第25話 リフォーム



「これが神殿? 」


「洞窟の入口に大きな扉がありますけど……」


「ええ、この扉から中に入ると階段があって、そこを降りると神殿があるんですよ」


 俺は不思議そうに巨大な岩山を見上げる二人に答えたあと、入口横の窪みに手を入れた。すると5メートルほどの高さの岩扉が外側へと開き始めた。


「なっ!? 」


「と、扉がひとりでに開きました! 」


「そういう仕掛けが最初からあったんですよ。中に入りますよ」


 扉が自動的に開いて驚く二人にそう言って中に入り、内側から扉を閉めた。


 すると外の光が遮断され、神殿の一階は壁から発せられる青白い光によって照らされ始めた。


「これは……青光石? 」


「あ、この光を発する壁って青光石というのでできてるんですか? 」


「ああ、魔力の多い場所で見つかる希少鉱石だ。聖光石とも呼ばれていて、教会の壁によく使われているらしい」


「教会の壁に……そうだったんですね」


 これは教会の人間に知られたら立ち退けとか言われそうだな。まあ誰も入れなきゃバレないか。


 そんなことを考えながらも、壁を見上げている二人を連れ階段を降りていった。


「あれは女神フローディア……あれほど立派な女神の彫像まであるとは」


「あの女神によってここに送り込まれたんですよ。いきなり身一つでこんな森の中に放り込まれて、最初は絶望しか感じませんでしたよ」


 せめて神器やギフトに水筒やカバンなどの取り扱い説明書でもあれば、あんなに途方に暮れる事も無かったんだけどな。


「この場所に身一つでか? それは女神も酷なことをする」


「こんな水場がない所に……リョウスケさんが無事でよかったです」


「ありがとうございます。まあそのほか色々な事もあって俺に信仰心はないので、あの彫像は無いものだと思ってください」


 日本に帰る時以外にもう二度と祈ることはないだろうしな。


 というかタワーマンションをどうやって建てるのかまったくわからない。いくらレベルが上がってもヘヤツクのバージョンはアップしないし。やっぱり部屋をたくさん作らないと、間取り図のギフトは進化しないんだろうな。


「驚いた。女神に遣わされた存在だというに信仰心が無いのか? 」


「え? 勇者様は信仰心に厚い方だったと聞いていました……」


「ははっ、ここに飛ばされる前に色々ありましてね。本当はあの彫像を壊したいくらいなんですけど、それもできない事情がありまして……まあそんなことよりもあそこが俺の家です。早く中に入りましょう」


 俺は意外な目で見る二人に答えながら、壁際にある部屋のドアへと向かった。


 そしてドアを開け、シュンランさんの角がドア枠に当たらないよう注意しながら玄関へと入った。それからキョロキョロと廊下を見渡しているミレイアさんを廊下に下ろして靴を脱ぎ、再び抱き起こしてリビングへと向かった。


「これは……」


「すごく綺麗なお部屋です……」


「ようこそ俺の家へ。ここが二人がこれから生活する部屋になります」


 俺は背中と胸もとで驚く二人にそう言って、奥にあるソファーへ彼女たちを座らせた。


 シュンランさんもミレイアさんも、部屋のあっちこっちに視線を送って忙しそうだ。


「この椅子はとてもふわふわで座り心地がいいです。木の床もツルツルですし、こんなお部屋見たことないです」


「リョ、リョウスケ? あの天井の明かりはなんだ? それに見たこともない家具といい。いったいこの滅びの森の中でどうやってこの部屋を作ったのだ? 」


「これはギフトで作りました。大地とはまた別のギフトがあるんですよ。魔石を対価に俺のいた世界の部屋を作ることができるんです」


「ギフトで部屋を作るだって!? そんなギフトは聞いたことがないぞ!? 」


「そうです。魔石が発動の対価として必要なギフトなんて聞いたこともないです」


「まあその辺は女神からもらったギフトということで。それじゃあひと通り部屋と設備を説明しますので、シュンランさんはまた俺の背に乗ってください」


 俺は予想通りの反応をする彼女たちに、設備の説明をするべく再び背負い抱き上げた。


 そして寝室に入りここが二人が寝る場所だと説明すると、大きなダブルベッドとフカフカのマットレスと布団に二人は目を丸くしていた。


 そんな彼女たちを横目に、その後はキッチンに冷蔵庫に電子レンジ。そしてトイレへと案内していった。


 冷蔵庫に関しては高価だが似た魔道具がこの世界にあるらしく、物を冷やす機能に関してはそれほど驚いてはいなかった。まあ氷まで作れることには驚いてはいたがけど。さすがに凍らせる魔道具は無いらしい。


 ガスキッチンも一般家庭には似たような魔道具があるらしいので、これにもあまり驚いてはいなかった。


 電子レンジに関してはどこに火をつけて温めるのか聞いてきたが、俺が火は使わないと言ったら二人とも頭にはてなマークを浮かべていた。俺も詳しい原理はよくわからないから、そういう物だと思ってくれればいいと言ってごまかした。


 家電よりも二人がキッチンで一番驚いていたのは、蛇口をスライドさせて上げるだけで水やお湯が出ることだった。街には上下水道が無かったし、井戸や川から水を汲んでいるようだったからそりゃ驚くよな。


 生活に便利な魔道具はあるらしいが、それ以外はどうみても中世の中期か後期って感じのインフラなんだよな。特にトイレ。


 そのトイレだが、水洗であることが理解できない二人に、実際に目の前で水を流してようやく理解してもらえた。下水の行き先を聞かれたが、それは俺にもわからないと答えた。いや、だって本当にわからないんだよ。


 お尻を洗浄する機能に関しては、便器いっぱいに水が溜まりお尻を洗うという認識をしているようだった。


 これは実演しようにも誰も座っていないとトイレが水浸しになってしまうので、ちょうどトイレに行きたかったというシュンランさんに体験してもらうことにした。


 ひと通り使い方を説明した俺は、彼女を便座の上に乗せバスタオルを掛けてからズボンを下ろした。


「はい。下ろしました。じゃあミレイアさんは中で一緒に見ていてくださいね。俺はリビングにいますので」


「ああ。ここを押せばいいのだったな? そしてここで止めることができると。その後にこのレバーを下げれば水が流れる……よし、大丈夫だ。しかしこんな真っ白な紙を使っていいとは……」


「それはたくさんあるので気にせず使ってください。それじゃあ」


 俺は洗浄便座になぜかこの世界の文字で書かれている、洗浄と停止のボタンを確認しているシュンランさんにそう言いリビングへと移動した。


 そして数十秒後……


『ひあぁぁぁ! 』


『シュンランさん! 』


 初めて聞くシュンランさんの混乱しているような悲鳴と、彼女を心配するミレイアさんの声が廊下に響き渡った。


「やっぱ初めてはそうなるよな」


 俺は自分が初めて洗浄便座を体験した幼い頃を思い出し、懐かしさに頬を緩めた。


 それから少しして水が流れる音と、シュンランさんが呼ぶ声がしたので俺は彼女を迎えに行った。


 すると疲れた顔をしたシュンランさんと、彼女を心配そうに見ているミレイアさんがいた。


「ちょっとビックリしちゃったみたいですね」


「ああ……思っていたのとは違って驚いたよ。まさかあんな風に水が出てくるとはな」


「ははっ、俺も初めての時は驚きましたよ。でもすぐに慣れますよ」


「そんなにすごかったのですか? なんだかおトイレするのが怖くなってきました」


「最初だけですよ。それじゃあシュンランさん、ズボンを履きましょう。俺の首に手を回してください」


「ああ、お願いする」


 俺はシュンランさんに抱きついてもらい、背中越しに彼女の形の良いお尻をチラリと見つつズボンを引き上げて腰紐を結んだ。そしてそのまま彼女を背負い、トイレ怖いと言っているミレイアさんを抱き上げた。


 次に浴室を案内すると、ミレイアさんは三人は入れそうな大きな浴槽に興奮していた。どうも貴族が入るお風呂というものに憧れていたみたいだ。それとここでもお湯がすぐに出ることに二人は驚いていた。


 俺はそのままマイコンを操作してお湯が自動で溜まるようにし、洗濯機とドライヤーの説明をしたあと再びリビングへと戻ってきた。


 洗濯機に関しては箱に入れるだけで洋服が綺麗になるはなぜ? とか言っていたので、あとで彼女たちの服と下着を洗う時に見せてあげようと思う。


 ドライヤーは温風機という大型の魔道具があるらしく、こんな高価な魔道具が……と二人とも目を丸くしていた。ところどころ文明が進んでるよなこの世界。


「とりあえずこんな感じです。詳しい原理とかは抜きにして、まずは使い方に慣れることから始めましょう」


 俺はソファーに二人を再び座らせたあと、向かいの椅子に座り二人へそう言った。


「そうだな。あまりにも高価な魔道具だらけで少し混乱しているよ。しかしこれが本当にギフトで作られた部屋だとは……未だに信じられないな」


 シュンランさんは驚き疲れたという感じで、力なくソファーに背をもたれ掛けさせながらそう呟いた。


「こんなに綺麗で清潔なお部屋なうえに、噂でしか聞いたことのない高価な魔道具だらけで……まるでお姫様になった気分です」


 ミレイアさんはお風呂を見てからずっと興奮しっ放しの様子で、目をキラキラさせている。よほどお風呂がある事が嬉しいみたいだ。


「ははは、確かにとんでもないギフトですよね。俺のいた世界はこの世界より数百年先の世界だと思ってください。なので水にしてもトイレにしても色々と進んでるんですよ」


 物を冷やしたりお湯を沸かしたりできる便利な魔道具もあるようだから、この部屋を参考にしたらもっと早く再現されそうだけど。


「数百年先の世界……確かにそれだけの時間が経てばこういった部屋が存在するのも不思議ではないか……」


「勇者様は鏡の中の別世界から来たと聞いていました。そこは数百年先の世界ということでしょうか? 」


「うーん、まあそんな感じですかね? 別の世界という点では同じだと思います。それよりもお風呂がもうすぐ沸くので着替えを用意しますね? 」


 俺はどう説明していいかわからない異世界の話は切り上げ、部屋にバスローブを取りに行き玄関へと向かった。


 彼女たちの着替えは無いので、服を洗い乾かしている間はバスローブを着ていてもらうつもりだ。


 そして玄関の外にバスローブを出し、間取り図のギフトを発動してバスローブを購入した。そうして2着ほど増やしてリビングに戻ると、シュンランさんとミレイアさんが腕と両手の包帯を外していた。


「シュンランさん、もう大丈夫なんですか? 」


「ああ、さっきトイレの時に痛みがなくなっているのに気づいてな。ほら、この通りもう大丈夫そうだ」


 シュンランさんは包帯を履いていた腕を回しながら、口もとに笑みを浮かべてそう言った。


「私も力はまだそんなにいれられませんが、着替えぐらいはなんとかできそうです」


 ミレイアさんも両手をニギニギして、服を掴むくらいはできそうだと笑顔で俺に言う。


「そうですか……」


 確かに骨折なら三日で治るとは言っていたっけ。


 そうか、もうトイレの介護は必要ないのか。そうか……


「リョウスケ、そんな心配そうな顔で見るな。本当にもう大丈夫だ。色々世話を掛けたな、ありがとう」


「リョウスケさんって本当に優しいです。おトイレの時に、嫌な顔一つせず手伝っていただいてありがとうございます。今後は腕を使って移動してできますのでもう大丈夫です」


「あ、いや。二人が良くなったならいいんです。でも何かあったらすぐに声を掛けてください。迷惑とかそういうのは一切ないですから」


 これはお風呂の介護は必要なさそうだな。そうか……まあ仕方ない。彼女たちが自分で自分のことができるようになったのは喜ぶべきことだしな。うん、良いことだ。彼女たちにとっては。


「ありがとうリョウスケ」


「ありがとうございます。リョウスケさん」


「いえいえ、それじゃあお風呂に入りましょう」


 俺はそう言って二人を再び抱き抱え、浴室へと連れて行き洗い場で下ろした。


「これが着替えになります。こんなのしかなくてすみません。今着ている服と下着が乾くまで我慢していてください。明日には乾いていると思いますので」


「これはガウン? 本当に貴族みたいだな。ああ、ありがとう。これを着させてもらうよ」


「あ、ありがとうございますリョウスケさん」


 ミレイアさんはバスローブの丈が膝くらいまでしかないことに頬を赤らめ、下を向きながらも感謝してくれた。


 シュンランさんはさすがにトイレは抵抗があったようだけど、割と肌を見られることには抵抗がないようだ。でもミレイアさんはやっぱり肌を見られるのには抵抗があるみたいだ。まあ中はノーパンンノーブラだし、それが普通だよな。


 それでも出会った時のような警戒心を彼女からはもう感じない。聞いた話では男に触れられるだけで顔を青ざめさせていたみたいだし。これは俺が必死に彼女をエロい目で見ないよう頑張った成果だろう。


「それじゃあ洗面用具の説明をしますね? 」


 俺は洗い場に座る二人にシャンプーやリンスなどの説明をした。


 石鹸に似た物はこの世界にもあるから、それを液体にした物という説明でなんとか理解してもらった。といってもこの世界の石鹸は泥みたいな物で、あまり洗浄力は高くないし匂いもキツイ。だから間違ってもそれで髪を洗ったりはしないそうだ。この世界では基本髪はお湯で洗い、香油みたいなのを軽く塗るだけらしい。


「いい香りだ……これが本当に石鹸なのか? 」


「すごくいい匂いです。こんな石鹸があるなんて信じられないです」


「ええ、石鹸ですよ。身体用と髪用があって、これは最後に髪に艶と潤いを与えるコンディショナーになります。軽く塗ってお湯で洗い流してください。そして身体を洗ったら湯船に浸かってください。頭がぼうっとする前に出てくださいね? 」


「ああ、西の山に湯が湧き出る池があるからな。長く入ると危険なのはわかってる」


 西の森には火山があるのか。温泉があるのはいいな。シュンランさんたちがここの生活に慣れたら一人で行ってみるかな。


「お湯に浸かる経験があるなら大丈夫そうですね。では着替えとタオルは脱衣所に置いておきますのでゆっくり入ってください。ああ、脱いだ服はそのまま脱衣所に置いておいてください。俺が後で洗っておきますので」


 俺はお風呂に入れるからか笑顔になっている二人にそういって浴室を出た。そして脱衣所にバスローブとバスタオルを置いてリビングへと向かった。



「さて、彼女たちが生活しやすいようにリフォームするか」


 リビングを見渡しながらそう呟いた後、間取り図のギフトを発動した。


 そして現れた金色の縁のパソコン画面に表示された『ヘヤツク1990』の画面から、この部屋の間取り図を再び呼び出した。


 それから呼び出された部屋の間取り図を、家に着く前に考えていた間取りへと変えていった。


 といっても1LDKを部屋を増やして3LDKにするわけじゃない。


 足を失って間もない彼女たちは、しばらくは同じ部屋に住んでもらっ方がいいだろう。身体的にも精神的にもその方が落ち着くはずだ。


 俺も自分の部屋は欲しいが、彼女たちに何かあった時にすぐに気づけるように、しばらくはリビングで寝起きした方がいい。だから間取りは1LDKのままにしておく。


 そして彼女たちが寝るダブルベッドのある寝室に、トイレを追加で設置する。リビングには俺用のシングルベッドも置く。


 次に彼女たちが部屋を移動しやすいよう工夫をする。


「えっと……あった。これを二つでいいな」


 俺は間取り図の家具から、パソコンデスクのマークの横にあったキャスター付きの椅子を選択した。流石に車椅子はマンスリーマンションには無いからこれがその代わりだ。


「次にこことここにこれを設置して……うん、これなら移動がスムーズだろ」


 俺は間取り図の部屋の壁のあちこちに手すりを設置し、寝室からリビングとキッチン。そして浴室まで手すりを伝って移動できるようにした。


 そう、彼女たちにはキャスター付きの椅子に座りながら、手すりを伝って部屋のどこにでも行けるようにする。これが俺が彼女たちにこの部屋で快適に過ごしてもらうために考えたことだ。


 その後も脱衣所やトイレを今の倍近く広くし、手すりもつけて間取り図の作成を終えた。


「Eランク魔石32個か。まあトイレも増やしたし、脱衣所も結構な広さにしたし仕方ないか。それにこれくらいのコストはどうってことない。よしっ、これで決定っと。それじゃあ投入! 」


 俺は間取り図の作成を確定し、Eランク魔石の倍の価値があるDランク魔石15個と、Eランク魔石2個を投入した。


 すると魔法陣が現れ眩い光が部屋を照らした後、目の前にキャスター付きの黒い椅子が現れた。周囲の壁を見渡すと、腰の高さにしっかりと手すりが設置されている。


 寝室を見に行くとベッドの横から出入口まで手すりのついた壁で覆われ、そのベッドの向かいには広いトイレが設置されていた。


 トイレの中も手すりで囲まれている。


 これでトイレもしやすくなるはずだ。


「結構良い椅子だな。肘置きもあるしそう簡単には倒れないだろう」


 現れた椅子は肘置きもあるずっしりとした感じの椅子で、勢いよく前に進もうとしない限りは倒れたりはしなさそうな物だった。


 移動に腕は疲れそうだけど、この世界の人の身体能力は高いから大丈夫だろう。


 それからしばらくすると脱衣所からシュンランさんの呼ぶ声が聞こえた。


 俺は椅子をゴロゴロと運びながら彼女たちを迎えに行くと、脱衣所にバスローブ姿の美女と美少女が待っていた。


 頭の上でバスタオルを巻いたシュンランさんは、長身なせいかバスローブの丈が膝上10センチほどになって太ももを晒している。ミレイアさんも大きな胸が上半身のバスローブを押し上げ、そのぶん丈が短くなりシュンランさんよりも太ももの露出が多かった。


 ミレイアさんは長いピンクの髪を下ろし、両手で必死に丈を抑えている。そのせいか胸が中央に寄せられ、真っ白な胸の谷間がローブの胸もとからこぼれ出ていた。


 なんという光景。なんというワガママボディ。


「リョウスケ、すごく気持ち良かった。こんなにさっぱりしたのは初めてだ」


「その……すごく気持ちよかったです。お貴族様になった気分です」


「それは良かったです。これから毎日好きな時に入れるので、遠慮なく利用してくださいね」


 俺は二人の太ももと胸もとを凝視しそうになるのをグッと堪えながら、笑顔でそう返した。


「毎日入っていいのか!? 部屋だけでも最高級の宿屋以上だというのに、なんと贅沢な……」


「毎日こんな豪華なお風呂に入れるなんて幸せすぎです」


 ミレイアさんは本当に嬉しそうだ。


「ん? リョウスケ、脱衣所がさっきより広くなっていないか? それにこの手すりは先ほどは無かった気がするのだが? 」


「これは二人がお風呂に入っている間にギフトで改装したんですよ。これからはこの椅子に座りながら手すりを辿って、寝室まで移動できるようになります」


 俺はそう言って脱衣所の外に置いてあった椅子をガラガラと運び入れ、二人に見せて説明した。


「なんだその椅子は? 車輪? が付いてるのか? 」


「凄いです。こんな小さな車輪は見たことがないです」


「ええ、これがあれば歩けなくても部屋を移動できますよ。さあ、シュンランさんから座ってください。抱き上げますね? 」


 俺は驚くシュンランさんをお姫様抱っこをして抱き上げ、椅子へと座らせた。


 そして彼女を支えながら、脱衣所内を手すりを伝って移動してもらえるように言った。


「進める……歩けなくとも、床を這わなくても移動できる」


 シュンランさんは脱衣所内を手すりを伝って移動しながら、少し感動した様子でそう呟いた。


「すごい……リョウスケさん、私たちのためにこんな凄い物を作ってくれたんですか? 」


「作ったというよりは、ギフトで俺のいた世界にあった物を呼び出した感じですね。シュンランさんとミレイアさんのためというのはそうですけど、大した労力はかかっていないので気にしないでください」


「リョウスケ……私たちのために君は……ありがとう」


「リョウスケさん……ううっ……こんなに優しくされたのは初めてで……私みたいな役立たずにこんな……」


「ちょ、こんなことで泣かないでください。俺は有言実行しただけですから。言ったじゃないですか、俺の家は歩けなくても快適に過ごせますよって」


 俺は泣き出したミレイアさんにオロオロしつつそう伝えた。


 寝たきりにはさせないさ。二人には料理も作ってもらうつもりだし。


 それからミレイアさんの涙をタオルで拭ってから抱き上げて椅子に座らせ、脱衣所で少し練習した後に三人でリビングへと移動した。


 俺は二人が横転しないよう、前からしっかりと彼女たちを支えた。その際にミレイアさんの三角ゾーンから、チラチラとピンク色のものが見えたがそのことは彼女には指摘しなかった。気まずくなったら雰囲気が悪くなるしな。見て見ぬ振りをするのも共同生活をする上では必要なことだと思う。うん。


 その後もソファーに椅子から移動する際にもシュンランさんとミレイアさんのバスローブが乱れ、色々なものが見えたが俺は見て見ぬ振りを徹底した。


 そしてその後は彼女たちが食事を作るというのでキッチンに移動してもらい、この世界に来て一番美味しい夕食をみんなで食べた。いや、めちゃくちゃ美味しかった。特にミレイアさんの作った料理は最高だった。


 俺が美味しいと言うと二人は喜んでくれて、食べ終わった後も食器の片付けをすすんでやってくれた。さすがはハンターというべきか、あっという間に椅子での移動に慣れてスイスイ進んでいたよ。


 食事中もその後オセロで遊んだ時も、二人とも野営していた時よりずっと良い笑顔で、俺は家に連れてきて良かったと心からそう思えたのだった。


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