第16話 奴隷


 —— 滅びの森入口 西街歓楽街の酒場 とある人族のハンター ——




「あ〜もう空っぽだ……ションベンすら出ねえ」


「俺もだ……想像以上だった」


「ぷっ! だから言っただろ? サキュバスを相手に二人じゃ足りねえって。俺たちみたいに魔人の女にしとけば良かったんだよ」


 俺はクソまずいエールを片手にテーブルに突っ伏している二人を、それ見た事かと他の仲間と一緒に笑い飛ばした。


 そういう俺も数年前に、以前いたパーティ仲間と一緒にサキュバスに挑んだんだけどな。その時は三人でもキツかった。


 サキュバスは本当にヤバイ。あの気持ち良すぎる身体もそうだが、興奮してくると魅了の魔法を使ってくる。あの魔法に掛かったら、俺たちみたいなDランク程度のハンターじゃ抵抗なんかできやしない。サキュバス以上に魔力のあるほかの魔族やエルフとかじゃないと無理だろう。人族や獣人は一流の戦士なら抵抗できると聞いたことがある。


 当然一流の戦士とは程遠い俺と仲間は、娼婦であるはずのサキュバスが満足するまで搾り取られ続けた。


 一応娼館の従業員がどこからか見張っているのか死ぬ前に止めてもらえたが、あんなのはもう二度とごめんだ。


 この二人には南街からここへ来る前にその事をを話したってのに、余計やる気になってサキュバスを指名した。その結果がこれだ。


「お前のいう通りだった……あれが魅了か……さすが大昔の人魔戦争時に帝国や王国で暴れ回った種族なだけあるな。あのまま戦争時みたいに奴隷になれと言われたらなっちまいそうなほどだったぜ。魔国に帝国みたいな奴隷制度がなくてマジで良かった」


「確かにな。まあそんなのがあればいくらここが魔国とギルドの共同管理の街とはいえ、遊びになんか来たりしないけどな」


 昔は魔国にも奴隷がいた。まあ人魔戦争中に攫われた人族がそうだったんだけどな。人族も人族で獣人を奴隷にしていたからお互い様だな。


 しかし女神により勇者が遣わされ、当時の人魔戦争を主導していた魔王と教会の教皇と司教たち。そして帝国の皇帝を討った。王国はそれを見て早々に勇者に降伏し難を逃れた。それにより戦争は終結し、全ての奴隷は解放された。それ以降は勇者によって他種族を奴隷にすることを禁止された。


 勇者と仲の良かった魔国はそれを未だに守っているが、人族は同族なら問題ないと奴隷制度を復活させた。それでも王国は犯罪奴隷や借金奴隷で刑罰的な扱いをしているが帝国は違う。獣人にしていたのと同じように、それはもう酷い扱いをしている。そんなのは帝国出身のハンターが連れている戦闘奴隷への扱いを見ればわかる。


 正直俺たち王国出身のハンターからしてみれば、魔国より帝国の方が魔族に見えるくらいだ。


 とはいっても魔国とは人魔戦争以来、根深い因縁がある。魔国に行けば俺たちも無事じゃ済まないだろう。だが人族から金を稼ぐために出入りを許可したこの歓楽街に来る分には安全だ。


 俺たちが飲んでいる酒場には竜人や魔人やインキュバスがほとんどで、人族は少ない。そんな中で俺たち人族がこうしてノンキに飲んでいられるのは、この歓楽街で正当な理由なく人族を傷つけることは禁止されているからだ。俺たち人族は魔国の大切なお得意様だからな。


 魔国も南の本国で人族を呼び込んだら問題になるが、ハンターしかいない西街なら滅びの森の侵食を防ぐために、種族の垣根を超えて協力しているという大義名分が使える。実際協力なんかしたことないが、資金的には人族は相当協力してるのは間違いない。シモの世話の方でだが。


「しかしどうせ性奴隷になるならフジワラマンションだったか? あそこの受付のサキュバスのハーフの子がいいな。角が小さくて人族に近い見た目で、半分サキュバスの血を引いてるって最高じゃねえか? 娼館の女と同じで四肢が欠損しているが、それでもあの清楚そうな見た目で夜はサキュバスとか……たまんねえなオイ! 」


「ミレイアちゃんのことか。お前ここで言う分にはいいけどマンションではやめろよ? あの子はどう見てもオーナーにベタ惚れだ。あんだけ人目も気にせずイチャイチャしてんだから間違いない。そんな子を誘ってオーナーを怒らせて、パーティが出入り禁止になったら迷わず俺たちはお前を追い出すからな? 」


 あんな好立地で、快適な部屋を格安で借りれるマンションを使えなくなるのはパーティとしてマジで痛い。


 あのマンションのことを南街の酒場で聞いた時には耳を疑ったが、試しに行ってみて本当に良かった。蛇口っていうのをひねるだけでお湯がとめどなく出てくるシャワーに、変わった形だがお湯で尻を洗ってくれて、尻を拭くためだけの真っ白で柔らかい紙まである快適で綺麗なトイレ。そしてふかふかのベッド。


 俺たちが借りた格安の大部屋でもこの設備だ。『わんるーむ』という部屋や中部屋なんて、貴族が入るような風呂やベッドがあると聞いた。早くCランクになって借りれるようになりたいものだ。


「わ、わかってるって! もう目も合わせねえって! 俺もあそこに住めなくなるのは避けたいしな。なによりあそこを拠点にしたからこそ、みんなでこんな豪遊ができるようになったんだ。出入り禁止になるようなことはしねえよ」


「本当にわかってるんだろうな? オーナーは滅びの森の中に、あんな砦のように高い壁で囲んだマンションを作るような男だ。とんでもない魔導技術の持ち主なうえに、大地のギフトの相当な使い手だ。槍の扱いも凄いらしく、飛竜すら単独で狩れる力があるらしい。そんな男に出て行けと言われたら俺たちじゃ抵抗できないからな? 」


 素行の悪いCランクのパーティ全員をボコボコにして追い出したって噂もある。どう考えても俺たちが敵うわけがない。


「だからわかってるって。信用ねえな」


「念のためだ。なんたって俺の忠告を無視してサキュバスに搾り取られた男だからな」


「だあぁぁ! それを言うなって! 次は3人で指名するから」


「全然懲りてねえなお前……ん? 」


 俺がまだ懲りずに指名するつもりの仲間に呆れていると、少し離れた隣のテーブルで飲んでいた一人の若い竜人と、複数の魔人が立ち上がるのが視界に映った。


 そしてその男たちはニヤニヤした顔で俺たちのテーブルへと向かって来た。


「オウ、お前ら面白そうな話してんじゃねえか」


「な、なんだよお前ら……」


 俺は赤髪の竜人の男の真っ赤な目を見返しつつそう答えた。


 デカイ……


 竜人族の男は2メト《メートル》はありそうで、側頭部からは太く曲がりくねった角が二本伸びている。首や腕の外側には部分的に鱗があり、筋肉でムキムキの裸の上半身には、申し訳程度に袖のない黒革のジャケットを羽織っている。


 俺はそんな竜人族の男に見下ろされ、ここは安全だとわかりつつも冷や汗を流していた。


「そうビビるなって。ここで人族との喧嘩がご法度なのは知ってんだろ? 俺たちはたださっき話していたことの詳細を知りたいだけだ。滅びの森に壁で囲んだ砦のようなものがあるって言ってたよな? ちょっと詳しく教えてくれよ。ああ、自己紹介をしていなかったな。俺は『滅竜』のチョウギだ。よろしくな」


「め、滅竜!? 第三王子の……なぜ西街に……ギルドを追放されたはずじゃ……」


 滅竜だって!? なんで滅竜がここにいるんだよ! 


 コイツらは二年前に王国の貴族とその騎士たちと森で揉めたあげくに殺した。バレないと思ったんだろうが、死ぬ間際に騎士がテイムしていた魔物に滅竜の名を書いて逃したことで発覚した。


 そのことが魔国と王国で大問題となり、お互い和解はしたが滅竜はハンターギルドを追放されたうえに魔国で謹慎させられていると聞いていた。それがなんでこのハンターの街に……


「ああ、条件付きでギルドに戻れてな。今日は荷物持ちたちを労うためにここで飲んでたんだよ。そしたらずいぶんと面白い話をしている下等……おっと、人族の皆さんがいるじゃねえか。なあ、ちょっと奥の部屋でその砦の話を詳しく聞かせてくれよ。まさか断ったりはしねえよな? 」


 断りたい。今すぐここから逃げたい。が、滅竜なら力づくで俺たちを攫うだろう。そもそも魔人たちにテーブルを囲まれていて逃げれそうもない。ほかの客はこのチョウギという男と目を合わせようともしない。誰も関わりたくないんだろう。


 魔族でさえそう思える相手だ。それがなんで俺ただのところに……


「あ……ああ」


 俺はそう言ってうなずく以外に選択肢はなかった。


「ククク、そうか。なら行こうか。ここの代金は俺が持つからよ。是非詳しく聞かせてくれ。ああ、ウソを言ったらどうなるか分かってるよな? 」


「わ、わかった」


 こうして俺たちは奥の部屋に連れて行かれ、あのマンションのことを洗いざらい話させられた。


 これで滅竜はあのマンションに居座るな。いや、そのまま魔国に占領されるかもな。


 悪いなオーナー。でも王子がハンターに復帰した以上、マンションの存在を知られるのは時間の問題だった。早いか遅いかの違いだったんだ。




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




 3月も半ばに入ると外はだいぶ暖かくなり、飛竜の来襲も増えて俺はホクホクの毎日を送っていた。


 もちろん協力してくれたハンターたちの懐もホクホクだ。そんな彼らに森に安全に燻製器を置いて燻製を作れるよう、ベラさんが家に泊まりにきた夜に石のドームを設置してきてあげた。


 その甲斐あって一人の犠牲者を出すことなく、飛竜の誘引は成功を収めている。俺のレベルも数は少ないがBランクの飛竜を狩っていることで、夜に狩りに行かなくても37になった。1レベル上げるのに1ヵ月以上かかったが、もう前みたいに頻繁に夜に家を空けるわけにはいかないしな。


 あと少しだ。後少しで40になって落雷保険が付く……はず。


 ミレイアとは相変わらずラブラブだし、彼女の口と胸の中でマッサージされているペニグルに不満はない。彼女が恥ずかしそうに一生懸命奉仕してくれるし、なにより口でのマッサージは日に日に上達していっている。おっぱいと口の両責めなんて気持ちいのなんのって。


 今じゃお風呂も一緒に入ってイチャイチャしまくってる。野営用のエアマットを常設したくらいだ。そんな彼女に不満はないが、好きな子と一つになりたいと思うのはもう本能だ。だから俺はレベル40になる日を楽しみにしている。頼むぞフローディア、ここで落雷特約を付けないとかいうオチはやめてくれよ?


 ああ、もちろん不公平にならないよう、シュンランとも日替わりで一緒にお風呂に入っている。さすがにまだ三人で一緒に入ることはできない。ミレイアが疎外感を感じちゃうからな。レベル40になってからだな。まあ普通に二人と風呂に入ればいいんだけど、それは無理だし。


 二人とも明るい風呂に俺と入ることを最初は恥ずかしがっていたけど、今じゃ慣れたのか普通に入っている。お互いに洗いっこした後はミレイアは口やおっぱいで、シュンランは身体の中でペニグルをマッサージしてくれるんだ。


 そのあとはリビングで身体の火照りを覚ましたあと、日替わりで二人とベッドで愛し合ってから一緒に寝ている。


 シュンランの竜鞘にも何とか慣れて、以前よりは保つようになった。シュンランの上気した色っぽい表情や声を楽しむ余裕も出てきたよ。最初シュンランは声を抑えるんだけど、段々と声が大きくなるからそれがまた一層と興奮するんだよな。


 夜の生活と同じくマンションの経営は順調だ。部屋の増設は止めたので魔石もどんどん貯まっていっている。マンションのことが広まり、どんどん新規の客もやってきている。


 でもそうなると満室で入居を断らないといけないケースも出てくる。その度に申し訳なく思うんだけど、これ以上は人手が足らないから増やしても管理しきれない。現状は3棟の管理がやっとだ。それでも断ったお客は空きが出る日を確認したあと、近場で狩りをしてありがたいことに再び来てくれている。


 そんなお客さんばかりなら大歓迎なんだが、空きがあって予約もない時に限って嫌な客が来たりするんだ。


 今日なんかまさにその日だ。



「ふざけるな! なんで奴隷なんかに一晩小銀貨1枚もする上等な部屋を用意しなきゃなんねえんだよ! こいつらなんか馬小屋で十分なんだよ! 」


「当マンションではパーティ全員の方の宿泊を条件としております……嫌なら帰れ」


 俺は怒り狂う髭もじゃ男の言葉に、こんな奴に敬語は使うのが嫌になりそう言って突き放した。


「なっ!? お、俺たちは客だぞ! 」


「俺は大家だ。うちのルールが気に入らないなら借りてくれなくていい。というか貸したくないから早く帰れ」


「テ、テメェ半魔のくせに偉そうにしやがって! ぶっ殺し……」


 男はキレて剣に手を掛け抜こうとした。それを見た後ろにいた7人ほどのパーティメンバーも剣に手を掛け、ギフト持ちらしき男は腕を前に出してギフトを発動しようとしていた。


『千本槍』


 俺はそんな奴らの足もとに瞬時に千本槍を発動し、全員の喉もとで寸止めした。


「やるなら全員まとめて相手にするが? 」


 そう告げると男たちは冷や汗を流しながら動きを止めた。


 俺の背後からはバチバチッという音が聞こえる。恐らくミレイアが腕に雷を纏って威嚇してい流んだろう。


 そう思ってチラリと後ろを振り返って見てみるとその通りで、受付の席に座ったまま眉間に皺を寄せて髭もじゃ男たちに紫電を纏った腕を向けているミレイアがいた。


 そしてその隣ではシュンランがナイフを投げる構えを見せ、ダリアとエレナも立ち上がり剣を抜いている。


「は……はひっ……わ、わかった……帰る……」


 髭もじゃ男は目の前の石槍と、そんな彼女たちの動きを見て震える声でそう言った。


「そうか、ならとっととここから出て行け。二度と来んなよ? 」


 俺は地面から飛び出させた石槍を奈落の応用で地面に戻し、受付のテーブルに立て掛けておいたペンニグルを手に持ちそう告げた。


「くっ……なんて発動の速さだ……お前覚えてろよ……オイ! 帰るぞ! 」


 男はブツブツ言いながらも仲間とボロボロの装備を見にまとった奴隷を連れ、門へと歩いて行った。


「ったく、小銀貨一枚すらケチるとはな」


 俺は門へ向かう途中に他のハンター笑われ、怒鳴り散らしている男たちを見ながらそうボヤいた。


「お疲れ様ですオーナー。帝国で荷物持ちの奴隷の扱いはあれが普通です。今まで来たハンターはCランクで戦闘奴隷を連れていたので……戦闘奴隷は高額ですから」


 抜いた剣を鞘に収めながらダリアが言う。


「どちらにしても胸糞悪い話だ」


 高い安いの問題じゃないだろうに……


「涼介、帝国とはああいう国だ。同族すらも迫害する救いようのない国なのだ。今後もああいうのが増えることは覚悟しておけ」


 続いてシュンランもナイフを椅子に設置したケースにしまいながら、ため息を吐きつつそう言った。


「嫌になるよまったく……しかし帝国か……確かラギオス帝国って名前だったか? 隣のアルメラ王国とは大違いだな」


 1ヶ月前の2月の中旬辺りから帝国人もここへ来るようになった。


 最初は王国のお客さんの紹介ということもあり、奴隷は連れていてもこちらのいう事は聞いていてくれた。お金に余裕のあるCランクパーティというのもあるのだろう。それに紹介者からここは稼げると聞いていたのもあると思う。


 しかし今回のハンターはフリーでやってきた客で、これまでの帝国人とは違い奴隷への扱いが悪かった。ダリアが言うように、高額な戦闘奴隷ではなく荷物持ち用の奴隷だからだろう。


 そう、奴隷だ。この世界には奴隷制度がある。といっても人族の国だけだが。


 アルメラ王国にも奴隷はいる。王国の場合は奴隷と言っても犯罪者や借金で首が回らなくなった人間を更生させ、借金を返済させるために期限付きで奴隷とにする制度のようだ。奴隷の衣食住は保証されており、主人が暴力を振るったり殺したりしたら罰せられるなど最低限の人権は守られているそうだ。


 そうはいっても女性の奴隷が酷い扱いを受けるなどということも多々あるらしい。奴隷の主人が貴族と繋がっていたりすると黙認されたりもあるようだ。だからカルラさんは保護している女性たちが、奴隷にはならないように面倒を見ているそうだ。


 それでも帝国奴隷制度よりは、最低限の人権があるだけマシなのかもしれない。帝国は一度奴隷に落ちれば額と胸に焼印を押され、一生奴隷となる。そこに期限はないし、奴隷の子は無条件で奴隷になる。扱いも家畜並みで、帝国人は奴隷を同じ人間として見ていない。とりわけハンターに買われた奴隷は悲惨だ。荷物持ちはなればいざという時に肉壁として扱われるらしい。


 話には聞いていた。だがいざ彼らが引き連れている奴隷を目の当たりにすると、想像していた以上の扱いの悪さにショックを受けた。人間が同じ人間をあんな風に扱えるなんて信じられなかった。


 そんな俺にレフたちは帝国は全然懲りてないと。帝国は獣人を奴隷にしていた時と何も変わっていないと苦々しい顔で言っていた。


 どうも勇者に他種族を奴隷にすることを禁止され、勇者が元の世界に帰った後。獣人が勇者によってまとまり、国を作って奴隷にできなくなったからその穴を同族で埋めたようだ。帝国は魔国の隣だから、獣王国と戦争してまでと思ったんだろう。王国も協力はしてくれないだろうし、なら勇者という監視者もいなくなったし同族を奴隷にすればいいと考えたんだろうな。


 その同族の人柱の帝国は生産力も武力も高く、一国だけで魔国と渡り合えるほどの強国になったようだ。特に今の皇帝は雷帝と呼ばれ、若い時は森の奥にいるAランクの魔物を単独で狩っていた強力なギフト使いで相当な野心家らしい。魔国ではなく王国と戦争をしたがっているという噂も耳にした。


 その二つ名からミレイアと同じ雷のギフト使いのようだが、人族でコカトリスやバジリスクという強力な魔物を単独で狩るとかとんでもない実力者だ。一時的にだが、ここより北西に軍事基地も作ったらしい。雷帝が皇帝に即位した途端に維持できなくなったらしいが。


 そんな危ない皇帝のいる帝国とは関わりたくないが、帝国人だけお断りにするわけにはいかない。奴隷を理由に利用拒否をしてもいいが、王国人も借金奴隷自らが望んでハンターに買われている者もいる。彼らはいつも笑顔だけど。


 だから奴隷を連れているからといって入居を拒否することはできない。ルールを守り誰にも迷惑を掛けないなら、入居を断る事はできない。胸糞は悪いしリスクも大きいが。


 それにしても同じ人族でも国によってこうも違うとはな。


「アルメラ王国は女神フローディアへの信仰が厚く、教会もとても多いんです。女神様が遣わした勇者様が奴隷制度をよく思っていなかった以上、人を家畜のように扱うことは固く禁止されているんです。と言っても今の教会にそんな善の心があるわけではなく、一度教会の名でそう布告してしまったのと、また女神様を怒らせて勇者様が遣わされ、教皇や司教が粛清されるのを恐れているだけだと思います」


「帝国は勇者様に皇帝を討たれて力ずくでいうことを聞かされたので、皇族は勇者様をよくは思っていないと聞きました。信仰心も薄い国ですので、奴隷を家畜のように扱うことに抵抗がないのだと思います」


「どっちもどっちだが、王国と教会の方が帝国よりはマシか。魔国のことはよく知らないが、奴隷制度がないだけ帝国よりマトモな国なんじゃないか? 」


 俺はダリアとエレナたち王国人の言葉に、魔国の方が帝国よりよほどマトモに思えてきた。


「フフッ、魔国は竜人族の結束が崩れればまた人族を奴隷にするさ。デーモン族やヴァンパイア族やほかの魔族は、人魔戦争時から魔国の住民となった竜人族とダークエルフ族を追い出して純粋な魔族の国に戻したがっているからな」


「ああ、そういえば竜人族はもとは魔国の住民じゃなかったんだったな。今の魔国は竜人族が魔王だからこそか」


 俺はシュンランの言葉に、竜人族が純粋な魔族ではないことを思い出した。


 確か人族に迫害されていた竜人族と、エルフと敵対していたダークエルフ族は人魔戦争の時に魔国についたんだったな。そして勇者が現れ、デーモン族の魔王を討ち竜人族を魔王にした。


 後々のことを考えたら魔国の人間ではない者を魔王にするのは危険だと思うが、それだけ他の種族がやばかったんだろう。二度と戦争を起こさせないように、滅びの森の侵食を防ぐことに集中させることを優先したんだろうな。


 それでも竜人族が魔王でいるうちは奴隷とかいないなら、人族の国よりはマトモだろう。


 魔王が人族の国王よりマトモだとか。やっぱり人族が一番怖いわ。


 そんな会話をしつつ俺たちは、次から次へとやってくるハンターたちの入居受付をこなしていくのだった。



 ※※※※※※※


 作者より。


 更新遅くなって申し訳ありません。

 近況報告でもお伝えしましたが、体調を崩していました。一応今流行りの病ではなかったです。なんとか体調を戻し、来週の更新は遅れないようにします。


 

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