第22話 面会
——フジワラの街 勾留所 聖光教会 シスター ローラ ——
《そ、そんな……本当にここに神遺物が……》
《クリス、キッチンで固まってどうしたの? 》
《ねえみんな凄いわ! 本当にお湯が出る! お風呂に入れる! 》
《うそっ! 本当に入っていいの!? 私たち捕虜よね? 》
「ん……うるさいわね……」
私は周りから聞こえる騒がしい声に目を覚ました。
ここは……ベッド?
目を開け周囲を見回すとそこは広い部屋で、私が寝かされていたベッドを含め数多くの二段ベッドが並んでいた。そしてその向こう側では、女聖騎士の皆が何やら騒いでいる姿が見える。
そんな中で一人。クリスだけキッチンらしき場所で固まっているようだった。
ここはどこかの宿? でもなぜこんな場所に私たちが……確か私はあのリョウスケとかいう男に負けたはず。
まさか皆があの男を倒して砦を制圧した?
そんなことを考えながら身を起こし呆然と周囲を見渡していると、女聖騎士の一人が私に気づいた。
「あっ! ローラ様! みんな! ローラ様の目が覚めたわ! 」
「っ! ローラさん! 」
「「「ローラ様! 」」」
するとクリスを先頭に皆が駆け寄って来た。
良かった。クリスや女聖騎士たちは全員無事見たいね。
「心配かけたみたいで悪かったわ。それでここは砦の中なの? あのあと聖騎士たちが制圧してくれたの? 」
私はクリスに視線を向けてそう問いかけた。
「あ……その……ローラさん。みなさんは降伏しました。それで私たちは捕えられて……」
「……そう。降伏ということはここは砦の中ということね。ここにいない他の聖騎士たちは無事なの? 」
「はい。他の皆さんも全員無事です。怪我をしていた人は私が治癒のギフトで治しました」
「そう……良かった」
捕われてしまったのは残念だけど、皆が無事でよかった。
あのリョウスケという黒髪の男に負けたのは悔しいけど、犠牲者が出なくて本当に良かった。
でも兇賊をこれまで幾度も討伐し王国の教会本部の聖騎士たちを全滅させ、ことごとく凍らせてきた私が負けるなんて……
あの男には私の全ての攻撃が通用しなかった。こんなこと初めて……
「ローラ様申し訳ございません。私たちが不甲斐ないばかりに
「貴女たちのせいじゃないわ。私が自分の力に驕った結果よ。一撃も与えることができないなんて、上には上がいるものね」
そう、上には上がいた。あの男が言っていた通りね。
「ローラさんのせいじゃありません。あの黒髪の男性は結界のギフト持ちでした」
「結界? 」
確かにあの男に私の攻撃が当たる直前に何かに当たった感触があったけど。でも結界のギフトを持っていたのは過去に一人だけ。
「はい。勇者様が持っていたという結界のギフトです」
「あのリョウスケという男が勇者と同じギフトを? 」
ということはあの男が勇者の末裔? 確かに伝承に聞く通り黒髪に黒目だった。最初は魔人とのハーフだと思っていたけど角も牙も見当たらなかった。
でも勇者はこの世界に子孫を残していなかったはず。
もしかして妾かなにかとの子が残っていた? その末裔があの男?
「はい。恐らくあの黒髪の男性は勇者様の末裔ではないかと思います。ですから結界のギフトを得たのではないかと」
「あの男が……そう、でもそれなら私が負けたのも納得がいくわね」
薄くなったとはいえ勇者の血を引く者に勝てるはずないもの。
「でもこれで確信が持てました。間違いなくあのリョウスケという黒髪の男性は、勇者様から受け継いだ神遺物を持っています」
「結界や聖水を創り出す神遺物のこと? でもこうして囚われている状態じゃもう確認のしようがないわよ? 」
どういうわけか縛られずに部屋に放り込まれているだけだけど。余裕よね。私がここを抜け出そうとしてもまた倒せると思われてるんだから。
「それなのですが聞いてくださいローラさん! 」
「え? な、なに? 」
私はいきなり目を輝かせながら両手を握ってきたクリスに戸惑った。
「聖水があるんです! キッチンの蛇口というものから聖水がドバドバと! 」
「は? 聖水がキッチンからドバドバ? 」
クリスの言葉に私も聖騎士たちも戸惑いを隠せないでいた。
聖水がキッチンから出てくる? 泉ではなくて?
「はい! それはもう大量に! もう間違いありません! あのリョウスケという方は聖水を生み出す神遺物を持っています! そしてこの砦の水源として使っています! 」
「聖水を水源って……」
確かにあの男にはそうじゃないかと聞いたけど、まさか本当に聖水を生み出す神遺物を生活用水に利用していたなんて……
教皇やお父様たちが聞いたら卒倒しそうね。
「生活に利用できるほど大量に聖水を生み出す神遺物です。これがあればどれほふどの民を救えることか……この神遺物があれば治癒水をパンを買う値段で配ることも可能です」
「それはどうかしらね……」
あの金の亡者どもがそんなことするはずがないと確信できるわ。
しかしそうなると何がなんでも私の騎士団でこの砦を手に入れたいわね。でもあの男にには勝つことは難しい。いずれにしろこのまま囚われていたままじゃ何もできない。
あの男が私たちをどうするつもりかは知らないけど、長期間ここにいるのは危険ね。もし大司教が私たちが死んだと思ったなら、南街に残しているシスターたちが危ないわ。
私は現状を把握するために、クリスの後ろに立っている女聖騎士の一人に視線を向けた。
「ヴァイオネット、外の様子はどうなの? 監視の数は? 」
「それがダークエルフが10人ほどこの建物を監視しています」
「ダークエルフ? ここにダークエルフがいるの? 」
なぜ魔国のダークエルフが人族の領域に? しかも10人も。彼らは人族と相入れない存在のはず。
そう疑問に思っていると、ヴァイオネットがとんでもない内容の話を語り始めた。
どうも私が気を失った直後に100人ほどのダークエルフに包囲されたらしい。その話を聞いた時には信じられない気持ちでいっぱいだった。でもクリスを含め皆が同じように言ったことから、信じざるを得なかった。
あのリョウスケという男は、100名ものダークエルフをいったいどうやって味方につけたというの?
いずれにしろこの建物を見張っている10人のダークエルフ相手にでさえ勝てるとは思えない。私だって同時に相手ができるのは、恐らく2人が限界。それだけエルフやダークエルフの操る精霊魔法は厄介であり強力でもある。
「ここを抜け出すのは厳しいわね……」
「ローラさん。なんとかリョウスケさんとお話し合いができないでしょうか? 勇者様の末裔で、これほどの神遺物を持つ方なら和解ができると思うのですが……」
「無理よ。先に私が手を出してしまったんだから」
失敗したわね。あれほど強く、しかも100人ものダークエルフを従えているとは思っていなかったわ。こんなことなら先にハンターに成りすまして偵察をしておけばよかった。
今さらね。
とりあえず今はおとなしくしていましょう。そのうち様子を見にくるかもしれないし。その時に今後の話し合いに持っていけるよう願うしかないわね。
☆☆☆☆☆☆
「シスターローラ? あ〜聞いたことあるな。1年前に南街に来て、あっちこっちで暴れ回った凄腕のシスターがそんな名前だったような……」
「私も顔見知りの教会のシスターから聞いたことがあります。王国の教会本部の偉い人の娘で、治癒のギフト持ちのシスターたちを守るために聖騎士たちを全滅させたとか」
「カルラとサラも知っていたのか」
常連のハンターであるナザットさんや、ほかのハンターたちから聞いた話と同じだな。
ローラ率いる聖騎士たちを北の端にある倉庫に押し込んだあと、戦いの後始末を終えカルラとサラたちを家に誘って夕食を食べていた。そこでカルラたちにローラのことを知らないから聞いたところ、二人とも彼女のことを知っていた。
なぜカルラたちにローラのことを聞いたかというと、実はローラを倉庫に入れダークエルフの警備隊に監視を頼んだ時に、その様子を見ていた常連のハンターであるナザットさんに声をかけられた。
ナザットさんはローラは教会の枢機卿の一人であるシュリット家の娘だが、教会に敵対する存在だから許してやって欲しいと俺に頼んできたんだ。
どうも教会本部では昔から治癒のギフトを持つ者を増やすため、シスターや聖騎士の女性に対し治癒のギフト持ちの司祭や司教。それに大司教から教皇まで女性たちを性奴隷にしていたらしい。これは治癒のギフトを持つシスターも同じで、彼女たちは司祭たちだけではなく、聖騎士たちからも性奴隷にされていたようだ。
それを知ったローラは同じ志を持つ騎士たちを集めて騎士団を結成し、教会本部の聖騎士団を全滅させて性奴隷となっている女性たちを救ったらしい。
その後、ローラ率いる騎士団は南街の教会に監視役の大司教とともに移動させられたようだ。破門や異端認定されなかったのは、後ろ暗いことをしていたことが民に知られることを恐れたのと、親が枢機卿という立場だったということもあるのだろう。恐らく今回のことを公にしないことを条件に、南街への左遷という形で決着がついたんじゃないかと思う。
南街に赴任するようになってからは、荒くれ者のハンターや駐屯している王国軍や帝国軍相手に暴れ回ったりして目立っていたそうだ。
それが本当なのか街に戻って来た王国と帝国のハンターたちや、カルラとサラに聞いたんだがどうやら本当のようだ。
「でも神遺物だったか? そんなありもしない物があるとか言ってここを力ずくで奪おうとしたんだろ? まあスーリオンが言うにはほぼ無抵抗で降伏したみたいだけどさ。捕虜にしたはいいけどこの後どうするんだ? 」
「そうだな。まずは話し合ってみようと思う」
教会に対して不信感を持っているなら、神遺物がないことを理解さえしてもらえば友好関係を築くことができるかもしれない。地下にある女神像は壁で覆って隠してあるし、見つかることはないはずだ。多分……あのクリスって子の不思議パワーがちょっと怖いんだよな。
クリスは怖いが無事友好関係が築けたら、ここの事を教会の上層部に黙っていてくれるかもしれない。なんならローラのためにどこかの洞窟の中に部屋を作って用意してもいい。そこを聖地を奪還するために利用できるなら彼女も納得してくれるだろう。
「まあそのローラってのは悪い奴じゃなさそうだし、リョウスケなら心配ないけどハニートラップに引っ掛かるなよ? ニシシシ! 」
「ハハハ、確かに綺麗な女性だったけど、サキュバスのアンジェラ姉妹に鍛えられているからな。ハニートラップに関しては大丈夫だ」
最近はほぼ下着じゃないかという姿で迫ってくるけどな。3ヶ月に一度起こるらしいサキュバスの発情期に迫られた時は、魅了をレジストしても危なかったけど。
「あ〜確かにそりゃ大丈夫か。アタシやサラの誘惑にも耐えてたしな」
「ちょっとカルラ! 私はリョウスケさんを誘惑なんてしてません! 」
「そうか? 胸の傷が治ってからやけに胸もとを開けた服を着てたじゃん。ショッピングモールで派手な下着も買ってたしよ。あれってリョウスケに見せ……うぷっ! 」
「黙りなさい! この口が! この口がそんな根も葉もないことを言うのですか! 」
「うっ……苦し……サ……ラ……ちょ……」
「ククク、二人とも相変わらず仲がいいな」
「サラさん! カルラさんの顔が青ざめてます! 鼻だけでも解放してあげてください! 」
カルラの言葉を防ぐためにサラが彼女の口を塞いだのを見て、俺の隣に座ってるシュンランは微笑み、ミレイアはカルラが酸欠で苦しんでいるのを心配していた。俺は空気を読み、カルラの発言をまるで聞いていなかったかのように手に持っていたコーヒーカップを口に運びやり過ごした。
しかしそこに我が家の空気を読めない子ナンバーワンであるクロースが口を開いた。
「あはは! サラも買ったのか! 私もリョウスケが作らせたっていう穴空きのパンツをもらったぞ! トイレする時とか楽でいいんだよなアレ」
「あっ、穴空き!? そ、そんな下着は買っていません! というよりもリョウスケさんはそんな下着をクロースにプレゼントしたんですか!? ふ、不潔すぎます! 」
「あ、いや……」
俺はクロースだけじゃなくてシュンランとミレイアにもプレゼントしたと言いそうになるのをグッと堪え、顔を真っ赤にしながら鋭い視線を送ってくるサラから視線を逸らした。
怖い……久々にサラに睨まれたな。でも美人が顔を真っ赤にしてして睨む顔は、それはそれで可愛いな。
それからまたクロースが他にもこんな下着があるとか、しまいには今履いているスケスケの下着を見せはじめた。そしてあろうことかシュンランとミレイアも同じのを持っていると言い始め、顔を赤くしたシュンランがクロースを叱るまで喧騒が続いた。
「まったくクロースは本当にどうしようもないな。それで涼介。いつローラと話し合うんだ? 」
「今日はもう遅いから明日の朝にでも話し合おうと思う。食材は渡してあるんだろ? 」
「ああ、ダークエルフに食材を持って行かせている。その時に設備の使い方も説明するように頼んである」
「ありがとう」
勾留施設というかただの倉庫なんだが、以前500人ほどの貴族軍の捕虜を勾留した時のままとなっている。倉庫には複数のキッチンとトイレ。そして風呂も設置しており、あの時も女性のギフト使いがいたから女性用の大部屋も別に作ってある。食材さえ渡せば自分たちで料理をするだろう。
その後、カルラとサラと自動販売機で買った酒を一緒に飲み、酔い潰れた二人はシュンランとミレイアの部屋にそれぞれ泊まっていった。俺はというと酔って甘えてくるクロースを抱き抱え、少しだけ愛し合った後に彼女の部屋で一緒に眠った。
ちなみにギルドの酒場はいいのかとカルラに聞いたところ、非番で酒場で暇そうにしていたスーリオンに押し付けて来たそうだ。暇そうにしてるんじゃなくてカルラを見にいってたと思うんだけどな。どうも未だにスーリオンはカルラに気持ちを打ち明けていないようだ。そんなんだからダークエルフの女性が積極的にならざるを得ないんだよ。本当にダークエルフの男って奴はこれだから……
そして翌朝。シャワーを浴びようと浴室に入ると、シャワーから出てきて着替え中だったサラとバッタリ出くわしてしまった。慌てて謝ってすぐにドアを閉めたんだが、チラリと見えた彼女の黒いレースの下着は上下とも確かに俺がデザインしてマーサさんに作ってもらって売り出した物だった。
俺は昨夜のカルラの言葉を思い出し、朝食時に顔を真っ赤にしたままうつむいているサラと視線を合わせることができないでいた。
☆☆☆☆☆☆
朝食を食べ終え少しして、相変わらずバナナの叩き売りのようなサーシャの弁当販売の掛け声を背に俺は恋人たちを連れ勾留施設へと足を運んだ。
入口を監視しているダークエルフに挨拶をして中に入ると、朝食を食べている最中の聖騎士たちが一斉にこちらへと視線を向けた。誰もが不安そうな目でこちらを見ている。
俺はそんな彼らに軽く会釈をしながら奥にある大部屋の入口まで進み、ドアをノックした。
すると女性の聖騎士が現れ、俺たちの姿を確認し目を見開いて驚いている彼女にローラと話がしたいと告げた。
「す、少しお待ちください……」
そういって彼女はドアを閉め、少しすると再びドアが開いて中へと入れてくれた。
中に入ると朝食を食べ終えたばかりのようで、女性の聖騎士たちが慌てて10人ほどが座れるテーブルの上を片付けていた。
そのテーブルの席に修道服姿のローラと、クリスと呼ばれていた巨乳のシスターが座っていた。
俺たちは案内されるままにローラの向かいの席に腰掛けた。
「あら? リョスケだったかしら? 貴方一人で来ると思ったのだけど? 」
「ん? なぜそう思ったんだ? 」
テーブルに腰掛けるなり、紅茶の入っているカップを優雅に口に運びながら言ったローラの言葉に俺は首を傾げた。
「昨夜いつまで待っても来ないから、朝に私たちの身体を求めに来ると思ったのよ。楽しみに待っていたんだけど残念ね」
「心外だな。俺がそんなことをするような男に見えるのか? 」
「そう言われると困るわね。でも私たちは捕虜だし、そういうことが起こっても不思議じゃないでしょう? 」
そう口にしたローラは薄っすらと笑みを浮かべていたが、クリスを始め彼女の後ろで立っていた十数人の女性聖騎士たちの顔は青ざめていた。
左隣に座っていたクロースから『この間リョウスケがやったプレイか? 』とか聞こえてきたが、俺は無視して答えた。
「そんな心配は無用だ。ここへは話し合いに来ただけだ。たとえ非協力的でもそんなことをしたりしないと約束する」
「そう、安心したわ。でも抱きたくなったら私だけでお願いね。ここにいる子は大なり小なり心に傷を負っている子が多いから」
「ローラさん! 」
「「「ローラ様! 」」」
「ローラさんだけにそんなことはさせられません! 私が! 私がその……お、お相手をいたします」
「私もです! ローラ様によって救われたこの身。今さら汚されようがなんとも思いません! 」
「そうです! 私が皆の代わりにこの身を差し出します! 」
ローラの言葉に彼女の隣に座っていたクリスと騎士たちが止めに入った。
どうやらローラは彼女たちに慕われているようだ。
「心配は無用だと言っただろ。俺はそんなことをしたりしない。それにここに連れてきた3人は将来を誓いあった恋人なんだ。彼女たちがいるのにそんな鬼畜なことをしたりなんかしないから安心してくれ」
俺がそう口にすると、隣にいるクロースが俺の耳元で『代わりに修道服を手に入れて私が縛られてやろうか? 』と囁いた。
俺は反射的に頷きそうになる首にグッと力を入れ、何も聞こえなかったかのように視線をローラに固定した。
クロースを連れてきたのは間違いだったのかもしれない。
「ふふふ、ダークエルフに竜人族のハーフと……サキュバスとのハーフかしら? 珍しいわね。どうやらリョウスケは人族には興味がないみたいね」
「そういう訳じゃないさ。好きになった女性がたまたま人族じゃないというだけだ」
「そう、貴方もハーフみたいだしね。わかったわ。それで話って何かしら? 」
「まずは教会にここのことが知られているかどうか確認したい」
「教会は知らないわ。私もここに本当に砦があるか半信半疑だったから、教会には聖地を確認しに行くとしか伝えてなかったの」
「そうか。それでどうしてここに街があることを知った? 」
「街? それは知らなかったけど、南街のハンター区画にある酒場のマスターに、ここに砦があるかもしれないということを聞いたのよ。客のハンターたちが話していたそうよ? 」
「そういうことか……ああ、ここはフジワラの街という名前なんだ。中には東街所属のギルドもあるし、ダークエルフの里もある」
ハンターたちから情報が漏れていたのか。まあ口コミでここのことを広めていたからな。ハンターの酒場で教会関係者に知られるのは予想外だったが、話の出どころがわかっただけでもよしとしよう。
「ギルドにダークエルフの里もあるの? それは驚きね……でもギルドはともかく、確かダークエルフはデーモン族のところで奴隷のような扱いをされていたんじゃなかったかしら? 」
「詳しいんだな」
「以前ダークエルフのハンターと森で共闘したことがあったのよ。その時にね」
「そうか。だが今は魔王によってダークエルフたちはデーモン族のもとから解放されている。それで俺のところに誘ったんだ。ここを守る戦力としてな」
「なるほどね。確かに強力な戦力ね。彼らがここを守る傭兵ということ? 貴方がいれば必要なさそうだけど? 」
「そんなことはないさ。俺一人じゃ軍を相手に戦ってもここを守り切れないからな」
「結界のギフト持ちなんでしょ? 軍を相手にしても余裕じゃないの? 」
「そうでもないさ」
拳で殴りかかられたら火災保険じゃ防げないからな。
「結界のギフト持ちであることは否定しないのね」
「似たようなギフトだからな」
「似たような? 結界のギフトではないの? 」
「似ているが違う」
「そう……勇者の末裔だと思ったのだけど」
「そんな存在じゃないさ」
俺がそう答えるとローラよりもクリスが残念そうな顔をした。
勇者そのものであって末裔ではない。うん、嘘は言っていない。
「ふふふ、不思議な
「その前に君はローラ・シュリットで間違いないか? 」
「……どこでそんな話を聞いたのかしら? 」
俺がフルネームで呼ぶと、それまで笑みを浮かべていたローラが冷たい視線を向けてきた。
その凍えるような視線にゾクリとしつつも俺は、彼女がこれまでやってきたことを尋ねた。
「君は王国の教会本部で……」
「詳しいのね。ええ、確かに私は好色ジジイどもから治癒のギフト持ちだけではなく、女性の聖騎士たちを引き剥がしたわ。その結果、南街の教会に飛ばされたの。それからは聖地を奪還するために活動を続けていたわ。女神に文句を言うためにね。そんな時にここの存在を知った。そのあとはリョウスケの知っている通りよ。自分の力に慢心して貴方に挑んであっけなく敗れ、可愛い部下たちを巻き込んでこの通り虜囚の身という訳」
「そうか……」
これで確定だな。彼女は反教会派だ。それならなんとか友好関係を築けそうだ。
そんなことを考えているとローラの隣に座っていたクリスが突然口を開いた。
「あ、あの! おトイレからも聖水が出るんですけど! 」
「は? 」
トイレから聖水? トイレに聖水を出すんじゃなくて? って、俺は何を言ってるんだ!
俺は突然修道服姿の巨乳美少女が発した言葉に混乱した。
「キッチンやお風呂やトイレの水が聖水なのよ。昨日は否定していたけどあるんでしょ? 神遺物」
「い、いや本当に神遺物と呼ばれる物はここには無い。本当だ」
どういうことだ? 蛇口から聖水が出る?
シュンランたちに顔を向けても皆が頭にはてなマークを浮かべている。そりゃそうだ。水道水が聖水と言われてもなんのことだかさっぱりだろう。
「でも間違いなくこの部屋。いえ、この建物から出てくる水は聖水なのよ。私には聖水かどうかしかわからないけど、クリスが言うには教会本部にある物よりも女神の力を強く感じるらしいの」
「そ、そう言われても俺としてはさっぱり……」
なんだ? この建物全ての水道水が聖水? まさか……間取り図のギフトで建てた建物だからか? 確かに女神に与えられたギフトで建てた物だから神遺物と言われたらそうなんだろうけど……だとしたらオイオイ、これはちょっとやりすぎじゃねえかフローディア? こんな教会の人間が来たら一発でバレるような仕込みをしやがって! 黙って待ってるだけならともかく邪魔するんじゃねえよ!
「あら? 何か思い当たることがありそうね」
俺が内心でフローディアに怒りをぶつけていると、それが顔に出たのかローラが目ざとく問いかけてきた。
「そうなんですかリョウスケさん!? 」
ローラの言葉にクリスはテーブルに身を乗り出し、真剣な表情で俺に迫ってきた。テーブルの上にはどっさりと彼女の巨乳が乗っかっている。
で、デカい……
「あ、いや……」
「まさか本当に心当たりがあるのか涼介? 」
クリスの胸に視線を奪われながら動揺している俺に、シュンランが驚いたように聞いてくる。
あ〜こりゃ誤魔化すのは難しそうだ。もうこうなったら女神像を見せるか? その効果のせいだと言って納得してもらうか?
となるとただ味方にするだけではなく、こちらに完全に引き込む必要があるな。それならいっそのこと開き直って教会と敵対するか。上手くすれば教会から王国への干渉を防げるかもしれないしな。
そうだな。聖水もあることだしやってみるか。
悪いなローラ。いやクリス。こうなったらこの街と俺のギフトの秘密を守るための生贄になってもらうぞ。
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