第3話 棘の戦女
プレオープンの前夜祭をシュンランとミレイアと楽しく過ごした翌日。
今日はレフさんのパーティと二週間前に約束した日なので、早朝から滝のあるあの川辺へと向かっていた。
会ったら頼んでいた物を受け取りマンションに誘うつもりだ。
それにしても昨夜シュンランたちが作ってくれた料理は美味しかったな。二人とも俺の好きな物ばかり作ってくれていて、オープン準備を毎日ご苦労様でしたって言って労ってくれた。
食事中にミレイアが隣で甲斐甲斐しく世話をしてくれたし、恥ずかしそうにあーんって食べさせてもくれた。もう抱きしめてキスしたいくらい可愛かった。
それから食事が終わって二人の後に俺が風呂に入って出てくると、シュンランが頬を赤らめながらバスローブ姿で耳かきをしてくれるって言ってくれたんだ。
もちろん俺は喜んでシュンランに膝枕&耳掃除をしてもらったよ。当然反対側の耳を掃除してもらう時は、顔をシュンランのお腹に向けた。そして三角地帯から見えるベージュの紐パンをずっと凝視してた。
鼻息がくすぐったいとか言われたけど、聞こえないフリをずっとして至福の時を過ごしたよ。そんな俺の姿を向かいで見ていたミレイアが、恥ずかしいけど私も今度やってあげたいですって言ってくれたりしたし。
なんというかプラトニックだよな。今まで付き合った子とはすぐ身体の関係になってたから、こういうのもいいなと思い始めてきた。まあでも身体は正直で、レベルアップする度に精力も強くなり自家発電の回数も増加してるけど。
そんなことを考えながらも俺は、何度も通り踏み慣らしてできた道を魔物を無視して駆け続けた。
そして3時間後。目的地の滝が見えてきた。
「あ、いたっ! ん? 近くにいる人たちは誰だろ? 」
滝が近づくにつれて、川の近くに張られているテントの前で焚き火を囲んでいるレフさんのパーティが視認できた。しかしその近くに10人以上の人族らしき女性ハンターたちもいるようだった。
俺はそのうちの数人の女性たちと楽しそうに話しているベラさんの表情から、知り合いのパーティかなと思いつつ森から川辺へと降りていった。
「あっ! リョウスケにゃ! 」
「ミリーさんこんにちは。レフさんにベラさんももう来てたんですね。お待たせしてしまっていたらすみません」
俺の姿にいち早く気づいて手を振るミリーさんに笑顔を向けて応え、隣にいたレフさんとベラさんに軽く頭を下げた。
「リョウスケ、もう来たの? 私たちは昨夜に着いてゆっくりしていたわ。狩りのついでみたいなもんだし気にしないでよ」
「おうっ! リョウスケ、約束通り来たぞ! 前にも言ったがいい加減その『さん』付けはやめろって言ってんだろ気持ち悪い」
「あはは、いやすいません。もう少し慣れないとなかなか……その、お隣の人族の方は? 」
「彼女たちは『棘の
ベラさんは茶髪のショートカットで額から顎にかけて深い切り傷がある女性と、長い金髪の髪を後ろでまとめている水色のローブの女性に手を向けながらそう説明した。
「リーダーのカルラだ。アンタが半魔のリョウスケかい? あっと、別にアタシたちは差別とかしないから安心してくれ。アタシも先祖に魔人の血が入ってるしな。しかしベラから聞いてはいたが、魔人のような黒髪の割には人族そっくりだな。相当腕が立つんだって? 」
カルラと呼ばれた女性は自分の茶色い髪を指差し、笑みを浮かべながら俺を興味深そうに見ている。
先祖に魔人か。クウォーターみたいな人族もいるのか。まあそりゃいるか。
「ええまあ、一人で森をうろつけるほどには」
俺は一人で行動している以上は謙遜しても嫌味になると思い素直に答えた。
カルラさんは革鎧に腰に片手剣を差しており、身長は170センチあるかないかというところだ。顔立ちは良くて綺麗な女性なんだけど、額から顎にかけて深い切り傷があり怖い印象を受ける。
本人には言えないが、顔の傷がすごくもったいないな。あれだけ深い傷だと治癒水が間に合わなかったんだろうな。シュンランが深い傷の場合は、中級治癒水を早めに飲まないと跡が残るって言ってたしな。
「あら? 一人で森を歩けるなんて無謀にも程があるというのに凄い自信だこと。どうでもいいですけど、その汚らわしい目でカルラをジロジロと見ないでもらえますか? 」
「そんなつもりはないんですけど……気に障ったならすみません」
うわぁ……凄いなこのサラという女性。こんなゴミムシを見る目で見られたのは初めてだ。
スーツとメガネが似合いそうな理知的な顔をしていて、長身ですごく綺麗な女性なのにな。ドMの男だったらご褒美かもしれないが、あいにく俺はそうじゃないんでな。関わりたくないタイプだ。
「あ〜悪りぃなリョウスケ。うちのパーティは貴族の男やハンターやら魔物やらにと、まあ色々と酷い目に遭った奴ばかりでよ。男に対してはちょっとキツイんだ。大目に見てやってくれ」
「そうだったんですか。いえ、気にしてませんので」
なるほど。それなら納得だ。よく見ればレフさんたちからみんな距離を取っているし、カルラさんとサラさん以外は俺を見ようともしないな。それに目や腕や耳などどこかしら欠損している女性が多い……これは相当酷い目に遭ってきた女性たちばかりなんだろう。
「ガッハハハ! さっそくサラ女史の洗礼を受けたな。俺も最初はボロクソに言われたもんだぜ」
「サラは仲間を守るためにちょっと神経質になり過ぎなのよね。でもカルラもサラも男や魔物に酷い目に遭った子や、身寄りの無い傷ついた子を集めて治療費を稼いでる優しい子なのよ? 」
「え? まさか全員のをですか!? それは……」
見たところ欠損者は5人や6人じゃない。いくら人族で治療費は魔族よりは掛からないとはいえ、Dランクで全員分の治療費を稼ぐなんて相当厳しいだろう。
カルラさんもサラさんも優しい女性なんだな。
「少しづつな。治してもパーティから出て行かねえもんだから、荷物持ちと合わせて17人もの大所帯になっちまった。効率の良い狩場を見つけるか、Cランクの魔物を狩らねえと追いつかなくなってきちまったぜ」
カルラさんがそう口にすると、背後に隠れるようにいた赤いローブ姿で片目に眼帯をしている小柄な女の子がうつむいたのが見えた。
「おっと、いけね! クロエのせいじゃねえからな? お前の炎のギフトは役に立ってるからな? 他のみんなのために一緒に稼ごうな? 」
そんな彼女をカルラさんは慌てた様子で慰めていたが、クロエと呼ばれた女の子はコクリと頷くだけだった。
それにしても他人のためにここまでできるなんて凄い女性だな。そして本当にこの世界は女性に対して残酷だ。
「良い子でしょ? もう27なのに自分の顔の傷を後回しにして、仲間のために治療費を稼いでいるのよ」
「ええ、優しい女性ですね。自分より他人を優先するなんてなかなかできる事じゃないです。尊敬します」
「なに言ってるのよ。リョウスケだってシュンランとミレイアのためにこうして駆け回ってるじゃない。はいこれ。頼まれていた物よ」
ベラさんは微笑みながらそう言って俺に麻袋を渡した。
中を確認すると、シュンランが着ていた紫のチャイナドレスのような武道着と、それと同じ形の黒の武道着。そしてミレイアが着ていた白のローブが2着入っていた。
「あ、直ったんですね。それに新品の服も。料金は足りましたか? オーバーしていたなら払います」
「大丈夫よ。もらったお金でなんとかなったから。それよりシュンランとミレイアは元気? この間渡した物で足りた? 」
「ええ、二人とも元気ですよ。用意していただいた物は喜んでました。ありがとうございます」
替えの下着や生理用の下着に薬やらが入っていたみたいだしな。俺には用意できない物ばかりだし、ベラさんには大感謝だ。
「また色々と持ってきたから二人に渡しておいてくれる? 」
「それなんですが……実は俺のギフトで森にハンター専用の宿を作ったんですよ。そこに今日レフさんたちを招待したいと思っているんです」
俺はカルラさんから離れて話をしようと一瞬思ったが、彼女たちなら聞かれてもいいかと思いその場でマンションを作ったことを話した。
「ぶっ! 滅びの森の中で宿だぁ!? 」
その瞬間、レフさんが飲んでいた物を噴き出しながら驚きの声を上げた。
あまり表情を変えない熊人族のハッサンさんですら隣で驚いた顔をしている。
背後からはカルラさんたちが何やらヒソヒソ話している声も聞こえてくる。それだけこの滅びの森で宿屋をやるというのは無謀な事なのかもしれない。
「マジかよリョウスケの兄ちゃん! 」
「それは無謀ニャ! 今まで王国も帝国も森の中に軍の駐屯地を作ろうとしたけど全部魔物によって壊されたニャ。大勢の人が1箇所にずっといると、強い魔物の狩り場になるニャ! 」
「そうよリョウスケ。確かにリョウスケのギフトならできそうだけど、森で宿屋をやるなんて危険よ」
「大丈夫ですよ。岩山にちょうどいい洞窟がありまして、そこを改装して作ったんです。壁で周囲も囲っていますし、深い堀も掘っているので森の中で野営するよりは遥かに安全だと思いますよ。まだ部屋数は少ないですが、レフさんたちに住み心地の感想をいただきたくてお誘いしたんです。もちろん料金は頂きません。1日でいいので泊まってもらえませんか? 」
俺は驚くレフさんたちに安全なことをアピールした。
しばらくは神殿の岩戸を夜は閉めるつもりだからな。安全なのは間違いない。
「壁に堀まで作ったのかよ。リョウスケがそこまで言うなら大丈夫なんだろうけどよ。しかしとんでもねえことをやろうとしてんな」
「タダ!? タダならいいニャ! 行くニャ! リョウスケが建てた家を見たいしシュンランたちにも会いたいニャ! 」
「そうね……リョウスケがそこまで自信があるなら大丈夫そうね。特に予定はないし、シュンランとミレイアに会えるならお世話になろうかしら」
「ありがとうございます。それでしたら案内しますのでさっそく移動の準備をお願いします」
よし、第一段階は成功だな。あとは荷物持ちの子たちを含めてこの7人に部屋を気に入ってもらえれば完璧だ。まあ絶対に気にいると思うけど。
「ええ、荷物をまとめさせるわ」
ベラさんはそう言ってレフさんたちと一緒に、焚き火と展開していたテントの片付けを始めた。
すると近くで話を聞いていたカルラさんが話しかけてきた。
「なあリョウスケ、ちょっといいかい? ベラたちがあっさり信じちまって困惑してるんだけどよ。いったいその宿屋ってのはどこに作ったんだ? 」
「ここから半日ほど北に行った、森の拓けた場所にある岩山に作りました。良ければカルラさんも来られますか? もちろん無料でいいですよ」
カルラさんなら大丈夫だろ。貴族に酷い目に遭ったとか言ってたし、何より善人だ。
「ここから半日の北の森の拓けた場所って……飛竜の狩場じゃないか! あそこに岩山なんてあったか? いや、どちらにしても水場も近くにないそんなところで宿屋なんてできるのかい? 」
「ええ、水源は確保してありますので心配ありません。好きなだけ使えますよ」
「好きなだけって……それは本当かい? 」
「ええ本当ですよ。狩りのついでに寄っていってくださいよ。お風呂もありますし、快適な部屋ですよ」
「風呂!? 風呂ってあの貴族が入ってるような奴のことかい!? そんなものまで……」
「ちょっといいかしら? カルラ? お風呂があるなんて嘘に決まってるわ。男は良いことばかり言って女を騙すんです。きっと何か別の目的があるに違いありません。いちいち信用していたら馬鹿を見ますよ? 」
おうおう、サラさん言ってくれちゃって。確かに口だけの男はいるけどさ。俺が兇賊のアジトにでも誘い込もうとしてるとか疑ってんのかね? まあリーダーに魔人の血が流れてるみたいだから、俺のことを半魔だのなんだのと言わないだけマシか。そんなこと言ったら絶対に連れて行かないしな。シュンランたちがいるんだし。
「信じないなら信じないでいいですよ。そのうち噂が耳に入ると思うので、その時にいらしてください。では俺はこれで失礼します」
俺は疑う人間に無理に来てもらう必要もないなと思い、カルラさんに背を向けてレフさんたちの元へ向かおうとした。
「ちょ、待ってくれって! 信じる! 信じるから一度見させてくれよ! 」
「カルラ!? 」
「さっきレフとベラに聞いたんだよ。リョウスケがとんでもねえ大地のギフト使いだってさ。それなら壁を作ることも、岩山の洞窟を掘って部屋にしたり水を引いたりもできんじゃねえか? それにあの場所に安全な宿屋があるなら、狩りの効率が一気に上がる。一見の価値はアリだぜ? 」
「この男がとんでもない大地のギフト使い? そうは見えませんけど……」
サラさんはそう言って俺に疑いの眼差しを向けた。
「さてどうでしょうね。普通の大地のギフト使いとは違うとはよく言われますけどね……『ドーム』 」
俺はいい加減サラさんの疑いの目がうっとおしくなったので、少し離れて10人以上は寝泊まりができるドームを作った。
「「「「「!? 」」」」」
「こんなもんかな。サラさん、どうでしょう? まだ俺の言ってることが嘘だと思います? それならこれと同じのをあと10個ほど作りましょうか? 」
目を見開き顎が外れるほど口を開け、綺麗な顔が崩壊しているサラさんに笑顔でそう問いかけた。
「あ……い、いえ……信じ……ます」
「は……はは……あははは! すげえ! 一瞬でこんなもん作りやがった! リョウスケお前すげえよ! 」
「うわっと! カ、カルラさん……」
俺は興奮して抱きついてくるカルラさんをしっかり受け止めながら、意識して困った声を出した。
うおっ! この人デカイ! 腕や足は筋肉質だけど、柔らかそうな胸が革鎧の隙間からはみ出てる。眼福眼福。
「お? こんな年増の身体でもいいのか? ニシシシ、目を逸らしちゃって可愛い男だねえ。よっしゃ! アタシは完全に信じた! みんな! 今夜はリョウスケの宿屋で世話になるよ! 」
「「「は、はいっ! 」」」
「では17名様ご案内しますね」
1Rは足らないけどまあ大部屋もあるしなんとかなるだろう。あっちの住み心地の感想も欲しいしな。
それから移動の準備を終えたレフさんたちと共に、総勢24名のお客さんを引き連れ神殿へと向かった。犬人族のコニーが彼女たちからかなり距離を取って歩いていたが、きっと過去に何か言われたんだろう。まだ17歳の男の子にサラさんや他の子たちのあの目はキツいものがあるよな。
俺はそんなコニーと一緒にいるハッサンさんやレフさんなど男性陣に最後尾を任せ、なるべく早く神殿に着くよう一番先頭で魔物探知機を確認しながら進んだ。
その甲斐あってか日が暮れるまでになんとか神殿にたどり着いた。
「な、なんじゃこりゃ! 壁ってこんなにデカいの作ってたのかよ! 」
「まさかこんなに高い壁をこんな広い範囲に作ってたなんてね。私もまだまだリョウスケをみくびってたってわけね」
「これくらいないとゴブリンがよじ登ってきちゃいますからね。あそこが入口です。橋はまだ架けていないのでちょっと待っててくださいね」
驚き壁を見上げるレフさんやカルラさんのパーティを尻目に、堀に向かって地上げ屋のスキルを発動した。
すると堀の底の地面が隆起していき、土の橋となった。
「なっ!? 一瞬で橋が……それにこの高い壁。これほどの物が作れる大地のギフト使いなど、王国軍でもいるかどうか……」
「もうまいったねこりゃ……とんでもない男だよリョウスケは」
「さあ、中へどうぞ」
俺は驚くサラさんとカルラさんを横目に皆に声を掛け、スタスタと土の橋を渡っていった。
そんな俺の後を、ベラさんとカルラさんたちは恐る恐る付いて来るのだった。
そして入口を潜り神殿の左右に建っている建物を見て、こんな建物までと驚く彼女たちに貸し倉庫と解体所の中を案内した。彼女たちはここが宿だと思っていたらしく、ベッドはないのかと聞いてきた。しかし俺がここは違うと言ったら頭にハテナマークを浮かべていた。
その後も神殿の岩戸を開けた時も大騒ぎだった。レフさんもカルラさんもどうやってこんな大きな岩が動くのか聞いてきたけど、女神が作った物だとも言えないし笑ってごまかした。魔石式の冷風機や温風機があっても、さすがに自動ドアはこの世界にはないみたいだ。
そして神殿に入り、入口横に作ったばかりの事務室に複数設置した外灯の明かりを頼りに階段へと皆を誘導して地下に降りた。
「うおっ! でけえ! 何だこの地下の空間は! 」
「凄いわね……あ、あそこにある石の建物が宿なの? 」
「ええ、ちょっと先に降りてシュンランたちを呼んできますね」
俺は階段の途中で地下空間を見下ろし、その場で立ち止まったレフさんたちを置いて一足先に部屋へと戻った。
そして待っていたシュンランとミレイアの椅子をゆっくり押しながら部屋の外へと出た。
「シュンラン! ミレイア! 」
「ベラ! 」
「ベラさん! 」
「ああ……元気そうで良かった……心配したのよ本当に……二人がオーガに……歩けなくなったって聞いて本当に……」
シュンランたちの姿が見えるなりベラさんが階段から駆け寄り二人を抱きしめ、毛布から作った膝掛けで隠している二人の足を見て目に涙を浮かべていた。
「心配掛けてすまないな。だがベラが思っているほど不自由はしていないさ。涼介がいるからな」
「そうです。歩けないのはそれほど不便ではないです。涼介さんがそうなるようにしてくれました」
「リョウスケが? この変わった椅子のこと? 」
「ああそうだ。これのおかげで部屋の中を自由に動ける。外はそうはいかないがな。それでも涼介がこうして押してくれるから」
シュンランはそう言って後ろで椅子を支えている俺の手を握った。
「こんな小さな車輪は見たことがないわ。いったいどこで……いえ、それよりも二人ともなんだか幸せそうで安心したわ。うん、リョウスケなら安心ね。リョウスケ、これからも二人をお願いね」
「もちろんです」
俺がシュンランに続きミレイアから差し出された手を握り締めそう答えると、ベラさんの後ろからカルラさんたちがやってきた。
「あ〜確かCランクハンターのシュンランだったっけ? それと雷のお嬢ちゃんも前に一度会ったことあるよな? 」
「ああ、確かカルラだったな。1年ほど前に南街と合同で行った兇賊の討伐依頼で一緒になった。あの時は同じテントを使わせてもらって助かったよ」
あれ? シュンランたちはカルラさんと顔見知りだったのか。
「ああそうだった! あの時は雷のお嬢ちゃんが男にちょっかい掛けられてたんだよな。あ、ほら! この子はあの時兇賊のアジトから助けた子だ。今はアタシのパーティにいるんだ。去年15になった時にギフトが発現してよ。なんと炎のギフトだったんだぜ? 」
カルラさんに手を引かれ前に出された女性は、赤いローブを着たクロエさんだった。
ああ、彼女は兇賊に囚われていたのか。可哀想に。
「あの時の……そうか。元気そうで良かった」
「あの痩せ細っていた子が……こんなに元気になってギフトまで発現して……本当に良かったです」
シュンランとミレイアはクロエさんを見て、嬉しそうにそう言った。
そんな彼女たちにクロエさんはペコリと頭を下げ、小さな、本当に小さな声でありがとうと言ってカルラさんの後ろに戻っていった。
そんな彼女を見て良かったなと思っていると、サラさんがまた俺にゴミ虫を見るかのような視線を送りながら口を開いた。
「さすがは薄汚い男ですね。歩けない女性をこんな所に閉じ込めて、衣食住を人質に身体を差し出させているのでしょう。ハーフは人族や獣人族と違って教会で治してはくれませんからね。それをいいことになんと卑劣な。貴方のような獣にも劣る男を見ていると反吐が出ます! 」
サラさんがそう言うと、彼女の後ろにいた同じパーティの女性たちも俺を睨んだ。
「おいサラ! 」
「酷い! 涼介さんはそんな人じゃありません! 」
「…………」
「サラさん言い過ぎよ! 」
「そうニャ! リョウスケはそんなことをする男じゃないニャ! 謝るニャ! 」
「サラ、男を敵視するのはいいけどよ。いくらなんでもそれは言い過ぎじゃねえか? 何にも知らねえ奴が言っていい事じゃねえだろ」
「な、なによ……現に歩けない女性をこんな逃げれない場所に閉じ込めてるじゃない」
「あ〜みんな、いいんです。レフさんもありがとうございます。まあこういう事を言われるのは覚悟してましたしね。否定はしておきますが、別に俺はどう思われても構いません。シュンランとミレイアだけわかってくれていればね。だからミレイアも落ち着いて。シュンランもそんな怖い顔をするなって。俺はなんとも思っていないから」
俺は泣きそうな顔で反論したミレイアと、サラさんに殺気を飛ばしまくってるシュンランの肩を抱いて落ち着かせた。
「涼介……」
「涼介さん……」
「平気さ。さて、それじゃあ女性陣の案内はシュンランとミレイアに頼もうかな。俺はレフさんたちを案内するので、ベラさんとカルラさん。二人の椅子を押してもらえますか? 」
「ええ、わかったわ」
「あ、ああ……リョウスケ、うちのサラがすまねえな」
「ははっ、気にしてませんよ」
俺は申し訳なさそうにしているカルラさんに笑ってそう答えた。彼女の隣ではサラさんが面白くなさそうな顔をしている。
この人は傷付いた女性の治療費を稼ぐために、命を懸けて森に入っているような優しい女性だ。そんな彼女がこれほど男を嫌っているんだ。相当酷い目に遭ったんだろうな。
まあ別に八つ当たりだろうが偏見だろうが、彼女やその仲間の女性たちにどう思われようが嫌われようがいいさ。シュンランとミレイアにだけ嫌われなきゃな。
俺はそんなことを考えながら、レフさんたちを部屋へと案内するのだった。
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