第17話 ハンターギルド



「ここがハンターギルドか」


 俺はポンチョのフードを被りながら、石造の3階建ての大きな建物を見上げそうつぶやいた。


 街に入ってからは絶賛迷子になり、もうすっかり夜になってしまった。


 というのもこの街は拡張に拡張を重ねたせいか、道がかなり複雑に入り組んでいたからだ。


 ちゃんと人に聞きながら歩いていても迷ったよ。


 娼館らしきお店が立ち並んでいる場所を通った時なんか、自制心を押さえるのが大変だった。いや凄かった。ケモミミからコウモリのような耳や羽。ぱっと見は褐色の人族にしか見えないけど、角がある女性とかがみんな俺に手招きするんだ。何人か足や腕がない子もいたけど、全員がなかなかの美人だった。


 レベルアップをして体力が上がり、一ヶ月以上も禁欲生活をしていた健康過ぎる男子がよ? ハズレのない風俗街を歩いて我慢できたことを褒めて欲しい。


 シュンランさんに見られたり、話がいったら嫌だからな。入るなら他の街でこっそりとだ。


 南街って近いのかな……


 まあそんなこんなでやっとギルドに着いたわけだ。歩いてきた方向的に、恐らくこのギルドは街の中央付近にあると思う。


 俺は少し緊張しつつ、広い入り口の上にハンターギルドと書かれている扉が開けっ放しの建物の中へと入っていった。


 建物の中に入ると、恐らく森から帰って来たばかりなのだろう。革鎧やハーフプレイトアーマーなどを着た獣人や人族。そして角や黒い羽を生やした人たちが20人ほどいた。


 彼らは3つある受付の前に並んでいる者と、テーブルを椅子で囲み疲れた顔で何やら話している者たちで分かれていた。


 俺はとりあえず一番空いている犬耳の中年男性のいる受付に並んだ。


「次の方どうぞ」


「あ、お願いします。ギルドに来るのは初めてです」


 俺はフードを外しながら犬耳の受付の男性にそう挨拶した。


「おや? 人……いえ角なしのハーフの方ですか。これは珍しい」


「あ、そうなんです。よく言われます」


 俺は目を軽く見開いている受付の男性に笑顔でそう答えた。


 もうみんな魔人とかいうのとのハーフとか言うからそれでいいや。なんか人族とか言っても信じてくれなさそうな雰囲気だし、もうめんどくさい。


 俺は周囲のハンターたちの視線から人族と言い難くなり、魔族とのハーフということにした。


「牙も無いのですね。黒髪といい肌の色といい……ははっ、まるで伝説の勇者のようですね」


「へ? あ、あはは……よく言われます」


 勇者!? 何それ!? もしかしてあの自己中女神は俺以外の人間も送り込んでたのか?


 うん、やりそうだな。かわいそうに……黒髪ってことはアジア系か。まさか日本人じゃないだろうな? ちゃんと元の世界に帰れたのかな? かなり気になるな。


「そうでしょうそうでしょう。いやいや、これは縁起の良い容姿をした方に出会えました。それで、新規登録でよろしいですか? 」


「あ、はい。そうです。お願いします」


 なんか機嫌の良くなった受付の男性の言葉に、俺は勇者のことは頭の隅に置きギルドに加入したい旨を伝えた。


「ありがとうございます。ではまず当ハンターギルドの説明をさせていただきます」


「お願いします」


 そう言って俺は受付の男性の説明に耳を傾けた。


 それによるとギルドはこの東街と南街と西街にそれぞれあり、森の魔物の間引きと滅びの森の入口にある街の防衛。そして魔石や素材を得て、南にある国々に流通させることを生業としている民間組織のようだ。


 森から出た飛行系の魔物や繁殖し増えた魔物が各国にもいるそうだが、そっちは各国の軍が討伐するらしい。


 ギルドは仕事を振り分ける際の目安としてランク制度を導入しており、全部で7ランクあり、一番最初はストーンランクで、次にアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、ミスリル、アダマンタイト、オリハルコンと上がっていくそうだ。


 このランクは個人と3人以上のパーティにそれぞれ与えられる。


 そしてこのランクが高くなればなるほど、ギルドが各国から受けた高報酬の依頼を受けることができるそうだ。これは普通に魔物を狩るより断然稼げるようで、皆がランクを上げるために日々頑張っているそうだ。


 ランクごとの強さの目安も教えてくれた。ストーンランクは角兎などのFランクの魔物を安定して狩れるレベルで、アイアンがゴブリンや緑狼などのEランク魔物。ブロンズがオークや灰狼などのDランク。シルバーがオーガなどのCランク魔物で、ゴールドがBランクの魔物、ミスリルでAランク、アダマンタイトでSランクの魔物といった具合だそうだ。そのことからハンターランクを魔物のランクで言う者も多いらしい。


 オリハルコンランク=SSランク

 アダマンタイトランク=Sランク

 ミスリルランク=Aランク

 ゴールドランク=Bランク

 シルバーランク=Cランク

 ブロンズランク=Dランク

 アイアンランク=Eランク

 ストーンランク=Fランク


 って感じなんだろう。


 パーティのランクを上げるには、現状のランクより一つ上のランクの魔物を指定された数狩れば上がるらしい。個人ランクはひとつ上のランクの魔物をソロで狩れる能力があるとギルドに認められれば上がるそうだ。


 その他はギルド員同士の揉め事にはギルドは介入しないということ。魔物を狩ることは全て自己責任ということなどを説明された。まあこのギルドってのは、割の良い仕事紹介所兼換金所ってとこだな。あとはランクが高ければ国からスカウトされるらしいから、それ狙いの人も多いんだろう。


 国は国で森に軍を送り込んで間引きしているそうだしな。そうでもしないと森から魔物が大量に出て来て国が滅ぶらしい。過去にそうしていくつもの国が滅び、そして森が呑み込んでいったそうだ。


 だから滅びの森と名付けられているんだってさ。どうもこの滅びの森は魔物がいると成長速度が早いらしく、今では大陸の半分以上を占めているそうだ。元がどれくらいの規模だったか知らないけど、ヤバいというのは伝わった。確かにほっといたら滅ぶな。


 伐採や焼き討ちとかしないのとか聞いたら笑われたよ。そんなことをしたら森の魔物が一斉に襲いかかってくるって。俺はそれを聞いて風の谷のデカイ虫かよと思った。


「簡単ですが以上で当ギルドの説明は終わりです。何かわからない所などありますか? 」


「あ、あの。レベルとかはどうやったらわかるんでしょうか? 」


 俺は説明中ずっと気になっていたことを尋ねた。


 登録の時に鑑定の水晶的な物が出てくるのかな?


「れべる……ですか? それはどういった物ですか? 」


 あれ? 呼び方が違うのかな? 


「あ〜魔物を倒すほど強くなるじゃないですか? その強さを数値化する魔道具やギフトとかは無いんですか? 」


「魔物を倒すほど強く……ああ、レベルとは戦闘経験を重ねることによる成長のことですかね? でしたら残念ながらそういった強さを数値化するような魔道具や、ギフトの存在は耳にしたことはありません。しかし面白いことをおっしゃる方ですね。成長を数値化する魔道具などとは……ハハハハ」


「そ、そうですか」


 あれ? 鑑定の水晶的な物はないってことか。どれだけ強い魔物を倒せるかが強さの証ってことみたいだな。


 うーん、残念。レベルがわかれば神器の進化のタイミングがわかるし、俺がこの世界でどれくらいの強さの位置にいるかがわかるんだけどな。


「では質問は以上でよろしいですか? それでは以上のことを承諾の上で、ハンターギルドへ加入なされますか? 」


「はい。お願いします」


 まあレベルのことはいいか。ランクである程度強さを測れるしな。


「それではここにお名前と年齢。そして戦闘経験の有無をお書きください。文字が書けない場合は代筆いたします」


「はい。書けますので大丈夫です」


 俺は渡された羽ペンを手に取り、アニメで見たようにインクに羽ペンの先をつけて藁半紙わらばんしのような紙に記入していった。


 この世界の文字は前に地面に書いてみて書けたから大丈夫だ。でもこの羽ペン……書きにくい。


 俺は慣れない羽根ペンで、なんとか苦労して書いていった。すると最後の欄に所有ギフトと書いてあったので、大地と書いて受付の男性に渡した。


「ありがとうございます。え? ギフトもお持ちなのですか!? 」


「あ、はい。大地のギフトを持っています」


 やっぱギフト持ちは珍しいのか。


「人族でもギフト持ちは珍しいのに、ハーフでしかも攻撃系をお持ちとは……しかも戦闘経験もあるとなれば即戦力ですね。となると魔物の魔石をお持ちですか? 」


「あ、はい。これで全部です」


 俺はそう言って肩から掛けているカバンから、道中で狩ったDランク魔石25個とオーガの魔石を取り出しカウンターの上に置いた。


「は? あ、あのこちらは親御さんから頂いたものですか? 」


「いえ、俺が滅びの森で狩ったものです」


 まあ驚くよな。レフたちはパーティで狩るのが常識って言ってたし。ソロはほとんどいないとも言ってた。それに大地のギフトってのはそこまで強力じゃないみたいだし、一人で森で戦う奴はいないんだろう。


 でも俺はなるべく高いランクになりたい。そうなればシュンランさんがパーティを組んでくれるかもしれないしな。それにしばらくこの街にいるつもりだからお金が欲しい。今持ってる金貨と銀貨の価値がわからないから、どれだけここにいれるのか不安だ。


「一人でオークや灰狼に緑熊。それにオーガの魔石までこれほど……ギフト持ちならあるいは……しかし大地ですし……すみません。疑うわけではありませんが、何か魔物の牙などはお持ちですか? 」


「はい、あります。途中ハンターの方に取っておいた方がいいと言われたので。あ、オーガのは無いですけど」


 俺は背中のリュックからオークの耳と灰狼の牙。そして緑狼の爪を取り出し、受付の男性が置いたトレーの上に並べた。


「確かに……しかも狩ってからまだ日が浅いですね。わかりました。では地下の訓練場で大地のギフトの能力を確認させていただいたあと、オークと灰狼に対応できると判断できればブロンズランク(Dランク)に認定させていただきます」


「はい。ありがとうございます」


 いきなりシルバーランク(Cランク)にはなれなさそうか。オーガの討伐部位とか知らなかったしまあ仕方ない。それにしてもギフト持ちはギフトの能力の確認だけでいいのか。槍……は胸に差したまま展開してなかったわ。魔法使い的な立ち位置として見られてるってことか。


 それから俺はギルドの地下の訓練場に行き、訓練している人たちの視線を浴びながら土槍を30本ほど出現させた。そんな数の土の槍でも受付の男性も周りにいたハンターも驚いてたよ。でも本数より発動の速さの方により驚いてる感じだった。その場でパーティに入らないかスカウトされたけど、もう入りたいところがあるのでと断った。


 その後受付に戻る間にギフトのことを少し聞いたんだけど、どうもこのギフトというのは身体能力が低く、魔力もない人族を哀れに思った女神が与えた物らしい。その際にギフトは魔力ではなく、精神力を使って発動するようにしてくれたらしい。


 俺はやっぱり精神力を消費するのかと納得したよ。


 ギフトは人族全員が持っているわけではなく、だいたい百人に一人くらいの割合で何かしらのギフトを持っているみたいだ。基本人族全員に平等にギフトを得られるチャンスはあるらしいけど、強力なギフトは遺伝することもあるそうだ。


 強力なギフトの大半は戦闘に直接使えるギフトで、これは数千人に一人いるかどうからしい。


 そんなギフトをハーフが持っていることはかなり珍しいらしいみたいだ。


 確かミレイアさんも雷みたいなギフトを持っていたな。彼女も相当珍しいということなのだろう。


「お疲れ様でした。いやぁリョウスケさんは素晴らしい才能をお持ちですね。問題なくブロンズランクとして登録させていただきます。これはギルド証となります。なくした際は再発行に小銀貨1枚掛かりますのであらかじめご了承ください。あとこちらは魔石の買い取り料金となります。お持ちいただいた魔物の討伐証明は、一度依頼を受領したことにして処理させていただきました。こちらがその報酬となります」


「ありがとうございます」


 俺は魔石の代金としてトレーの上に乗っていた百円玉くらいの大きさの金貨3枚と、その隣のトレーに乗っていた同じ大きさの銀貨9枚。そして一円玉くらいの大きさの小さな銀貨6枚に、十円玉くらいの大きさの銅貨5枚を兇賊の頭が持っていた巾着袋に入れた。


 その際に金貨1枚を両替してもらったら、銀貨10枚になった。


 なるほど。10枚ごとに一つ上の通貨になるのか。


「すみません。このCランクと言っていたオーガの魔石の買取価格はいくらですか? 」


「こちらは銀貨5枚となります」


「ありがとうございます」


 ということはDランク魔石一つにつき銀貨1枚ということか。Cランクだとその5倍の銀貨5枚。まあ強さ的に納得だ。素材は依頼達成報酬的なものとかあるから今はわからないな。


「そういえば先程もう決めたパーティがあるとおっしゃっていましたが、さしつかえなければ教えていただいても? 」


 俺が魔石の価格を計算していると、受付の男性がそう話しかけてきた。


「あ、実はまだ入りたいと伝えてないんです。その、シュンランさんとミレイアさんのパーティにもし入れればと思いまして」


「そうでしたか。シュンランさんと面識がおありなんですね。なるほど。実力的には問題ありませんね。ただ、固定パーティとなるとミレイアさん次第ですね」


「あはは、そうですよね。男性が苦手みたいですからやっぱ厳しいかな。でも一応頼んでみようかと思います。ところで彼女たちは街に帰って来ましたか? 」


「ええ、一度帰って来たのですが、実はここから滅びの森の北西に二日ほど行ったところで、Cランクのオークキングのいる巣が見つかったんですよ。それでその巣の討伐のため、昨晩ギルドより特別依頼を出したら参加していただけたんです。それで早朝から同じく依頼を受けてくれた者たちと現地に向かっていただいています。オークキングは放っておくと周辺のオークを率い、森から出てこの街に侵攻して来ますので見つけ次第早急に潰さないといけないのですよ」


「そうですか……」


 マジか、すれ違いか。


 ああ、もう1日早く出発してれば一緒に行けたのに……


「付近にはオークを含めDランクの魔物しかいないエリアですので、5日もすれば無事討伐を終えて帰ってくると思います。この街で待っていれば会えますよ」


「そうですね。この街で待つことにします」


 仕方ないか。観光がてらこの街で待つか。


「ところでリョウスケさん。先程のオーガの魔石はどこで手に入れられたんですか? 見たところオークと灰狼の魔石ばかりでしたので、少し気になりまして」


「ええ、ここから西に二日くらいですかね? それくらい進んで北に数時間いったところに1体だけいたんです。それをなんとか狩ることができました」


 あれ? 確かオーク討伐に行った人たちも北西に二日とか言ってなかったか? もしかしてそこに近い?


「そんな近くにですか!? まさか巣が……いえ、はぐれオーガの可能性も……」


「あの……オークキングの討伐に行った人たちは大丈夫ですよね? 」


「え? ええ、それは心配ないです。シュンランさん以外にもシルバーランクパーティが2チームと、ブロンズランクパーティが50名も行ってます。ですからたとえオーガが複数体現れても対処できますので問題ないですよ」


「そうですか……」


 うーん、なんか俺に気を使って気休めを言ってる気がする。オーガは強かったからな。オーガを狩る能力のあるシルバーランクパーティがいるとはいえ、あれが複数体出てきて本当に対応できんのかな。大丈夫かなぁ。


「それでは登録と手続きは以上となります。リョウスケさんのハンター人生に、女神フローディアの加護がありますよう」


「あ、ありがとうございます……」


 加護どころかその自己中女神のせいでこんな所にいるんだけどな。


 俺は引きつった顔をしながら、終始丁寧に対応してくれた受付の男性にお礼を言いギルドを出たのだった。


 シュンランさん大丈夫かな。なんかフラグが立った気がするんだよな。


 そんな一抹の不安を抱きつつも、今夜泊まる宿を探しに再び街を彷徨うのだった。


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