第6話 ・ サラッと回って玄蕃サラ・ラスト

 塩尻の峠に塩水の柱が上がったのと同時刻……桔梗ヶ原神社の狐の石像が、人間の姿に変化しました。

 人の姿になった銀髪で若作りをしたイケメン男性が、水柱を見て口元が露出した半面の狐面を被ります。

「さすがに苦戦しているようだなサラも……ここは、玄蕃之丞狐の真打ち登場か」

 男性はマントを羽織ると、キツネ尾を生やしたヒーローっぽい姿に変化してブツブツ呟きはじめました。

「キツネ仮面、仮面キツネー……なんか違うな、コンコンマン、銀狐マン、キャプテン狐……う~ん、玄蕃マンだとサラにバレバレだし」

 ヒーロー名がなかなか決まらない、伝説の古狐は悩み続けました。


 ◇◇◇◇◇◇


 人間の目には見えない陰気に包まれていく塩尻市──このままでは、シャッターが閉まった空き店舗だらけの『閑古鳥』が群がる、衰退都市になりそうな勢いです。

 近くの建物の駐車場屋上から、玄蕃之丞の声が聞こえてきました。

「サラ! 巫女の姿になってキツネの踊りを! キツネ踊りの活気で閑古鳥を幼鳥に!」

 うなづいたサラはクルッと回って、巫女さんの姿に変わります。

 急に空が月夜に変わり、サラが狐の動きをマネた振り付けで、コンコンピョンと愛らしく踊りはじめました。

『玄蕃祭り』のはじまりです。

 夏美、与三郎、紗絵が踊りに加わり。

 サラの幻術で月夜の桔梗ヶ原に、季節の花々が咲き乱れます。


 二巡目の踊りになると、縄文さんや、奈良井さんや、ワインの精霊や市民も加わり、楽しげな踊りの輪が広がっていきます。

 陰気が散っていくと、閑古鳥たちの顔にも癒された安らぎが浮かんできました。

「グェッ、グェッ、ビョッピョッ」

 陰気が減少して黄色い雛鳥になった、ヒヨコたちも一緒に踊ります。

 踊るサラは黒ザコたちに説教をしている狐半面の銀髪男性を見ました。


 説教された黒ザコたちは、頭を掻きながら詫びて一人……また一人と去っていきました。

 一部のザコは女性声優のような声で「ひゃはぁぁ!」と、叫びながら逃げていきました。


 市民が加わったキツネの踊りが終わって、サラは狐半面のマント男性に近づいて言いました。

「何やっているの……お父さん」

 慌てる玄蕃之丞さんです。

「ひ、人違いだ! わたしはローカルヒーローの──え~と、とりあえず『マスク・ザ・フォックス』だ! 決して、娘が心配でザコに関与できないキツネのとり決めを破らないように、即席ヒーローに変化した玄蕃之丞狐ではない……はっ!」

「マスク・ザ・フォックス……ふ~ん」

 サラは訝しげな目で父親を凝視します、サラの視線に居ずらくなった玄蕃之丞は。

「さらばだ、狐の少女よ!」

 と、誤魔化すようにマントをひるがえすと、葉っぱを一枚残して、その場から煙のように消えました。


 数日後……学校の中庭で山賊焼きを食べながら、サラと会話をしている、みどり子の姿がありました。

「海竜は天竜川を下って、無事に海に帰ったみたいだ……陰気が弱まった閑古鳥やザコたちも勢力が縮小されて、大人しくしているから、ひとまず安心だな……塩尻市の閑古鳥衰退が無くなったワケではないけれど」

 サラが、ニッコリと微笑んで言います。

「大丈夫だよ、玄蕃サラがいる限り、塩尻はさびれないから」

「そうだな」

 みどり子が、歯形がついた山賊焼きをサラの方に差し出して言いました。

「山賊焼き食べるか?」

「食べかけの山賊焼き、いらない」


 その時、校舎の屋上で人指し指を天に向けた夏美の。

「ひとつの魂ぃぃ!!〔One Sou1!!〕」

 と、絶叫する声が塩尻の空に響き渡り、その声が聞こえた数人の市民が疫厄を追い払う願いを込めて。

 緑色のタオルマフラーを力いっぱい振り回す光景が、市内のあちらこちらで見られました。


【サラッと回って玄蕃サラ】~おわり~

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サラッと回って玄蕃サラ〔地域名称はタグにあります〕 楠本恵士 @67853-_-

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