父をも超える使い手だ。むしろ力の差を思い知らせてやる。それよりもだ。シュバインの兵を7千も借りるってことは、多分シュバインも付いてくるだろう。お目付役なんかいらねえんだよ。


「お待ちくださいルシオン様。昨年アルメラ国王の命令を無視した王国の貴族が、2千の兵で攻め込み敗戦したと聞きます。そのうえリョウスケという男は最近になり恐らくですが火球を出す強力な魔剣を複数造り、それをダークエルフに持たせているとのことです。それを奪おうとした私の手の者が全滅させられました。侮ってはなりません」


「ウルムの言う通りじゃ。リョウスケという者は帝国では作れぬ魔道具を多く所持しておることを忘れるな。それに砦を落とした後は砦と国境の二方面から攻めると言ったであろう。そのために砦に兵は必要じゃ。いま1年は砦に駐留できるほどの物資を用意させておる。これらは遅くとも1ヶ月後には揃うはずじゃ。よいかルシオン。これは勅命じゃ! 1ヶ月後にシュバインと共に王国の砦を陥落させ、リョウスケという魔導技師を捕らえよ! よいな!?」


「ぐっ……わかった」


 チッ、何が勅命だ。老ぼれゾンビの竜王にビクビクして、今回みてえに王国に落ち度がなきゃ滅ぼそうとしなかったくせによ。腰抜け親父が。


 まあいい、シュバインのお目付役が同行するのは気に入らねえが、砦を攻め落とせば俺が皇帝になるのは確定する。その後は王国に攻め入りミランダを手に入れ、捕らえたダークエルフの女とも遊びながら親父が死ぬのを待つだけだ。


 リョウスケにミレイアか。ダークエルフもそこそこいるようだし、久々に本気で暴れてやろうじゃねえか。



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