第15話 オーガ
「いた……なんだありゃ……怖え……」
Cランクの魔物と思われる反応を追い森の中を慎重に進むと、50メートルほど先で錆びた剣を持った背丈が2メートル以上はありそうな鬼を見つけた。
そう、鬼だ。筋骨隆々の体躯に額から二本の角を生やし、口は裂け牙をのぞかせているまさに鬼と呼べる生き物がそこにはいた。
「オーガってやつか……めちゃくちゃ強そうなんだけど」
俺はオークと違って間違いなく強そうだなと思いながら、いずれ戦うことになるのは間違いないと覚悟を決め木々に隠れながら近づいていった。
そして20メートルまで近づいた所で、俺は木々の陰から身を飛び出させオーガの背中へ向かってペングニルを振りかぶった。
その時。オーガが俺の存在に気付き振り返った。
「フンッ! 」
俺はそれに構わず全力でペングニルを投擲した。
俺の手を離れたペングニルは、薄っすらと青い光を放ちながらオーガへと向かっていく。
俺がもらったと思ったその時。
「げっ! 」
ペングニルはオーガが振り下ろした錆びた剣により、叩き落とされてしまった。
地面に叩き落とされ勢いを失ったペングニルは、そのままオーガに拾い上げられた。
しかし数秒後にオーガの手元から消え、俺の手元に現れた。
マジか。初めて叩き落とされた。
そう俺がショックを受けていると、手に持ったはずの槍が消えたのを不思議そうに見ていたオーガは、俺へと視線を移しニヤリと笑った。
その顔はめちゃくちゃ怖かったが、俺はならば初見殺しをしようとペングニルを再び振りかぶった。
しかしその瞬間。オーガが身をかがめ、草木を吹き飛ばしながら一気に俺との間合いを半分にまで詰めてきた。
「なっ!? 速い! くっ! 『土壁』! 『千本槍』! 」
俺は一瞬で10メートルの距離を詰めたオーガに焦りながらも、土壁で身を隠し50本の千本槍を発動した。そして千本槍のうち一本がオーガの足をかすめその動きを止めた。
《ガアァ! 》
その機会を逃さず俺は、先程発動した土壁と千本槍を盾にしながらオーガとの距離を取った。そして真横に向けて全力でペングニルを放った。
オーガは出血した足をそのままに、目の前の土壁を避け顔を真っ赤にして俺へと向かってくる。
「『土壁』! 」
俺はここが勝負どころだと覚悟を決め、土壁を瞬時に2枚発生させ身を隠した。
《ウガァァ! 》
しかしオーガは俺の前に現れた2メートルの土壁を飛び越え、剣を振り上げながら俺を真っ二つにするべく頭上から襲い掛かってきた。
「マジか!? 『スケールカーテン』! 」
俺はオーガの並外れた身体能力に顎が外れそうなほど驚きつつも、火災保険に頼らず頭上にアンドロメダスケールを展開した。
ガキンッ!
頭上に展開されたアンドロメダスケールの帯状のカーテンは、期待通りオーガの剣の一撃を受け止めた。
そして
《ガッ!? 》
ペングニルがオーガの背中へと突き刺さり胸を貫通した。
「トドメだ! 『千本槍』! 」
俺はバックステップで距離を取り、地面に膝をつきながらも剣から手を離さないオーガへと石製の千本槍を20本放った。
そしてそれは避けられることなく、オーガ胴にいく本も刺さり串刺しにした。
「ハァハァハァ……やべ……強え……これは壁を灰狼の時と同じ高さにしないと駄目だな。まさかあの巨体で飛び越えるとは思わなかったわ」
甘かった。でもこれでオーガの身体能力はわかった。あとは対策を考えればもっと楽に倒せるはず。
かといってオーガの群れと戦うのは勘弁だけど。
俺はこんなのが5体も6体もいたら、とてもじゃないが無傷では済まないと冷や汗を流した。
そして地中から生やした石槍を地面に戻し、力尽きたオーガの胸を裂きスケールの帯を使って魔石を回収した。
「やっぱりオークのより大きいな」
ゴルフボールより少し小さい、歪な形の赤い魔石を手に取りそうつぶやいた。
オーガの魔石はオークの魔石と同じ色だったが、それよりも濃くそして大きかった。
Fランクが小指の爪くらいで、Eランクが小指ほど。んでDランクが親指ほどだから、大きさや色の濃さ的にこれがCランクなのは間違い無いだろう。
「このまま進むのは危ないな。少し南に進路を変えるか」
俺はオーガが出てきたことで、この先もまた現れるのでは無いかと予想し進路を変えることにした。
起きている間は対処できるが、こんなのに夜襲されたらたまらないからな。
それから数時間ほど南へと向かい、再び東を目指して進んでいった。
そして途中休憩し、昼ごはんを食べ終わり少し進んだ頃。やっと人が踏み固め土がむき出しになっている道のような物を見つけた。
「やった。これで人に会えそうだ」
そう喜びながらも俺は前回の失敗を繰り返さないよう、今度は人間の気配に気を配りながら慎重に道を東へと進んでいった。
しばらく進んでいると、どうもこの道は少しづつ南へと向かっていっているように感じた。
俺はこの先に東街があるのではと思い、警戒をしながらも歩く速度を早めていった。
そして途中でオークを見つけては狩りを繰り返し、そろそろ夕方になろうという頃。
首からぶら下げている魔物探知機に今までにない反応が現れた。
「青? 青ってなんだ? 」
盤面の北の端には青い点が7つと赤い点が4つ映し出されており、俺はその反応に首をかしげた。
その反応は動いていることから、生き物であることは間違いなさそうだ。
青い反応は初めてだな。方位磁石の神器が進化した事で別の能力が追加された?
俺はとにかくこの青い点がなんなのか確認しようと、道から外れ北へと向かった。
それから100メートルほど木々の合間を通って進むと、森の拓けた場所で革鎧を着た獣人と思わしき男女のパーティがオークと戦っている姿が見えた。
オークはもともと5匹いたんだろう。一匹は既に事切れており4匹が獣人たちへと棍棒と錆びた剣で襲い掛かっていた。
その姿を見て俺は魔物探知機に再度視線を送った。すると5つの青い点が獣人たちと連動して動いていることが確認できた。残りの2つは近くの森の中にいて動いていない。怪我人か?
でも間違いない。この青い点は人間の反応だ。
兇賊に襲われた時はこんな反応はなかった。ということはこの間の進化で追加された機能か?
いずれにしろこれはありがたい。これで人間からの不意打ちを防げる。
「これから人が多くいる場所に向かう身としては心強いな」
俺は魔物探知機とオークと戦う獣人たちを眺めながらそう呟いた。
獣人たちは剣と盾と弓でオークと互角に戦っている。見たところ怪我人もいないようだし、助太刀する必要はないだろう。怪我人だと思っていた2つの反応は南から見学しているようだ。大きな荷物を持っていることから荷物持ちか何かかもしれない。
まあこれなら大丈夫そうだな。シュンランさんが助けに来た時も、俺に怒られると思っていたって言っていたしな。勝手に助けるのはご法度なんだろうな。
確か小説とかでもそうやって頼んでもないのに乱入して、取り分で揉めるとかあったな。
ならここでこの世界の住人の戦い方を勉強させてもらおうかな。
俺はそうして魔物探知機で周囲を警戒しながら、50メートル離れた場所から彼らの戦いを眺めていた。
大剣を持つ虎耳男に大盾の熊耳男。そして片手剣を持つ犬耳の少年に、あの片手剣の女性は豹かな? 弓の子は猫耳っぽいから猫だろう。男には良いイメージがないけど、女の子のケモミミはいいな。しかし豹の耳と尻尾の子はスリムで美人だな。猫耳の子も可愛い。
やっぱり話すと語尾にニャとかつけるのかな? あっ! 危ない! おいっ! 何してんだよあの犬耳の少年は! ちゃんと猫耳の子を守れよ!
俺はオークがさらに一匹力尽き、5対3になったというのにいつまでも互角の戦いをしているのを見てイライラしていた。
あの虎耳の大男は強いし、豹耳の子も虎男と連携できてる。でも犬耳の少年の攻撃は軽く、猫耳の女の子の矢はよく外れてる。そんな彼らを守るために熊耳の大盾を持つ男が戦闘に参加できないでいる。
つまりこのパーティは実質虎男と豹耳の女性二人でオークと戦ってる。
虎耳の男がリーダーかな。犬耳に指示をよく飛ばしていて育成中っぽい感じはするな。うーん、でもこのままだと危ないな。
俺はオークを倒すのに時間が掛かり過ぎている獣人パーティを見て、このままでは別の魔物がやってくる可能性があると考えていた。
それは虎耳と豹耳の二人も感じているようで、動きに焦りが見えてきた。
そして少ししてその予感は的中した。
「やっぱり現れたか。この速度は灰狼だな。4、5……6匹か。多いな」
魔物探知機の東側から現れた見覚えのある赤い点とその移動速度に、俺は灰狼がオークの血の匂いを嗅ぎつけてやってきたのだと確信した。
俺はこれはまずいだろうと思い、いつでも参戦できるよう灰狼がやってくる反対方向から小走りで近づいていった。
そして俺が獣人たちのもとに着くより早く、灰狼の群れはオークと戦っている獣人たちの背後から襲い掛かった。
《ゲッ! 来ちまった! 》
《だから言ったじゃない! オーク5体は無理だって! 》
《いけると思ったんだよ! チッ、ハッサン! チビたちを大盾で灰狼から守れ! 俺はオークを先に仕留める! 》
《これはマズイわね。レフ! 四肢の欠損や死人が出たら恨むからね! 》
《わかってるって! ベラ! いいからここを切り抜けるぞ! 》
《なんでアンタといるといつもこうなるのよっと! あとオーク3! 》
俺の目の前では虎男と豹女が言い合いながらもオークを一匹仕留め、大盾を持つ熊男は犬耳と猫耳を守りながら灰狼の攻撃を防いでいた。
こりゃ厳しそうだな。行くか。
俺は獣人パーティを助けるために、灰狼の群れへとペングニルを投擲したのだった。
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