第35話  好きの理由



「二人とも、もう大丈夫か? 」


 痛みが引いたのか、ベッドから起き上がった二人にそう声を掛けた。


「ああ、前回よりは幾分か楽だったからな。それにしてもミレイアまで同じようになるとは思わなかったな」


「私もびっくりしました。あんなに痛いことも、その痛みが今は嘘のように引いていることも……」


「やはりミレイアも……しかし最初は筋肉痛や成長痛のような物だと思っていたが、こう何度も繰り返されると不安になってくるな。私たちの身体にいったい何が起こっているのだろうか……」


「二人とも聞いて欲しい。実は俺はその痛みの原因を知っているんだ」


 俺は自分の身体に何が起こっているのか不安がる二人に、レベルアップのことを打ち明けることにした。


 鍛錬などしないで容易く強くなったことを、俺の強さに惚れたといっていたシュンランに打ち明けるのは怖い。しかしこのままレベルアップをし続ければいずれ二人とも気付く。それなら、どうせ気付かれるなら早い方がいい。


「それは本当か? 」


「原因はなんなのでしょう? 」


「その前に二人をここに連れてきて間もない頃、俺がレベルアップという言葉をよく口にしていた事を覚えているか? 」


「ああ、そういえば『れべるあっぷ』して強くなったとかなんとか言っていたな」


「確か魔物を倒して強くなった気がすることを『れべるあっぷ』と言っていましたね」


「そう、レベルアップとは、魔物を倒すことによって身体能力やその他の能力が上がることを言うんだ。比喩とかじゃない。あの時俺は魔物を倒したことにより、実感できるほどに身体能力が上がっていたんだ。もちろん二人が経験した激痛と同じものが俺の身体を何度も襲ったよ。これまで40回ほどね」


「なっ!? 」


「え? うそ……」


「本当だ。俺は二人と出会う数ヶ月前までは、神器を持っていてもゴブリン相手にですら死闘を繰り広げていた。それがこの魔物を倒せば倒すほど強くなる体質のおかげで、オーガの群れやバガンですら倒せるようになったんだ」


 俺は目を見開き驚く二人に真剣な表情でそう説明した。


「涼介がゴブリンと死闘を? それが魔物を倒し続けたことにより、れべるあっぷして数ヶ月で飛竜ですら瞬殺できるようになった? 確かに槍の扱いをまるで知らなかったことはおかしいとは思っていたが……」


「槍なんて初めて持ったからな」


 当時はバットの方が扱い方をよく知っていたくらいだ。


「なんという……いや、涼介がそう言うのだ。本当のことなのだろう。しかしなぜ今それを私たちに話し……ハッ!? 先ほど私たちと同じように涼介の身にも激痛が走ったと言ったな? そして強くなったと……まさか私たちもその『れべるあっぷ』を? 」


「えええっ!? 」


「そうだ。二人は俺と同じようにレベルアップして強くなった。その証拠が先ほどの激痛であり、ここ最近急激に上がったシュンランの身体能力だ」


「!? た、確かに身体能力は急激に上がった……しかしその原因がまさか『れべるあっぷ』をしていたからだったなどとは……」


 シュンランは自分の手足を見て、信じられないと言った表情でそう呟いた。


 信じられないというか受け入れきれないといった所だろう。幼い頃から厳しい鍛錬をしてくきたというのに、魔物を倒すだけで簡単に身体能力が上がるんだからな。そう簡単に理解して受け入れられないだろう。


「つまりさっきの激痛が『れべるあっぷ』をした証ということなのですね。涼介さんがそういうなら、きっとそうなのでしょう。ですが『れべるあっぷ』は涼介さんが女神様から与えられたギフトなのですよね? それがなぜ私たちにも? 特に新しくギフトを得た感覚はないのですが……」


 ミレイアはレベルアップしたことを受け入れた上で、なぜ自分にもその能力があるのか聞いてきた。初めてのレベルアップなので実感が湧いていない分、シュンランよりは受け入れるのが早いようだ。


 しかしシュンランとミレイアがレベルアップした理由か……さすがにえっちしたからとは言い難いな。


 ったくフローディアめ、こんなエロゲーみたいな設定にしやがって。レベルの概念のないこの世界に、レベルアップをする人間を必要以上に増やしたくないというのはわかるが、なんでえっちをしたらなんだよ。


 もうちょっとこう、お互い愛し合っていたらとか……は難しいか。そんなの地球でゲームしてるあの女神にはわかりようもないしな。それなら愛し合う二人がする行為をトリガーに設定した方が確実か。


 でももし俺が誰彼構わず襲うような男だったらどうするつもりなんだ? もしかして人数制限がある? 勇者ロン・ウーの妻たちのように三人までとか? 


 今考えても仕方ないな。そもそもシュンランとミレイア以外に恋人を作るつもりなんてサラサラないし。


 とりあえず二人には少し遠回しに説明するか。


「それはきっと俺と二人が親密な……体の関係となったことで、女神が二人を俺の伴侶だと思ったんだろう。だから俺と同じ能力を与えられたんだと思う」


「は、伴侶!? 私が涼介のつがいとして女神に……」


「あう……私が涼介さんの伴侶と女神様が認めて……」


 あれ? なんかプロポーズしてるような雰囲気になってる?


「め、女神がそう認識したって意味だからな? ただ、勇者ロン・ウーも俺と同じ能力を持っていたのは間違いないと思っている。そしてその妻たち。一騎当千の戦妃と呼ばれた彼女たちも、レベルアップの能力を得ていたと思うんだ」


 俺は顔を真っ赤にしてモジモジしだしたシュンランとミレイアに、二人がレベルアップの能力を得た根拠として勇者の妻たちの例を挙げた。


「竜戦妃も……幼い頃に父上に竜戦妃が、魔王の四天王の一人が率いる軍を四天王もろともたった一人で壊滅した物語を読み聞かされたことがある。物心ついた時にはあれは作り話だと思っていたが、涼介は『れべるあっぷ』をして強くなった竜戦妃ならそれが可能だと? 」


「ああ可能だと思う。シュンラン……今の調子でレベルアップをあと四十回ほどした自分を想像してみてくれ。種族としての素の身体能力が俺より圧倒的に高いシュンランが、俺と同じ回数のレベルアップをしたとしたら、竜戦妃と同じことができると思わないか? 」


「これをあと四十回も……もしもそれだけの回数の『れべるあっぷ』をしたなら、きっと竜戦妃と同じことができるかもしれないな……それだけの力があれば滅びの森の奥地に潜む竜も……私が竜を……父上と母上がなし得なかった竜討伐を……フッ……フフフ……」


「私が涼介さんのお妃様に……」


「シュ、シュンランにミレイア? 」


 俺は口元を歪め下を向いて笑い出したシュンランと、伴侶の話をしてからベッドの上でずっとモジモジしっぱなしのミレイアに少し引いていた。


「と、とりあえず二人の身体が痛くなったことと、身体能力が上がったのはレベルアップしたからということは間違いない。つまりまあ……俺の強さは鍛錬して手に入れたものではなく、神器という強力な武器と、レベルアップするという特殊な能力のおかげなんだ。それと実はギフトも間取り図と大地のギフトに似た物の他に、もう一つ持っているんだ。それは火災保険と言って地水火風と雷を無効化するギフトだ。これのおかげで飛竜の火球や、ミレイアの雷撃を無効化することができたんだ」


「地水火風に雷まで無効化できるギフトだと!? 飛竜のブレスを受けても平然としていたから何かあるとは思っていたが……まさかそのようなギフトがあったとは……」


「あ……だから私の雷撃を受けても……」


「ああ、雷を無効化するギフトは最近手に入れたんだけどな。幻滅したかもしれないが、これが俺の強さの全てなんだ。俺はシュンランのように鍛錬して強くなったわけじゃないんだよ」


 ふぅ……やっと打ち明けることができた。


 二人に強いと言われてどこか後ろめたい気持ちがずっとあった。それを打ち明けることができてスッキリした。


 でもやっぱ幻滅されるよな。


「馬鹿者。何を言っているのだ? 幻滅などするはずがないだろう。確かに君の圧倒的な強さに胸が熱くはなったが、涼介を好きになった理由は強いからではないぞ? 」


「そうです! 涼介さんは両足を失って死のうとしていた私たちを勇気づけ、足をいつか治してくれると約束してくれて希望を与えてくれました。あの時どれほど嬉しかったか」


「ああ、私も嬉しかった。そして君は私たちがその希望を持ち続けられるよう、私たちが生活しやすいように移動できる椅子や手すりを家中に取り付けてくれた。そのうえ私たちの足を治すために、リスクを承知でマンション経営を行うことを決断してくれた」


「こんなマンションを人族の国に知られたら危険なのに私たちのために……それだけじゃありません。私たちが負い目を感じないように、仕事も与えてくれました」


「そして君は約束を守り、私たちの足を治してくれた。涼介。私たちが惚れたのは君の強さじゃない。その誠実さと優しさなのだ。勘違いしてもらっては困る」


「涼介さんが弱くても私たちは好きになってました。それだけは自信を持って言えます」


「そうか……ありがとう」


 俺は二人の言葉に恥ずかしくなり、下を向きながらこんな俺を好きになってくれてありがとうという気持ちを込めてそう答えた。


「フフフ、涼介、照れているのか? 」


「うふふっ……涼介さん顔が真っ赤です。かわいいです」


「あ、いや……ははは、まあ好きな子に幻滅されて、もしも気持ちが冷められたりしたらって不安だったからさ。そうならなくて安心したし嬉しかったんだ」


 俺をからかう二人に、頭を掻きながら正直な気持ちを伝えた。


「馬鹿者。涼介への気持ちが冷めることなどあるはずがないだろう」


「そうです! 私が涼介さんを好きで無くなることなんてあり得ません! 」


「あ、ごめん……」


「まったくそんなことを心配していたとは……フフッ、そうだミレイア? どうやら私たちの気持ちが涼介には伝わっていないようだ。これは身をもって涼介に伝える必要があると思うのだが? 」


 黒いワンピースタイプの夜着に手を掛けながら、シュンランはミレイアにそう問いかけた。


「はい。私もそう思います。朝まで時間はたっぷりありますし……」


 ミレイアはシュンランにそう答えながら白い夜着に手を掛けた。


「え? あ、ちょっと! ふ、二人同時はまだちょっと……ひ、一人づつで! 」


 俺はベッドの上でまるで猫のように四つん這いになって近づいてくる二人へ、両腕を突き出し一人づつしようと提案した。


 竜鞘とミミズ千匹を同時になんてまだ無理だ! 二人が満足するまでの間に俺が干からびる! せめてミレイアに慣れてからじゃないと! 


「フフフ、いつもは私がもう無理だと言っても求めてくじゃないか。涼介は底なしだから大丈夫だ」


「まだ上手にできませんが、涼介さんに気持ちが伝わるまで頑張ります! 」


「いやいやいや! 底はあるよっ!? 無限じゃないよ!? だから……うぷっ! 」


 そんな俺の抵抗は却下され、夜着を脱ぎ捨てたシュンランのおっぱいに口を塞がれ、その間にミレイアにパンツを脱がされた。


 そして俺は日に日に積極的になっていくシュンランと、覚えたてで歯止めの効かないミレイアに朝方近くまで搾り取られるのだった。

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