第16話 ダークエルフ救済策
「じゃあなスーリオン。治りたてだから無理するなよ? 」
病院の敷地に設置した西門の前で、恋人たちとカルラを連れた俺はスーリオンへと別れの言葉を告げた。
「ああ……リョウスケ、本当にここまで頼っていいのだろうか? 」
「それは昨夜に話がついたはずだ。無償で助けるわけじゃない、俺たちにも利益があることだ」
俺は未だに煮え切らない表情のスーリオンとマグルたちに、半ばうんざりした口調でそう答えた。
昨日スーリオンたちの治療を終え、家でシュンランとミレイア。そしてカルラへと、ダークエルフをデーモン族の重税から救う方法を説明していると、スーリオンが半べそをかいたクロースを引き連れて尋ねてきた。
スーリオンはクロースから俺が里を救うつもりだと聞いたらしく、関与をしないで欲しいと言ってきた。クロースが半べそをかいていたのは、里のことを俺に勝手に話したことを怒られたからだろう。
予想をしていた俺は二人を部屋に招き入れ、スーリオンに別に伊達や酔狂で助けようとしているわけではないこと。デーモン族と揉めるようなことがないこと。そしてこちらにも利益があることだと説明した。
スーリオンはどういった方法でデーモン族の重税から里を救うつもりなのかと聞いてきたが、それはまだ話せないと。まずは里にいる動けない者たちを治すから、その時に長老同席のもとで話すと説明した。
スーリオンは納得はしていなかった。が、長老は治療してもらった礼をするためにここに来ると言うだろうし、里にいる者たちを治してもらえるのは今後の為にもありがたい。そういった理由で長老を連れてきてもらえることになった。その際に今度は無償ではなく有償で頼むと念を押されもした。
それで話はついたと思ったのに、出発の時になってまでまだ俺に頼ることを気にしているようだ。
「しかし我らを助けてリョウスケに利益があるというのがどうしてもわからなくてな。我らのために無理をしているのではないかと気になるのだ」
「無理はしていないしするつもりもない。取り敢えず長老を連れてきてくれ。その時に俺が提案したことを受け入れるか考えればいい」
「そうです兄上。勇者と同じ存在のリョウスケの言うことに従っていれば間違いありません。きっと私たちを救ってくれます」
「クロース! そもそもお前が里のことを話さなければこんなことにはならなかったのだぞ! よりにもよってリョウスケに話すとはこの馬鹿者が! 」
「アイタッ! 」
「こらこら、兄妹喧嘩はやめてくれ。クロースから聞かなくてもある程度予想はしていたことだ。早いか遅いかの違いでしかない」
俺はスーリオンにゲンコツを食らって頭を抱えるクロースを庇うように立ち、ムスッとした顔のスーリオンにそう伝えた。
「しかしあれほど口止めをしていたというのにこの妹は……」
「まあまあ、スーリオンと里を心配してのことだ。いい妹じゃねえか、善意なんだからそう怒るなって。綺麗な顔が台無しだぜ? 」
今度はカルラが怒っているスーリオンの肩を叩きなだめた。
「それはそうかもしれんが……」
入院中色々と世話になったカルラに逆らえないのか、スーリオンは渋々ながらもクロースに対しての怒りの鉾を収めた。
寡黙な男に明るく快活な女性。なんだかお似合いの二人だな。
「さあ、それじゃあ早く帰って連れてきてくれ」
俺はスーリオンの怒りが収まった所でパンパンと手を叩きながらそう告げた。
「……わかった。まずは長老と里の怪我人を連れてくるとしよう。その時はまた治療を頼む」
「ああ、今度は有償だから気にしなくていい」
「そうしてくれ。好意に甘えてばかりではいられぬのでな。クロース行くぞ」
「は、はいっ! 兄上! 」
もう怒られないと思ったのか、俺の背でミレイアに叩かれた頭を撫でられていたクロースが背を向け歩き出したスーリオンの後を追う。
そしてスーリオンたちとともに門を潜り、1ヶ月過ごした病院を後にした。
しかしそんな彼らの後ろ姿をシュンランたちと見送っていると、クロースが突然振り向き
そして俺の胸に飛び込んで来たかと思ったら、頬に軽くキスをしてきた。
「ど、どうしたんだ急に? 」
クロースの予想していなかった行動に高鳴る胸を抑えつつ、俺の首に両腕を回したままのクロースに尋ねた。
「こ、これはその……里を救ってくれることに対しての手付けだ。見事里を救ってくれたなら……つ、続きをしてやろう。だから頼んだぞ」
クロースは頬を染め視線を反らしながらそう言って俺から離れ、小走りにスーリオンの元へと戻っていった。
そんな彼女の後ろ姿を俺は、キスされた頬を手で触れながら呆然と見送っていた。
「ククク、これは頑張らねばならないな」
「ふふっ、クロースさん顔を真赤にして可愛かったです」
「かあぁぁ! 純だなぁおいっ! アタシもあんな時期があっ……たっけ? 」
「まあ……そうだな。可愛かったな」
ったく、普段は高揚した顔で変態じみた言葉を吐くのにあれは反則だろ。
ホント、中身がアレじゃなかったらいい女なんだけどな。
俺はそんな事を考えながら、少しだけドキドキした気持を落ち着かせるのだった。
☆☆☆☆☆☆
「さて、それじゃあ伐採からやるか」
スーリオンたちを見送った後。恋人たちと昼を食べ終えた俺は、西門の外へと再びやって来ていた。
目の前には黒い木々が生い茂っている。
俺はその木々に向けて手に持ったペングニルを力の限り投擲した。
するとペングニルは狙い通り十数本の木を貫通し、それらをなぎ倒した後再び手に戻ってきた。
それを小休止を挟みながら2時間ほど繰り返したあと、俺は地面に両手を付き地上げ屋のギフトを発動し倒した木々を地中に埋めていった。
「よし、次は壁だな」
そして次に余った精神力で壁を作っていくのだった。
「涼介。夕食ができたぞ」
「ああ、それじゃあ今日のところはこの辺にしておくかな」
夕方になりシュンランが迎えに来た所で俺は壁作りを中断し、彼女に渡されたタオルで汗を拭った。
8月に入りかなり暑くなってきたこともあり汗でびっしょりだ。
「倒木の音は聞こえてきていたが、半日でここまで整地を終えたのか。相変わらず凄まじい神器とギフトだな」
更地となった100メートル四方の土地を見回しながら、シュンランは腕を組み感心している。
「貫通力がかなり上がったからな。あとは慣れだな」
マンションを作るときや拡張する時にさんざんやったことだしな。
「フフッ、堅い滅びの森の生木も、涼介にかかれば普通の木と同じかそれ以下というわけか」
「そうだった、この木って堅いんだったな。さすが神器だよな」
元は万年筆だけど。ペンは重機よりも強しってやつか。
「涼介の腕力と体力もな。しかしこれならすぐにできそうだな」
「早く作って消耗品や食品を貯蔵しておかないといけないからな。その時は頼むよ」
レトルト白飯に乾パンに当面の肉や野菜などの食料。そして予備の寝具や消耗品の用意に部屋の入口に飾り付ける木札など。俺一人で全部やるのは大変だ。
「ああ、カルラたちも手伝ってくれるから大丈夫だ。フフフ、それにしてもここに里を作るとはな。とんでもないことを考えたものだ」
「ここならデーモン族の手は及ばないしな。賃貸料は払ってもらうが、魔国にいるよりは遥かに生活が楽になるはずだ」
賃料に関してはダークエルフたちが負担に感じないようにするつもりだ。デーモン族に支払っている膨大な額の税より遥かに安いのは間違いない。
そう、俺はスーリオンたちを救うために、フジワラマンションの隣にダークエルフの里を作ることにしたんだ。
デーモン族の土地にいるから重税を払わなければならないのなら、その土地から離れればいい。実際デーモン族は税を払えないなら領地から出ていけと言ってるわけだしな。まあ出ていけるわけ無いと思って言ってるんだろうが。
スーリオンたちに里を用意することを言わなかったのは、あの男なら俺にこれ以上迷惑をかけれないと言って断ると思ったからだ。無理に説得したとしても長老を連れてこない可能性だってある。だから話さなかった。
それに里でこのことを話しても誰も信用しないだろうしな。まさか森にまた戻れるなんて誰も信じないだろう。
だったらスーリオンが長老を連れてくる間に里を完成させ、あとは引っ越すだけですよという状態にしようと思ったわけだ。それを長老が見て里で説明すれば、里の人間も信じるはずだ。
問題の建設費用だが、正直言って預金は白金貨10枚(一千万円)くらいしか残ってない。
各部屋のバージョンアップもしちゃったし、新しく別館やギルドやショッピングモールを建てちゃったしな。
増築した別館とショッピングモールの収入が増えたことで、一ヶ月後からは月にマンション全体で銀貨換算にして4000枚(四千万円)近く収入が入るようになるが今は金欠だ。
だが30頭近くある飛竜の皮や爪を売り、魔石で払ってもらえばなんとかなると思う。
この間メーレン商会のカミールに飛竜のことを話したら、目をキラキラさせながら一頭辺り金貨20枚(二百万円)で買い取ってくれると言っていたしな。
里の建物は簡素な設備にすればだが、2LDKほどの広さの部屋を家具付きでもDランク魔石150個(百五十万円)で作れるはず。世帯持ち用にそれを30ほど作り、あとは男女別の大部屋を10も作ればなんとかなるだろう。
敷地の中央に長老の家兼集会所用に倉庫を一棟建てて、あとは平屋風に置けばいいか。
飛竜の素材を全部売れば建設費をまかなえるはずだ。
「確かに涼介の言う通り、ここに移住すればスーリオンたちはデーモン族の圧政から逃れることはできるだろうな。クロースの喜ぶ顔が今から楽しみだな」
「そうだな。きっと喜んでくれるさ。さて、それじゃあ帰ろうか。今夜の夕食はなんだろうな」
俺はそう言ってタオルを肩に掛け、シュンランの腰に手を回した。
「今夜も涼介の好きな物ばかりだから期待するといい」
「それは嬉しいな。またシュンランとミレイアに食べさせてもらおうかな」
「フフッ、涼介は変なところで子供っぽいな。まあそういうところも好きなのだがな」
「あはは、まあそこは男の夢の一つということで」
両隣に座る美女と美少女からあ〜んしてもらう毎日。これこそ男の夢。
「ククク、涼介の言う男の夢というのはいつも変な夢ばかりだな」
「男にしかわからないもんさ」
ご飯を食べさせてもらったり裸エプロンしてもらったり、ベッドで二人の胸でぺニグルを挟んでもらったりお尻を並ばせたりと。俺もかなり男の夢を実現しているよな。
「まあ涼介が喜ぶならそれでいいさ」
シュンランはそう言って俺の肩に頭を乗せた。
「ありがとう。愛してるよシュンラン」
俺はそんな彼女の腰を強く抱き寄せキスを求めた。
「私もだ涼介」
シュンランは目をつぶり俺のキスを受け入れた。
西門の扉の前でしばらくの時間、俺たちはお互いの唇を求め合ったのだった。
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