第6話 派生ギフト



 12月に入りめっきり寒くなってきた。


 狩りを終えた俺は手作りの手袋とマフラーに身を包み、黒狼の毛皮を大量に担ぎながら森を駆け神殿へと戻った。


 神殿の壁の前に着くと、堀を飛び越え門扉とそれを塞ぐように上げたままロープで固定された橋を横目に、その隣の壁に穴を開けて作ったドアを鍵で開けた。


 このドアは1Rのドアを外して取り付けたものだ。夜に門を閉め橋を上げた後、俺が外に出入りする時のために作った。


 敷地に入るとまずは解体所の建物に入り、木製の物干し竿に戦利品である毛皮を吊していった。


 そして家へと向かい、シュンランとミレイアにただいまのハグをしてから装備を置いてすぐに部屋作りをしに再び家を出た。


 家の向かいには8部屋の1Rが長屋のように連なっており、それと背中合わせに同じ数の部屋が並んでいる。1列に16部屋あることになる。


 俺は家の向かいの1Rの長屋を通り過ぎ、通路を挟んで向こう側にある作りかけのもう一つの長屋へと向かった。そして昨日作った部屋の隣で、間取り図のギフトを発動し1Rを2部屋創造した。


「ふぅ、これだけあれば大丈夫だろう。最初はほとんどの人が大部屋を借りるはずだって言っていたしな」


 俺は目の前に現れたできたばかりの1Rの部屋を眺めそう呟いた。


 しかしこれだけ作っても間取り図のギフトに入っている、『ヘヤツク1990』のバージョンは上がらないか。


 レフさんとカルラさんのパーティがそれぞれの街に帰ってからこの9日間で、大部屋を2部屋と1Rを16部屋増設した。これで全部で大部屋が4部屋と1Rが28部屋になった。


 このほかにも俺の部屋と1階の管理室。そして中庭に倉庫と解体所まで作ったというのに、相変わらずヘヤツクは1990バージョンのままだ。いつになったらバージョンアップするのだろうか? 


「やっぱ部屋を作るだけじゃダメなのかな」


 俺は腕を組み、目の前に浮いている金縁の光るパソコンを見ながらため息を吐いた。



 9日前にレフさんとカルラさんのパーティが退去した翌日。俺はさっそく門と橋を設置した。そして悩んだ末に南に半日行ったところにある森道と、この神殿を繋げる道を作ることにした。


 当初の計画では、レフさんたちがお客さんを連れて来る前にできるだけ部屋数を増やす予定だった。でもプレオープン時に戦利品を街へ運搬する問題に気付き、先に道を作ることにしたんだ。その方が長期滞在してもらえて収益が上がるしな。


 ベラさんの狩りに同行した時に得た、Cランクの魔石が100個ほどあったのも道を先に作る後押しになった。


 道作りはペングニルで森の木を粉砕し倒し、地上げ屋で切り株を道の端に避け、さらに地面を石畳にしながら南へと道を作っていった。


 このレベルアップした身体と進化したペングニルの貫通力は凄まじく、堅い木を3本ほど一気に砕いていった。それはペングニルの新しい能力である、『ダブル』を発動しても同様のことができたので効率よく道を作れた。


 それでも整地しながらだったので5日掛かった。でもそのおかげで荷車がすれ違えるほどの道を、南の森道まで繋げることができた。


 さすがに毎日クタクタだったよ。でも風呂上がりにシュンランとミレイアがマッサージしてくれたおかげで、早朝から夜まで頑張ることができた。


 ただ南の森道と繋げたといっても石畳は森道の手前500メートルまでで、それから先は木と切り株だけ避けた荷車一台が通れるくらいの土の道だ。本格オープンしてしばらく経つまでは、知る人ぞ知るマンションにしておきたいからな。


 森道までの道を作り終えた翌日は、ベラさんたちの狩場を荒らさないよう北の森の奥まで行って黒狼とハーピーを狩った。


 黒狼は体長が2.5メートルはある真っ黒な狼だ。そんなのが10頭とか群れで襲いかかって来る。しかも動きが速く俊敏だ。正直めちゃくちゃ怖いし、最初の頃は苦戦して生傷が絶えなかった。背中を引っかかれたりスケールカーテンを展開するのが遅れてヘルメットをかじられたりと、何度もスーツを破られヘルメットを壊されたからな。


 だが今の俺ならスケールストームで防御しつつ切り刻み、怯んだ黒狼を千本槍で串刺しにして終わりだ。それもこれも神器が進化してくれたおかげだな。


 ハーピーは口が裂けた人間の女の顔と胸部をした魔物で、腕は翼で下半身は鳥の魔物だ。ちなみに胸は羽毛が生えていてそれほど人っぽくない。というか顔が怖い。


 このハーピーは殺傷力は低いが羽を矢のように飛ばしてくるうえに、5から6羽の群れで空から攻撃してくるから非常に厄介だ。まあ俺はスケールストームで羽を弾きながら、2体づつペングニルで順に仕留めていって余裕だったけど。


 ほかに炎を腕にまとって攻撃してくる火熊や、岩のような外皮の硬い岩猪という肉が旨いボーナス魔物も狩った。火熊も岩猪も内臓を取り出してもめちゃくちゃ重いしデカイ。でもそれを腕や足だけではなく丸ごと頑張って持って帰ったら、シュンランとミレイアが大喜びしてくれたし食卓が豪華になった。あの笑顔を見れただけでも苦労して持って帰った甲斐があるというものだ。


 最終的には魔物探知機のおかげで大きな群ればかり狩れたこともあり、4日でCランク魔石をさらに90個ほど稼いだ。それにもともとあった魔石を加え、大部屋2部屋と1R16部屋を追加で作ったわけだ。


 それなのに今日もヘヤツクはバージョンアップしなかった。今日こそはバージョンアップすると思っていたんだけどな。


 神器は3度も進化したし、『火災保険』のギフトだって進化した。なのに間取り図だけはうんともすんとも言わないのはなぜなんだ? そりゃ俺の持っているギフトはこの世界にあるギフトとは違うけどさ。


 シュンランとミレイアいわく、人族が持つギフトには地水火風に雷の攻撃系ギフトと治癒・探知・地図・暗視・遠見・腕力強化・テイムなどなど。補助系のギフトがあるそうだ。攻撃系のギフトも補助系のギフトも、使えば使うほど成長すると言ってた。まあそのぶん精神力も多く消費するようになるので、強力なギフトはそんなにポンポン使えないそうだけど。


 確かに『地上げ屋』は使えば使うほど色々なことができるようになった。話に聞く『大地』のギフトと違って千本槍で作った石槍を飛ばすとかはできないが、地中深くの土を周囲に分散させて落とし穴を作ることはできるようになった。


 でも火災保険は補助系に分類されると思うんだけど、特に頻繁に使っていないのに進化した。これは進化したタイミングから、恐らくレベルと連動しているんじゃないかと思う。あとは常時発動型パッシブのギフトだからなのかもしれない。


 しかし間取り図のギフトはそのどちらにも該当しない。だから頭を悩ませているわけなんだけど……


 やっぱ部屋を作り続けるしかないのかな。でも地下にはあと1Rが4戸と2LDKが5戸しか作れないんだよな。そのあとは1階に3LDKを一部屋作って、あとは治療費のために魔石を貯める予定だしな。


 もう椅子での移動やトイレやお風呂に慣れたシュンランとミレイアには、それぞれの部屋を持たせてあげるつもりだ。俺もそろそろリビングではなく自分の部屋が欲しいしな。


 新しい俺たちの部屋を1階に作るのは、今後お客さんが大勢入るようになった時に毎日二人を抱えて階段を上り下りするのも大変になると思ったからだ。


 1階に部屋を作るかどうかはお客の入り次第だから、地下に残りの部屋を作ってバージョンアップしなかったら一旦諦めるか。説明書を寄越さない女神が悪いんだし。


 俺としては国や教会に狙われたりしてこの世界にいられなくなった際に、シュンランとミレイアを連れて元の世界に逃げれるようタワーマンションを作っておきたいんだけどな。過去の勇者がこの世界の竜人族とエルフと人族を地球に連れ帰れたんだ。俺もできるはずだし。


 バージョンアップの方法は気になるけど、今は治療費を稼ぐことが優先だ。部屋ばかり作って魔石を貯めれなくなるのは困る。だからバージョンアップのことはまた今度考えよう。


『涼介、夕食ができたぞ』


「ああ、今行く! 」


 俺は長屋のように連なる1Rの部屋の向こう側から呼ぶシュンランに、そう返事をして彼女たちの待つ部屋へと向かうのだった。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「ごちそうさま。岩猪の素揚げがすごく美味しかったよ」


 俺は箸を置き手を合わせ、ご飯を作ってくれた二人に感謝した。


「フフッ、喜んでもらえて良かった」


「良質な魔油が採れたので美味しく作れました。リョウスケさんが火熊を狩ってきてくれたおかげです」


「ははは、タフな奴だったけどね。なんとか狩れたよ」


 腹に穴が空いても炎をまとった腕を振り回してたもんな。さすがCランクの熊だわ。


「道を作り狩りをして帰ってきたらすぐに部屋を作りと、涼介は本当に働き者だ。普通は3日狩りをしたら休むものなのだぞ? 」


「そこはまあ毎日風呂に入れるし、二人がマッサージしてくれるからね。おかげで毎朝気力が充実してるよ」


 うつ伏せになりながら背中に代わる代わるまたがり、マッサージしてくれる二人のお尻を感じつつ、追加で設置した姿鏡で胸の谷間を眺めてればな。股間も気力も元気にならないわけがない。


「そうか、なら今日は長めにマッサージをしてやろう」


「私も一生懸命涼介さんを揉みほぐします! 」


「ありがとう」


 俺もミレイアのその巨大な胸をいつか揉みほぐしたい。


「それにしてもあっという間に部屋数が増えたな。あれだけあればレフやカルラたちが客を連れてきても事足りるだろう」


「大部屋も増設しましたし、100人来ても大丈夫ですね」


「あはは、そんなに来るかなぁ」


「フフフ、それに近い人数は来ると思うぞ。人族のパーティは人数が多いしな。しかし……涼介の間取り図のギフトは本当に凄いギフトだな。現時点でこれほどの物を作れるのだ。もしも派生ギフトが現れたりしたら、それはいったいどのようなギフトなのだろうな」


「派生? ギフトって増えるのか? 」


 あれ? ギフトのことを聞いた時はそんなこと言ってなかったよな?


「ん? 言ってなかったか? 」


「そういえば話してなかったですね。私も忘れていました」


「そうだったか。どうやら言い忘れていたようだ。そう、ギフトは稀にだが増えることがあるのだ。例えば『腕力強化』のギフトを持つ者に、『身体強化』のギフトが増えたりな。カルラがまさにそうだな。彼女は数年前に突然身体強化のギフトを授かったと言っていた。ほかにも『探知』のギフト持ちが『追跡』を追加で授かったり、『治癒』のギフト持ちに『解毒』が増えたとも聞いたことがある。しかしそれらがどうしたら増えるのかはわかっていない。だが増えたギフトは、もともと持っているギフトと同じ系統のギフトだということはわかっている。まあいずれにしろ増えるのは稀な事なのだがな」


「希少なギフトほど派生はしにくいとも言われていますが、女神様より直接いただいたギフトならその例には当てはまらないかもしれませんね」


「そうなのか……まあどうだろうな。あまり期待しないでおくさ。今でも十分強力なギフトだし」


 なるほど派生かぁ。派生というよりも進化っぽいけど、元のギフトが無くならずに増えるから派生って言ってるのかもな。


 となると間取り図のギフトは派生する可能性があるな。


 ヘヤツクに『間取り図作成』の項目はあったけど、『募集図面作成』の項目がなかったからな。女神の望むマンションを建てるには、鉄筋コンクリート造りとか、エレベーターなど建物の構造や設備を書き込める募集図面がないと厳しい。地上げ屋でタワーマンションを作れるとも思えないし。強化ガラスやエレベーターなんかを作るのは無理だろ。


 恐らくヘヤツクのバージョンを上げていく途中で、募集図面作成が現れそうな気がするんだよな。


 いずれにしろバージョンアップすらできない現状では、派生なんかしようもないか。個人的には間取り図よりも、火災保険の派生で健康保険的なのが現れてくれた方がいいな。そしたら病気や怪我をしない身体になるし。それはさすがにチート過ぎか。


 その後どんなギフトがこの世界にあるのかシュンランさんたちと話したりして、最近作った俺の手作りのダーツゲームをして盛り上がった。


 座って投げている二人にボロ負けしたけど……槍投げなら負けないんだけどな。


 ゲームのあとダーツで負けて少し凹んだ俺は、お風呂から出てきたバスローブ姿の二人にマッサージをお願いした。


 この格好で? と恥ずかしがる二人に、うつ伏せで見えないからと言って頼み込みやってもらえる事になった。この時俺はなんでもないような顔をしていたが、内心では大喜びしていた。


 そしてマッサージ中。薄目を開けて姿鏡に映る二人を見ると、期待通りバスローブが乱れ紐パンが丸見えになっていた。そのうえシュンランのポロリまで見えて、俺は心も身体も元気になるったのだった。


 やっぱシュンランはCはあるよな。白くてお椀型で先端がピンクで形がすごく良かった。


 次はミレイアのポロリも見たいな。しばらくバスローブマッサージをお願いしてみよう。ラッキースケベと出会うために!


 それからマッサージを終えお風呂に入りシュンランとミレイアを思い出しながらスッキリした俺は、明日からは本オープンだから忙しくなるなと思いつつ眠りにつくのだった。

 

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