第9話 新たな狩り場



「いた……やっぱりオークの反応だったか」


 50メートルほど先の森の中には、太い棍棒と錆びた剣を手に持ち彷徨っている豚の顔をした2体の魔物がいた。


 俺は木の影に隠れながら、ヘルメットを押さえ身をかがめた。


 このヘルメットは防災避難セットに入っていた白いヘルメットだ。中央には緑十字のマークがある。


 ヘルメット以外装備は、グレーのスーツに背中にはカバンと防災グッズの入っている青いリュック。手には1.2メートルの銀色の槍。腰にはゴブリンから奪って錆を落としたナイフと、アンドロメダスケールだ。見た目は防御力0に等しい。


 この先にいる体長2メートルほどで二足歩行をしている茶色い豚なんだけど、俺はオークと名付けた。漫画やアニメに出てくるそれにそっくりだからだ。このオークはかなり力が強い。初めて戦った時に接近を許しアンドロメダスケールで拘束したんだけど、抑え込むのが大変だった。


 それ以降はかなり距離を取り、遠距離から不意打ちに徹している。このオークと灰色の狼と戦うようになってから、止まっていたレベルアップもまたするようになった。そのおかげで身体能力も強くなっているので、以前よりも遠くからの攻撃が可能だ。


「行けっ! 『ペングニル』! 』


 俺は身を屈めながらゆっくり移動し、オークの背後に回りペングニルを投擲した。


《ブッ……》


 ペングニルは木々の合間を縫うように抜け、手前の剣を持つオークの後頭部を突き刺さした。


 隣で力なく倒れる仲間の姿を見たもう一匹のオークは、ギョッとした表情をしたあとすぐに俺がいる方向に視線を向けた。俺はまた移動しながら、残りのオークへと戻ってきたペングニルを再び放った。


《ブギュッ……》


 オークは側面から向かってくる槍の軌道を読み横に避けたが、槍はほぼ直角に軌道を変えオークの首へと突き刺さった。


 俺は魔物探知機を確認し、二匹の反応が完全に消えたのを確認してからオークへと近づいた。


 初めて戦った時にまだ生きていて襲い掛かられたからな。このオークは力が強いだけじゃなく生命力も強い。安易に近づくのは危険だ。


「うっ……相変わらず人型の魔物の胸を裂くのは嫌な気分だ」


 俺はオークの胸をペングニルで裂き、アンドロメダスケールをそこから入れて魔石を掴ませ引っ張り出した。


 もう魔石の位置はわかっているから、最初の頃のように内臓を全部出す必要も手を突っ込む必要もない。アンドロメダスケールの扱いに慣れた俺は、スケールから伸びる帯をマジックハンドのように使い魔石を回収している。




 間取り図のギフトでこの世界で初めてのマイルームを手に入れてから2週間。


 俺は神殿のある岩山から2キロから10キロほど南のエリアに狩場を移し、オークと灰狼。そして緑色の熊や白いゴリラなどDランク魔石を持つ魔物を狩る日々を送っていた。


 なぜあの森の拓けた場所での待ち伏せ式の狩りをやめ、ここへ移動したかというと、もうあそこで狩ってもレベルが上がらなくなったからだ。いくら倒しても寝る時に身体が痛くならなくなったことから、俺はもっと強い魔物を探しにいくことにした。間取り図のギフトを進化させるために。


 それでまず神殿の上にある岩山に登り周囲の地形を確認したんだ。


 まあ見なきゃよかったと後悔したけど。


 もう見渡す限り森でさ、全方位地平線までびっしり緑と大小様々な山が広がってたよ。


 もしかしたらこの森から一生出れないかもなんて考えながらも、俺はとりあえず神殿の北から散策することにしたんだ。


 その結果、神殿の北と西はやばかった。


 1キロくらい歩いたあたりから魔物じゃない普通の小動物を見かけなくなり、魔物探知機に映る赤い光が大きく力強くなった。ゴブリンなんて比じゃない。今思えばオークよりもかなり強い反応だった。それは西も同じで、神殿から1キロ離れたところで急に強い魔物の反応になった。


 北と西ほどの強い反応ではないけど、東と南も1キロを超えた辺りから魔物探知機に映る魔物の反応が強くなった。


 俺は悟った。あの神殿の周りには、強い魔物が近づけないんじゃないかってね。だからやたらと角兎にゴブリンや緑狼に猿が多いんだって。あそこは女神が俺にチュートリアルをさせるための聖域なんじゃないかってさ。チュートリアルで死にそうになった俺の立場がないけど。


 そう思った俺は、次のフィールドは南か東だと思ったんだ。だからまず南でレベル上げをしているというわけだ。


 そして一週間ほど探索した結果から、南にはゴブリンや緑狼は全くいなくてDランクの魔物ばかりだということだ。ああ、本当にDランクの魔物かどうかはわからない。ゴブリンの茶色の魔石と違い赤くて大きかったのと、強さ的にそうだと思ったからDということにしたんだ。


 南に生息する魔物なんだけど、緑色の熊は体長3メートルほどでかなりタフだ。けど単体でいることが殆どだから、遠距離から余裕で倒せる。何より肉がうまいので、ボーナス的な魔物の位置付けだ。接近されても硬度を増した俺の土壁で防げるしな。


 白いゴリラはちょっと注意だ。こいつは体長2メートル半ほどあり筋肉ムキムキで、緑熊と同じく単体で彷徨っている魔物だ。目と耳がかなり良く、不意打ちがしにくい。見つかると大きな石などを投げてきて、一気に距離を詰めてその鋭く長い牙で襲いかかってくる。が、まあ近づかせなければペングニルにで一撃だ。魔物探知機がなければ脅威だが、いることさえわかれば倒せる。


 オークも多い時は5体ほどいるが、ほとんどが2体か3体でいる。剣や槍など武器を持っているから危険だが、近づかせなければなんとかなる。槍を投げられた時は焦ったけどな。今まで投げる側だったから、投げられるのがあんなに怖いとは思わなかったよ。


 問題は灰色の狼だ。こいつらは大型犬ほどの大きさでめちゃくちゃ素早い。しかも最低5匹以上で行動している。一度戦ったが、緑狼とは比較にならないほどの鼻の良さを持っており、速さと連携で何度も接近されてのし掛かられ噛まれそうになった。


 まあそういった事もあって待ち伏せ戦法は封印した。俺が潜んでいる場所が見つかってしまうからな。あれは低ランクの魔物にしか通用しないようだ。


 俺の弱点は接近戦に弱いとこなんだよな。土壁があるとはいえ、囲まれるとキツイ。速い魔物は要注意だ。


 そうそう、ゴブリンの持っていた錆びたナイフとオークが持っていた剣や槍は知能の高い者が作った物なんじゃないかと思う。オークの知能的にあれが作れるとは思えないし。


 それに人間のっぽい白骨を見つけた。頭の上に耳の骨があって最初はオークの子供かと思ったけど、なんか銅のドッグタグみたいなのがあってそこに名前が書かれてたんだ。それで人間というか獣人の白骨なんじゃないかと思った。魔物がいるんだ、獣人やエルフがいてもおかしくないだろう。


 それからはエルフやケモミミに出会えないかななんて思いながら、森をなるべく先へと進んでいる。


 もうこの一週間で30体以上はDランクの魔物を倒したし、毎日ではなくなったけど寝てると身体も痛くなった。二度目の神器の進化はまだだけど、何となくまた進化しそうな気配はある。でも、相変わらずギフト間取り図のヘヤつくは1990バージョンのままだ。


 もう一つのギフトの地上げ屋は日々能力が向上している。土の硬度も上げることができるようになったし、千本槍も20本は出せるようになった。


 でも間取り図のギフトは何の変化もない。


 2030までのバージョンしかないから、進化するまでのハードルが高いとかかね?


 それかもしかしたら1LDKや2LDKの部屋を作らないといけないとか?


「帰ったら試してみるか。とりあえず今日は探索がてらもうちょい奥に行ってみるかな」


 俺はオークの身体から親指くらいの大きさの赤い魔石を取り出し、オークの持っていた剣を剣帯ごと回収して背中のカバンに植物の蔦で作ったヒモで固定した。


 魔物が持っている武器は、状態の良さそうな物は回収している。今後誰かに売れるかもしれないしな。


 頭上を見上げ日の空の明るさを確認した俺は、神殿に戻るのは夜になるかもなと思いつつも魔物探知機を手に森の中を南へと向かうのだった。


 そしてそれから数時間ほど進んだあたりで、魔物探知機にゴブリンなどEランクの魔物の反応が写り始めた。


「どういうことだ? 」


 森の奥に向かっているはずなのに、現れる魔物が弱くなってる?


 いや、オークの反応もあるな。でも緑狼っぽい動きの反応もある。


 俺は首を傾げながらもそのまま進んだ。


 すると森の中に明らかに人が頻繁に通り、草が踏み慣らされた道のようなものがあるのを見つけた。


 俺はもしかしたら現地人に出会えるかもしれないと、期待を胸にその道を進んでいった。そして1時間ほど道なりに歩いていると、前方から水が流れる音が聞こえてきた。


 俺はずっと歩き詰めだったこともあり、休憩をしようと思いその方向へと向かっていった。そして木の切れ目が見えたところで川を見つけた。


 川の上流に視線を向けると滝も見えた。


「こんなところに滝があるのか。これはいいな。魔物は水の中にはいなさそうだし、汗を軽く流してから休憩するか」


 そういって森から出て川へと歩いていった。




 この時俺は警戒するべきだった。魔物探知機に映らない恐ろしい敵がいることを。


 この後、俺はこの世界に来てから最大の危機を迎えるのだった。

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