第31話 激痛
「もういいぞクロエちゃん。俺たちは後ろを向いているから、眼帯を取って目を開けてごらん」
「うん…………!? あ……見え……る……目が……うっ……うえっ……うえぇぇぇぇん! 」
「おっと! ヨシヨシ、辛かったよな。今までよく頑張ったな。もう大丈夫だから」
俺は背中に抱きついて大声で泣き出したクロエを受け止め、彼女の金色の髪を撫でながらそう言った。
「ぐすっ……よかったなクロエ」
「クロエ……」
そんな俺たちの姿を見て、カルラとサラも涙ぐんでいる。
カルラとサラの傷を治した俺は、二人が落ち着くのを待ってから隣のクロエの部屋にやってきていた。
部屋は狭いので、シュンランとミレイアには家に戻ってもらった。その代わりカルラたちに同行してもらい、クロエと同室の子に俺のことを説明してもらった。
最初カルラの顔を見て目を見開いたクロエだが、俺のことを聞いて口まで開けて驚いていた。普段ほとんど表情を変えないクロエのそんな姿を見れたのは貴重だった。
その時にカルラだけじゃなくて、ダリアの腕も治してあることを伝えた。そしたら今度は泣き出して、落ち着かせるのが大変だった。
それから落ち着いたクロエと同室の子に、原状回復のギフトを発動した。
クロエは兇賊に囚われている時に、酷い折檻を受けて失明したという左目が光っており、同室の子はエレナと同じように身体に大きな傷はなく、股間の部分だけ光っていた。
兇賊に囚われていたクロエが処女だったのは意外だったが、よくよく考えてみれば彼女が兇賊の所から助けられた2年前はまだ14歳だ。
子供なうえにかなり痩せ細っていたようだし、兇賊の男たちには相手にされなかったんだろう。兇賊にロリコンがいなかったことは不幸中の幸いだったと思う。
「ひっく……りょう……すけ……ありが……ありがとう」
胸の中で泣いていたクロエは、真っ赤になった両目で俺の顔を見上げながら礼を言った。
「どういたしまして」
そんなクロエに俺は笑顔でそう答えた。
身体の傷が治ったことで、心の傷が少しでも癒せればいいなと願いながら。
心に深い傷を負っている女性が棘の戦女にはたくさんいる。
彼女たちがどんな目に遭ってきたかは知らない。男の俺にそんなこと知られたくないだろうから聞いたことはない。ただ、相当酷い目にあってきた事は、彼女たちの男のハンターへの態度でわかる。
そんな彼女たちの身体の傷がいくら治っても、そう簡単には心の傷は治らないだろう。
だけど男の俺が彼女たちの過去の傷を治療したことで、全ての男が彼女たちを傷つけようとしているわけじゃない事は伝わったと思う。
これを機に彼女たちの男を見る目が少しは和らぎ、いつか素敵な男性と出会って幸せになって欲しいと願っている。
俺はそんな事を考えながら、再び胸に顔を埋めるクロエの髪を撫でていた。
それから数分ほどそうしたあと、俺は抱きついたまま離れないクロエを抱き抱えながらカルラの案内で次の部屋へと向かった。
どの子を先に治すかは、カルラとサラに決めてもらうので俺は着いていくだけだ。
一応目に見える傷がある子はあと二人ほど今日は治すと伝えてある。あと大部屋の子は次回にしてもらえるようにも。
大部屋はほかのハンターがいるからな。次回までにそこは調整するつもりだ。
そして次の部屋に着き、カルラの顔と眼帯をしていないクロエの顔を見て声にならない声をあげて驚いている子たちにカルラが俺のことを説明した。
俺は話を聞いて跪こうとする二人を押し留め、魔物に食われ手のひらの半分しかない子と、耳と頬の一部が無い二人を治療した。
その後は外から見えない傷を持つ子がいる部屋へ行き、同じように治療を行なった。
ここまで原状回復の対象外だった子はいない。同じ部屋に長期滞在していれば対象になるのはもう確定だろう。
正確な日数は検証しないとわからない。けど一昨日折れたナイフを複数部屋に置いたから、それが設備として認識されればわかるようになる。
ひと通り治療を終えた俺は、他の子たちは次回治すからとカルラに伝えた。
そして泣きながらお礼を言ってくる治療を受けた子たちに、気にしなくていいよと言って家へと戻った。
家に帰ったらシュンランたちがまだ起きていて、クロエもほかの子たちも治療できたと伝えた。二人ともホッとしていたよ。
そして翌日の早朝。
俺とシュンランとミレイアはいつもよりかなり早く起きた。
そして朝食を食べる前に着替え、三人で外に出た。
外は遠くの空が薄っすらと明るくなってきたところで、まだ夜が明けきっていない。
そんなまだ暗いマンションのエントランスには、管理人室の玄関灯に照らされた女性の集団がいた。
今日退出するカルラたち棘の戦女だ。
彼女たちはダリアとエレナと談笑している様子で、エントランスの外には既に貸し倉庫から出した魔物の素材を載せた荷車もあった。
こんな早い時間に彼女たちがマンションを退出するのは、ほかの入居者の目につかないようにするためだ。
俺がそんなカルラたちのもとに行くと、彼女たちは笑顔で迎えてくれた。
そして傷が治った者もそうでない者も、全員が俺とシュンランとミレイアへお礼を言い始めた。
俺たちはそんな彼女たちに本当に気にしなくていいと伝え、時間が無いからまた10日後になと言って壁の門を開いて橋を下ろした。
そして満面の笑みで手を振りながらダリアと一緒に南街へと帰る彼女たちに、俺たちは同じように手を振って見送った。
みんないい笑顔だったな……秘密を打ち明けてまで治療をして良かった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「涼介! 私は右のオークをやる! ハアァァァ! 」
「わかった! ミレイア! シュンランの援護を! こっちは余裕だから! 」
俺は言うや否や右からやってくる3体のオークに向かって走り出したシュンランへ、隣にいたミレイアを援護に行かせた。そして左からくる2体のオークへとペンニグルを構えた。
「はいっ! 『雷撃』! 」
ミレイアは身低くしてシュンランの後に続き、そしてシュンランを囲もうとするオークへと牽制の雷撃を放った。
「ハアッ! 」
雷撃が足元に着弾したことで動きを止めたオークの懐へとシュンランは一瞬で入り込み、交差させていた双剣を一気に外側に振るって2体のオークの腹部を切り裂いた。
ブギャッ……
「残りは私が! 『雷撃』! 」
横で仲間のオークの腹が切り裂かれ、贓物が飛び出すのを見て固まっていた残りのオークへミレイアがすかさず雷撃を放った。
《ブギッ……》
雷撃をモロに受けたオークは体を痙攣させ、口から煙を出しながら前のめりに倒れていった。
「お疲れさん。もう戦闘は問題なさそうじゃないか? 」
俺は左から来た2体のオークの頭部をペンニグルで刺し貫いたあと、二人にそう声を掛けた。
カルラたちが街に戻ってから二日後の昼。
俺とシュンランとミレイアは、マンションの近くのDランク魔物の狩場へとやってきていた。
マンションはエレナが受付をして、入居者の中からバイトで雇ったDランクの2パーティが新規客の案内兼マンションの守衛をしている。もちろん常連で女性の多いパーティにお願いした。かなり高額なバイト料を提示したから、大喜びで引き受けてくれたよ。
20人以上の守衛がいれば、何かあっても俺が戻るまで大丈夫だろう。マンションから2時間以内の場所にいるし、色付きの狼煙も用意してあるしな。
本当はレフたちが戻ってきてから、シュンランとは森に狩りに行く予定だった。でもシュンランがもう動けるから大丈夫だって凄いんだ。そんな彼女の押しに負けて森に狩りに行くことになった。
最初はマンションのすぐ近くのEランクの魔物がいる場所で狩ってたんだけど、シュンランが物足りないと言ってどんどん奥に進んでさ。気が付けばオークが出てくるところまでやってきたというわけだ。
既にゴブリンを6と緑狼を5にオークを5体狩っている。
初日だしもうこのくらいでいいだろう。
俺はそんな気持ちを込めて、戦闘はもう問題なさそうじゃないかと声を掛けたんだが……
「ああ、まだ踏み込みが甘いが足はかなり動くようになった。次は灰狼で試したいな」
シュンランは双剣についたオークの血を振るいながら振り返り、楽しそうな笑みを浮かべながらそう答えた。
「そ、そう……ミレイアはどうだ? 」
「私も足場が悪いとまだちょっと狙いが甘くなりますね。灰狼で試すのはちょうどいいかもしれません」
ミレイアも足元を何度も踏みながらシュンランに賛同した。
「そうか……じゃあ少し休んでから行こう」
俺はまだ狩りを続ける気の二人に押され、せめて少し休んでから灰狼を探そうと提案した。
「いや、今の感覚を忘れる前に戦いたい」
「私もさっきの感覚を忘れる前にもっと速い動きの灰狼と戦いたいです」
「そうですか……じゃあ西に……」
しかし久しぶりの狩りでやる気満々の二人には俺の提案は却下された。
そんな二人に対して俺はガックシという感じで首からぶら下げている魔物探知機に視線を移し、灰狼の反応がある方向を指差した。
「西か。涼介、ミレイア、逃げられる前に行くぞ」
「はいっ! 」
「あっ、二人とも走るなって! 転んだら危ないって! 」
元気よく走り出した二人にそう叫びながら追い掛けた。
まったく、二人ともしょうがないなぁ。
まだ初日だしじゃなくて、初日だからなんだろうな。ずっとハンターたちが狩りをして戻ってくる姿を見ていたんだ。やっと狩りができるようになって、そして前みたいに身体が動くようになって楽しいんだろう。
今日くらいは気の済むまで付き合うかな。
そんなことを考えながら、結局夜まで二人と狩りをしたのだった。
そしてその日の夜。
充実した一日を過ごしてご機嫌な二人と一緒に夕食をとったあと、いつものように三人でお風呂に入って疲れを癒した。
そしてリビングで少し話したあと、流石に久しぶりの狩りで疲れたのか二人は早々に部屋に戻っていった。その時にシュンランのアイコンタクトを受けた俺は、少ししてから彼女の部屋に向かった。
部屋に入るとシュンランがベッドで待っていて、俺は部屋着を脱いで彼女のベッドの中に入った。そして長いキスをしながらシュンランの肌着を脱がせ、四つん這いになってお尻を向けた彼女の両角を握りながら後ろから激しく求めた。
久しぶりの狩りで気持ちが高揚していたのか、いつもよりシュンランの声は大きかった。彼女の中に注ぎ込んだあとも俺のぺニグルの上にしゃがみ、自ら腰を上下に振ってとかなり積極的だった。
俺はそんなシュンランの姿に興奮して彼女が満足するまで何度も愛し、力尽きるように二人で裸で抱き合いながら眠りについた。
しかしそれからしばらくして、突然隣からシュンランのうめき声が聞こえ目が覚めた。
「うくっ……ぐっ……」
「ど、どうしたシュンラン! どこか痛いのか!? 」
俺はベッドから飛び起き、灯りをつけてシュンランを確認した。
シュンランは眉をしかめ必死に痛みを堪えている様子で、身体はまるで金縛りにあったように硬直していた。
「りょう……すけ……突然……身体中に……激痛が……クッ……久しぶりに……戦闘をした……から……筋肉痛だとは……思う……痛いのは……関節や筋肉がある……ところだしな……」
「これが筋肉痛だって? 」
筋肉痛でここまで痛むものなのか?
しかも寝ている時に突然激痛が走るとか絶対違うだろ。成長痛じゃあるまいし、普通は起きた時に身体が痛くなるもんなんじゃないのか?
ん? 寝ている時に激痛……身体が硬直……痛いのは関節と筋肉……あれ? これって……
俺はシュンランから聞いた症状が、経験したことのある症状と酷似していることに気づいた。
似ている……俺がレベルアップした時の症状と……
最近は高レベルになって身体が出来上がったからか、そこまで激痛というほどの痛みを感じなくなった。でも初めてレベルアップした時はものすごい激痛で、身体も硬直して動かなかった。
まさにあの時の俺の姿を外から見たら、目の前のシュンランのような状態だっただろう。
いやいやいや! 待て待て! シュンランはこの世界の人間だ。レベルアップなんてするわけない。
そんなこと……そんなことあるわけが……
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