第16話 東街



 俺はまず包囲されている熊男たちを救うために、ペングニルを灰狼へと投擲した。


《ギャンッ! 》


 一匹を仕留めた俺は驚く熊男と猫耳の子が振り向いたタイミングで、広場となっている戦場に身をさらした。


「助太刀する! 」


 そして大声で叫びながら戻ってきたペングニルを再び投擲した。


「なっ!? 魔人!? 」


「魔人……いえ人族とのハーフ? どっちでもいいわ! お願い! チビたちを! 灰狼を! 」


「任せろ! 」


 俺は2匹目の灰狼を仕留めたのを確認し、虎男の後ろを駆け抜けながら千本槍を彼らに当たらないようオークの足もとに発動した。そして再び戻ってきたペングニルを灰狼へと投擲した。


 移動しながら放った割には、千本槍は2体のオークの足を串刺しにしその動きを止めることに成功した。


「大地のギフト持ちか! 助かる! 」


「槍の腕も凄いよ! 勝てる! 一気に行くわよレフ! 」


「おうっ! 」



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「助かったぜ黒髪。俺はこのパーティ【金貨を求める者】のリーダーのレフってんだ。コイツは副リーダーのベラだ」


「ベラよ。助かったわ。まさかこんなところに腕利きのハンターがいるなんてね。幸運だったわ」


 俺が熊男の盾に噛み付いていた最後の灰狼を千本槍で串刺しにすると、オークを倒し終えた二人がやってきて挨拶をしてきた。


「涼介です。たまたま通りかかったもんですから。怪我人が出なくて良かったです」


「兄ちゃん助かったぜ。時間さえあればオイラが全部倒してたけどな。しっかし変な服着てるな。ギフト持ちだからって防具くらいつけなきゃ駄目だぜ? 」


 俺がレフとベラに返事をすると、後ろにいた犬耳の少年がそう俺に話しかけた。


 やっぱこの服装は目立つな。コートを着てその上にポンチョでも羽織っておくか。魔法使いに見えなくもないだろう。ちょっと苦しいか。


「コニーは一匹も倒せてなかったニャ! リョースケ助かったニャ! ギフトもその槍も凄かったニャ! 投槍に糸を付けて操るなんて初めて見たニャ! 」


「糸? あ、ああ。そうなんだよ」


 糸で槍を手元に戻してるように見えたのか。やっぱこういう武器はこの世界には無さそうだな。武器を狙って襲撃されても嫌だし、今度から人前で使う時は注意しないとな。念のためダミーで本当に糸でも付けておくかな。


 しかし本当に語尾にニャを付けて話すんだな。かわいいな。


「それで助けてもらって言いにくいんだけど、うちのパーティは万年金欠だからあまり取り分の要求はしないでもらえると助かるニャ。ミリーたちが倒したオークは欲しいニャ」


「ははは、こういう時は自分が倒した分だけ貰う権利があるんでしたっけ? それなら灰狼の魔石をもらえればいいですよ」


 俺はシュンランさんが言った言葉を思い出し、灰狼の魔石を求めた。毛皮は荷物になるし。


 別にダメならそれでもいい。俺も危ない所をシュンランとミレイアさんにこうして助けられたからな。こういうのは助け合いだ。


「お、おい! 本当に魔石だけでいいのか? 」


「流石にそれは遠慮し過ぎよ。毛皮だって牙だって売れるのよ? それに討伐証明にもなるわ。遠慮なく全部持っていっていいのよ? 」


「うーん、じゃあ牙だけ。荷物になるので」


 俺は牙が売れるなんて初めて知ったと内心驚きながらも、またシュンランさんの時のような譲り合いにならないよう牙だけ貰うことにした。


 討伐証明ってのはギルドに対してのものかな? なら持っていて損はないだろう。シュンランさんと再会したらギルドに加入することになるかもしれないしな。


「なんだか助けてもらったのに悪いな。リョウスケだったか? ハンターにしちゃ恐ろしく欲がねえな」


「俺もこの間兇賊に襲われて危ないところを助けてもらったことがあるので。魔物のいる森にいる以上お互い様ですよ」


 この人たちも金欠っていう割には欲がないように見えるけどな。俺一人なんだから余計なことしやがってとか言って何も渡さないこともできただろうに。


「お前……いいやつだな」


「今時珍しい男ね。顔も男前だし惚れちゃいそうよ。それにしても兇賊に襲われるなんてついてない……ああっ! もしかして十日くらいまえに南街の北にある滝で兇賊に襲われた凄腕の黒髪の青年ってリョウスケのこと!? 」


「南街の北かどうかはわかりませんが、確かに十日前くらいに滝で兇賊に襲われましたが…… 」


 なんで知ってるんだ? シュンランさんがギルドってとこに報告したのかな?


「やっぱり! シュンランが言ってたのよ。とても勇敢で強い黒髪の半魔人がいたって。シルバーランクのシュンランに認められる男なんて滅多にいない上に、あのミレイアですら楽しそうに話してたから私も興味が湧いて覚えてたのよ。そう、リョウスケのことだったのね。納得したわ」


 ええ!? シュンランさんの知り合いだったのか! なんて偶然だ。


「マジか! 20人以上いた兇賊の半分をたった一人で倒したって男はリョウスケのことだったのかよ! 」


「すげー……確か全員ブロンズランクはあったって聞いたぞ? 」


「リョウスケすごいニャ! 」


「あ、いえ……無我夢中で。それよりシュンランさんたちとお知り合いなんですね」


「ええ、前までたまにパーティを組んでたわ。今はチビたちを村から呼んで鍛えてるから組むことは無くなったけど。街ではよく一緒に食事をしたりしてるわ」


「そうでしたか。実は彼女たちに会いに行くつもりだったんです。良ければ東街の場所を教えてもらえませんか? 」


「おいっ! まさか一人でこの森を歩いてきたのか!? 」


「信じられない……無謀もいい所よ。東街はここから南の道を真っ直ぐ行けば2日も掛からずに着くわ。でも一人は危険よ。特に夜は」


「そうだぜ! オイラたちあと何日かしたら戻るからよ。一緒にいようぜ」


「お気遣いありがとうありがとうございます。俺は大丈夫ですので、ほら」


 俺は心配してくれるレフとベラと犬耳の男の子の目の前で石製のドームを作った。


「うおっ! なんだこりゃ! まさか家か!? 」


「お家ができたニャ! しかも石造りニャ! 」


「これは驚いたわね。大地のギフトでこんなものまで瞬時に作れるなんて……とんでもない技量と精神力の持ち主だわ。兇賊が相手にならないわけね」


 なるほど。普通の大地のギフトとかいうのじゃここまではできないってことか。地上げ屋強いな。


 驚くレフとベラとその仲間たちの反応で、一般的な大地のギフト持ちの能力がどの程度のもの知ることができた。まあ地保険で防げるけど、この世界にあるギフトが大地だけとは限らないしな。


「なんとかこのギフトの力で命を繋いでます」


 それから俺は街のことやギルドのことを彼らからそれとなく聞いた。


 どうやら東街というのは、そのまんまこの滅びの森の東の入り口にある街の名前のようだ。当初この街は東街の南にある獣王国が前線基地として作ったらしい。それをハンターと呼ばれる魔物を狩り、生計を建てる者たちにも開放したことで商人が集まり街になっていったそうだ。その過程で街を囲む外壁も拡張していったとかなんとか。街には名前がちゃんとあるらしいが、ハンターたちは覚えやすい東街と呼んでるらしい。


 他に彼らの話から人族の国々が同じ理由で作った南街と、魔族の国が作った西街があることもわかった。基本的にハンターはどの街にも自由に出入りできるが、立地的に東街は獣人・南街は人族・西街は魔族が多いそうだ。


 ちなみに魔族と人族のハーフは東街に多いらしい。あんま人族と魔族は仲が良くないらしく、差別を受けるからだそうだ。獣人はどっちともそこそこうまくやってる立ち位置で、特に差別はしていないそうだ。まあ俺が見た限りでも犬や猫やら色んな獣人がいるからな。姿形が自分と違うからと差別したりないんだろう。


 ギルドのことはあまり詳しく聞けなかったけど、正式名称がハンターギルドという民間の組織だということはわかった。


 ハンターギルドには強さを表すランクというものがあるらしい。ちなみにレフとベラとハッサンと呼ばれている熊男はブロンズランクで、犬耳と猫耳の子はアイアンランクらしい。なんとなくオークを倒せるハンターがブロンズランクになれるんだろうなと感じた。


 話していくうちになんかベラさんは色々感づかれていた感があったけど、俺がハーフということで何か事情があると思ってくれたのか突っ込まないでいてくれた。人族なんだけどな。


 どうも純粋な人族には黒目の黒髪は存在しないようだ。犬耳少年と猫耳少女は、一生懸命俺の頭に角や口に牙がないか探してたよ。魔人というのがどういう風貌かそれでわかった。


 ベラと違いレフという男はこの世界じゃ常識的なことを聞く俺を何も疑問に思わず、気前よく色々教えてくれた。こういう男は割と好きだ。


 一通り話を聞いた俺は、魔物の解体をしていた荷物持ちの羊獣人ぽい男の子に灰狼の魔石と牙をもらい彼らと別れた。その際に彼らが今日はこの広場を中心に狩りをするから、俺の作った石のドームを使っていいかと聞いてきたので、大きいドームをもう一つ隣に作ってこっちも使ってくださいと言ったら大喜びしてくれたよ。


 なかなか気持ちの良い人たちだった。兇賊の獣人とは大違いだ。そこは人間だから、良い人も悪い人もいるってことなんだろう。地球と同じだな。


 そんなこんなでレフたちと別れた俺は、道に戻って東街を目指した。途中で狩ったオークや灰狼に緑熊なんかは、レフたちに聞いたように討伐証明となる耳や牙や爪を回収した。彼らの話を聞いてハンターになった方がいいと思ったからだ。


 そして道中で一泊した翌日。ゴブリンや角兎など弱い魔物ばかり現れるようになり、頻繁にハンターらしき人たちとすれ違うようになった。それから陽も落ちようとした頃。道の先に高い外壁が見えた。恐らく東街と呼ばれる街を囲む外壁だろう。思っていたより大きな街っぽくてちょっと驚いた。


 その外壁の上や出入口には獣人の衛兵らしき人たちが剣を持って立っていたが、特に出入りする人をチェックしている風ではなかった。あくまでも魔物から街を守るのが仕事なんだろう。まあ森しかないしな。


 それにこの森の入り口付近の土地は、どの国家の土地でもないと言っていたしな。住んでる人も森に入るハンターか近くの国の兵士。そしてその人たちを対象に商売してる人ばかりらしい。


 俺は念のために前を歩いている獣人の人たちとの距離を詰めた。そして無事衛兵に止められることなく街へと入ることができたのだった。

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