第17話 招かれざる客 前編
「リョウスケ、帰ってきたぞ」
「お帰りなさいカルラ」
4月になりいつものように満面の笑みで手を振りながらやってきた、カルラとサラたち棘の戦女の皆を俺は小さく手を振りながら出迎えた。
彼女たちともだいぶ親しくなり、今では彼女たちの名前を呼び捨てにする間柄だ。ダリアとエレナに関しては、二人に言われてそれより前から呼び捨てにしているけど。
カルラやレフたちには良いお客さんを連れてきてもらったり、忙しい時に手伝ってもらったりと本当に助けられている。彼らがいなかったらマンションに経営はここまでスムーズにいかなかっただろう。
だからお礼に割引だけではなく、彼らの部屋は予約部屋として誰にも貸さないでいる。
他のハンターから不満は出ない。皆、何らかの形でレフやカルラたちに世話になっているからな。そもそもレフもカルラも街に戻っても、どのハンターよりも早くすぐ戻ってくるので問題ない。
「ニシシシシ! あたしたちがいない間もハーレム満喫してたか? 夜も強いんだってな? 今度アタシも混ぜてくれよな! 」
「コラッ! カルラ! 」
「あはは、またそうやって俺をからかうなよ」
俺はいつものようにからかってきてサラに怒られているカルラに、是非ご一緒したいという気持ちを抑えながら笑って応えた。
後ろではクロエちゃんが、俺と受付に座るシュンランとミレイアを見ながら赤面している。俺たちの夜のことを想像してるんだろう。彼女は16歳だし、お年頃だな。
クロエちゃん以外の女性たちも、シュンランとミレイアと俺をチラチラと見ている。その視線を感じたのかシュンランもミレイアも恥ずかしそうだ。
なんでカルラが俺の精力のことを知っているかは疑問に思わない。きっと定期的にカルラたちに呼ばれて行っているらしい女子会で、酒を飲まされてしつこく聞かれたんだろう。聞き出すの上手いからなカルラは。
「まったくあたしがどんなに誘っても夜這いに来ないなんてますますいい男だぜ。アタシ以外のうちのメンバーもリョウスケを狙ってんのがいるんだぜ? クロエとかサラなんて……」
「カ、カルラ! 何で私の名前が!? て、適当なことを言うんじゃありません! 」
「…………」
カルラの言葉にサラが顔を真っ赤にして反論し、クロエちゃんはうつむいた。
「そうやってまた俺をからかって。そうそう、またこのあいだ飛竜を狩ったので、竜タンをお裾分けするよ。クロエちゃん、あとで取りに来てくれるか? 」
俺は冗談でも嬉しかったので、彼女たちに飛竜の舌。竜タンをお裾分けすることにした。飛竜のタンは火球を放つだけあって表面は硬いが、中は柔らかくコリコリしていて美味だ。だけど表面の硬い部分が分厚いので美味しい部分の量はそれほど取れない。そのせいで焼肉パーティの時は皆で取り合いになるほど人気な部位だ。
「……うん」
そんな貴重な竜タンをもらえると聞いたクロエちゃんは、うつむいていた顔を上げて口もとを少し綻ばせながらコクリと頷いた。
「やったぜ! 竜タンはうめえんだよな! ここに来るまでに一度も食ったことなかったけど、あんなにうめえなんてな! あの食感がたまらねえよな! 」
「ありがとうございますリョウスケさん」
「いいさ、冷凍して保存している分もあるし」
俺はまだほんのり赤い顔で礼を言うサラに笑顔でそう返した。
そんな彼女の着ている紫のローブの下は、サラシみたいな物で胸を巻いて、パンツだけしか履いていないらしい。別に彼女が露出狂の性癖があるわけじゃない。クロエちゃんもほかの人族のギフト持ちのハンターは、皆同じような格好をしているそうだ。
ミレイアは違ったけど、彼女の場合は常に男の視線が向けられていたから仕方ない。大きな胸もコンプレックスだったらしいし。そのコンプレックスは毎夜俺が取り除いてあげてるけどな。アレは本当に素晴らしいものだ。
ああ、ギフト持ち全てがそういった格好をするわけじゃない。自然系のギフト持ちだけだ。地水火風に雷などの自然系のギフトは、肌を空気に触れさせる面積が広ければ広いほど必要とする精神力が少なく済むそうだ。そして発動しやすくなり威力も増すらしい。だから攻撃系のギフト持ちの人間のローブの下は、極力薄着にしているそうだ。
前にアラクネに襲われている彼女たちを俺が助けた時も、二人ともローブを脱いで戦っていたらしい。でもあの時二人は他の女性たちに囲まれて守られながら戦っていたので俺からは見えなかった。二人とも俺が現れてすぐにローブを着たみたいだし。
見たかったな……普段は部屋着でも肌をほとんど露出させないサラのパンツ一枚の姿……昔のミレイア以上に肌を見せないんだよなサラって。
それで本当に精神力の消費が抑えられるのかと俺も試してみたんだ。そしたら確かに楽にギフトを使えた。そのおかげで敷地の拡張工事で壁の作り直しが早くできた。
ただ、ずっとパンツ一丁で作業していたので、昼ご飯の時間だと呼びに来たダリアとエレナに毎回赤面された。恥ずかしがって目を逸らす彼女たちを見て、何かに目覚めそうだったから今度からは服を着てやることにしようと思う。
そんなことを考えながら受付に向かうサラのお尻を眺めていると、壁の入口から声が聞こえたので客が来たと思い視線を向けた。
するとそこには今まで見たことのない人間の集団がいた。
「ありゃ? あれは竜人と魔人じゃねえか? とうとう魔国までここのことが知られちまったか」
「あれが竜人族と魔人族……」
俺は遠目に見える5人の竜人族の男女。そして4人の魔人族のハンターらしき男女に視線が釘付けになった。
竜人族の者たちは男が4人で女性が1人だ。全員が赤髪をしており、側頭部から二本の角を生やしていた。
4人の竜人族の男のうち3人の男は若く、裸の上半身の上に袖の無い黒いジャケットを羽織っており、下はダボっとした裾の広いズボンを履いている。
残りの一人の男性は50代くらいの初老で、一人だけ着物……いや、よく古代の中国の映画に出てくるような漢服と呼ばれる服を着ていた。
女性の竜人も若く、露出の激しい黒のボンテージを着ている。
竜人たちは全員が槍の先端に半月状の刃がついている、古代中国の武器である
その竜人たちの後ろを歩いている魔人と呼ばれる者たちは、3人が男で1人が女性だ。彼らは浅黒い肌に黒髪で、額からは1本の角を生やしている。
そんな彼らが敷地内をキョロキョロと見渡しながらこちらへと真っ直ぐやってくる。
いつかは来るとは思っていたからそこまで驚きはないが、これは今まで以上に種族間の揉め事が起こらないように注意しないとな。
俺がそんなことを考えながら彼らが来るのを待っていると、背後からカルラの驚きに包まれた声が聞こえた。
「あ、あの上着の紋章……滅竜じゃねえか! 」
「滅竜? 」
聞き慣れない言葉に振り向くと、受付の前にいたカルラが目を見開き驚きを隠せない表情をしていた。
カルラのパーティの子たちも同じだ。ダリアもエレナも、ミレイアにシュンランでさえもだ。
どうやら知らないのは俺だけのようだ。
竜人の上着を改めてよく見ると、胸に竜の頭に交差する槍が刺繍されているようだった。あの紋章が滅竜ってことか?
「滅竜ってのは、魔国の第三王子であるロン・バガンが率いる悪名高きBランク(ゴールドランク)の道楽パーティの名前さ。バガンてやつは傲慢で粗野で、魔族の狩場じゃなくて人族の狩場に出張って来ては揉め事を起こしまくっていたらしいぜ。それで2年前に森に遠征に来ていた王国の貴族の騎士団と揉めて皆殺しにしちまったらしいんだ。それが発覚してハンターギルドを追放され、魔国の王城で謹慎させられていたと聞いたんだけどよ……」
「最悪だな……」
マジか……魔国の王族に知られたうえに、そいつがトラブルばっかり起こす馬鹿とか最悪すぎだろ。初めての魔国の来訪者がいきなりババとかツイて無さすぎる。
というか他国の、しかも因縁のある人族の国の貴族を殺すような馬鹿をなんで野に放つんだよ。魔王ってのは親馬鹿なのか?
しかし参ったな……よりにもよって王族でそんな問題児がいるとか。
いくら王族でもそんな奴らを住まわせるわけにはいかない。となれば確実に揉めるだろうな。竜人族が5人に魔人が4人か……俺で対応し切れるか? 竜人族の一流の戦士はAランク(ミスリルランク)だと聞いたから、そこまでの実力はないんだろう。だがそれでもこの世界で最強の種である竜人族だ。これは命懸けになりそうだな……
俺は舌打ちしたくなる気持ちを抑え、カルラたちを置いて神殿の敷地内から出た。そしてその際にダリアとエレナへと目配せをした。
ダリアとエレナにはいざという時は神殿の石扉を閉めるように言ってある。俺がどうなろうと、シュンランとミレイアにダリアたちを守るためにそうするようにと。
そしてダリアが頷きエレナを開閉装置の前に向かわせたのを確認し、ニヤニヤと笑いながらやって来る竜人たちを待ち構えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます