第13話 1LDK
「火災保険のギフトの能力はわかった。対人戦闘の助けになるくらいに考えておこう」
なるべくならもう人を殺したくない。けど俺は多人数相手に手加減して勝てるほど強くもない。
だったらもっとレベルを上げて強くなればいい。
「でもさすがに昨日の今日で外に出る気にはならないな」
かといって部屋にじっと閉じこもっていても色々思い出しちゃうしな。
「野営の準備でもするか」
俺はとりあえず野営をするための食料作りをすることにした。
保存食は干し肉を作るくらいしかわからないけど、普通の動物が食っていたベリーやリンゴのような果物もある。これは切ってタッパに入れて冷凍しておけば保つんじゃないか?
俺はとりあえず下準備をしようと物置にしている石の部屋から果物と、神殿の階段に干してある緑熊と角兎の肉をキッチンへと持ってきた。
そして包丁を手にして切ろうと思ったのだが
「ぐっ……狭い……」
1K用のミニキッチンは、何食分もの食料を用意するには狭かった。
「そういえば……」
Dランクだろうと思えるオークやらの魔石は、間取り図作成に使えるんだろうか?
間取り図で作る部屋に必要な魔石はEランクだ。でも俺の手元にはそれより大きい魔石がある。
普通ならランクが高い方で代替えできると思うんだが……
確かEランク魔石は60個くらいで、Dランクは兇賊のボスが持っていたのを含めて50個はあったな。Dランク魔石一個でどれくらいの数のEランク魔石の代替えになるかわからないが、等価ってことはないだろう。
魔物の強さ的にEランク魔石3個分の代替えができたとして150個。Eランク魔石を足して210個か。最初の時に作成した1LDKが220個必要だったから、少しグレードを落とせば作れるな。
ちなみにDランクと思われる魔石の色はオークが薄い赤で、灰狼などその他がゴブリンと同じ茶色だ。
「広いキッチンも大型冷蔵庫も欲しいし試してみるか」
俺は部屋に戻り、ソファーに座りながら間取り図のギフトを発動した。
「さて、どれくらいの間取りにしようかな」
この部屋を手に入れてからは特に不自由は感じていなかった。設備は古いけど石の上で寝て、手動で火を起こしていた時に比べれば天国だしな。風呂にも毎日入れるし、トイレも快適だ。魔石式エネルギー供給装置も、一日で1メモリしか減らないから光熱費なんてないようなもんだ。
だから周辺の探索とレベルを上げることだけに集中していたが、キッチンの狭さを考えるともう少し広い部屋が欲しい。
でも何部屋もあっても掃除がな。
大型の1LDKにするか。
俺はそう結論を出し、間取り図作成画面に移動した。
「一から作るのもめんどくさいな。前のを編集するか」
また最初から間取り図を作るのが面倒になり、この部屋を作った時の1K の図面を修正して1LDKにすることにした。
LDKとはリビングダイニングキッチンの略で、1LDKの場合は一部屋の寝室とは別にリビングダイニングキッチンがあるということだ。
「寝室とリビングはそうだな……この石の部屋は広かったし寝室12帖とリビング20帖くらいはいけるか? 」
設備はリビングのエアコンを大型のに替えて、風呂も大きいのにしよう。床暖房も入れてリビングと寝室の境目や、トイレや風呂の入口にある境目をフラットにしてつまずかないようにしとこう。この間寝ぼけて廊下に出る時につまずいて痛い思いをしたからな。
室内のドアは全部引き戸にするか。その方が広く使えるしな。
あとはキッチンをカウンター式のシステムキッチンにするか。冷蔵庫も大型にして、洗濯機も毛布が洗えるように大きいのにしとくか。
俺はなんだかんだ部屋を作るのが楽しくなり、いつの間にかグレードを落とすどころか最初に作った1LDKよりも広い間取りと、大型の家具や電化製品を選択していた。
そして全ての設備と家具に電化製品を配置したところで夢中になっていた事に気付き、恐る恐る画面右上の必要魔石数を確認した。
「んん? なんか前より安くないか? それに−45? 」
画面右上の必要魔石には、『Eランク魔石×205(−45)個』と表示されていた。
おかしい……リビングと寝室は前より広いし、ベッドや家電も大型にしたのに前に作ったのより安いとかあり得ないだろ。
もしかして必要魔石の隣に書かれているこの数字が原因か? 45……あ、確かこれは今の部屋を作るのに使った魔石の数だ。
「そういうことか。今ある部屋をバージョンアップさせる場合は、支払う魔石は差額でいいということか」
ということは家具や家電も差額になってる?
俺は家具や家電を外したり設置したりして、魔石の増減を確認した。
その結果、もともとこの部屋にある家具や家電を外しても必要魔石は減らなかった。これはコストとして計算されてないことを意味する。さらにシングルからダブルにしたベッドも、シングルベッド分のコストしか掛かっていなかった。
「やっぱりバージョンアップした家具と家電のコストが差額になってる。これはお得だな」
中古だからと半額になるわけでもなく、最初作った時に使った魔石をそのまま差し引いてくれるのは良心的だ。
「これなら今ある魔石で足りる。よし、これで行こう。その前に最終チェックをするか」
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間取り: 1LDK 洋室12帖・LDK20帖
設備: バス・トイレ(洗浄便座)・システムキッチン(3口ガスコンロ・食器洗浄器・オーブン付き)・床暖房・TVモニター式インターホン・給湯器・エアコン×2基(リビング・寝室)
家具: ベッド(ダブル)・ソファー(3人掛け)・ラグマット・ダイニングテーブル・椅子・テーブル・寝具・カーテン・食器・調理器具・洗面用具・防災避難セット・各種消耗品
家電: 冷蔵庫(大型)・洗濯機(大型)・掃除機・電気ポット・電子レンジ・ドライヤー
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「問題なしと。あとは肝心の上位の魔石が使えるかだが……」
作成した間取り図を確認した俺は、画面にある実行ボタンをクリックし魔石投入画面を呼び出した。
そしてDランクと思われる魔石を一つ投入してみた。すると魔石は下に落ちることなく画面に入っていった。
「おお〜、予想通り使えたな。残りの必要魔石数は201か……ってことはEランク魔石4つ分か。魔物の強さといい魔石の大きさといい価値といい、これはもうDランク魔石で間違いないんじゃないか? 」
てことはDランク魔石37個とEランク魔石57個で作れるってことか。でも今後バージョンアップした時の端数用に、Eランク魔石は残しておくか。もうゴブリンとかわざわざ狩らないしな。
よし、ならプチ引越しだ。
俺は使う魔石を決めたあと、間取り図の画面をいったん閉じた。
そしてスーツとカバンと食材を玄関の外に置き、再び玄関に戻って間取り図のギフトを発動しDランク魔石を50個とEランク魔石を1個投入した。
その瞬間。前回と同じようにパソコンの下に魔法陣が現れ、眩い光を放った。
俺は二度目ということもあり事前に目を閉じ用意していたタオルで顔を覆い、じっと光が収まるのを待った。
そして光が収まり目を開けると、そこには広くなった玄関と廊下が存在していた。
「二度目だけどやっぱりワクワクするな」
それが新築ならなおさらだな。
ちなみに俺は不動産会社勤務だが、会社の保有するマンションには住んでいない。家賃は社員割が効いてかなり安くてお得なんだが、住んだら辞めれなくなると思ったからだ。まあ住んでいなくても結局不景気で辞めれなくなったが……
そういうわけで自分が住む部屋は自分で探した。最初は安アパートからだったが、その後は新築ばかり住んでいた。別に潔癖というわけではないが、あの新築特有の部屋の匂いが好きなんだ。
「魔石式エネルギー供給装置はやっぱり玄関横か。風呂から見ていくか」
俺は大型の靴箱の向かいにある扉を開き、エネルギー供給装置を確認したあと、浴室を見に行く事にした。
そして廊下の左側の引き戸を開け広くなった脱衣所に入り、大型の洗濯機を横目に浴室の扉を開いた。
「おお〜想像通りだ。洗い場も広いし、浴槽もこれなら足を伸ばせる」
設備は相変わらず古くて日本で住んでいた時のようなミストシャワーもなければ、浴槽を自動洗浄してくれる機能もジェットマッサージ機能もない。しかし浴室の広さと浴槽の大きさは完璧だ。
まあ2030年の新築物件と設備を比べること自体が意味がないんだけどな。失ってわかるあの快適な生活よ。
それからは隣の引き戸を開けて広くなったトイレを確認し、トイレの向かいにある大型の収納も確認した。
そして廊下の突き当たりにある、半透明のスライド式の扉を横にスライドさせた。
するとそこには20帖のリビングが広がっていた。
リビングに入ってすぐ左側にはカウンターキッチンがあり、キッチン内には食器棚と大型冷蔵庫に電子レンジなど家電が置かれていた。
そしてキッチンの前にはダイニングテーブルと2つの椅子があり、その向かい側には大型のクローゼットが図面通りにあった。
リビングの奥には3人掛けのベージュのソファーと、黒い長方形のテーブルが置かれていた。その下にはベージュのふかふかのラグが敷かれてある。
そしてソファーの向かい側。リビングの入り口から見て右奥には、寝室へと繋がる半透明のスライド式の扉があった。
扉をスライドさせ寝室に入ると、12帖ある部屋の真ん中にはダブルベッドが置かれていた。ベッドはかなり大きいが、この部屋は他には小さな棚と大型のクローゼットがあるだけなので全然広さに余裕がある。
パソコンも何もないからな。物がないとこんなに広く感じるもんなんだな。
「うーん……広くし過ぎたな」
一通り見て回った俺はテレビも何もない部屋を見渡し、広く作り過ぎたかなと少し後悔した。
まあ大は小を兼ねると言うしな。掃除が面倒だが仕方ない。前より快適になるのは間違いないんだ。うん、大満足!
「防災避難セットもあったし、これでまた白飯が食え……ちょっと待てよ? 」
そういえば防災避難セットのリュックは、隣の石の部屋に置いてあったはず。なのに新規に作った部屋ではなく、バージョンアップした部屋にあるってことはもしかして……
俺はもしかしてとんでもない見過ごしをしていたのではないかと思い、リビングのクローゼットの中にあった新しい防災避難セットを玄関の外へと出した。
そして再びギフト間取り図を発動し、この部屋の間取り図の編集を選択した。次に図面に配置した防災避難セットを一度外して再度設置した。
すると画面右上に表示されている必要魔石数が、Eランク魔石×2個と表示された。
「うおっ! 買える! 防災避難セットが買える! くあぁぁ! なんでもっと早く気がつかなかったんだ! 毎日おかゆご飯を食べようか悩んでいたあの苦悩と時間を返せ! 」
予想通り外に出した防災避難セットを買うことができ、俺は歓喜しつつも悔しがった。
最初に避難セットを2個配置しようとして出来なかったから諦めていたのに、まさか部屋の外に出せばまた配置できるなんて!
「ん? 待てよ? ということは、これに限らず消耗品とかも補充できるってことだよな」
そう思った俺はシャンプーやリンス。ついでにバスローブやタオルにトイレットペーパーなどの消耗品を玄関の外に出し、同じように間取り図から一旦外して再度配置した。
そしてそれは防災避難セット同様に買うことができた。
「やっぱり! これも無限増殖できる! 」
よかったぁ。もう一部屋作らないと手に入らないと思ってた。
なんだよなんだよ。もっと早く気づいてれば毎日米が食えてたのに……
まあ過ぎたことはいい。これで毎日米が食えるんだからな。手巻き式ヘッドライトも売れるだろうし、こりゃ商人にでもなるか?
いや、こんなのをこの世界に出回らせたらやばいか。国に目を付けられて狙われかねない。封印だな封印。
それから俺は防災避難セットを増殖しまくり、同時に残り少なくなっていたシャンプーなど消耗品も増殖した。
そして久しぶりの白飯と肉料理を食べ、広い風呂に入ってゆっくりした後。
野営の準備は明日やることにして眠りにつくのだった。
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