第4話 和解




「うぉぉぉ! すげー! お湯だ! 本当にお湯が出た! リョウスケの兄ちゃん! これが貴族が毎日入ってるっていう風呂ってやつなのか? 」


「俺は見たことがないからわからないけど、そうは違ってないと思うよ」


 浴槽に溜まっていくお湯を身を乗り出して覗き込み、興奮しているコニーへとそう答えた。


 貴族の生活なんてシュンランでも知らないのに、俺が知る訳ないしな。



 レフさんたちに部屋の説明を初めて、もうかれこれ1時間近くは経つ。なんにも知らない人に説明するのは二度目だけど、一から設備の説明をするのは骨が折れる。玄関で靴を脱ぐことから説明しなきゃなんないんだもんな。


 まあでもエアコンにキッチン周りの家電に掃除機。それに洗濯機にトイレと説明が終わり、やっと浴室までたどり着いた。そりゃあもうみんな驚いていたよ。


 レフさんなんて、なんじゃこりゃ〜ってずっと言ってた。洗面台の鏡に映る自分の姿にも驚いていたのは少し笑えた。街にある鏡は銅を磨いた物で映りが悪いからな。外からも女性の驚く声や興奮した声が聞こえてくるから、シュンランとミレイアのところも同じなんだろう。


「ここに湯が溜まって西の山の麓にある湯の池みたい浸かるわけか。ん? この筒はなんだ? 」


「それはシャワーといって、ここを捻るとそこからもお湯が出るんです。身体や頭を洗ったあと、石鹸を洗い流す時に使ってください」


 シャワーノズルを手に持って眺めているレフさんに、蛇口を指差しながらそう説明した。


「これか? うおっ! 本当だ! 温けえ! さっきの変わったトイレになんでも吸い込む筒に、箱に入れるだけで服を洗ってくれるっていう魔道具もやべえが、これも相当高度な魔導技術がねえと作れねえぞ? 本当に全部リョウスケが作ったのか? 」


「まあそうですね」


 ギフトの能力なんだけど、レフさんといえどもこの能力は話せない。シュンランとミレイアと話し合って秘密にすることにしたんだ。俺の父親は山奥に隠れ住んでいた凄腕の魔導技師で、俺はその技術を継承し大地のギフトとその技術でこの部屋を作ったということにしてある。


 無理がある設定だとは思う。しかし魔石で部屋を創造するギフトなんてとんでもないギフトが存在すると知られたら、貴族の耳にあっという間に届き興味を抱かれる。でもそれが魔導技師が作ったすごい部屋という程度なら、貴族は自分の常識の範囲内で想像してそこまで興味を抱かないだろう。いつかは知られるが、なるべく遅くするための工夫だな。


「凄いでヤス! リョウスケさんは天才魔導技師でヤス! 」


 レフさんたちのパーティの荷物持ちの鹿人族の男の子が、目を輝かせながら俺を褒めちぎってくる。


「あはは、ありがとうロイ君」


 この子は確か一緒にいた兎人族のラミという気弱な女の子と同じく、レフさんの故郷の村の子みたいなんだよな。というかレフさんのパーティは故郷の村とその隣村の人ばかりらしい。村の出身者でパーティを代々受け継いでいるそうだ。レフさんも引退した先代のリーダーから、このパーティを受け継いだらしい。


 荷物持ちのロイ君もラミちゃんも、コニー君と一緒でパーティに入って間もないと言っていた。そんな二人はまだ17になったばかりだそうだ。戦闘系の種族じゃない獣人は、ほとんどがこうしてハンターの荷物持ちをしているそうだ。


「……リョウスケ殿。入ってみても? 」


「え? ええ、どうぞ。この101号室から105号室はレフさんたちに割り振る予定の部屋ですので」


 ビックリした! ハッサンさんが喋るの初めて聞いた。この熊人族の男性は唸ってばかりでずっと喋らなかったもんな。寡黙な人がいきなり喋るとビックリするよな。


 まあこの巨体の男性でも入れるよう、浴槽は大型の物を設置してあるから大丈夫だろう。


 ちなみに各部屋の入口のドアの横には、シュンランとミレイアが木を彫って作った部屋のナンバープレートが取り付けられている。犬や猫に熊などの形をした可愛い木製のナンバープレートだ。女の子が作ったって感じがしてほっこりする。


 シュンランて普段はクールで大人っぽいんだけど、ああ見えて可愛いものが好きなんだよね。プレートを作った時も、自信満々に『どうだ? 可愛いだろ? 』って俺に猫の木製プレートを差し出してきたんだ。それで俺が『ああ、可愛いよ。シュンランがすごくね』って答えたら、『き、君は何を言っているのだ』って顔を真っ赤にしてさ。普段は凛々しい雰囲気の子が照れる姿に胸がキュンキュンしちゃったよ。あれがギャップ萌えってやつか。


「5部屋も使っていいのかよ。けど俺とベラは同じ部屋でいいから4部屋でいいぜ。カルラのパーティは大所帯だしな。それに大部屋の使用感も伝えなきゃいけねえから、ロイとラミは大部屋に泊まらせるしな。ああ、ロイ。大部屋に風呂はねえみたいだから、今日はコニーと一緒に他の部屋の風呂に入って来い」


 え? レフさんとベラさんってそういう仲だったの? 知らなかった。


 ベッドはセミダブルだからギリ大丈夫だと思うけど……二人は今夜そのベッドで……くぅぅ! あんな美人と羨ましい!


「やったでヤス! コニー! 他の部屋に行くでヤス! 」


「よっしゃ! 風呂っていうのに一度入ってみたかったんだ! このいい匂いがする頭の石鹸ってのを試してみるか! 」


「あっ! 二人とも、さっき説明したようにタオルと寝具以外は部屋の外に出せないから気をつけてくれよ? あと鍵は玄関の横にあるから無くさないように! 」


 俺が肩を組んで部屋を出ていこうとする二人にそう声をかけると、二人はわかってるって言って靴に足を突っ込み出て行った。


 そうなんだ。部屋の中の物は、俺以外に自由に外に出せなかったんだ。これは以前シャンプーやトイレットペーパーなどの消耗品を無限増殖させようとした際に、ミレイアに運ぶのを手伝ってもらった時に判明した。


 ミレイアがシャンプーボトルを持って玄関の外に出ようとしても、シャンプーボトルだけが何かの壁に遮られているかのように外に出すことができなかった。


 その後色々と試してレトルト白飯も家具も家電もダメだったが、手ぬぐいや寝具類に歯ブラシやひげ剃りだけ外に出すことができたんだ。


 恐らくこの世界の文明からかけ離れた物はダメなんだろう。ただ、シャンプーのボトルの中身だけは出せた。きっと洗い流し忘れとかがあったら部屋から出れなくなるからだと思う。


 俺だけ全て外に出せるのは、部屋を創造した者だからなんだろう。


 まあこれで盗難の心配をしなくて済む。電化製品は盗まれてもどうせ外じゃ使えないけど、物珍しさで持っていかれる可能性があるしな。それに食器や調理器具は数が多くて盗まれても気づかないかもしれない。そうなったらまた買わないといけないからコストが高くついてしまう。


 それらが外に出せないなら、退去時のチェックが楽になるから助かる。寝具はデカイから持っていかれてもすぐ分かるし、タオル類や歯ブラシやひげ剃りくらいなら安いもんだ。温泉宿みたいにお土産としてあげたっていい。


「物を持ち出せねえって、ほんとどうなってやがんだ? これも魔導技師が作る魔導回路ってやつの力なのか? 」


「ええ、そんな所です。結構作るのも大変な物なので、盗難予防の回路を部屋に組んでいるんです」


 魔導回路がなんなのか知らないけど。


「そんなこともできるのか……人族の技術は進んでんだな。しかしこんな豪華な部屋を本当にタダで住んでいいのかよ? 」


「ええ、遠慮なく利用してください。ただ、魔石式発電機に入れる魔石は負担をお願いしますね」


 光熱費くらいは自己負担してもらってもいいだろう。どれくらい使ったらエネルギーメモリがどんだけ減るかも実感できるだろうし。


「Fランクの魔石で5日も使えるんだったか? それならどうってことねえよ。しかしそんなんで風呂に入れるほどのお湯も出るし、温風が出るエアコンってのも使えんのか。どういう仕組みでこんなクズ魔石でそれだけの魔道具を動かせるのかさっぱりわかんねえな」


「その辺は一族の秘密ということで」


 俺もどうして魔石で電気が使えるのかさっぱりわかんないけどな。そもそもトイレの下水ってどこに消えてるんだろ? 


「う〜む……まいっか! 俺の頭で考えてもわかる訳ねえしな! リョウスケはすげえ! そういうこったな! ハッサン、お前は隣の部屋を使わせてもらえ。俺とベラはここでいいや」


「……わかった」


 ハッサンさんはそう言って玄関へと向かった。その声は心なしか楽しそうに聞こえた。


「んじゃリョウスケ、ベラを見かけたら俺はここにいるって教えておいてくれ。風呂ってのに入ってみるわ! 」


「わかりました。それじゃあ俺はこれで。わからないことがあったら向かいの部屋が俺の部屋なんで聞きに来てください」


 俺はレフさんにそう伝えてから部屋を出た。


 部屋を出るとベラさんとカルラさんのパーティの女性たちが、奥にある106号室の前で何か話しているようだった。その中心には、椅子に座っているシュンランとミレイアが見える。


 ん? シュンランたちが何かを話してる? 


 なんだかミレイアも真剣な表情だ。何か注意事項の説明をしてるのかな?


 そんな風に考えつつ彼女たちを見ていると、シュンランと目が合った。すると彼女はベラさんとカルラさんに何か言ったあと、彼女たちに椅子を押されながらミレイアと一緒にこちらへと向かってきた。


 その後ろからサラさんたち棘の戦女の女性たちが続いている。しかし彼女たちの表情は、先ほど外まで聞こえていた明るい声からは想像もできないほど暗かった。


 俺は特に暗い顔をしていたサラさんを見て、先ほどシュンランたちと何を話していたのかを察した。


 そしてやれやれと思いながら目の前に座るシュンランに視線を向けると、彼女はフッと笑ってから口を開いた。


「涼介。部屋の設備の使い方の説明は終わったよ。すぐに部屋割りをしようと思ったんだが、その前に涼介への誤解を解いていたのだ」


「皆さん最初は信じてくれませんでしたが、ベラさんが当時の状況を話してくれて、オーガキングの魔石を見せたら信じてくれました」


「別にそこまでしなくてもよかったんだけどな」


 俺は満足そうに言う二人に、やっぱりあの話か。別にいいのになと思っていた。


 ん? よく見るとミレイアの目が真っ赤だな。頬に涙の跡もある……泣きながら俺に対する誤解を解こうとしてくれたのか?


「涼介を侮辱されるのは私たちが辛いのだ。だから涼介が、その辺にいる男どもとは違うということを理解して欲しかったのだ」


「シュンランさんのいう通りです。ですから涼介さんがどれだけ凄くて素晴らしい男性なのかをちゃんとお話ししました」


「そうか……ありがとう」


 俺は向かいで椅子に座りながら微笑む二人の手を引き、こちら側に引き寄せた。そして少し屈みながら肩を抱き寄せ、二人の耳元でありがとうと言った。


 サラさんたちにどう思われようが別に気にしない。好きな子にだけ嫌われなきゃ、ほかの女性にどう思われようが別に構わない。


 でもそれを是とせず、俺のために一生懸命誤解を解こうとしてくれた二人がどうしようもなく愛おしく感じたんだ。


「涼介……」


「涼介さん……」


 シュンランとミレイアは俺を見つめ、肩を抱く俺の手にそれぞれの手を重ねた。


「ほら、サラ。こんなに信頼し合っている三人を疑う余地なんてないでしょ? 」


「……ええ」


 ベラさんが後ろにいたサラさんにそう言うと、サラさんがコクリと頷いて数歩前に出た。


「リョウスケさん。先ほどは酷いことを言ってしまい申し訳ございませんでした。シュンランさんに叱られ、ミレイアさんに涙ながらに貴方が彼女たちを今までどれだけ支えてきたのかお聞きしました。まさか彼女たちを救うためにオーガキングの率いる群れに単身で挑んだだなんて……そのうえ彼女たちは貴方に一切の見返りを求められてはいないと言っていました。そして貴方を心から信頼していると……私は貴方を誤解していました。本当に申し訳ありません」


 サラさんはそう言って頭を下げた。後ろにいたパーティメンバーの子たちも、目を伏せ申し訳なさそうな顔をしている。


「頭を上げてください。謝罪は受け取りました。俺は気にしていないので、サラさんももう気にしないでください」


 あれだけ苛烈な態度を取るにはそれだけ男にひどい目に遭ってきたか、そういう子たちをたくさん見てきたからだろう。それでも間違いは間違いだと、嫌いな男に頭を下げることができるんだ。もともと気にしていなかった俺としては、逆に好感が持てる女性だ。


「謝罪を受け取っていただきありがとうございます」


「よっし! ちゃんと謝れたな! リョウスケ、うちの副リーダーが悪かったな。普段は面倒見が良くて優しい女なんだ。嫌いにならないでやってくれ」


「とんでもないです。悪いことは悪いとちゃんと謝れる人間を嫌いになることなんてありませんよ」


 人を傷つけたことに気づいても、謝れない人間なんてたくさんいるからな。悪いことをしたら謝る。たったこれだけの事が、大人になればなるほどできなくなる人は多い。しかもそれが嫌いな相手だったら尚更だ。それがちゃんとできる人間を嫌いになるわけがない。


「かあぁぁ! いい男だなお前! シュンランとミレイアが必死に庇うわけだ」


「フフフ、部屋の説明が終わった後にシュンランが怖い顔でみんなを集めてね? リョウスケは決してひどい男じゃないって。私たちを本当に大切に思ってくれてる優しい男なんだって。ミレイアも泣きながらリョウスケさんはカッコ良くて優しくて強くて誠実でって……もう途中からただのノロケだったわよ? 愛されてるわねリョウスケ」


「そうニャ! もうリョウスケの自慢話ばかりだったニャ! 」


「べ、ベラ! ミリーも! ノロケなどではない! 起こったことをありのまま話しただけだ! 」


「そ、そうです! 涼介さんが優しくて誠実な男性なのは本当のことです! 」


 ベラさんとミリーの言葉に二人は顔を真っ赤にして反論した。


 可愛いなぁ二人とも。


 そうか。俺は二人にそんな風に思われてるのか。さすがにこれは本当の気持ちだよな?


「あっははは! シュンランもミレイアも照れるなよ。オーガキングから二人を救って、二人を抱き抱えながら森の中を二日も歩いてここへ連れて来たんだろ? そのうえ生活に不自由しないよう、あんな豪華な部屋を作ってくれた。しかも二人の治療費を稼ぐために、リスクを承知で宿屋を始めるなんて言われて惚れない女がいるわけねえさ。それでいて二人に一切手を出してないとか、リョウスケは本当に男……なんだよな? 」


「ははは、健康な男ですよ」


 失敬な! 俺の股間をそんな不能を見るような目で見ないで欲しい。


 足を治したらお互いの気持ちをもう一度伝えるって約束した以上は仕方ないんだ。


 くっ……毎日出掛ける時と帰ってきた時には、ノーブラの推定Cカップ美女とFカップ美少女と抱きしめ合ってるし、冬なのにエアコンガンガンにつけて二人とも部屋じゃ薄着だし、そのうえソファーにいると無警戒にくっついてくるし。ジャンガやオセロで遊んでると、パンチラや胸チラなんかしょっちゅうだし。


 よく我慢してるな俺……


「マジかぁ。こんなイイ男もいるんだな。ハンターなんてやってるとよ、魔猿みたいに年中盛ってる男しか周りにいねえから新鮮だわ」


「ほんといい男よね。しかもあんなとんでもない部屋と魔道具まで作っちゃうし。リョウスケが隠匿生活をしていた凄腕の人族の魔導技師の子だったなんて知らなかったわ」


「リョウスケはただ者じゃないと思ってたけど、まさかこんなに凄い物を作れる魔導技師だったなんて知らなかったニャ! 」


「いやぁ、それほどでも」


 よし、シュンランたちもちゃんと設定通りに話してくれたみたいだ。


 俺がホッとしていると、サラさんが何か難しい顔をしながら口を開いた。


「魔導技術の先進国と言われている王国でも、あれほどの魔道具は見たことがありません。リョウスケさん。失礼ですがお父上の名をお聞きしても? 」


「え? 親父の名前ですか? あ〜……ゲンドウっていうんですけどね。変わり者で魔導技術は全部独学って言ってましたから、多分世に名前は知られてないと思いますよ? 」


 しまった! 名前を考えておくのを忘れて古いアニメのキャラの名前出しちゃった。


 まあ別にいいか。どうせ親父の顔も名前も知らないし。あのキャラならロボットとか作ってたしピッタリだろ。


「ゲンドウ……聞いたことのない名前ですね。帝国にもそういった名前の技師はいなかったと思います。ですがあのお風呂も小型の温風機もとても素晴らしいものでした。それにゴミを吸い込むあの筒にしても、箱に入れるだけで服を洗ってくれる洗濯機という魔道具など、どの国にもありません。あれだけの技術をお持ちなのです。王国に仕えれば、シュンランとミレイアの治療費くらいすぐに稼げるのではないですか? 」


「あ〜俺はその……ハーフですし。それに親父の遺言でどの国にも仕えるなと言われてまして……」


 くっ……そう来たか。確かにその通りだ。でも国に仕えたらギフトの能力だってバレるし、シュンランとミレイアを人質にずっと部屋を作り続けさせられるかもしれない。


 それでタワーマンションができるなら逃げれるが、本当に部屋を作り続けるだけで『ヘヤツク』のバージョンが上がるかはわからないしな。なんたってまだ一度もバージョンアップしてないし。もしかしたらレベルも相応に必要なのかもしれない。もしそうなら完全に詰む。だから国に仕えるわけにはいかない。


 しかしこのサラという子は魔道具に詳しいんだな。頭も良さそうだし、親が魔導技師だったとか? 


「お父上の……そうでしたか。差し出がましいことを言いました」


「いえ……」


「おいサラ! なに言ってんだよ。国に仕えでもされたらここに泊まれなくなんだろ。リョウスケにはここで宿屋をやってもらわないといけねえんだからよ! この立地にこんな豪華な宿があるんだ。シュンランたちの治療費なんてすぐに稼げるようになるって! 」


「それはそうですけど……あれだけのお部屋です。宿代もお高いのではないですか? 街の安宿に泊まっている私たちに到底払えるとは思えません」


 安宿って確か一人あたり1泊小銀貨2枚と食事とお湯で銅貨3枚くらいだったかな? あ、人族の街はもうちょっと高いって言ってたな。なら小銀貨3枚くらいか。一人3千円でも17人分だもんな。ものすごい出費になるな。


 人族は身体能力が低いからな。強力なギフト持ちがいても、他の種族よりもパーティを組む人数が多いと聞いた。それでいて人口が多いからハンターになる人間もその分増える。そうなると南街の宿屋の数が追いつかなくなり、料金も上がるってとこか。


「そんなに心配するほど高くするつもりはありません。部屋はどんどん増やしていくつもりなので、多くの人に利用してもらわないと本末転倒ですからね。そのためにも皆さんには部屋を利用した感想をいただきたいんです。ご協力お願いします」


「まっかせっとけって! へへへ、風呂に入ってみたかったんだ。西の山の湯が出る池は野郎どもが多いからみんな嫌がってよ。一度ゆっくり入って見たかったんだよな」


「確かに露天風呂は女性にはキツイですね。105号室から112号室の8部屋がカルラさんのパーティのお部屋ですので、好きな部屋を使ってください。鍵は無くさないようにお願いしますね」


「おっ!? そんなにいいのか? 後から参加したのに悪いなベラ。ああ、ベラはレフと同じ部屋だからか。今夜はお楽しみだな! イシシシシ! 」


「ちょっと! リョウスケの前でなんてこと言うのよ! 」


「あははは! いいじゃねえか。お? なんだリョウスケ? そんな羨ましそうな顔して溜まってんのか? こんな顔に傷のある女で良けりゃ、アタシがスッキリさせてやろうか? 」


「え!? 」


 マジか!? いいの!?


 痛っ! 手が……シュンランとミレイアと繋いでいた手が痛い。


「ぷっ! 冗談だって! そんな怖い顔すんなよシュンランもミレイアもよ」


「……私は別に怖い顔などしていない」


「……私もです」


 うっ、怖い……怖くてシュンランとミレイアを見れない。


「ククク、いいねえ。純だねえ。リョウスケ、大事にしてやれよな。それじゃあみんな! 大部屋で部屋決めくじ引き大会をするぜ! 」


「「「「「はいっ! 」」」」」


 カルラさんはそう言ってパーティの子たちを連れ、奥の大部屋へと移動して行った。


「まったくカルラったら……それじゃあリョウスケ。私たちも行くわね」


 残されたベラさんが、ミリーさんとずっと隅っこでおとなしくしていた兎耳のラミちゃんの肩を抱いて呆れながらそう言った。


「あ、レフさんは101号室にいます。そう伝えてくれと言われました」


「そう、ありがとう。とりあえずみんなを部屋に集めるわ」


「何かわからないことがあったらいつでも聞きに来てくださいね」


「ええ、そうするわ」


 ベラさんはそう言って101号室へと入っていった。


 それを見届けた俺は、不機嫌な顔をしているシュンランとミレイアの椅子を恐る恐る押して部屋へと戻るのだった。


 何はともあれ最初のお客さんを迎え入れられた。


 あとは明日利用した感想を聞いて、修正するところは修正して本格オープンの日に備えるだけだな。




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