エピローグ 造られる外壁 埋まる外堀
「ここで最後だな……『石壁』! 」
俺は地面に両手をつき、精神力を込めて地上げ屋のギフトを発動した。
すると地面から幅3メートルほどの分厚い石の壁が生え、みるみると伸びていった。
そして石壁が隣の壁と同じ15メートルほどの高さに達したところで、俺はギフトの発動を止めた。
「くっ……ハァハァ……キツッ! 」
残っていた精神力を全て使ったからだろう。急激な眠気と怠さが襲ってきてその場に座り込んだ。
「お疲れ様。涼介」
そんな俺の隣にシュンランが毛布を敷き座り、俺の頭を膝の上に乗せた。
「涼介さん、大丈夫ですか? 」
ミレイアはそんな俺の額に浮かぶ汗をタオルで拭う。
「ああ、少し休めば大丈夫だから」
さすがに今日はギフトを使い過ぎたな。
でも思った以上に大変だったけど、これで新しい外壁を全て造り終えることができた。
カルラたち棘の戦女たちを雇ってから二週間後ほど経った日の夜。
俺はシュンランとミレイアが見守る中。拡張した敷地を囲む新しい外壁造りをしていた。
カルラたちが住む従業員宿舎や賃貸用の別館を新たに2棟に、貸し倉庫も増やして手狭になったので敷地を拡張することにしたんだ。それでまた拡張することになるのも面倒なので、かなり広くした。
敷地面積は今までの3倍くらいにはなったかな。神殿を南として北に300メートル、東西に200メートルくらいだ。東京ドームで例えるなら1.5個分てとこかな。ちなみに東京ドームは陸上のトラック4つ分の広さらしい。
んで外壁もこの際だから、壁の上を人がすれ違えるくらいに分厚くしようと造り始めたんだけど、いざ造ってみたら精神力の消費が半端なくてさ。そのうえかなりの長さを作ったから、二週間も掛かってしまった。
昼はシュンランたちと狩りに出かけ、夜は外壁造りでしんどかったのなんの。
ああ、ちなみに東側の壁の入口に掛かっている跳ね橋はそのままだけど、俺の手作りの門は撤去して代わりに大型倉庫を設置した。まあその倉庫の出入口の引き戸式の鉄扉が門代わりだ。最初からこうすればよかった。
その門を潜り倉庫の中に入ると、石造りの2LDKの守衛所がある。カルラが24時間警備するというから作ってあげたんだ。彼女たちはそこを拠点に交代で夜間の見回りをしてくれているよ。
そして入口の門から数十メートル離れた並びには、従業員用の建物がある。これも別館同様倉庫を改装して従業員寮にしたものだ。部屋数は1Rが30部屋と、会議用の大型の部屋を一つ設置した。全て最新バージョンの部屋だ。ここに街にいた女性達も住んでいる。
カルラを筆頭に『棘の守衛隊』の皆は、一人一部屋を与えられて大喜びしていた。特にずっと大部屋に住んでいた荷物持ちの子たちなんて飛び跳ねて喜んでいたよ。そんな彼女たちの喜ぶ姿を見て俺もなんだか嬉しくなった。
そんな彼女たち藤原マンション棘の守備隊の仕事は、基本的に神殿入口の警備と外壁の門から敷地へ出入りする人のチェック。夜間の入居者のトラブル対応に壁の上に登っての見回り。そして定期的に東街や南街へ素材の売却や仕入れだ。
みんな毎日生き生きと働いてくれている。そんな彼女たちを見てレフのとこのミリーなんて、うちもここで働くニャって駄々をこねてた。まあハンターとして上を目指しているレフとベラに却下されてたけど。
男のハンターたちからは、カルラたちを守衛に雇ったことは不評だった。ものすごく嫌そうな顔で勘弁してくれよと言われた。みんな棘の戦女が苦手だからな。彼女たちにちょっかいを出して痛い目にあったハンターも多いので、みんな怖がってる。
そんな彼女たちのおかげか、マンション内の揉めごとが減った。それに暇な時は進んで掃除を手伝ってくれるので、俺たちの仕事も減った。おかげで頻繁に昼にシュンランとミレイアを連れて狩りに行くことができている。
夜はここ二週間、敷地の拡張で夜は忙しかったけどね。でもそれも今日で終わりだ。
「しかし何度見ても凄まじいギフトだな」
「王国や帝国で一番の大地のギフトの使い手でも、こんなに大きくて厚い壁を一瞬で作ることなんてできないと思います」
「俺のは大地のギフトじゃないからね。それにレベルアップして精神力も上がったのも大きい。それはミレイアも実感しているだろ? 」
この二週間でシュンランは推定レベル8に。ミレイアは5になった。
俺は最初は毎日レベルアップしていたが、彼女たちのレベルアップの速度はそこまでじゃない。恐らく経験値が人数割りされているんだと思う。たぶん。
「はい。雷撃を連続で発動しても以前より疲れなくなりました。それに胸の中心がなんだか熱いといいますか、何か変なんです」
「そういえば私も胸の中心に違和感を感じるな。これはなんなのだろうな」
「胸の中心が? それはちょっとわからないけど、レベルアップの影響で精神力が高くなったのは間違いない。ミレイアはこれからもっと強力な雷撃を放てると思うよ」
胸の中心が熱くなったりとかしたっけかな? レベルアップによる肉体改造の影響かな? 二人は魔族の血が入ってるから、俺と症状が違うことがあっても不思議じゃないしな。
「今以上に強力な雷撃を私が……」
「撃てるさ。魔物を倒せば倒すほどにね。さて、シュンランありがとう。精神力が少し回復したよ。帰って三人でお風呂に入ろう」
俺はシュンランの膝から起き上がり二人にそう言った。
膝枕もいいけど、お風呂で二人にマッサージしてもらった方が俺の精神力の回復は早い。
「もういいのか? なら戻るとするか」
俺が立ち上がるとシュンランとミレイアも立ち上がった。そして月明かりに照らされた別館の前を通りながら、三人で家のある神殿へと向かった。
「なんだかんだ言って増えたなぁ」
俺は4棟に増えた別館と、その奥にある2棟の貸し倉庫に宴会用の建物。そして向かいにある解体所や従業員宿舎を見回しながらそう呟いた。
最初は神殿の地下の30部屋だけだったのにな。
「フフフ、涼介が頑張った成果だ。ハンターたちも皆喜んでいるぞ」
「そうか……まああれだけ喜んでくれたら悪い気はしないかな。でもいざという時はここを手放さないといけないんだよな」
せっかく苦労して作ったのにな。でも国に狙われたら逃げるしかないもんな。そうなったらまたこの壁を作らないといけないのか……めんどくさいなぁ。
「なにを言っているのだ涼介? 何があろうと私はここを手放す気などないぞ? 」
「そうですよ涼介さん。ここは私たちの思い出がいっぱい詰まった場所です。手放すなんてあり得ません」
「え? でも教会や人族の国に狙われて軍を派遣されるかもしれないんだぞ? 」
俺は思ってもみなかった二人の反応に少し驚きつつも、さすがに国を相手にするわけにはいかないだろと反論した。
「それがなんだというのだ? 私たちの家を奪おうとするなら、たとえそれが一国の軍であろうと蹴散らすだけだ」
「シュンランさんの言うとおりです。どんなことがあっても私たちのお家は渡したりしません」
「蹴散らすって……」
気持ちは嬉しいが、いくらなんでも国とことを構えるわけにはいかないだろ。
俺がそんな風に考えていると隣を歩いていた二人が突然立ち止まり、こちらに身体を向け口を開いた。
「涼介。確かに以前は逃げるしかないと思っていた。しかし足が治り、レベルアップすれば強くなるということを知った今は違う。戦うさ。涼介が私たちのために作ってくれたこのマンションと、三人の家を守るためにな」
「私もたくさんレベルアップして戦妃様のように強くなります! そして涼介さんが私たちのために作ってくれたお家を守ります! 」
「シュンラン……ミレイア……」
俺は二人の真っ直ぐな瞳と凛とした姿を前に、何も言葉が思い浮かばなかった。
ああ……この二人はあの時の二人だ。兇賊との戦いの最中に助けに来てくれたあの時の。俺が一目惚れしたあの時の二人の姿だ。
「涼介。君はここを……私たちとの思い出が詰まったこのマンションを他人に奪われてもいいのか? 」
「いや……俺たちの家を奪おうとするなら、それが誰であろうと戦うさ」
惚れた女がここまで覚悟してるんだ。逃げようなんて言えるわけがない。
まったく、この世界の女性は本当に
「フフッ、そうか。さすが私が惚れた男だ。確か強い魔物を狩ればレベルアップしやすくなると言っていたな? ならば明日からはCランクの狩場に行くぞ」
「ああ、わかった。明日からCランクの魔物を狩りに行こう。そしてみんなで強くなってここを守ろう」
俺がそう答えると二人は嬉しそうにうなずいた。
俺はそんな二人の腰を抱き、再び歩き出すのだった。
ここをどうやって要塞化するかを考えながら……
——シャオロン魔王国東部 デーモン族領内 ダークエルフの里 クロース ——
「兄上……どうして兄上がこんな目に……」
私は痛みが引き眠りについた、両腕の無い兄上を見つめながらそう呟いた。
そんな悲しみに暮れる私の耳に、家の戸がガタガタと開く音が聞こえてきた。
「クロース、出発する」
「マゴルか。シュンランとミレイアを頼む」
私は部屋に現れたパーティ仲間のマゴルを見上げながら、シュンランとミレイアの事を頼んだ。
二人とも私たちを待っているだろうからな。
「気にするな。約束は守らなくてはならない」
「助かる。マゴル、三人だけなのだから無理をするなよ? 」
「無理をしなければあの税は払えぬだろう。大丈夫だ、リョウスケ殿のところでなら無理がきく」
「そうか……そうだな」
確かにあそこであれば多少無理をしても大丈夫だろう。
「うむ。ではな」
マゴルはそう言って静かに部屋を出て行った。
奥でまた戸がガタガタと大きな音を立てるが仕方ない。この家はボロボロだからな。
「リョウスケか……」
いいおと……部屋だったな。
もう二度とあの場所に行くことはないのだろうな……
寂しいが仕方ない。私にとって兄上はたった一人の家族なのだから。
さようならリョウスケ、シュンラン、ミレイア。
私は横で眠る兄上の髪を指でとかしながら、心の中でリョウスケたちへ別れを告げたのだった。
—— 滅びの森 アルメラ王国 宮廷魔術師 リーゼロット ——
「リーゼロット! 南に行くわよ! 」
「はあ!? サーシャ、なによいきなり。ここから南って水場がないうえに飛竜の狩り場で有名なエリアよ? いつも迂回してるとこじゃない」
野営地で昼食の片付けをしていると、どこかに行っていた王女が突然南に行くと言い出した。
またこの子は……南になんて行ってどうするっていうのよ。
「それがあるのよ! さっき偵察に出ていたルーミルが、ハンターたちがここから南の森の中に豪華な宿屋があるって話しているのを小耳に挟んだらしいの。豪華ってのは森の中にしてはって意味だろうけど、滅びの森の中に宿屋があるのよ? どんなのか見てみたいじゃない」
「ハァ……森の中に宿屋なんてあるわけないじゃない。ルーミル? 本当なの? 」
私はまたサーシャの早とちりか何かだと思い、後ろで立っている同胞のエルフの男性に確認した。
「それが本当なのだ。私も最初は疑った。だから先ほどシルフに南に確認しに行ってもらったところ、本当に多くのハンターが出入りしている宿屋らしきものがあったそうだ」
「シルフが? じゃあ本当にこんな森の中に宿屋が……」
信じられない……でもシルフがあるというのなら、本当にそれらしき物があるってことよね。
ハンターたちが共同で建てたのかしら? でも水場のない場所に大勢が寝泊まりできるほどの建物を建ててどうするのかしら……
「ほら言ったでしょ? さあすぐに出発よ! 暖かいベッドが私を待っているわ! 」
「あ、ちょっとサーシャ! もうっ! ルーミル! ここを片付けたあと騎士たちを連れて南に向かってちょうだい! 私はサーシャを追うわ! 」
「ああ、わかった」
もうっ! 20になるのにあの子はいつまでも子供なんだから!
私は側仕えの数人の騎士を連れ、南に走り出したサーシャの後ろ姿をため息を吐きながら追うのだった。
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