第19話 招かれざる客 後編



「オイオイオイ! まさかこんな所で会えるとはな! あのあと人族の狩場に行って探したんだぜ? 残りの角とお前の身体を求めてよぅ? 」


 残りの角!? 間違いない! シュンランの角を折ったのはこの男だ! 


 この男がシュンランの角を……この男が彼女の誇りを……


 俺は拳を堅く握りしめ、恋人を傷つけたこの男を睨みつけた。


「お? なんだお前? さっきまで涼しい顔していたのに急に睨みつけてきやがって……ああ、そういうことか。ククク……お前シュンランとデキてんのか。こりゃあいい」


 バガンは俺が睨みつけていることに気付き、ニヤリと笑い続けて口を開いた。


「お前に教えてやるよ。あの女はよ、3年前だったか? 西街のギルドで成り損ないの半竜のクセに一丁前に仲間を募集してたんだよ。聞きゃあ父親が有名なハンターでよ? だが人族の女なんかにうつつを抜かして、もう少しでSランクになれるって時に竜にぶっ殺されたから大笑いしてやったのよ。そしたらキレてオレに決闘を申し込んできたわけだ。当然瞬殺してやって二度と竜人を名乗れないように角を折ってやってよ。だがもう1本折る前にギルドに止められてな? それが心残りでずっと探してたんだが、まさかこんなところにいるとはな」


「貴様! また父上を侮辱したな! 」


 シュンランはバガンの言葉に普段冷静な彼女からは想像もできないほど怒り、ナイフを手に机に乗り上げた。


「シュンランさん! 」


「お、おいシュンラン! 」


 しかしシュンランはバランスを崩し、そのまま机の上で転倒した。そんなシュンランをミレイアとカルラたちが慌てて支えていた。


 俺も目の前でニヤついているバガンを睨みつけ、彼女の元へと駆け寄った。


 あの野郎……シュンランを使ってさっきの仕返しをしてきやがった。


「ぶはっ! なんだ!? 足がねえのか!? こりゃあいい! 強くなって竜人族として認めさせるとか言っていたが、戦えない身体になって男に飼われてんのか! 父親といい、締まらねえ終わり方じゃね……」


『千本槍! 』


 俺はバガンが言い終わる前に、その足もとに石槍を発生させた。


「ぬおっ! 危ねえ! 」


 しかしバガンは即座にバックステップをし、手に持っていた方天戟を振り石槍を砕いた。


「りょ、涼介!? 」


「涼介さん! 」


「あちゃ〜挑発に乗っちまったか……まあリョウスケならそうするよな」


 俺の取った行動にシュンランとミレイアが驚き、カルラは額に手を当て首を振っていた。


 わかってる。宿泊を断った俺を突き刺そうとしたのに、将軍とかいう男に止められた事が悔しくてバガンが俺を挑発していたことくらい。


 普段なら挑発されてもすまし顔で流すんだが、これ以上このクズがシュンランを傷つるのを黙って見ている訳にはいかない。


「なかなかの発動の速さじゃねえか。ちょっと焦ったぜ。しかしククク、お前手を出したな? 」


 バガンは歯を剥き出しにし、そう言って楽しそうに笑った。


「こうして欲しかったんだろ? いいぜ、お前の挑発に乗ってやる。決闘だ。竜人族は決闘を申し込まれたら断れないんだろ? だったら俺と決闘をしろ」


「なっ!? 待て涼介! これは私の問題だ! 私がこの手でこの男を! 」


「恋人を侮辱されたんだ。たったいま俺の問題にもなった。殺しはしない。シュンランの分は残しておくから」


 獲物を横取りするようなことをして悪いな。でもこれ以上シュンランを傷付けようとする奴を黙って見てられないんだ。


 それにシュンランがここにいることが知られてしまっ以上、足が治る前にコイツが将軍と呼ばれる男の目を盗んでまたやって来る可能性は高い。


 そうなった時に俺が確実にシュンランを守れる保証はない。俺が地下や別館にいて離れている時に、シュンランが拐われるかもしれない。空を飛ばれたら追い掛けようがない。


 だったら……だったらここで潰してやる。


「涼介……」


「ギャハハハ! 聞いたかオイ! 殺しはしねえだってよ! オレと決闘して殺しはしねえ? コイツ笑わせてくれるぜ! 」


 バガンは俺とシュンランのやりとりを聞き、仲間とともに盛大に笑った。


 俺はそれを無視してシュンランを抱き抱え椅子に座らせ、壁に立てかけていたペンニグルを持ちバガンの前へと戻った。


「あ〜腹が痛え。まあいいや、決闘を申し込まれたとあっちゃあ断るわけにはいかねえよな。竜人族の誇りのためによぉ? なあ? 将軍さんよ? 」


「む……リョウスケとやら、竜人族の決闘は己の全てを賭ける物だ。それを知ったうえで言っておるのか? 王子は問題児ではあるが、幼い頃から私が二人の兄と共に鍛えた男で戦闘能力だけは高い。その王子に魔人と人族の子が挑むというのか? 」


「どれだけ強かろうが生まれが良かろうが、そんなのは関係ない。俺の大切な女性ひとを過去も今も傷付けた。俺はそれを許すことはできない。だから戦う。それだけだ」


 どんなに強かろうが俺の大切なものを傷つける奴は許さない。


 マンション経営を始める時に、いつかこういう日が来ることは覚悟していた。思っていたより早かったが、俺はあの日。二人のためにマンション経営をすると決めた時に、シュンランとミレイアを守るために高ランクのハンターが相手でも戦うと決めたんだ。


「そうか……ならば止めはしない」


「ククク、まさかこんなに上手くいくとはな。馬鹿な野郎だぜ。安心しろ、さんざん笑わせてくれたお前にはやってもらいたい事があるから殺しはしねえ。死ぬまでこき使ってやるからよ。さて、じゃあちょっくら始めるか。もうちっと広い所でやるぞ。俺のもんになる建物を壊しちまったらもったいねえからな」


 バガンはそう言って俺から背を向け、顎で敷地の中央まで来るよう促した。


 俺はそんな余裕溢れるバガンの後を黙ってついていった。




 そして敷地の北。いつも飛竜を叩き落としている場所で、俺とバガンは5メートルほどの距離を取って相対した。


 そんな俺たちをバガンのパーティの竜人と魔人が、東に50メートルほど離れた場所から眺めている。シュンランとミレイアもカルラたちに椅子を押され、バガンのパーティの反対側で見守っている。


 マンションの入口や別館の前でも、早朝にやってきたハンターやこれから狩りに行こうとしていたハンターたちが、俺とバガンの様子を遠巻きに眺めている。のが見える。


「ハンデだ。初手は譲ってやる。その辺な形の槍で好きなように攻撃してきていいぞ。最初で最後のチャンスだ、死ぬ気でかかっていよ? お前が負ければお前のもんは全部オレに奪われるんだからな。もちろん女もだ。ククク、お前も半竜の女が気持ちいいってのを知ってんだろ? オレもずっと味見したかったんだよ。今から楽しみだぜ」


「ゲスの見本みたいな男だなお前。お前なんかにシュンランを好きにさせるわけがねえだろうが! 『千本槍』! 」


 俺は槍を構えることなく、余裕の表情でいるバガンの前後左右へ千本槍を発動した。


「それはさっき見たばかりだぜ? 」


 しかしバガンは今度は方天戟で石槍を砕く事なく背中の翼をはためかせ、後方へと飛び地中から突き出される石槍から逃れた。


「『千本槍』! 」


 そんなバガンの着地地点へと再度千本槍を発動した。


「だから無駄だって言ってんだろ! お前の攻撃はこれだけか? 」


 バガンは着地場所から伸びる石槍に対し、再度翼をはためかせてさらに後方へと逃れた。


「近かったからな」


 俺はそう言ってペングニルを振りかぶり、バガンから身体一つ分横へズレた場所へと放った。


 放たれたペングニルは青白い光を放ちつつ、狙い通りバガンの横を通り過ぎていった。


「あん? なんだお前? 槍すらまともに投げれねえのか? 大地のギフトだけか」


「『千本槍』 『千本槍』! 」


 俺は呆れた顔をするバガンへと、すかさず千本槍を連続発動し注意を引いた。


「まさか本当にこれだけか? こんな程度でオレに大口を叩いたってのか? お前舐めすぎだろ! 」


 次々と襲いかかってくる千本槍をバガンはヒラヒラと避けながら次第に顔を赤く染めていき、5メートルほど浮かび上がったところで方天戟を構え飛びながら俺へと襲い掛かってきた。


「『スケールトルネード』! 」


 ガンッ!


「ぐあっ! な、なんだそりゃあ!? 」


 バガンが突然現れた俺のスケールにより、攻撃を弾かれたことに驚愕の表情を浮かべたその時。


 バガンの背後から俺の放ったペンニグルが背中へと襲い掛かった。


「!? なっ!? ぐっ……」


「チッ、外したか」


 俺はペングニルが背中に突き刺さる瞬間にとっさに身を捻り、脇腹をかすめるだけに留めたバガンを見て舌打ちをした。


 やっぱり身体能力から反応速度から他の種族とは段違いだ。こりゃちょっと時間が掛かりそうだな。


「な、なぜ槍が……さっき間違いなく横を……まさか帝国にあるという風の魔槍か!? 」


「どうだろうな」


 俺は脇腹を抑え驚愕の表情を浮かべているバガンにそう答えつつ、手元に戻ってきたペンニグルを構え瞬時に距離を詰め連続で突きを放った。


「クッ、速えぇ! が、これしき! 」


 しかし俺の攻撃をバガンは方天戟で受け止め、翼で大きく後方に逃れながら俺の放つ突きの全てを防いでいった。


「『千本槍』 『千本槍』 『スケールヴィップ』 」


 俺は後方に逃れるバガンを追撃し、千本槍とスケールの鞭を織り混ぜながら突きを連続して放っていった。


 俺は突きしか知らない。だがこの突く速度だけは、シュンランが竜人族の上位の戦士相手でも通用すると太鼓判を押してくれた。


「チッ、このっ! うぜえんだよテメェ! そこだっ! 」


 バガンはそんな俺の猛攻を防ぎつつ、俺と同じように方天戟で突きを放った。


 そのあまりの速い連撃にスケールトルネードを展開する余裕はなく、俺は小さく展開したスケールカーテンとペングニルで防御に追われることになった。


 しかし身体能力にモノを言わせて突いているだけの俺とバガンでは自力が違う。あらゆる方向から襲いかかって来るバガンの方天戟を、俺は防ぎきることはできなかった。


「もらった! 」


 その結果。スケールカーテンの横をすり抜けた方天戟の矛先が、俺の腹部へと襲い掛かった。


 が、その矛先は俺の腹を突き刺すことは叶わなかった。


 ガンッ!


「ぐっ、なっ、なんだ今のは!? 」


「なんだろうなっと! ハアッ! 」


 火災保険のバリアにより防がれ、一瞬動きが止まったバガンの肩胸へと俺はペングニルを突き刺出した。


「うぐっ! クソがあぁぁ! 」


 バガンは咄嗟に身を捻ることにより肩に突き刺さったペングニルによる痛みに顔を歪めながらも、追撃をしようとする俺に対し方天戟を大振りして牽制した。そしてそのまま上空へと逃れた。


 俺は逃げるバガンの足にアンドロメダスケールを巻きつけようとしたが、それも方天戟の一振りで弾かれた。


 浅かったし狙いもズレた。なによりも思った以上に硬かったな。


 初見殺しも外し、その後動揺しているバガンへの猛攻も防がれ、バリアでさらに不意打ちをしたにもかかわらず逃した。


 やっぱり千本槍を射出できないのがな。空を飛ばれると手詰まりになる。


 連続で同じ場所に出現させることで打ち出す練習はしているんだが、これがなかなかに難しくて習得できていない。やっぱ唯一の飛び道具であるペンニグルでしか仕留めることは難しそうだ。


 そう考えた俺は10メートルほど上空で肩を押さえているバガンへと、再びペングニルを投擲した。


「クッ、またその槍か! 」


 しかしバガンは今度は槍が通り過ぎるのを見送らず、方天戟で叩き落とした。


 俺はそれに構わずスケールトルネードを再び展開し、手元に戻ってきたペングニルを投擲した。


「なっ!? いつの間に手に!? なんなんだよその槍はよぉ! 」


 避けても叩き落としても次から次へと襲い掛かってくるペングニルに、バガンは防戦一方となった。何度か距離を詰めようとする仕草を見せたが、スケールトルネードを警戒しているのか踏み込んでは来なかった。


 その時バガンの仲間の様子がチラリと視界に映った。彼らは瞬殺すると思っていた相手に苦戦しているバガンに対し、信じられないというような表情を向けていた。しかしその中でただ一人。将軍と呼ばれた竜人だけは、俺を驚愕の表情で見ていた。


 まさか神器を知っているのか?


「調子に乗ってんじゃねえ! 『竜化』! 」


 俺が将軍の表情を気にしていると、ペングニルを叩き落としたバガンが突然叫び、さらに10メートルほど高度を上げたのちにその姿を変化させた。


「涼介! あれが竜化だ! 身体能力と防御力が上がり、前に教えた種族魔法を使えるようになる! 」


「あれが竜化か……」


 俺は横から聞こえてきたシュンランの言葉にそう呟きながら、変身したバガンの姿を注意深く見た。


 視線の先のバガンの顔と上半身は腹部以外は赤黒い鱗に包まれ、翼も身体もひと回りほど大きくなっていた。そして手の爪もまるで龍の爪のように太く鋭く伸びている。


 履いていたダボダボのズボンもパンパンになっていることから、恐らくあの下も鱗で包まれているんだろう。


 話には聞いていたが、本当に竜みたいになるんだな。飛竜の鱗よりも硬そうだ。それに飛竜のより強力なブレスを吐くんだったな。ただ、相当魔力を使うらしくてそう長い時間は維持できないんだったか。


「シャオロン《小龍》魔王国とはよく言ったものだな」


 俺はまさに小さな龍のような姿をしたバガンを見上げながらそう呟いた。


「ハァハァハァ……なんだテメェ、半魔のくせに魔王国の名前の由来を知ってんのか。そうだ、竜人族は遥か古代にこの世界を支配していた龍の末裔だ。滅びの森の奥地にいる竜じゃねえ。竜の中の最上位種である龍が人化したのが竜人族だ。この姿がその証拠だ」


「そうか。だがその割には奥地にいるSランクの竜を倒した者は数えるほどしかいないんだろう? その上のSSランクの竜なんて一人もいないそうじゃねえか。そんなお前らが本当にその最強の龍の末裔なのか? それに竜化って割には竜のような大きさにはならないんだな。実際はは人族の血が混ざってんじゃねえのか? その方が説得力があるように思えるんだがな」


 前にシュンランから聞いた時は、竜になるのかと思ってかっこいいとか思ったけど実は違うと聞いてちょっと残念だった。これじゃあ時間制限ありの仮○ライダーとかそんな感じか。いや、正義の味方じゃないから改造された怪人の方だな。


「なんだとテメェ! 竜人族に人族の血が入ってるだと!? 半魔の半端者如きが世界最強の竜人族を馬鹿にするんじゃねえ! ぶっ殺すぞ! 」


「なんだ、ずいぶんな怒りようだな? 図星を指されたからか? 思い当たる節があるってことか。そうか、お前も半魔だったんだな」


 俺はキレているバガンに半笑いでそう答えた。


「黙れクソ野郎! あ〜もう駄目だ。生かしておこうかと思ったが、誇り高き竜人族を侮辱したテメェは殺す! 肉片すら残らねえように消し炭にしてやる! 」


「他人を侮辱するのはいいが、自分が侮辱されるのにはブチ切れるのか。典型的な自己中のクズ野郎だなお前。というかお前が誇りを口にするんじゃねえよ。埃まみれのトカゲのなり損ないが」


「黙れって言ってんだろうが! 消し炭になりやがれ! 『火龍の咆哮』! 」


 俺の挑発にキレたバガンは大きく首を後ろへと引き、そしてその口から炎を吐き出した。


 その炎はバガンの口から離れれば離れていくほどに大きくなり、まさに龍のブレスと呼べるものだった。


「待っていたぜこの瞬間を! 」


 俺は飛竜の火球より速い速度で迫り来るブレスをものともせず、ペングニルを大きく振りかぶった。


 俺が逃げようともせずペングニルを振りかぶったことで、炎のの先にあるバガンの顔が大きく歪んだ。俺を馬鹿だとでも思っているんだろう。


 周囲からは俺を馬鹿にした竜人と魔人たちの笑い声が聞こえてくる。


 後方のマンションから見物していたハンターたちからは、オーナーと叫ぶ声が聞こえる。


 その瞬間。


 ブレスが俺の身体へと到達し、俺とその周囲を激しく焼き払った。


 しかしその炎は俺の火災保険により防がれ、俺は炎に包まれながらペンニグルをバガンへ向け全力で放った。


 俺が放ったペングニルは降り注ぐブレスの中央を切り裂きながら、バガンの胸へと真っ直ぐ向かっていった。


「ば、馬鹿な! クッ! 」


 バガンは迫り来るペンニグルの存在に気付きブレスを吐くのを即座にやめ、ペンニグルを叩き落とすべく方天戟を頭上から振り下ろした。


 だが方天戟がペングニルに触れるか触れないかという瞬間。俺はずっと隠していた最後の初見殺しを発動した。


「『ダブル』! 」


「なっ!? ぐあっ! 」


 突然二本に増えたペンニグルにバガンは反応できなかった。それにより、一本を叩き落とした後にもう一本のペンニグルが、無防備になったバガンの鱗のない腹部へと突き刺さりそのまま背中へと突き抜けた。


 さらに背中へと突き抜けたペングニルはそのまま片翼を突き破った。それによりバガンはバランスを崩し、地上へと落下していった。


 周囲からは竜人と魔人の悲鳴が聞こえてくる。


 そんな悲鳴を聞きながら激痛に顔を歪ませながらもなんとか空中でバランスを取って着地しようとしているバガンの落下地点へ、俺は追撃となる20本の特製の千本槍を発動させた。


「『千本槍』! 」


「ぐっ、こんなもの! 」


 地上に着く前になんとかバランスを取り戻したバガンは、落下地点にひしめく石槍を方天戟で砕こうとした。


 しかし


「ぎゃああああ! 」


 砕けたのは石槍の表面だけで中の鉄の槍までは砕くことはできず、バガンは再び鱗のない腹部を鉄槍によって貫かれた。


 そう、この千本槍は、石でコーティングした鉄槍だ。


 ずっと練習していた鉄槍を対人用にアレンジしたものだ。数はまだ20本が限界で広範囲には発動できないうえにこれも初見でしか通用しない。


 だから俺はここまでペンニグルと同じように、しつこいくらい石槍をずっと見せてきた。


 俺は串刺しになって身動きの取れないでいる、血だらけのバガンの姿にどっちもうまくいって良かったと内心でホッとしていた。


 しかしなんて硬い鱗だ。鉄槍でも貫けないとはな……初見殺しが通用しなかったらやばかったな。


 俺は胸や足にも刺さるはずだった鉄槍が、鱗を剥がし浅く刺さっているだけで貫くまで至っていないことに驚いていた。


 しぶとそうだし念のためにやっておくか。


 まだ動けそうだなと思った俺は、身動きができないバガンへ向けてペングニルを二度ほど投げた。そしてダブルを発動し、バガンの両腕と両足を突き刺した。その際に片腕と片足が吹っ飛んだが気にしない。


 バガンは他の魔族と違って王族だし、コイツにとっての地獄はまだまだここからだからな。


 シュンランが受けた痛みと屈辱を、この馬鹿王子に身を持って経験させてやる。


 俺は腕と脚を失った痛みに大声で喚いているバガンへと、ゆっくりと近付いていくのだった。



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