第3話 ・縄文時代の遺跡で縄文さんとお話し

 縄文時代や平安時代の居住跡を復元した遺跡に自転車で到着したサラは、満月の下で復元された縄文時代の縦穴式住居の中を覗き込みながら声をかけます。

「『縄文さん』来たよ」

 縦穴式住居の中から、縄文人の女性幽霊が歩いて出てきました。

 女性の耳には土で作った、ネコ顔のようなイヤリングが下がっています。

 背後の風景が透けて見える、縄文幽霊の縄文さんが言いました。

「明日、初登校なのに呼び出して悪いわねサラちゃん、緊急事態だったもので」

 縄文さんが現れると、人相が不鮮明な他の縄文人残留思念たちも月夜の遺跡に現れました。

 現れた縄文時代の残留思念たちは、縄文時代の暮らしを再現します

 彼には縄文さんみたいな、明確な意思は持ち合わせていませんでした。

 少し離れた場所の平安住居の復元区域では、平民平安人たちの残留思念が、過去の暮らしぶりを再現しています。

 サラが縄文さんに訊ねます。

「で、緊急事態って何?」

 サラの問いかけに、背後から武士言葉の返答が聞こえてきました。

「『閑古鳥軍団』の活動が活発になってきたでござるよ」

 振り返るとそこには伏せた漆器のお椀を陣笠のように頭から被り、顔を隠した武士の幽霊が立っていました。

 サラが言いました。

「『奈良井さん』も来たの……」

 奈良井三九郎──その昔、参勤交代が行われていた時代。

 木曽路の奈良井宿で出立の朝に寝坊をしてしまい〔真相は本人が気づかないうちに、眠っている間に亡くなってしまい〕

 この地に置いてきぼりにされた武士です。

 のんびりした性格なので、藩の参勤交代がもどって来るまで奈良井宿で待ち続けています。


 縄文さんが言いました。

「閑古鳥軍団は、大通りの活気を奪う……シャッター閉店の店舗が増えると、閑古鳥たちの住みかも拡張する。

やつらの目的は地方都市を衰退させて、自分たちの生息圏を広げるコトなの」

 奈良井さんが続けて言いました。

「閑古鳥の勢いが強くなれば、市町村は廃れてしまうでござるよ……拙者たちのような土地に住む固有の者はいられなくなるでござる、拙者らには活気が必要でござるからな」

 寂れた市町村は、やがてゴーストタウン化して若者が減り老人だけが残り滅亡する──活気と人が少なくなった市町村に代わりに蔓延するのは、閑古鳥が放つ陰気だけでした。

 サラが縄文さんに質問します。

「お父さんが前に少しだけ、閑古鳥のコトを話していたのを聞いたんですけれど──閑古鳥に対抗できる唯一の存在が塩尻では、玄蕃之丞一族ってどういう意味ですか?」

「閑古鳥軍団の天敵はね、活気がある地方のローカルヒーローなの。ローカルヒーローの活性パワーがある地には、閑古鳥は近づいてこない……塩尻には特撮系みたいなローカルなヒーローはいない。

塩尻市唯一のヒーローは、桔梗ヶ原に開通した蒸気機関車に化けで果敢に挑み散った玄蕃之丞さまだけなの……でも、今の玄蕃之丞さまは赤木山の新左衛門さんを後継者にして、隠居しているから」

「サラ殿の力が、閑古鳥どもを退けるのでござるよ……拙者ら地域の精霊も助力するでござる。そうであろう鳴神山の山神殿」

 そう言って奈良井さんは、五平餅を食べながら近くに見える鳴神山を眺めます。

 鳴神山から、ゴロッゴロッという雷の轟きが聞こえてきました。

「鳴神の山神どのも、力を貸すと申しておりますぞ……そう言えば噂では、塩尻の博物館に子供が喜びそうな愉快な土偶の飾りがあるとか? 拙者も一度その土偶飾りを見てみたいものでござる、なんでも縄文どのの耳飾りと似ているネコの顔をした土偶だとか……そうそう、奈良井宿にある、竜の天井絵も見事でござるよ」


 翌日……制服姿のサラは転入生として紹介された、教室で頭を下げながらクラスメイトに挨拶をしました。

「玄蕃サラです……今日からよろしくです」

 サラの名前を聞いたクラスが、ざわめきます。

「玄蕃って、あの玄蕃キツネの?」

「オレ、あの子知っている。市内の神社で巫女さんやっている子だ!」

 サラはすぐにクラスの人気者になりました。


 お昼時間、中庭の木陰芝にシートを広げて座り、お弁当箱のフタを開けたサラの元に二人の生徒が話しかけてきました。

「お昼一緒に食べていい?」

 同じクラスにいる男女の生徒です。

 女子生徒の方が周囲を警戒しながら小声でサラに言いました。

「あたしたち二人も、同じキツネだから……ほらっ」

 男女生徒の頭とお尻から、キツネ耳と尻尾が出ました。

 サラは驚きます。

「ダメだよ、学校で耳とか尻尾出したら、キツネだってバレちゃうよ」

 耳と尻尾を引っ込めて、男子生徒が言いました。

「大丈夫だよ、そんなヘマはしない……結界を張って人間の目にはキツネの耳と尻尾が見えないようにしてあるから……オレの名前は『田川の与三郎』二代目だ」

「あたしは『江尻の沙絵』同じく二代目……よろしく」

「お父さんから聞いたコトがある。お夏さんや新左衛門さんと並ぶ、玄蕃之丞四天王の。同じ学校に通っていたんだ」

 与三郎と沙絵とサラの三匹は、車座になって昼ランチをします。

 与三郎は甘く煮詰めた油揚げを挟んだサンドウィッチと炭酸飲料を。

 沙絵はソバおやきを食べました。

 沙絵がサラのお弁当箱の中身を見て、質問します。

「サラの、お弁当はキムチとタクアンを混ぜたご飯と、駒ヶ根名物のソースカツなんだ」

「神主さんの奥さんが作ってくれたの、お弁当に入っている野菜はサラダ街道沿いの畑で採れた新鮮野菜」

「そうなんだ……ところでサラ、指眼鏡で学校の中を見てみた?」

「一度も見ていないけれど」

 指眼鏡とは親指と人差し指で輪を作って、眼鏡のように覗く仕草です。

「あそこのベンチに一人で座って、沈んだ表情の男子生徒を見てみて」

 言われた通りにサラが指眼鏡を通して男子生徒を見てみると、生徒の体からは黒い霧のようなモノが立ち上り、背後に全身黒タイツの戦闘員のようなモノが立って、男子生徒の肩に手を添えているのが見えました。

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