第5話 青龍戟
「喰いついた! 」
クロースが叫ぶ。
前方にいたCランクのオーガ5体のうち2体が、錆びついた剣と棍棒を持ち彼女の造り出した人型の土人形。クレイゴーレムに向かって来たからだ。
クレイゴーレムは体長3メートルはある。そのクレイゴーレムにオーガたちは攻撃をするが、剣で胸を突かれ棍棒で頭を吹き飛ばされながらもゴーレムは両腕を大きく広げオーガへと抱きついた。
「よしっ! 今だミレイア! 」
ゴーレムがオーガに抱きついたのを確認したクロースは、隣にいるミレイアへと攻撃するように合図を送った。
「はいっ! 雷矢! 」
クロースの合図にミレイアは、あらかじめ頭上に待機させていた白い光をバチバチと放っている4本の雷の矢をオーガへと放った。
そしてその雷矢はゴーレムの抱きつきから逃れようと身悶えているオーガの背に次々と突き刺さっていった。
ガッ……
ゴーレムと共に力なく倒れるオーガを確認した俺は、その後方にいた残り3体のオーガへと視線を向けた。
するといつの間にか駆け出していたシュンランが、オーガを頭部から真っ二つにしている姿が目に映った。
「シュンランさん! いま援護を! 」
「無用だ! 」
ミレイアの叫ぶ声にシュンランはそう答え、手に持った薄っすらと青白い光を放つ方天戟を横なぎに振るった。
方天戟の先端に付いている斧のような三日月状の刃は、まるで豆腐でも切るかのようにもう1体のオーガの胴を真っ二つにした。
その様子を見ていた残り1体のオーガが、勝ち目がないと見たのか背を向け木が密集している場所へと逃げていった。
方天戟を横なぎに振るったあと、回転するように再び構えたシュンランがそれに気づく。
シュンランは逃げるオーガを追おうとはせず、両手で持っていた方天戟を片手に持ち変え後ろに大きく振りかぶった。
そして木々の合間から見え隠れするオーガの背に向け思いっきり投擲し、それと同時に腰に差していた双剣を抜き方天戟を追うように駆け出した。
シュンランの手から離れた方天戟は、青白い光をより一層輝かせながら木々を縫うように進みオーガの背へと深々と刺さった。そこへ双剣を構えたシュンランが襲い掛かりトドメを刺し、オーガの断末魔の声が森に響き渡った。
「う〜ん。俺の出る幕が全くなかったな。さすがシュンランだ」
いくら手を出さないように言われていたとはいえオーガ5体の襲撃だ。どこかで出番があると思ってたんだけどな。
しかしシュンランに神器とか。鬼に金棒とはこのことだな。
そう、シュンランが持っていた方天戟は、700年前に勇者が使っていた神器である青龍戟だ。
なぜシュンランが青龍戟を持っているのか。
それは今から十日前まで話は遡る。
俺との会談を終えた竜王は、ダークエルフの長老宅で一泊して帰路に着いた。当然籠に乗って帰らせることはしなかった。竜王城は滅びの森の中に食い込んでいる魔国の領地にあると聞いたので、ダークエルフ街区の西門から森の中を徒歩で帰らせた。
といってもダークエルフたちが精霊魔法で造った土牛に竜王を乗せ、1日ほど同行する形だ。それ以降は飛ぼうが何をしようが構わない。ここの場所さえ特定されなければいい。
ちなみに竜王は帰ったら諸外国に対し、今回は森に狩りに出かけただけだと伝えることになっている。最初から西から来てくれれば良かったんだが、側近たちが危険なエリアを迂回させたために南街方面からやって来てしまった。
といっても南街を通ったわけではないので、森にいたハンターたちが籠を運ぶ竜人の姿を目にしたくらいだから大丈夫だろうと竜王は言っていた。それにもし何かあれば魔国と獣王国が後ろ盾につくと。そうなれば王国も帝国も。そして教会も手を出すことはできないだろうと。
俺は得意げにそう語る竜王に、そのもしもの時は魔国と獣王国連合対人族連合で戦争になるだろうがと悪態をついた。そんな事態になれば戦争を起こさせないために、否が応でも俺は自分の存在を公表しなければならなくなる。そうなったらどうなる? 当然各国の王も国民も、そして教会も騒ぎ始めるだろう。勇者と共に滅びの森の魔物を倒す時が来たと。それが女神フローディアの望みだと。
俺が女神の家を作るために遣わされたと、どんなに否定しようがそんなの関係ない。人族の国の王は失われた領土を回復するために。教会は聖地を奪還するために国民に俺の言葉を伝えないだろう。
晴れて俺は世界を滅びの森から救う二代目勇者に就任するというわけだ。
以前なら逃げればいいと考えることができた。だがもうそれは無理だ。このフジワラの街を失うわけにはいかない。ここはダークエルフの新天地であり希望の場所だ。そして俺や恋人たちが大切にしている場所でもある。俺はもう逃げることができないんだ。
だから俺はこの街に何があっても魔国は動くなと竜王に言った。獣王国は東街系列のギルドがここにあることで、俺の正体に関係なく利のためにここを守るという大義名分がある。だが魔国には何もない。動けばその理由を人族の国と教会に勘ぐられる。
竜王は渋々頷きつつも、本当に危なくなった時は必ず馳せ参じると言って帰っていった。
そう、帰っていったんだが……
2日前にまたやって来た。今度は北から超低空飛行で、リキョウを始め少数の側近と共にだ。少しでも目立たないようにするためだろう。側近たちは籠を吊るすのではなく、神輿のように担ぎながら飛んでいた。
俺は壁の上から青筋を浮かべながら、西門の堀に掛かる橋の向こう側に現れた竜王を出迎えた。
竜王は前回来たような豪奢な服ではなく、赤い普通の漢服を身に纏い背には白い布に包まれた戟を背負っているようだった。おそらく青龍戟だろう。そしてリキョウと共にいる7人の側近は前回と顔ぶれは変わっていたが、以前来た時より漢服に施されている銀の刺繍は控えめな感じだった。中には以前見かけなかった2人の女性の竜人の姿もあった。
俺はニコニコと笑顔で橋を渡ろうとする竜王に対し、なぜまた来たとペングニルを後ろに引きながら問いかけた。
俺が怒っているのが伝わったのだろう。竜王と側近たちは焦った表情を浮かべながら、大切な話があると。決してリョウスケ殿にとって悪い話ではないと全員が口を揃えて弁解を始めた。
俺はデーモン族の領地にいるダークエルフたちに何かあったのかと思い、ダークエルフ街区に建てた来賓用の宿舎に竜王たちを誘導した。
来賓用の宿舎はダークエルフ街区の西門側にある倉庫型の建物だ。中には2LDKが1部屋と、1Kが5部屋。そして大部屋を1部屋と応接用の20帖ほどの部屋を設置した。Dランク魔石換算で1000個。1000万円くらい掛かったが、前回竜王が持って来た慰謝料があるから余裕で建てることができた。竜王から渡されたあの箱の中には金貨がびっしりと詰まっていたからな。その数500枚。5千万円相当だ。おかげで年内にマンションを建てることが確実になった。
なぜダークエルフ街区に来賓用の建物を建てたかというと、ここだと他のハンターたちの目に触れないから便利なんだ。ダークエルフたちが監視してくれるしな。
そんなわけでシュンランとミレイアとクロース。そして長老とスーリオンと共に応接室に向かい、ソファーに腰掛けた竜王にその大切な話とはデーモン族のダークエルフたちのことかと聞くとそうでは無かった。
彼らに関しては魔王直轄領へダークエルフを受け入れるようにと魔王に指示をしっかりとし、魔王と竜王の連名でデーモン族へ命令書を発布したようだ。
当然の如くデーモン族の領主はダークエルフを奴隷になどしていないと反発したが、ダークエルフを奴隷のように扱っていたことは周知の事実。その言葉には説得力がなかった。それに普段統治に口を出さない竜王の命令ということもあり、ほかの種族もデーモン族の擁護をしなかった。
決定的となったのは吸血鬼族の存在だ。吸血鬼族は魔国で一番数が少ないが、単体では竜人をも凌ぐ力があるらしい。その吸血鬼族は先の大戦で勇者と竜人に大幅に数を減らされたこともあり、普段はデーモン族同様に反魔王側の勢力なのだが今回はデーモン族へ味方しなかったそうだ。デーモン族に味方すれば内戦になるかもしれないと思ったのかもしれない。そうなると数が少ない現状では不利と見たのだろう。そもそもダークエルフを失って損をするのはデーモン族のみ。吸血鬼族にはなんの不利益もない話だしな。
こうして周囲に味方がいなくなり孤立したデーモン族は、悔しそうにしつつもダークエルフの魔王直轄領への移転を認めたそうだ。
それを聞いて俺はほっとした。そして竜王に頭を下げて礼を言った。同席していた長老も涙を流しながら感謝していた。
竜王はそんな俺たちに逆に頭を下げ返し、もっと早く行うべきだったと。長老たちを追い込んでしまい申し訳なかったと謝罪した。
それからお互いに頭を上げたあと、俺はではなんの話があって来たのかと改めて問いかけた。
すると竜王は背後に立つリキョウから先ほどまで背負っていた白い布に包まれた戟を受け取り、その覆いを解き現れた青龍戟を俺へと差し出した。
なんだ? と青龍戟を受け取ると、竜王はこの青龍戟を俺に使って欲しいと言い出した。
驚いたってもんじゃない。俺もシュンランもここにいるフジワラの街の人間全てが驚愕していた。
青龍戟は勇者がこの神器を使って滅びの森の侵食から国を守るようにと、そう竜王に渡れた神器だ。この神器のおかげでSランクのドラゴンが魔国に現れても対等に戦うことができ、代替わりの激しい人族の国への戦争抑止にもなっていた。現代で言うなら核ミサイルに匹敵する抑止力だ。国宝も国宝。最上級の国宝だ。
それを俺に貸す? そんな事が人族の国にバレたら魔国が政情不安に陥るのは目に見えている。
だから当然俺は断った。隣でシュンランもミレイアも頷き同意してくれた。青龍戟を使えるのは魅力的だが、政情不安を起こしてまで使いたいとは思わない。
そんな俺の言葉に竜王はうんうんと頷き、そんな俺にだからこそ使って欲しいのだと。それにもしかしたら俺が使い続けることにより、勇者が使っていた時のような姿に戻るかもしれないと。その姿を今一度見てみたいと目を輝かせながら言葉を紡いだ。
俺は竜王の言葉に手に持った青龍戟を見つめた。するとなんとなくというか、俺には感じることができた。この青龍戟は進化しないと。俺はこの神器の主ではないと。
そのことを伝えると竜王は驚いていたが、それでも使って欲しいと。使い続けることでいずれ主と認められるかもしれない。なんならシュンランが使ってもいいと、そう意味ありげな視線を俺に送りながらそう口にした。
その言葉に俺もシュンランも驚いた。そして心が揺れた。
正直に言うと喉から手が出るほど欲しい。初期の状態に戻ってしまったとはいえ、この青龍戟は岩をも切断し投げれば必ず当たると聞いている。欲しくないなんて思う人間がいるわけがない。
なによりこれを使うのはシュンランでもいいと竜王が言っている。恐らく彼女もレベルアップをするからだろう。レベルアップと共に青龍戟が進化するかもしれないと考えているのかもしれない。その可能性は低いとは思うが……
それでもシュンランを指名したのは、竜人の血が流れているからだろう。もしかしたら二代目竜戦妃となるかもしれないと考えているのかもしれない。ならばたとえ進化しなくとも、竜王城の宝物庫で眠らせておくよりは竜戦妃となり俺と共に戦うシュンランに使ってもらった方がよほど有効だ。そう考えたのかもしれない。
俺としてもシュンランが使っていいのであれば戦力が一気に上がる。それは同時に俺に何かあった際に、シュンランとミレイアの身の安全に繋がることになる。
そこまで考えた俺は、竜王に是非貸して欲しいと願い出た。
すると竜王はニヤリと笑い、一つだけ条件というかお願いがあると言い出した。それは何かと尋ねると、それはこの街への滞在の許可だった。理由は神器の進化の具合を確認するためだそうだ。
俺が顔を引き攣らせると、竜王はもちろんただのハンターとしてだと。権威や権力はひけらかさない。ただの竜人族の老ぼれハンターとして、後進の育成のために滞在すると。そう言いながら懐から出した赤黒い色のハンター証をテーブルの上に置いた。それに続きリキョウもお供の者たちも次々とハンター証をテーブルの上に置いていった。まるで練習してきたかのようなスムーズさだった。
竜王のハンター証は古くボロボロだった。書式もほかのハンター証とは違っていた。が、ちゃんとギルドの刻印と竜の絵が刻まれていた。ハンター証が赤黒い色をしていることからアダマンタイト(S)ランクだからだろう。
リキョウ始めほかの竜人たちのハンター証はそこまで古くはなく銀色だった。ミスリル(A)ランクなのだろう。
そんな差し出されたハンター証を引き攣った顔で眺めつつ、俺は内心めちゃくちゃ悩んでいた。
確かにハンターならここに滞在する資格はある。サーシャや獣王が滞在してたんだ。竜王だけ駄目と言っても聞く耳を持たないだろう。
しかし竜王が竜王城にいないことや、ここにいることが人族の国に知られたら不味い。でも神器は欲しい。これがあればシュンランは一騎当千の働きができる。
俺はどうしても決心がつかずチラリと右隣に座るシュンランの顔を見た。すると彼女の目は青龍戟に釘付けになっていた。
あかん。めちゃくちゃ使いたそうにしていると思った。
俺はそんなシュンランの横顔を見たあと、左隣のミレイアに視線を向けると彼女はクスリと笑いながら頷いた。
そんな二人の反応に俺は仕方ない。なるようになれという気持ちで青龍戟を貸し出す条件である、竜王の滞在を受け入れた。まあ竜王の顔を知ってるハンターなんかいないから、ただのジジイがいるとしか思わないだろう。リキョウたちのことも、魔人やサキュバスに続いて竜人も来るようになったくらいにしか思わないと思う。俺は物欲に負け、無理矢理そう思うことにした。
そして竜王はダークエルフ街区の来賓館で滞在することになり、俺たちは青龍戟の試し切りに森へとやってきたというわけだ。
そんなことを考えながら楽しそうにオーガの胸から青龍戟を抜き、魔石を取り出しているシュンランの後ろ姿を遠目で眺めているとクロースが騒ぎ始めた。
「リョウスケ! 私もあの武器が欲しいぞ! なぜ私に預けてくれなかったのだ! 」
クロースはシュンランを指差しながら言った。
「槍すら持ったことがないクロースに扱えるわけないだろ」
短剣しか扱えないクロースに使いこなせるわけがないだろうに。まあ俺も方天戟は扱えないけど。
方天戟は槍と同じく穂先に矢じりこそ付いているが、その使い方は全くと言っていいほど違う。この武器は2メートル以上ある柄のその先端に斧のような三日月状の刃がついている。これにより突くだけではなく斬る、斧の面の部分を使って叩く。そして刃の先で引っ掛けるなどの攻撃ができるようになる。これが本当に難しい。シュンランが扱ってる姿を見て、突くことしかできない俺は秒で諦めたくらいだ。
「投げるだけならできる! 」
クロースはその大きな胸を張って自信満々に言う。
「腕力が足らないし、なによりあれは俺の槍と違って投げても戻ってこないんだぞ? その後どうするんだよ」
俺は呆れた声でクロースに告げた。
ダークエルフは非力だ。そのうえレベルアップもしないクロースが、あんな重い戟を投げれるわけがない。それにペングニルと違って青龍戟は投げても手元に戻って来ない。だがその代わり切断力に優れている。ペングニルが遠距離特化なら、青龍戟は近距離特化武器ということだな。
「近くなら届くし、ゴーレムを盾にしながら回収しにいく。そしてまた投げる! 」
「その間に魔物に方天戟を奪われて投げ返されたらどうすんだよ」
「うっ……そ、それは……」
「シュンランがやったように投げるのは残り一体の時だけだ。そうしないとこっちが危険になる」
あっさり言い負かされ目を泳がせているクロースに俺は淡々と説明した。
日中の狩りに行こうとした時に、あまりにうるさいから連れて来たらこれだ。自分がここでは支援しかできないのが悔しいんだろう。クロースの手を借りるまでもなくあっという間に倒しちゃうからな。
クロースはシュンランとミレイアの圧倒的な強さに焦っているようだ。しかしこればかりはレベルアップしないんだから仕方ない。
「し、しかしこれでは私は肉壁と荷物持ちで終わってしまう」
「ゴーレムによる足止めな。肉壁とか人聞きの悪いことを言うなよ。それにそんなに悲観するな。クロースがいて助かってるんだ。特に荷物を運んくれることにな。おかげで今まで持ち帰るのを諦めていた素材も持ち帰れるようになった。クロースを連れてきてよかったよ」
俺はクロースにそう言いながら、フジワラの街から北に伸びる街道に立っている土牛へと視線を向けた。
土牛の後ろには荷車がある。これを土牛がひいてくれるおかげで今までレベルアップを優先し、放置していた素材を運べるようになった。ミレイアのギフトが当たりやすくなるようにゴーレムも作ってくれるし助かっているのは事実だ。
「そ、そうか! 私は役に立ってるか! よし! オーガの素材を回収して進もう! いくらでも運んでやるぞ! 私は役に立つ婚約者だからな! 」
「ああ、頼むよクロース」
俺は急に元気になったクロースの頭を撫でながらそう答えた。
こんなに嬉しそうにして、本当に可愛いやつだな。
その後、俺たちは日が暮れるまで狩りをした。久しぶりに狩りができるということもあり、シュンランもミレイアも楽しそうだった。ここ1、2ヶ月はダークエルフの受け入れやら竜王が来たりやらで色々忙しかったし、クロースが同居するようになって夜の狩りに行けなかったからな。さすがにクロースを連れ、視界が悪く魔物の数も多い夜の森に狩りに行くのはリスクが高くて無理だ。
そのせいでシュンランとミレイアのレベルは、17と16でずっと止まっていた。
だがダークエルフたちも仕事にだいぶ慣れて来たので、これからは日中に狩りに出かけることができそうだ。それならクロースも連れて行くことができる。それに神器の武器を二つ使えるようになり殲滅力が大幅に上がった。これなら今までよりも多く魔物を狩ることができるだろう。
やっとシュンランとミレイアのレベルアップに専念できる環境になったな。今年はレベル上げをしつつ、年末年始にハンターたちが里帰りした時にマンションを建ててお終いだな。
しかしそうか。もう11月か……
確か俺がこの世界にやって来たのは10月くらいだったな。ということはいつの間にか1年経っていたのか。
1年とは思えないほど色々なことがあった。この世界に飛ばされた時に、まさか街を作ることになるなんて思いもしなかった。それにシュンランとミレイアという、俺にはもったいないほどの恋人ができることも。
頑張ったな。うん、頑張った。そしてこの幸せを維持するためにこれからも頑張らないといけない。色々と不安は尽きないが、今のところ南街からやってくるハンターたちから竜王がどうのという話は聞かない。王国も帝国も国境で揉めてるらしいからそれどころじゃないんだろう。どうやら竜王がこの街に来たことはバレてはいないようだ。
このままずっとバレないままでいてくれるといいんだがな。まあさすがにこれだけ街が大きくなれば無理か。これまでできる限り秘匿して来たつもりだし、ハンターたちも利用者が増えすぎて泊まれなくなることを恐れ、ここ最近は紹介客を連れてこなくなって来ている。それでもいずれは人族の国や教会に知られることになるのは間違いない。
あと少しだけ。せめてあと半年は知られずにいたい。ヘヤツクがバージョン2010になればアレを設置できるはずだ。アレさえあれば人族の国や教会が騒ごうがこの街を守ることができる。
年末年始にマンションを建て、一気に入居者を増やし満足度を上げればバージョンアップするはずだ。自信はある。それまで大軍がやってくることがなければ、獣王国の支援がなくても俺一人でこの街を守ることも可能だ。
あと少し。あと少しこの街の存在を隠すことができれば……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます