第21話 VS聖騎士団
——滅びの森 南街道 シスター ローラ ——
「これは驚いたわ……」
岩山と森に囲まれた舗装された道を進み開けた場所に出た私は、視界の先に続く高い壁と深く水の張った堀を前に立ち止まった。
その壁はかなり先まで続いており、そのことからここが大規模な砦であることがわかった。
想像していた以上の規模だわ。ここを建てた者たちは、どれほどの大地のギフト使いだというの?
「すごい……ローラさん! ここです! この壁の向こうから女神様の強い気配がします! 」
「わかったわよ。皆、行くわよ」
背後からクリスに急かされた私は、私と同じように高い壁を見て呆然としている聖騎士たちに声をかけ歩を進めた。
しばらく壁伝いに歩くと門らしき物が見えた。
門の前には黒髪の男女が立ってこちらを見ている。
男は魔人のハーフかしら? 女の方はあの長く白い角からいって竜人族の黒竜種? いえ、尻尾と翼がないことからこっちもハーフっぽいわね。
門前の堀に掛かっているはずの橋は吊り上げられているわね。どうやら歓迎はされていなさそうね。まあいいわ。中にハンターがいようとも教会相手に歯向かう者もいないでしょう。
あまり教会の権威で相手を押さえつけるのは好きではないけど、この砦の中には神遺物があるみたいだし仕方ないわね。聖地から持ち出した物なら返してもらわないと。
☆☆☆☆☆☆
「来たな」
俺は森から出てきた
ん? 二人ほど修道服姿の女性がいるな。
恐らくミスリル製だろう胸当てを、真っ白な修道服の上に装備しているだけの女性二人が先頭を歩いていることに俺は若干驚いた。
一人は背が高く長い金髪の女性で、もう一人は対照的に背が低い。背の低い女性は頭にケープを被っていて髪の色はわからず顔もよく見えないが、歩き方から戦闘の素人なのはわかる。
そんな二人の姿に驚いていると、隣に立っていたシュンランが口を開いた。
「聖騎士団にシスターが同行しているなど珍しいな」
「やっぱあれはシスターなのか? 」
「ああ、恐らく回復役かなにかで同行させているのだろう。だが治癒のギフト持ちは貴重だ。本来は滅びの森の中には入れたりしないのだがな」
「そうなのか」
俺はシュンランにそう答えて手元の魔物探知機を見た。
魔物探知機の画面には50ほどの青い点が映し出されており、先頭の背の高いシスターを始めその半分以上がゆっくりと点滅していた。
点滅の速度が遅いな。やや敵意ありってことか?
最近になってだが、やっとこの魔物探知機に映し出される点が点滅する理由がわかった。バガンがやってきた時に初めて点滅していたのだが、それ以降点滅することがなく検証できないでいた。ところが王国貴族の軍がやってきた時に同じく点滅したことから、恐らく俺やこの街に敵意がある者は点滅して知らせてくれる機能なのではないかと考えたのだ。
今は点滅の速度が貴族軍が来た時よりも遅い。これは多分貴族軍ほどではないが敵意があるということだろう。ちなみに魔物を示す赤い点は点滅することはない。基本的に魔物は全て敵意を持っているからだろう。
なんにせよ便利な機能であることには変わりがない。これからやってくる教会の人間が、少しでも敵意を持っているというなら警戒はしておくべきだろう。
念のため壁の上には、ミレイアとサラとクロエとダークエルフが30名。街道沿いの森の中にもクロースやスーリオンを始めダークエルフたち100名ほどを既に潜ませている。今回はハンターたちに声を掛けなかった。教会に顔を覚えられたら申し訳ないからな。それでも50人程度の騎士団など俺たちの敵ではないが、いくらなんでもたった50人でここを攻めようとはしないと思う。
そんなことを考えていると俺たちの正面。堀を挟んで向こう側に聖騎士団がやってきた。
先頭には背の高いシスターが立ち、その後ろに全身鎧姿の聖騎士たちが左右に展開している。よく見ると女性の聖騎士も多い。背の低いシスターはというと、後方へと下がっているようだ。
俺は先頭のシスターへと視線を向けた。
シスターの見た目は20代前半くらいでとても美しい女性だった。しかし彼女の目は氷のように冷たく、冷酷な印象を受けた。そんな彼女が口元に薄っすらと笑みを浮かべ話しかけてくる。
「お出迎えかしら? その割には橋が架かっていないようだけど? 」
シスターは人差し指を顎にやり、首を捻りながらわざとらしく聞いてきた。
「どこの誰ともわからない武装集団を両手を広げて出迎えるわけにはいかないのでね」
「あら? この姿を見てわからない? 私たちは聖光教会の聖騎士団よ」
俺の問いに彼女は教会の者であることを告げた。しかし聖光教会の名を口にした時に、やや口元が歪んだ気がした。なぜだろうか?
「あいにく教会のことには詳しくなくてね」
「フフフ、そうね。見たところ魔人と竜人のハーフみたいだし、魔国育ちかしら? それなら知らなくても無理ないわね」
「それで? その教会の聖騎士様たちがここになんの用だ? 」
「街の酒場でここに砦があることを耳にしたの。半信半疑で確認しに来てみたのだけど、まさかこれほど大規模な砦だとは思わなかったわ。中に宿屋があるのでしょう? 泊めてくれないかしら? 」
「断る。ここはハンター専用の宿だ。ハンター以外の者を入れることはできない。お引き取り願おう」
俺が断ると修道服の女性の背後に展開していた騎士たちが、腰の剣に腕を伸ばし俺を睨みつけた。
そんな彼らの気配を察したのか目の前のシスターは片手を横へと水平に上げた。
すると騎士たちは剣から手を離した。
このシスターは教会での地位が高いのか? ただのシスターじゃなさそうだな。
「フフッ、さすがは魔国の人間というところかしら? 教会の権威がまったく通用しないとはね。でも女神フローディアを信仰していない国の人間が神遺物を持っているのはなぜ? 聖水を何に使うの? 」
「神遺物? 聖水? なんのことだ? 」
何を言ってるんだこのシスターは? まさか神器があることを知っている? でも隣にいるシュンランが持っている青龍戟には気付いていない。俺の胸元に差しているペングニルにもだ。
「……とぼけているわけではなさそうね」
シスターはまるで俺の心の中を見透かそうとしているような、そんな冷たく凍えるような視線を俺に向けたあとそう口にした。
「だからなんのことだ? 」
「女神の気配を感じることができる子がいるのよ。その子がこの周辺に女神の結界が張ってあること。そしてこの砦の中に女神の加護を受けた神遺物があると言っているの。聞いたわ。ここでは水に困らないのでしょう? 結界を張れたり水が出てくるような神遺物がここにはあるんじゃないかしら? 」
「……さあな。覚えはないな」
俺は結界という言葉と、女神の気配を感じることができる人間がいることに動揺しつつもシラを切った。
まずいな。聖水なんか無いが、弱い魔物しか入れない結界はどう考えてもあの女神の像が原因だろう。あの存在を教会に知られるわけにはいかない。
すると後方に下がっていた背の低いシスターが飛び出してきて、すごい剣幕で俺を責め立てた。
「嘘です! この周辺は女神様の気配で満ち溢れています! その証拠に下級の魔物しか現れませんでした! 感じるんです! あの方向から女神様の強い気配を! 」
「何を言っているのかさっぱりわからないな」
一瞬小柄なのにミレイア以上の胸を持つシスターの揺れる胸に視線が釘付けになりそうだったが、慌てて目を逸らし再度トボけた。
このシスターがフローディアの気配を感じ取れるという子か?
チッ、フローディアの気配を感じることができる人間がいるなんて予想外だ。
「クリス、下がっていなさい。ねえ貴方」
「涼介だ」
「私はローラ。この子はクリスよ。この子は女神の気配を感じるという不思議な力を持っているの」
「聖女ってやつか? 」
「恐らくね。でも神託とかはないから証明しようがないのよね」
「そりゃあまあ……そうだろうな」
地球でゲームしているからな。
「でも私はクリスを信じているの。だから中を確認させてもらえないかしら? 」
「確認してどうするつもりだ? 」
「神遺物があれば回収させてもらうわ。聖地にあった物でしょうしね」
「何度も言うがここには神遺物などない。それにたとえあったととしてもだ。回収しただけでおとなしく帰ってくれるのか? 」
「フフフ、そうね。この砦を聖地奪還のための拠点に使わせてもらおうかしら? 」
「どちらにしてもこの街を接収するつもりじゃねえか」
「神遺物が聖水を生み出す物なら教会には内緒にしてあげてもいいわよ? 」
「一介のシスターがそんなことをしてもいいのか? 」
なんだ? この女はそんなに教会で偉い地位にいるのか? そうは見えないが……
「金と女と権力争いにしか目がない教会の上層部にここのことが知られても、どうせ聖地奪還には繋がらないわ。この砦を利用して王国と帝国相手に利権を得ることしか考えないでしょうね。でも聖水があるなら話は別。私の聖騎士団だけで使わせてもらうわ。聖地を奪還するためにね」
「聖地奪還ね。信仰心が厚いんだな」
「やめてよ。私はいもしない神なんて信仰していないわ」
フローディアがこの世界にいないことには気づいているのか。まあ腐敗した教会と、遺伝以外で新たにギフトを得る者がいない現状から気づく者もいるか。しかし……
「ならなぜ聖地を奪還するんだ? 」
「クリスを通して女神フローディアに仕事をしろと伝えるためよ」
「ははっ、それは奇遇だな。俺もフローディアには仕事をしろと言いたかったところなんだ」
この世界を見捨てるのは別にいい。だが俺だけに自分の住む家を建てさせようとして、自分はゲーム三昧しているあの女神には文句を言いたい。
「フフフ、貴方もなのね。見た目もいいし気に入ったわ。ねえ、私と組まない? 協力してくれたらいい思いができるかもしれないわよ? 」
ローラはこれまで向けていた冷たい視線から一変。妖艶な笑みを浮かべ右足を前に出し、深いスリットから真っ白な太ももを露出させた。
「魅力的なお誘いだがお断りさせてもらう。俺には心に決めた女性がいるんでね。それに残念ながらここには聖水なんてものは湧き出ていないんだ。諦めて帰ってくれ」
「あら残念。フラれてしまったわ。でも聖水があるかどうか確かめるのは私なの。拒絶するなら力ずくで中に入らせてもらうことになるわ」
ローラはそう言って両手に氷の剣を出現させた。
氷のギフト使いか。
まさか無理やり押し入ろうとするとはな。よほど自分のギフトに自信があるのか?
だが残念だったな。氷を長時間握っていても霜焼けにならないことは、かき氷を作った時に確認済みだ。試しに氷を投げてもらっても身体に触れる前に弾いたからな。
恐らく火災保険の水害特約か、落雷特約が影響しているんだろう。氷は元は水だからか、雷雨の際には
「腕に自信があるようだがやめておいた方がいい。君では俺には勝てない」
俺は胸元からペンを取り出し、背中でペングニルへと変形させながらそう告げた。
「あら、すごい自信ね。そういう男は嫌いじゃないわ。実力が伴っていればだけど。殺しはしないわ。ただちょっと首から下が氷像になるかもしれないけど……『
ローラはそう言って氷の双剣を地面に刺しギフトを発動させた。すると氷剣を起点に地面が勢いよく凍り、それは堀の水を凍らせながら俺へと向かってきた。
俺は戟を構えるシュンランの前に立ち、迫りくる氷からの盾となった。
予想通り地面を這うように向かってきた氷は俺を避け、後方の吊り橋を2メートルほど凍らせて止まった。
結構範囲が広いな。本気で放たれたら外壁の上にいるミレイアたちまで届くかも。
「なっ、なにが!? クッ! 」
内心冷や汗を流していると、ギフトが俺に通じなかったことにローラは驚いていた。しかしすぐに気を取り直し両手に持つ氷剣を構え、凍りついた堀を駆け抜け俺へと迫ってきた。
「涼介! 」
「シュンラン、俺が対応する」
俺は前に出ようとするシュンランにそう告げ、ローラを迎え撃つように数歩前へ出た。
すると接敵する瞬間に身を屈めたローラが、氷の双剣を俺の腹部に向かって突き出した。
それを俺はペングニルで楽々と受け止めた。目の前には交差する氷剣と、その向こうで憎々しげに睨みつけてくるローラの顔が見える。
「くっ……速さには自信があったのだけどね」
「上には上がいるってことだ」
正直俺のレベルからしてみれば、彼女の動きはスローにしか見えない。
「フッ……フフフ。貴方本当にいいわね。でもその余裕がいつまで続くかしら? さっきはどうやって私のギフトを防いだのか知らないけど、この距離で防げるかしら? 『氷杭』! 」
俺と鍔迫り合いをしていたローラは剣を引き、瞬時にギフトを発動した。すると俺の足元から無数の氷の
それらを俺は無防備に待ち構えた。結果、地面から突き上がる氷の杭は俺へと突き刺さることなく砕け、またローラの双剣も俺に当たる直前で砕け散った。
俺は信じられないと目を見開いているローラを見つめながら、空中にいる彼女の
「うぐっ……」
「相手が悪かったな」
火災保険は本当にチート!
「ローラさん! 」
「「「「「ローラ様! 」」」」」
俺の足元に倒れ気を失ったローラの姿を見てクリスが叫び、堀の向こうにいる聖騎士たちがローラを助けようと一斉に堀を渡ろうとしてきた。そのうち数人はその場に残り、俺に向けてギフトを発動しようとしているのか腕を前に突き出している者もいた。
俺は静かに片腕を上げて合図を送った。すると外壁の上から火球と雷撃と水球。そして大量の石槍が堀を渡ろうとする聖騎士たちと、ギフトを発動しようとしていた者たちへと降り注いだ。クロエとミレイアとサラにダークエルフたちだ。
シュンランは俺の横から飛び出し、火球と石槍から逃れこちらへと向かってくる聖騎士を青龍戟で次々と薙ぎ払った。
腕や足を狙っていることから手加減しているようだ。殺さないように皆には事前に言ってあったからな。教会の人間を殺すと後々面倒そうだし。
それから少しして森の地面に埋まり潜んでいたクロースとスーリオン率いるダークエルフ部隊が、ストーンゴーレムを率いて聖騎士たちの背後から襲い掛かった。貴族軍を迎え撃った時と同じ戦法だ。
俺はここで気絶したローラにペングニルを向け、聖騎士たちへ降伏を促した。
「降伏しろ! お前たちは完全に包囲されている! 降伏しなければ教会に知られぬよう一人残らず殺さねばならなくなるぞ! ここにいるローラもだ! 」
俺がそう宣告すると聖騎士たちは一瞬の躊躇いの後、悔しそうな表情を浮かべながら武器を捨てた。
その姿を見た俺は攻撃を中止させ、聖騎士たちと震えてうずくまっていたクリスを皆に縛るように指示をした。
「涼介。この聖騎士たちはどうするのだ? 」
「どうしよう……」
戻ってきたシュンランの問いに俺は頭を悩ませた。
正直たった50人で戦いを挑んでくるとは思わなかった。確かに万が一に備えて兵は伏せさせていたけど、高い確率で何もせず帰ると思っていた。
よほど教会に歯向かう者がいないと確信していたのか、それかローラのギフトに自信があったのかもしれない。確かに彼女のギフトは強力だった。あのギフトで氷の階段とか作られたら外壁なんか簡単に越えられそうだしな。
まあそんな彼らもまさかローラのギフトが俺に効かないことや、教会の権威が通じないダークエルフがこんなにたくさんいるとは思っていなかっただろう。
しかし倒したはいいがどうしたものか。クリスが神遺物があるとか確信しているみたいだしな。彼女の教会での地位がどれほどのものか知らないが、ローラは間違いなく高そうな気がする。そうなると彼女たちを解放したら、教会が神遺物を手に入れるために全力で攻めてきそうなんだよな。というか神遺物ってなんだよ! 女神像しかねえよ! って、そっちの方がヤバイか。
「リョウスケ。とりあえず捕えておくしか無いのではないか? ローラの話では教会全体にはここのことは知られていないようだしな」
「確かに半信半疑で見に来たって言っていたな」
となると教会の人間がローラたちを探しにくるまでは時間が稼げるか?
仕方ない。貴族軍と同じように倉庫に監禁しておくか。
俺は結局街の中に入れることになるなと。女神像のことがバレないといいなと考えながら気を失っているローラを抱き抱え、聖騎士たちを神殿とは反対側の北側にある倉庫へと男女別に閉じ込めるのだった。
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