第4話 ギフト




 俺はとにかく全部試してみようと思い、『間取り図』のギフトを発動するよう念じた。


 すると俺の目の前に光でできたモニターと、キーボードとマウスが現れた。


「うおっ! なんだ!? パソコン? 」


 目の前に現れたのは金色の縁でかたどられた、宙に浮かぶデスクトップ型のパソコンだった。


 突然現れたパソコンに驚いていると、モニターに『ヘヤツク1990』という文字が表れた。


「ヘヤツク!? 何でここにこのソフトが……」


 ヘヤツクは40年前に発売された、不動産の間取り図や募集図面を作成する事ができる人気ソフトだ。


 俺も2020年バージョンからずっと使っていた。このソフトにはテンプレートの図面や、家具や家電やバストイレキッチンなど様々な設備の記号があらかじめ登録されてある。


 この記号は風呂ならちゃんと風呂に見える形をしており、トイレならトイレの形をしている。部屋の壁やその記号をクリックして配置するだけで間取り図や、より詳細な情報が書かれた募集図面を簡単に作れるんだ。


 このソフトは日本だけではなく海外でも人気で、2010年バージョンからは電気鉄線や機関銃の固定砲台を意味するマークなんかも実装されていた。海外じゃ要人や富豪の住んでいた物件が売りに出されたりよくあるからな。


 しかしまさかこんなところでこれにお目にかかるとはな。


「これで間取り図を作れってことか? なんか期待しちゃうな」


 もしかしてこれで作った間取り図の部屋が実現するのかもしれない。創造魔法ってやつかも!?


 もしもそうなら、この石しかない神殿で快適に生活することができそうだ。


 俺は期待を胸に金色に輝くマウスに手を置いた。


「これが作成画面のタブか? くっ……バージョンが古すぎて……ああ、この画面は似てるな。なるほど、昔は使い難かったんだな。まあ40年前じゃ仕方ないか」


 マウスを動かすとソフトが起動し、見覚えのある画面が現れた。最初は項目の名称や配置が違っていたりして戸惑ったが、幸い長年使っていたソフトだ。クリックしていくうちに段々と使い方がわかってきた。


 そして金色の文字で表示された、間取り図作成画面へと辿り着いた。


「募集図面作成画面がなかったな。ギフトが間取り図だからか? でも募集図面なら建物の設備も書けるんだけどな。これが実現するソフトだとしたら、今後どうやってタワーマンションを作るんだ? 」


 間取り図は部屋ごとの形や設備が書いてある物であることに対し、募集図面はその部屋のより詳しい設備や、部屋がある建物全体の設備まで書いてある。女神が俺にあのタワーマンションを作らせたいのであれば、募集図面作成画面がないとおかしい。


「今は考えても仕方ないか。本当に図面を書くだけのギフトである可能性もあるしな」


 図面を書いて紙に印刷されるだけの可能性もないとは言えない。それだけは勘弁だが、とりあえず家具付きの部屋を作ってみるとするか。


「古っ! やっぱ設備古いなぁ……洗浄便座があるのが救いだな。もう10年古かったら無かったしな。う〜ん今どきガスコンロか、火事が怖いな。まさかそのための火災保険のギフトか? だったら消火のギフトの方が良かったな。火を吐く魔物とかいそうだし……」


 トイレやキッチンのマークの形でだいたいの古さはわかる。新しくなる度にそれに近い形のマークになるからだ。和式トイレならしゃがんでするタイプのマークだし、洋式トイレなら横に洗浄ボタンが付いているものと付いていないものがある。タンクレスのトイレならタンクがないマークだ。


「まあこういう物件にも住んだことがあるし、我慢はできる。とりあえず1LDKの部屋を作ってみるか。リビングは15帖で洋室は10帖くらいでいいか。床はオールフローリングで……」


 俺はブツブツ言いながらも、1990年バージョンでもできる限り最新の設備を選択して配置していった。


 そして家具の配置も終わったところで付帯設備ふたいせつびの記号の横にマウスを合わせ、風呂の横に追い炊き機能付きやキッチンの横にはグリル付き。フローリングには床暖房などを書き込んでいった。


 その際にふと、画面の右上にある数字に気づいた。


「ん? Eランク魔石×220個? なんだこれ? 」


 魔石? ファンタジー小説なんかでよくある、魔物の体内から取れる石みたいな物のことか?


 あっ! もしかしてこれってコストか!?


 俺はまさかと思い、間取り図から床暖房を外してみた。すると魔石の横の数値が210に減った。


「ぐっ……有料かよ。ただで作れるわけじゃねえのかよ……あ〜ついでに魔物も倒せと言ってたな。こういうことか」


 甘かった……創造魔法なんて物じゃ無かった。


 でもコストが必要なら、この間取り図に書いた部屋が現実に現れる可能性が高くなったのは確かだ。


 居心地の良い場所を手に入れたければ戦えってことか? 自分は不法入居しておいて勝手な女神だ。


「とりあえずEランクの魔石ってのを持っている魔物がどれほどの強さかわからない以上、コストは安いに越したことはない。妥協するか……」


 俺は戦って手に入れなければならないのなら、より少ないに越したことはないと思い部屋の広さと配置した設備をダウングレードしていった。



「こんなもんか」


 俺はでき上がった間取図と設備を一つ一つ確認していった。


 -----


 間取り: 1K 洋室8帖・キッチン3帖   


 設備: バストイレ別(トイレは洗浄便座)・一口ガスキッチン・給湯器・エアコン


 家具: ベッド・ソファー・テーブル・寝具・カーテン・食器・調理器具・洗面用具・防災避難セット・各種消耗品


 家電: 冷蔵庫・洗濯機・掃除機・電気ポット・電子レンジ・ドライヤー


 -----


「なんか1LDKから1Kにしただけでめちゃくちゃコストが減ったけど、それでも魔石45個か。魔物を45体……でもこれ以上は設備を減らしても、たいして必要魔石が減らないんだよな。魔物の強さはわからないけど、このギフトをくれた以上はそんな無理な相手じゃないだろう。他のギフトも使える能力かもしれないしな。そうだといいなぁ」


 まあとにかく魔物を倒して魔石を手に入れてからだな。このギフトの本当の能力がわかるのは。


 俺は一旦作った間取り図を保存し、ギフトを閉じるように念じた。


 すると目の前にあったパソコンが一瞬で消えた。


 よし、次は地上げ屋か。普通に考えたら使い道のない能力だけど、何かあるかもしれない。


「ギフト『地上げ屋』発動! 」


 俺は地上げ屋のギフトを発動した。


 しかし案の定、何も起こらなかった。


 「だよなぁ」


 地上げ屋はマンションやビルを建てたい企業から、立てたい場所の土地の所有者と交渉することを依頼された人のことだ。


 つまり土地の所有者と交渉する際に有利に働くギフトなんだろう。良い立地の土地を手に入れ、間取り図で部屋を作る。確かに自然だな。


「地上げ屋じゃなくて地魔法とかだったらいいのにな。そしたらこう、地面を隆起させて……」


 ボコッ


 俺が地面が隆起するイメージをすると、目の前の石畳の床が盛り上がった。


「え? そっち!? 」


 地上げ屋って仕事のことじゃなく、文字通り地面を上げる能力ってこと!?


 女神には地上げ屋が理解できなかったのか? だから字面だけで判断した?


「いや、こっちの方がいいんだけどさ……あの女神かなり適当だよな」


 それから俺は土壁や土槍などをイメージしていった。それはその通り床から壁や槍が現れたが、床から離れて飛んで行くことはなかった。あくまで地面を上にあげることしかできないようだ。


 しかし5メートルほど離れている場所にも出現したし、元の床に戻すこともできた。これは当たりの能力だろう。


「あれ? なんか疲労感が……もしかして魔力的な物を消費するのか? まだ確認していないギフトが残ってるし、試すのはこの辺にしておくか」


 俺は疲労を感じ、その存在をまったく認識できないが魔力的なものを消費しているのだろうと思い地上げのギフトを使うのをやめた。


 そして最後に火災保険のギフトを発動した。


 しかしこれも予想どおり何も起こらなかった。


「火災ってんだから火系の魔法とかか? 『ファイアーボール』! 『インフェルノ』! 」


 火系の魔法とも思ったが、こちらも反応しない。地震保険もあったことから、地震を起こせるのかとも思ったが生き埋めになったら嫌なので試さなかった。


 多分火系の魔法じゃないなら地震も無いだろう。やっぱり間取り図で作った部屋の保険なのかもなぁ。部屋を燃やしても魔石のコストなしで同じ部屋を作れるとか? まあコストの高い部屋を作ったら必要っちゃ必要だけど……そんな部屋は火を使う設備はないんだよな。IHキッチンとかだし、俺はタバコも吸わないし。


 まあ気にはなるが、神器の方位磁石とギフトの火災保険は保留ということでいいか。


 さて、とりあえずペングニルとアンドロメダスケールに地上げ屋の練習だな。


 というか腹減った。昼から何も食べてなかったしな。


 俺は腹が減っては練習もできないと思い、カバンからパンと水筒を取り出すのだった。


 食べたら練習しよう。そして明日の朝に食料と水を探しに外に出よう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る