第15話 別館『春蘭』『美麗』



 年が明け1ヶ月ほどが経過し、1月も終わりに近づいている頃。


「いらっしゃいませ。フジワラマンションへようこそ。私が当マンションのオーナーの涼介です。今回のご利用は初めてですよね? どなたかのご紹介ですか? 」


 外壁を潜りマンションの前までやってきた、10人ほどのハンターへと笑顔で声を掛けた。


「いや、南街の酒場でちょっと小耳に挟んでちょっと寄ってみたんだ。凄腕の魔導技師が貴族の家のような宿屋を作ったってな。しかしまさか本当にこんな場所に、壁に覆われた宿屋があるなんてな……正直驚いた」


 どうやらこのお客さんも噂を耳にしてやってきたようだ。


「はい。日々命を削って戦っていらっしゃるハンターの皆さんのために、心と体が休まる場所をと思いまして建築しました。では初めてのご利用ということで、当マンションのルールをご説明させて戴きます。当マンションはいろんな種族の方が利用しておりますので、人種差別などは禁止させていただいております。また、従業員への暴言・マンション施設の破壊及び敷地内での武器やギフトを使った喧嘩等も禁止です。これらをお守りいただけない場合は強制退去していただくことになっております。その際の宿代。ここでは賃料という名目ですが、こちらは返金できませんのであらかじめご了承ください」


「ああ、その辺は厳しい所だって聞いている。でもそれだけ凄い宿だともな。差別や喧嘩に関しては気をつけよう。取り敢えずパーティ用の部屋を1部屋と大部屋を1週間借りたい。空いてるか? 」


「はい。地下は満室ですが、外の別館の春蘭シュンラン美麗ミレイにそれぞれ空きがございます」


 俺は敷地内に新しく建てた2棟の別館を案内した。これはマンションから向かって右側の壁沿い。外壁の門の向かいに建てた体育館ほどの大きさで、プレハブっぽい造りの倉庫だ。中にはそれぞれ1Rが10部屋と、パーティ用の中部屋が5部屋がある。


 建物の造りはハンター用倉庫と解体所と同じだ。外側はプレハブみたいに薄い外壁だが、中の部屋は石造り1Rだから万が一建物が崩れても部屋の中は大丈夫だ。


 年明けにレフやカルラさんが来た時は驚いていたな。でもみんな住み慣れた地下がいいって、いつもの部屋を借りていった。大部屋も近いしね。


 別棟の名前は2号棟とかじゃ味気ないから俺が名付けた。まあ恋人の名前だ。二人とも恥ずかしがっていたけど、シュンランの名前を勇者の故郷の文字で書いて、その意味を教えてあげたら春の花の名前だと知って嬉しそうにしていた。


 ミレイアの場合は字足らずだけど、美しい麗人と書いたら照れていた。どうやら二人は漢字の名前を気に入ってくれたようだ。


 各棟の入口には木板にこの名前を漢字で書いた物を設置してある。もちろん漢字の上にはこの世界の文字でフリガナも振った。あんまり俺の字は上手くないけど、漢字を読めるやつなんてこの世界にはいないからバレないだろう。


 別棟は高さが結構あるので2階建てにしたかったが、ヘヤツクの倉庫はどれも一階建てなんだ。建物内に俺の地上げ屋のギフトで2階の床板を作ろうとも思ったが、安全な床を作る自信が無かったからやめた。崩れたら大変なことになるし。


 まあ敷地が狭くなったら壁を拡張すればいいだけだし、ハンターも出入りしやすい方がいいだろう。


 ただ地下が満室になりこの新築の別館を勧めると、みんな最初は不安そうな顔をする。


 今回のお客さんも目の前で困った表情をしていることから、ほかのお客さんと同じことが気に掛かっているんだろう。


「ああ、あのデカイ建物か。日も当たるしいいんだが、安全性は大丈夫なのか? 壁は薄そうだったし、入り口は大きく開いていた。ここは飛竜がよく来ると聞いている。飛竜がやって来た時に大丈夫なのか? 」


 中年のハンターの男性は、不安げにそう口にした。


 やっぱりほかの人たちと同じことが心配なようだ。


「建物の外側は石造りではありませんが、中にある宿泊していただくお部屋は石造りになっていますので安全性は問題ございません。それに飛竜が来れば私が狩りますので、襲われることはないですよ」


 北側の壁は50メートルほど拡張してあるからな。飛竜は拡張したエリアに落とすから問題ない。


「オイオイ、飛竜はBランクだぞ? それを一人で狩れるってのか? 」


「ええ、これでも槍の名手でして。すでに15頭は狩っています。お疑いになるのでしたら倉庫をご覧になりますか? 」


 宿泊費の値引きと飛竜の皮を分け与えるという報酬に釣られ、命知らずのCランクの複数のハンターたちが燻製器を持って森へと入ってくれた。そしてあらかじめ決めていた時間帯に一斉に燻製作りをして、飛竜を誘き寄せてくれた。おかげで以前より飛竜がやって来るようになった。


 カルラさんたちもやりたがっていたけど、危険だから頼まなかった。彼女たちがやらなくても、飛竜の革の装備欲しさにやりたがる命知らずは多いし。


 売り先のない飛竜の皮や鱗は倉庫に山ほどあるし、肉なんて20台の冷蔵庫に保管しきれなくて無料配布してるくらいだから報酬として分けるくらいはなんてことない。俺はレベルと魔石が目当てだしな。


「……いやいい。そうか……オーナーが飛竜を狩って宿泊客とよく焼肉パーティをやっていたというのは本当だったのか」


「ええ、飛竜が来る度に催していますので楽しみにしていてください。食べ放題ですから」


 今じゃ飛竜がやって来るとみんな喜んで出迎えてくれている。夜はハンターたちに宴会場と名付けられた以前作ったドームの中で、みんなで素材を出し合って楽しくパーティをしている。


 これから春になるにつれて飛竜も増えるらしいから楽しみだ。


「ハハッ……凄腕の魔導技師でありBランクの魔物を単独で狩れるとか。そりゃこんな所で宿屋をやろうってんだから普通じゃねえよな。わかった、外の別館でいい」


「ありがとうございます。それではあちらで受付をお願いします」


「ああ」


「ダリアさん、お客さんです。注意事項は了承してもらったので、別館の部屋をお願いします」


 俺は受付に座っているダリアさんに向け、審査OKの合図をした。


 基本的に俺がまず最初にお客さんの応対をして、その属性を見極めてから受付をする流れになっている。今はシュンランとミレイアは管理人室でお昼を食べているので、ダリアさんとエレナさんたちが受付に座っている。


「はい。お客様、ではこちらへどうぞ。最初にハンター証の確認をさせていただきます」


 ダリアさんは椅子に座りながら頭を下げ、ハンターたちにハンター証を提出するように求めた。


 俺は素直にハンター証を取り出す男たちに、今回の客は問題なさそうだと安心した。


 というのも年末年始に噂が広がったのか、年明けから誰の紹介でもないハンターがちょこちょこやって来るようになり、中には傲慢な態度の者もいたりしたからだ。


 このマンションの存在が広まったのは、思ったより早かったが入居者にハンターを紹介してもらえるよう頼んだ以上、いずれ噂は広まると思っていた。想定より早かったのは、それだけこのマンションのインパクトが強かったからだろう。


 ただ、そうなると本来は荒くれ者が多いハンターだ。


 差別禁止と説明したところで、お前が半魔だから怖いのか? と大笑いする者や、どんだけ話に尾鰭おひれがついたのか、ミレイアを有料で夜に借りれると聞いてきたという者もいた。


 もちろんそういった者たちは、もれなくお帰り頂いた。納得いかない奴らに罵声を浴びせられたりしたし、戦闘になったりもした。まあ全員ぶちのめして迷惑料を徴収したけど。攻撃が俺に当たらなくて、青ざめた顔で人をバケモノ呼ばわりしてたな。


 そういうのがこの1ヶ月で2組ほどいたので、初見のお客さんには警戒するようになった。


 恐らく今後も紹介なしのお客は増えるだろう。それに比例するようにタチの悪い客も増えると思う。


 でも差別しない、従業員に暴言を吐かない喧嘩しない。たったこれだけのことを守れないようなヤツはこのマンションにいらない。殿様商売と言われようが恋人とダリアさんたちの安全を守るためだ。妥協はしない。オーナーってのは他の入居者が気持ちよく利用できるよう、入居者を選ぶ権利があるんだ。


 レベルもこの一ヶ月で上がったしな。といっても3レベルだけだけど。


 年末にシュンランとミレイアと恋人同士になってから年明けまで、俺は早朝から夜遅くまで毎日狩りに行っていた。火災保険を進化させミレイアと繋がるために。


 しかし年が明けてお客さんを迎えてからは、別館を作ったこともあり、夜は入居者対応に忙しくてなかなか狩りにいけていない。初見のお客も増えてきたので、夜にマンションを空けるのが不安だったというのもある。魔物よりも人間の方が怖いからな。


 そんなこんなで体感だけど、まだレベル36くらいだ。


 もうお客さんが来る時期が読めなくなってきているので、人を増やさない限り俺が狩りに行くことはできないかもしれない。


 しかし俺は諦めてはいない。その証拠に飛竜を誘き寄せるためにハンターたちに泊まりがけで北に向かってもらい、燻製器で飛竜を誘き寄せてもらってるんだ。


 今のところこの作戦はうまくいっている。続けていけば遠からずレベル40になれると思う。


 そうそう、その最後までできなくて落ち込んでいたミレイアだが、俺は毎日積極的に彼女の身体に触れて、頻繁にキスを求めて好きな気持ちを伝えている。そして二日か三日に一度同じベッドで過ごして、全身をくまなくマッサージしてあげている。


 ミレイアの恥ずかしがる顔や喘ぎ声がまた可愛いんだ。彼女も俺にお返ししてくれるし。


 ミレイアのお返しは最初は手だけだったけど、口でとお願いしたら俺のペニグルを口でマッサージしてくれるようになった。清純そうな子がぺニグルを口に含んでいる顔がまた興奮した。彼女の口の動きはまだぎこちないが、俺のだからと美味しそうに飲んでくれるしその顔が妙にエロくて最高だった。もう少し慣れたらあの巨大な胸で挟んでもらい、胸と口の両方をお願いしようと思う。


 そうして俺が毎回満足していることもあり、ミレイアは最後までできないことを前ほど気に止むことは無くなった。朝までベッドでイチャイチャした時もあったしな。少しは安心してくれたと思う。


 もちろんシュンランとも朝と寝る前には毎日キスしている。彼女は普段はあまりベタベタするのは好きじゃない子だが、寝る前にキスをした時に恥ずかしそうに『今夜いいぞ』とボソリと伝えてくる。


 どうもミレイアと被らないように二人で話し合ったようだ。ミレイアが過去のトラウマでできないことも聞いたみたいだし、色々気を遣っているのかもしれない。きっちり2日に一度、今夜はしてもいい的な雰囲気になるんだよな。


 そしてシュンランと愛し合う時は竜鞘に少し慣れたとはいえ、あまりにも気持ちよくてついつい何度も求めてしまう。少し自重しなくてはと賢者になって反省していたら、シュンランが『好きな男に求められるのは女として嬉しいものだ。女はそれに応えられていることにも悦びを感じるのだ』と言ってくれて、ついつい甘えてしまっている。


 まあ控えめに言って幸せだ。ミレイアと最後までできないとかそんな事は気にならないほどに、俺たちはお互いを想い合い求め合っている。


 二人の治療費も当初より早く稼げそうだし、今のところうまくいっている。


 あとは国にさえ目をつけられなければいい。3年だ。3年バレなければ治療費が貯まる。二人に不自由な生活をさせなくて済むようになる。頼むぞ、バレてくれるなよ?


 しかしそんな俺の願いはゲームに夢中の女神には届かなかった。


 このたった2ヶ月後。冬の終わりと共にやってきた招かれざる客のせいで、俺は国に追われる覚悟をするはめになるのだった。

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